面接官モブリーナの一日~面接中にテンプレを食らった
「貴女と結婚する気はありませんっ!」
「えっ!」
突然の告白に驚いた私は、面接官モブリーナでございます。
ここはザイード帝国。
カザレス帝国との一年前の戦争で大勝利を収めて、リヒテンシュタール大公領を賜ったのである。
大公領、何れは大公国になる土地で、私の下というか代わりというか、で働いてくれる人を大募集したのだ。
一番年齢の近い、七歳の公子に、突然愛する事はない、をされているのは、四歳の皇女の私である。
まさか、結婚やら婚約前に、突然断られる事になるとは思ってもみなかった。
えーそんな話、してないのにー。
「あの、一応、王配として望んだ訳では無いので落ち着いて頂きたいのですが」
「あっ、こ、これは失礼を!」
金髪をパッツンで切りそろえた美少年は赤面して、椅子に座り直した。
うん、可愛い。
女の子かと最初思ったもんね。
「えーと、それで、一応念の為お聞きしますけれど、誰か愛する人がいらっしゃるのですか?」
「はい!とても素敵な女性で、是非妻にしたいと思っています!」
おお……!
七歳にして既に心に決めた令嬢がいらっしゃる!
「素晴らしいですね。お相手はどんな方なのです?」
コイバナはいいね!
何かこう、人の幸せでもほっこりしちゃうんだよね。
にこにこと笑みを浮かべて聞いてみる。
でも、言おうとして、金髪パッツンは少ししょんぼりとした。
「……皆、僕の話を聞くと笑うのです……」
「え……?そんな、失礼な」
失礼、だけど、笑われるような相手?
気になる!
「わたくしは笑ったりいたしませんわ」
「……我が家に仕える侍女長なのです……」
ん?
小間使いではなく、侍女でもなく、侍女、長?
侍女の長って事は、それなりの年齢の……。
「それはもしや、お母様の公爵夫人より年上なのですか?」
「いいえ、いいえ!僅か二十七歳にして長を任される、責任感もあって冷静な判断力もある、逸材なのです!」
「二十七歳、まだお若いのにご立派ですね」
「はい!」
七歳と四歳に「若いのに」とか「僅か」とか言われたくないだろうけど。
確かに思い人との、その年齢差は微笑ましさと共に笑われるやつですね。
幼稚園に通う男子が、「先生をお嫁さんにする!」って言うようなもん。
成長と共に薄れていく思い、だよね、普通は。
でも、この子は普通じゃない可能性もある。
少なくとも頭脳は、出来上がっているのだ。
「お相手の方は、何と?」
「それが……僕が結婚する年齢になったら、もう一度お話をしましょう、と」
「ああ……」
冷静かつ責任感のある女性ですね。
さすがです。
問題を先延ばしにしつつ、成長過程で冷めるのを待つ。
でも、あれ?
その年齢で結婚なさっていないということは、何かしらあったのよね?
「その方は今まで結婚は……?」
「それが、相手有責での婚約解消の後、恋愛をする気になれずに仕事に邁進したと聞いています」
「きっと、ご苦労なさったのでしょうね」
「はい……ですから、僕が幸せにしてあげたいと、そう思うのです」
二十歳差かぁ。
まあねー。
歳の差カップルはいないことも無いし、別に良いとは思うけど。
周囲からすれば、段々当たりはきつくなるだろうなって。
でも、今どうこう出来る問題じゃないし、私の見守リストにいれておこう。
「うまくいくといいですね。では、本題なのですが、フロレンツ様は交易と流通や数字にお強いようですね。これはライヒェンバッハ公爵家でも領地運営に関わっていらっしゃるのでしょうか?」
「はい。帳簿管理などの手伝いをしております。それと、領内で商売をしている商会の監査なども手伝っている関係で、少しだけ商売についても学びました」
ライヒェンバッハ公爵家すごいな。
実地訓練までさせてるとは。
でも、そんな優秀なのに、手放していいものなの?
「ご両親は優秀なフロレンツ様を手放すでしょうか?」
「三男ですので、大丈夫かと。兄上達も優秀ですから、僕は居ても居なくても問題ありません!」
いや、その言葉悲しいんだけど。
にこにこしながら言う言葉じゃないよ?
