19.過保護すぎる
リンガル山事件から数日が立ち学園は夏休みという長期休暇に入った。薬師温泉旅館「九条」は夏休みになったのでお客さんがいつもの2倍位増えていててんやわんやしていたので、バイトを雇うことにした。
どこでバイトの募集をするの?っていうとユウキが同級生を連れてきた。前に一緒にいた子達とあと数名一緒だった。一応働くことに同意を求めたけど、同級生達はバイト代と目的があった。
で、今その目的をやっている。ひるきゅうけいに入ってユウキとシルフィが魔法の練習をしていた所、他の同級生の子達も来て何やら僕の前にゾロゾロと来た。魔法を教えてほしいって言われた時は驚いたよ。だってリンガルの学園で魔法は学べるのに、温泉旅館を経営してるだけの僕に教えて欲しいだなんて学園はどんな教え方をしてるんだ。
気になったので学園の魔導書つまり本に書かれている魔方陣を見せてもらった。この魔導書は一般的に初級のみ書かれており、ユウキとシルフィは一度も本を開いたことがないんだそう。
確かに最初のページの魔法【灯火】はいわゆる生活魔法程度の火を指の先に出す魔法なのだがこんな事を12歳に教えているのかと頭を抱えた。
生活魔法は基本であってそれ以上を教わる為に学園等に通う必要があるが、昔で言う小学生が習う算数を高校1年生になって同じ事を習うって感じかな。それ程この魔導書は価値がない、それにこの魔導書は1年間で学ぶ魔法が書かれている。つまり、1年間を生活魔法で棒に振るってこと。
それ以上の魔法を学びたければ2年生以降で学んだり、図書館で自主的に学ぶ必要がある。その点ユウキとシルフィは僕が教え込んだこともあってか大体の魔法は習得していて1年生どころか2年生の魔法知識があり、学ぶ必要がないのだ。
だからそんな2人に憧れたりした同級生の子達が僕に教えをせがんでいた。別に教えても損は僕にないし、得でしかない。この子達を育成して宮廷魔導師位の強さに生長させればリンガルも安泰になって今よりも住みやすくなるかも知れないしね。
そんな訳で夏休みの4ヶ月のうち2ヶ月ちょいは魔法を教えていた。その間の間のバイト代はちゃんと払ったよ。
子供達は喜んでいたよ。そこらのバイトでは絶対に手に入らない金貨の量と魔法の質が上がって騒いでいた。
ユウキとシルフィとクリスさん、ドルトン君にマテラ君は明日出かけるらしいんだ。僕は心配だから着いてい…街のパトロールをすることにした。
僕はユウキ、今日は僕を入れた5人で街に出かけることにした。待ち合わせ場所の噴水通りには先客が1人いた。その人は草むらに擬態しているらしいがバレバレである。なんならそこらに歩いている歩行者(一般市民)はその人を見ないようにしていた。
あぁ…今日は子供達が出かける日、何があってもいいようにしたいけど大人が混ざって出かけるとただただ気を使わせてしまうから変装しよう。僕は変装がちょっぴり苦手だけど子供達を守るならやってのけるさ…
草むらってか木だよね、明らかに木に顔がついてますけど変装してるつもりなのかな。あの人が父親だなんて知られたくない、僕はガン無視することを決意した。
全員揃ったので出かけることにした。最初は腹ごしらえに行くけど後ろにいる木は着いてくるのだろうか。リンガル西方面に港があってその近くの店に足を運んだ。
とれたて新鮮の魚介が安い値段で食べられる為学生の穴場にもなっている。どれだけ新鮮かというと、注文を頼んだら海から魚を獲ってくるって感じ。リンガルには大体の魚が生息しているので港付近で大物もたまに釣れるのでお店はこういう仕様にしている。
先ほど釣った魚を目の前で捌いて僕が頼んだ海鮮丼を作ってくれました。僕は学園に通う前からここに通っていてこのお店で一番大好きなマグロ1本特盛丼を食べました。マグロ1本分の刺し身とご飯なんですけど勿論1人では食べ切れないので皆で分けて食べました。
その後は劇場を観に行きました。今月は「恋する乙女と海の涙」という劇場だったんだけど登場するのが人魚と魚だったので、先程の海鮮丼のことを思い出してしまって内容が頭に入ってこなかった。
そしたら次はお待ちかねの魔道具屋さんに行った。この魔道具屋は色々な商品が展示されていて父さんの作った道具なんかもここで売っている。
僕がここに来た目的は物を冷やす箱が入荷したからである。リンガルのどこかに住む魔道具師が作った物とされていて、飲み物を冷やしたりできる「冷蔵庫」を買いに来た。
勿論魔道具師は父さんなのだが、僕がいくら頼んでも作ってくれないのでこの日をずっと待っていた。これでいつでも自室で冷たい飲み物が呑めるようになる。この魔道具を使うにあたって必要な物は魔力だけで、魔力を注ぐと箱の中に内蔵されている魔石が反応して氷魔法の【フリーズ】を唱えてくれる。
大きさは様々で僕が買うのは一番小さいサイズの物だ。この「冷蔵庫」はレストランや家庭で広く使われているけど値段がちょっと高いのがネックになる。
魔道具を作っているのは父さんで値段を決めているのはアンジーナさんです。アンジーナさんいわく、需要と供給が追いつかないからである。もう一度いうけど作ってるのは父さんただ一人だから大量生産が出来ないのだ。
かといって作り方を教えてくれればいいのに作った本人もそこんとこがあまり分からないらしい。一応値段がこんな感じ…
業務用冷蔵庫(大) 金貨4枚
家庭用冷蔵庫(中) 金貨1枚
小型冷蔵庫 (小) 銀貨7枚
壊れた際の修理等は自分たちでできる程度で、冷蔵庫の後にある蓋を開けると魔石があるのでその魔石を新しい魔石に交換したりするだけ。もしも破損しても返品すれば買った時の2割程度で新品が貰える。
そんなこんなで他にも植物園や小型魔物の飼育園など回っていったらあっという間に夕方になっていた。僕達はそのまま温泉に向かった。今日は旅館を1部屋開けてくれているので皆で泊まることにした。
自分の家なのになんか不思議な感じがする。これが旅館に来てくれるお客さんの気持ちなのかな?と僕らはくつろいで寝ていた。




