クロニクル【06】 VI
クロニクル【06】 VI 2013年06月25日
カーボスター中のカルシウムイオン(イオン化カルシウム=Ca 2+;iCaとクエン酸イオン(Citrate 3-)の結合様式について VI
【目的】
カーボスター(以下、CSと略記)中の遊離のカルシウムイオン濃度を理論的に考察する。
※クロニクル【05】より平衡式の検証を行う予定であったが、作業に時間がかかるため先に以下の実験/考察を行ったので報告する。
【今回の目的】
CSを各成分から調製し、マグネシウムイオン(以下、iMgと略記)を含まない状態でのカルシウムイオン(以下、iCaと略記)希釈列及びiCa濃度を一定としiMg濃度を振った場合の希釈列溶液をCS用校正液(希釈済B液、及び、CS用校正液)で校正した電解質測定装置(電極法:項目:Na、K、Ca、pH)で測定し、得られたiCa濃度について考察する。
【方法】(本文参照)
【結果】
1)添加iCa量によって測定iCa濃度は表2のように増加した(iMg濃度ゼロの場合)。
2)添加iMg量によって測定iCa濃度は表4のように増加した。
【考察及び結論】
1)クロニクル【04】等で検討したiCa濃度(iMgの錯形成能をiCaの1/2と見積もったもの)ではiMg濃度が0.00、0.25、0.50、0.75、
1.00 mmol/LのときiCa濃度が1.17、1.19、1.21、1.23、1.25 mol/Lと変化するので、上記とは傾向は一致するものの完全には一致しない。そこで以下のように考察を進めた。
クロニクル【05】でのモデル式は、
遊離iCa濃度={(iCa+iMg×0.5)-([Citrate 3-]/2.0)}×{iCa/(iCa+iMg×0.5)}}…… ①
遊離iCa濃度={(iCa+iMg×f 2 )-([Citrate 3-]/f )}×{iCa/(iCa+iMg×f 2 )}}…… ①'
であるが、ここでiMgが存在しないとき、
上式={iCa-([Citrate 3-]/2.0)}…… ②
上式={iCa-([Citrate 3-]/f )}…… ②'
となるのでクエン酸係数(f:iCa 1ヶに対して結合しているクエン酸の数。カルシウムが六配位でクエン酸が三座の配位子として隙間なく結合している場合は2.0)を実験結果に合わせるとf = 1.75と見積もられる(低値では乖離が見られるが②式が単純なので、この値とする)。次に①式に戻ってf=1.75固定とし、iMg係数(f 2:マグネシウムの配位能を表す。
単純化のため配位能がカルシウムの半分の場合、iMg個数が1/2(= 0.5)と読み換えて算出している)が、f 2 = 0.70のとき、実験結果を良く反映する(表4)。
※ ①式は錯平衡定数が無限大でクエン酸イオンがすべてカルシウム及びマグネシウムに結合している場合を反映している。実際には遊離のクエン酸イオンも存在する。
2)今回購入出来たクエン酸は無水と一水和物の混合物であった。とりあえず無水と仮定して作製した1 Eq/L(1/3 mol/L)は濃度
既知の1 mol/L NaOH溶液1.0 mLに対して1.10 mL加えるとpH7.2程度(≒中性:簡易的な中和滴定)となった(1.05、1.20 mLでそれぞれpH12.2、6.2程度。その後、フェノールフタレインで中和滴定して係数1.079を求めた)。今回はその1/3 mol/L(仮)(=(1/3)/(1.079)mol/L:薄い)クエン酸溶液量をこれまでの実験結果に合わせてpH≒7.6のときiCa=1.19 mmol/Lになるように調製したが、その調整比は0.95であった(1 mL加えるところを実際には0.95 mL加えたということ。より薄くなっている)。
よってCS中のクエン酸濃度は(実験結果を信じる限り)(0.95/1.079)×2 = 1.76 mEq/Lと算出される(係数2は500 mL仕様で作製しているため)。その場合でもpHは若干低い約7.51以上あり、市販のCSと異常なまでに大きく変わっているとは思われない。現時点でこの矛盾(成分から作製したCSと市販のCSから作製したCSでiCa濃度が異なる)に対する回答はない。ちなみ
にクエン酸 → 酢酸型のCSの場合pH7.52でiCa = 1.50、pH7.76でiCa = 1.47であった。クエン酸濃度係数f 3 = 1.76×0.5 = 0.88の場合はf= 1.54固定で、f 2 = 0.70~0.74のとき、小数点以下二桁まで実験結果を再現した(別表4参照。結果から判断して、今回の実験結果に関しては、この場合の方がより確からしく思われる)。
3)理想CS溶液の場合、表4より、クエン酸の配位比をiCa 1ヶ当り1.75ヶ、iMgの配位能を(iCaを1として)0.70とおいて①式を用いればiCa及びiMg濃度が種々の場合のそれらの関係が推定できる。