でも、こうして平民や低位貴族である商会の人間と積極的に関わる事を許しているのなら、自由な家風なのかも。
笑うだけで侍女長への愛も怒られたりはしていないみたいだし。
「では、こちらの城においても、財務局での実地訓練を積まれます?」
「はい、是非!……あ、でも……」
「家の方が許すのであれば、侍女長さんをお世話係にしても宜しいのですけれど、でも体面はあまり良くないですわね」
私の言葉に、しょんぼりとフロレンツは肩を落とす。
「でも、リヒテンシュタールに行く事が決まったら、是非お城の侍女長として働いて頂く事にしましょう」
「ほ、本当ですかっ?!」
「ええ、でも当然ながら、ご本人の意思確認が先です。もし、彼女が否と言ったとしても、貴方には新天地に行ってもらいますよ」
一瞬、喜ばせてしまったけれど、それはそれ、これはこれ、だ。
恋愛は大切だが、それで全てを投げ出してしまうような人は困る。
フロレンツは、しっかりと頷いた。
「その場合は、再び求婚出来る年齢になるまで離れて暮らす事にいたします。もし、……その間に彼女に別の幸福が訪れたとしても、僕はそれを奪うような事はしません」
何と!
素晴らしい漢気!
「フロレンツ様、誠に素晴らしい気概をお持ちですね!改めてわたくし、貴方の恋を応援いたしますわ!」
「ありがとうございます!!」
まあ幼稚園で愛の話で盛り上がってる園児みたいだけどね!
それはさておき、中々宜しい。
体力的にはあと一人、かな!
もうすぐお昼寝の時間なのです。
次に訪れたのは、マイシュベルガー辺境伯の娘である、ゾフィーだ。
金髪を三つ編みにして、頭の両端でくるくるっと丸く纏めてある。
何というか……ええと、個性的!
「くま……」
「熊みたいですか?そんなに褒められると照れちゃいます!」
え?熊って誉め言葉だったの?!
いつから!?
思わず父に目をやれば、私をクマちゃん呼ばわりした父が、何だかドヤ顔してる。
ほめてないですよ?
私は視線をゾフィーに戻した。
「可愛いらしいと思いますわ」
「ありがとう存じます」
突然言葉遣いを直して、見事な淑女の礼を執ってみせる。
何ていうかこう、個性的!
人を翻弄するタイプだね!
「ここに試験に来ることは、父君了承の上でございますの?」
「ええ。わたくしを使いこなせるのは皇女殿下ただお一人だと」
「まあ、それは買い被り過ぎですわ。でも、貴女の戦術は見事だと思います」
内政とか法律とかはさっぱりだけど、戦術に関してのみめちゃくちゃ詳しい。
というか、人物もそうだけど、戦術も奇策妙計。
正規軍というより、ゲリラなのでは…?という動かし方。
ともすれば、卑怯と謗りを受けそうでもある。
が、勝てば官軍負ければ賊軍というし、私はこういうの嫌いじゃない。
遊軍に向いてそう。
「そして、辺境伯のご指摘は正しいですね。この戦術論は帝国軍で、しかも女性が提案すれば確実に排されるでしょう」
「分かっております。ですから来ました」
本人も分かっている。
分かっているのに、貫き通すという漢気。
何だか連続で漢らしい人きちゃったね!
「個人的にはとても好きです。が、軍師ではなく参謀向きと判断致します。異存は?」
「ございません!」
ぱあ、と顔を輝かせて、クマちゃんは嬉しそうに答えた。
次点だと普通はがっかりするのだと思うけれど、帝国では考えられない立身出世と捉えれば不満もないのかも。
「では、貴方の強みと個性はそのまま伸ばすとして、現行の帝国軍の戦術についても改めて学んでください。それが終わったら指揮系統や、書類などの実務もお願いします」
「了解いたしました!」
良い返事!
面接を観察する父も頷いている。
「では一旦、終了いたしますね。お父様、わたくしは午睡の時間ですので」
「おお、しっかり休むのだぞ?我が愛しの桃色金剛石!」
父は一度私を抱き上げて頬ずりすると、乳母へと渡した。
されるがままである。
眠いからもう何でもいい。
お昼寝から起きた私は元気だ。
おやつも食べて、更に元気。
と言っても、おやつ、あんまり美味しくなかった。
糖分補給は出来たけど、何だか甘いねっちょりした塊だったからね。
牛軋糖というお菓子で、ナッツやドライフルーツが入ってる。
前世だったら入れ歯とか持って行かれちゃうやつ。
これは作り方を変えてもっとライトな感じにしてもらわないと。
よくある転生チートでは砂糖が結構使われるし、大公国でサトウキビ畑とかテンサイ畑とか作る事にしようかな。
あって困るもんでもないしね。
そんな事を考えつつ、午後の面接に突入。
今のところ面白い人材しかいない。
ドアマットヒロインに、年上好き帳簿係、トリッキー軍人。
次に来たのは、またもや公子だった。
と言っても、フロレンツのように三男でもない、嫡男である。
軍属一家のレーヴェンタール公爵家の。
「お初にお目にかかります。ロイスター・フォン・レーヴェンタールと申します」
きっちりと、詰襟の軍服っぽい正装で、きびきびと敬礼をする。
頭に手を添えるあれじゃなくてね。
拳を胸に当てての挨拶。
お父様にそっくりの、銀髪碧眼。
氷のなんちゃらって痛い二つ名が付きそうな、美丈夫だ。
「お初にお目にかかります。ロイスター小公爵。貴方は嫡男だと聞いておりますが……」
冷やかしで来たんですか?
と言うのは流石に無礼かも、と思って呑み込んだ。
嫡男で、行く先は安定した明るい未来なのに何で来たんだろう。
大体はこう、一攫千金狙いみたいな人達だよ?
「はい。モブリーナ皇女殿下にお仕えする事になりましたら、次期公爵の地位は弟に譲る心算でございますれば」
「えっ」
軍の派閥の中でも辺境伯を押さえてトップなのに?!
私の所へ来たとしても、そんなに変わらないというか、安定しない分微妙だよ!?
「あの……約束された輝かしい未来があるというのに、ですか?」
思わず聞いてみた。
だって、幾ら仕事が出来るしごできさんでもさ、勿体ないまである。
特に彼は、上に立つタイプで一兵卒タイプでもない。
「父から皇女殿下の采配について話を伺いまして、感銘を受けました。と共に、大国であるザイード帝国にて私が力を振るう事はないでしょう。せいぜい小国との局地戦くらいで、その点は辺境伯が対応しています。であるならば、カザレス帝国との戦が終結した今、ザイード帝国には戦場と言うほどの戦場はございません」
つまり戦いたいのか!
戦争屋はちょっと困るな。
単なる戦闘狂なだけならいいけれど。
「わたくしが戦争を好まないのはご存知でして?」
「ええ、その話も耳にいたしました。誠に高潔だと父の受け売りではございますが」
あれ?
何が何でも戦闘したいという訳ではいらっしゃらない?
「確かにザイード帝国よりは、狙われやすい要素と立地です。いずれは中立国、両帝国の同盟国として大公国を立ち上げる予定ですが、なればこそ、両帝国の同盟軍を介入させずに掠め取ろうとやってくる輩もいるでしょう。でもまずは、わたくし、話し合いをいたします」
「ええ。だからこその設問ではありませんでしたか?」
う、鋭い。
しかも、私の作った試験だとバレてる。
幼女が『おねがぁい!戦争やめてくださぁい』と言ったところでやめるようなら、そもそも仕掛けて来ないだろう。
「その通りです。現実はどう転ぶか分かりませんから、まずは話し合いをした上で、受け入れられなければ開戦となりましょう。確かに仰る通り、戦争は十中八九起きます。でも、その一回で終わりにしたいと考えておりますよ」
「分かりました。己が力を試さず、使わず安寧に浸るよりは、貴女の下で戦いたいと思います」
それは、立派な心掛けだ。
この様子なら戦争が起きなかったからといって、不満に思うことも無いだろう。
寧ろ、戦場にいたいのであれば、辺境伯家への婿入りだって出来るのだ。
国が安定していたら、そちらに振るのも悪くない。
「今回、わたくしの仕事を受けるとして、ゾフィー・マイシュベルガーが貴方の指揮下に入ります。貴方はレーヴェンタール公爵の下である程度の研鑽を積んでおりましょうから、大公領において騎士団の創設、軍隊の創設、その育成をお願いいたします」
「拝命致します」
「今はまだザイード帝国の一部ですから、時間はあります。領内にはカザレス人もおりますから、そちらからも人を募る予定です」
少しだけ、眉根が寄って、眉間に皺が出来ている。
裏切りを想定しているのだろう。
まあ、それもなくはないよね。
けれど、どの国だって一枚岩ではないし、人心掌握も上に立つ者の仕事である。
「楽しみにしておりますね、ロイスター・フォン・レーヴェンタール小公爵。試験とは違って、お父様に訊ねるのも許可いたしますよ」
「……考えておきます。モブリーナ皇女殿下」
聞いてもいいよ、というのは屈辱的だったろうか。
更に眉根をきゅっと寄せて、眉間に皺が出来るのが見えた。
それでもきっと、積み上げた年月分の年の功ってあるからね。
悔しいのは分かるけれど。
実力を伴った矜持は良いものです。
丸投げする気はないけど、当分は矢面に立ってもらおう。
彼が出て行った後、ふと見れば、父がそわそわしている。
「私は其方の国で何をすればいい?!」
何を言い出すんだ、この親父。
「お父様はザイード帝国の皇帝なのですから、同盟国では何もしないでしょう?」
「そんな冷たい事を言うでない!」
えーめんどくさい!