【今後の予定】
クロニクル【05】で検討した平衡式の値でx(Cit 3-と結合しているiCa):y(Cit 3-と結合しているiMg)=1.5:0.5と仮定し、数値計算でxを求める。その際、今回の考察結果も考慮する。
本文
【方法】
1)これまで行ってきたCS作製法(CSのB末及び及びA原液から作製する方法)で作製したCSでのiCa濃度を再確認する(約1.20 mmol/L)。
2)濃度既知の溶液及び原料からCSとクエン酸だけ成分が違う溶液(クエン酸 → 酢酸)を作製し、iCa濃度を再確認する(1.50 mmol/L)。
3)濃度既知の溶液及び原料からCSを作製し、上記1)との乖離程度を確認する。
4)iCa濃度がほぼ1.20 mmol/Lとなるようにクエン酸濃度を増減したCS(各成分から作製)を作製する。そのときpHが7.6から大きくずれないことを確認する(許容範囲は±0.1程度のずれとする)
5)4)で得られたクエン酸濃度を用いてiCaの希釈列及びiCa濃度を一定にしたときのiMg希釈列を作製する。
※ 電解質分析装置(電極法)はCS用校正液で校正し、校正値は基準合格値とする。
【式の解釈】
①式はクロニクル【04】で行った以下の考えに基づいている。
クロニクル【01】ではiCaは無限希釈状態(活量=1、事実上数mmol/L以下の濃度)にあって初めてCit 3- と [Ca(Cit 3-)2] 4- を形成できると仮定したが、これはiMgでは成立しない。MgがScから始まる遷移金属ではないからである。よってiMgは無限希釈状態でもCit 3- と最大でも1:1でしか結合できない。これはiCaの側から見ればCit 3- を競合する能力がiCaの最大半分ということであるが、それでは判り難いので、ここではiMgの代わりに、iCaと共存し、iMgと同じ程度にiCaとCit 3-を競合する架空の金属イオンiMを考えることにする(iMは Cit 3- と[M(Cit 3-)2] 4- のように錯結合すると仮定する)。するとiCaの側から見て、共存するイオン比は iCa:iMg:Cit 3-= 9:3:4(元は1.5:0.5:0.67(= 2/3)。整数になるように6を掛けた)ではなく、9:1.5:4(iMg → iM補正 3×0.5=1.5)→ 18:3:8(整数比)→ 126:21:56(Cit 3-数で割り切れる整数比)と補正されることになる。{(18 + 3)-(8/2)}/12 = {(126 + 21)-(56/2)}/84 = 1.42、1.42×18/21 = 1.42×126/147 = 1.21(mol/L)なので、上記の仮定におけるiCa濃度は1.21 mmol/Lと見積もられる(この場合はiMg濃度を上記の方法で見積もることはできない)。なおiMgがCit 3- とまったく結合しない場合(あるいは存在しない場合、CS中のiCa濃度は1.17 mmol/Lと見積もられる。上記を繰り返すと、
iCa:CS中の全イオン化カルシウム濃度(クエン酸と結合している部分も含む)=総カルシウム濃度。
iMg:CS中の全イオン化マグネシウム濃度(クエン酸と結合している部分も含む)=総マグネシウム濃度。
iMg×0.5(= iMg×f 2 ):上記説明のiMと同じ。f 2 = 0.5のとき、iMgの配位能はiCaの半分と見積もられる。
(iCa+iMg×0.5):クエン酸イオンと反応し得るCS中の全イオン濃度。
[Citrate 3-]:CS中の全クエン酸イオン濃度。
([Citrate 3-]/2.0)(= ([Citrate 3-]/f )):iCa(またはiM=iMg×0.5)1ヶ当りに配位結合するクエン酸イオンの数。
{(iCa+iMg×0.5)-([Citrate 3-]/2.0)}(={(iCa+iMg×f 2 )-([Citrate 3-]/f)}):{iCa/(iCa+iMg×0.5)}}:上記のうち、遊離のiCaが占める割合。
として①が導かれる。
遊離iCa濃度={(iCa+iMg×0.5)-([Citrate 3-]/2.0)}×{iCa/(iCa+iMg×0.5)}}…… ①
ここで、iMg=0とすると
上式={iCa-([Citrate 3-]/2.0)}…… ②
上式={iCa-([Citrate 3-]/f )}…… ②'
となる。
iCa=1.5 mol/Lのときの実験値(測定結果:1.12 mol/L)からfを求めると、[Citrate 3-]=2/3 mmol/Lの場合はf = 1.75、[Citrate 3-]=(2/3)×0.88 mmol/Lのときは f = 1.54となる。
以上