黙らせる役職……。
「そんなに働きたいのでしたら、夜伽を申しつけます!今日から寝る前に御本を読んで下さいましね!」
「おお!それは素晴らしい役目だ!是非伺おう」
こうして父は夜伽というか御伽係になった。
まあ、すぐ寝るし、父もすぐ飽きるだろう。
「ど、どうも……ええと、ラルス・パーペと言います」
気弱そうな、眼鏡である。
でも、眼鏡は一応高級品。
茶色の髪もサラサラだし、手入れはされている。
しかも魔道具の眼鏡だ。
更に高級だし、男爵令息が持っているというのは凄い。
「その眼鏡は魔道具ですわね?城に入る際に見咎められなかったという事は、無害な物ですの?」
「は、はい。私に対する認識阻害のみです。……その、容姿に難があるので……」
「あらそうですの。でも安心なさいませ。見た目で選ぶ気はございませんから」
少しだけ微笑んで、ラルスは言った。
「こちらも王配として仕える気はありませんので」
「よろしゅうございますよ」
父も満足げに頷いてるけどさぁ。
娘が何もしないうちにフラれてるんだよなぁ!?
ラルスやフロレンツではなくて、父にイラッとする。
どうせモブだよ、そうだよ!
父の愛が異常なだけだわ、これ!
思い返せば、いや、まだ短い人生だけど。
誉め言葉に可愛いとか綺麗とかそういうの、無いな!?
乳母や侍女とか父とかカウントに入らない人達だけだよ。
まあいいけど。
「商売の成功から、男爵を叙爵されておいでなのね。だから、数字もはっきりしているし、流通にも現実味がある……これは大公領、後の大公国でも商売をなさりたい故の参加ですの?」
「それもありますが、面白そうだと思ったので」
「あら、先程と印象が変わりましてよ。ふふ」
気弱そうに振る舞っていたのに、途中から何故かふてぶてしくなってる。
頭の上の猫が何処かに行ってしまったんか?
彼は悪びれもせず、にこっと笑った。
「物資の買い付けと流通をお任せする事になりそうね。あと軍資金の調達も。もう一人数字に強い公子がいるので、その人と関わる事が多くなるでしょう。平民でも良いので、有用な者がいたら貴方の部下として雇ってね」
「失礼ながら、その資金は何処から?」
「ふふ、まだ大公領なので、帝国から頂きます。割譲が終わったその時から税の徴収も始まっておりますもの」
にっこり笑えば、ラウスもにっこり笑った。
「貴女の下で働くのは楽しそうだ」
「そうである事を願いますわ」
ちょっと疲れて来たので、休憩がてら父に質問をする。
この世界はテンプレで満ち溢れているとはいえ、気になる事があった。
そう、婚約破棄なるものだ。
「お父様」
「何だい?我が愛しの赤ちゃんや」
直球で来たな!
まあ、それはさておき。
「帝国内で、突然婚約破棄などという宣言を公衆の面前で行う人などいたりはしませんの?」
「ふむ?聞いた事がないな?」
ですわよね。
そうそう起こるものでも無し、一世代に一人いれば良い方……いや悪い方、か。
「もしそんな事をした場合は、どうなりますか?」
「高位の者であれば処刑、低位の者なら平民か奴隷落ちになるであろうな」
えっ、厳しい!
目を瞬いた私に、父が不思議そうな顔をする。
「低位貴族の中には平民から叙爵した者や、そう平民と変らぬ者もおる故な。家同士の話し合いにもよるだろうが…国内の貴族の婚姻は私が認め、裁可したものであろうから、それを突然無にするというのは私に逆らうのも同じ事」
「ははあ、なるほど……」
「ましてや高位貴族なれば、忠誠心を疑う事にもなろう。王命であった場合は、更にその騒動に関わった全員が連座となるであろうな」
ヒエッ。
ああ、一極集中型で、更に強権を持つ皇帝ならではですね。
舐められたら終わりなので、厳しい。
「では、その不届き者に、たとえば浮気相手がいたとしたら……」
「うむ。当然ながら浮気相手本人はおろか、親兄弟の咎ともなる。兄弟は命までは奪わぬが、除籍となるだろう。不心得者を育てた親に育てられた子供であるからな」
「公爵家だとしても……?」
「公爵家ならばなおの事始末に悪かろう。皇帝の手足としてたゆまぬ忠誠心を持たねばならぬのに、それを我が子に教えていないという事だからな」
国にもよるけれど、王家と並び立つくらいに力のある公爵家はよくある。
でもザイード帝国は身分の差が歴然としているって事だ。
「もし……例えばの話ですけれど、皇子の中でそういうやらかしをした者が居た場合は?」
「当然同じであるな。側妾にしても皇妃にしても、共に処刑となる。兄弟姉妹は国外に嫁している場合を除いて、王族籍からも貴族籍からも除籍とする。あと、国外追放」
むあーーー!きびしぃいい!
当たり前だけど、厳しいね!
「どうした?その様な不心得者がいるのか?父に教えなさい」
「いえ、えーと……そう、カザレス帝国の数代前の話でそういう事があったらしいので、気になりまして。ミルッセン公国の独立は、帝室による婚約破棄騒動が切っ掛けの一つだったようですし」
「で、あろうな。皇帝が処断せねばならぬ所を怠ったのだから、公爵家としても腹に据えかねるだろうよ」
ふむ、と私は頷く。
「では、許可のない宣言などではなく、浮気などでの有責からの婚約破棄、などは、特に問題はないというか、問題は大有りですけれど、罰はございませんの?」
「むう……それは両家の話し合いにもよるが、少なくとも後継からは外れるであろうな。本来ならば不貞を行う前に解消すべきであって、筋を通せぬ者、約束を違える者に後継の資格は無いと見る。相応の事情が無い限りは、後継として認められぬな」
苛烈な罰は無いにせよ、責任は問われることになるのか。
割と厳しいな。
でもあれ?
貴族って何となく、愛人いるイメージだけど、その辺はどうなんだろう。
政略と戦略上でも、皇帝には求められるけど、一貴族はそうでもない。
「愛人を持つことは許されるのですか?」
「その辺りは配偶者間の問題であって、私は口出しはせぬ、が、後継者問題となれば話は別だな」
あ、これ以上は駄目だ。
聞くにしても法律をちゃんと学んでからにしよう。
庶子の扱いがどう、とかそういうのはまだ勉強してないし。
でもそうか。
皇帝としては臣下が忠誠心を捧げる事を絶対としているが、名誉を汚したら身内であれ厳しく対処する。
そうする事で、更なる忠誠心を得ている。
つまり、侮られたら反逆されると分かっているからこその厳しさ。
裏を返せばその厳しさは、身内だけではなく全ての貴族にも向くわけで。
「お父様は本当に皇帝陛下なのですねえ」
「そうだぞ?私に忌憚ない意見を許すのは皇后か、其方くらいだ」
私と、皇后陛下。
育ての親であり、後見人でもあり、大母様とお呼びしている。
厳しくはあるが、優しくてお茶目で賢い御后様だ。
「お母様は?」
「ん?ああ……あれか。無礼や不敬は許しているが、政治に興味を持つような女性ではないからな。彼女の中にあるのは自由と踊りへの熱望よ」
「お父様は」
さみしくない?って聞こうとしたけど、皇妃も側妾もいるんだった。
何より近くに皇后陛下が。
「何より其方と言う宝を授けてくれたのだ。もう何も望むまいよ」
そうして、父は私の頭をつるんと撫でた。
皇帝でなかったらきっと、追っていくだろうくらいには愛していたのかもしれないけど。
でも、今はもうその気持ちに蓋をして、落ち着いてるのかもしれない。
為政者だもんね。
「……まあ、わたくしもいずれ、嫁に行きますけれど」
「ならん!ならんぞ!」
「まだ先の話です!」
「ならんったらならん!」
お母様に向かう予定の情熱が、こっちに向いてない?
まあいいけど。
「今日は何の御本を読んでくださるのか、楽しみにしておりますね」
「そうだ!早速選ばねばならぬな!おい、今日の面接は終了だ!」
心得た使用人達がその号令に一斉に動き出す。
「え、でもまだ…」
「私がおらぬ時は駄目だ。お部屋で大人しくしていなさい」
「え、ちょ」
私が何か言う前に抱き上げて、乳母に手渡される。
こうなるともう、抵抗は不可能だ。
荷物の様に私は部屋に運ばれたのである。
面接エピは何気ないお話。
人が死なないから平和です。