クロニクル【02】 II
クロニクル【02】 2013年02月07日
カーボスター中のカルシウムイオン(イオン化カルシウム=Ca 2+)とクエン酸イオン(Citrate 3-)の結合様式について II
【目的】
クロニクル【01】においてCa 2+ 1ヶに対しCitrate 3- 2ヶが配位結合(Citrate 3- は三座配位子)するとカーボスター(以下CSと略記)中のCa 2+ 濃度が約1.17 mmol/Lになると推察したが検証方法がなかった。そこで傍証を試みた。
【前提及び仮定】
1)遷移金属であるコバルトイオン(二価または三価)は一般に配位結合することが知られているが、クエン酸イオンとも配位結合すると仮定する(ここでは通常安定な二価を前提する)。
2)その結合様式はカルシウムイオンの場合と同じ1:2であると仮定する。
3)コバルトイオンの配位能はカルシウムイオンの配位能よりも強いと仮定する。その強度は配位子によらないと仮定する(ここからはカルシウムイオンの話です。カルシウムイオンの場合は無限希釈で初めて配位結合可能状態となりクエン酸イオンとも配位結合できるようになると仮定する。だが実際にはイオンの輸率変化(溶液内での自由度)の類推からカルシウムイオン濃度1~2 mmol/Lでも配位能が生じると仮定する)。なおコバルトイオンの場合は濃度に関係なく配位能を持つ。
4)CS中にクエン酸イオンと結合しているカルシウムイオンと同量のコバルトイオンを添加すればCS中のクエン酸イオンはすべてカルシウムイオンから離れてコバルトイオンと再結合すると仮定する(1.50 - 1.17 = 0.33)。
5)上記の状態でCS中のカルシウムイオン濃度を測定すれば、1.50 mmol/Lとなるはずである。
6)5が成立すれば、カルシウムイオンとクエン酸イオンが1:2で錯イオン形成していると推察できる(コバルトイオンがクエン酸イオンと1:2で錯イオン結合する前には同molのカルシウムイオンがクエン酸イオンと1:2で錯イオン結合していたと考える)。
7)5が成立しなければ、カルシウムイオンとクエン酸イオンは必ずしも1:2で錯イオン形成していると推察できない、または前提及び仮定が間違っている。
8)なお(本報で確認したが)0.33 mmol/LのコバルトイオンはCa電極に影響を与えないと前提した。
【実験】
CSの調製:B剤原末1.4702 gを正確に秤量し8割程度精製水を充たした500mLメスフラスコ中に攪拌しながら加え、数分後一旦攪拌を止めてA剤原液を14.29 mL正確に加えてからメスアップし、再度数分間攪拌した。
1 mol/L CoCl2 溶液の調製:塩化コバルト(II) 六水和物2.3793 gを正確に秤量し10 mLメスフラスコに加え、8割程度精製水を充たして固体を溶解後メスアップし、その後数分間攪拌した。pH4.7(簡易計で測定)。
Co2+ 0.33 mmol/L入CSの調製:先に調製したCS(EX-Ca測定用に1.50 mL使用したもの)に1 mol/L CoCl2 0.165 mL及び精製水1.335 mLを正確に加え、その後数分攪拌した(このときの全Ca 2+ 濃度は正しくは1.50 mmol/Lではない(1.496 mmol/L)。
他のイオンも同様に元濃度の500/498.5倍になっているが誤差範囲とした)。
測定機器:電解質分析装置(電極法)。電極はすべて中古品。
※ 仮定の前提となる簡易実験を行った(本文参照)。
【結果】
1)表1から判るようにCSで1.16 mmol/Lであった遊離のCa 2+ 濃度が Co2+ を0.33 mmol/L加えることによって1.30 mmol/Lまで上昇した。
2)前提及び仮定がすべて正しいとすると遊離Ca 2+ 濃度は1.50 mmol/L(誤差±0.02 mmol/L程度)となるはずであるが、そこまでは達しなかった。
【考察及び結論】
1)「別紙データ」の表6によれば酢酸型CS中のCa 2+ 濃度は1.49 mmol/L(ほぼ1.50 mmol/L)であり、Ca 2+ を含まないCS中のCa 2+ 濃度は0.01 mmol/L(ほぼ0.00 mmol/L)であり、さらに「中間報告3」の表1が示すようにCS(元のCa 2+ 濃度 1.20 mmol/L)にCaCl2を+ 0.05、+ 0.10、+ 0.15 mmol/L添加すると、それぞれ + 0.04、+ 0.09、+ 0.13 mmol/L(ほぼ添加量通りに)上昇するので、
イ)クエン酸イオン(またはCa 2+ と結合可能なイオン)がなければCa 2+ 濃度はその添加量に依存し、また
ロ)既にCa 2+ がクエン酸イオンと結合している状態でCa 2+ をさらに添加してもクエン酸イオンに結合するCa 2+ 量は増えない
ことまでが確認できている。今回の傍証で得られた1.30 mmol/Lという結果は誤差(±0.02 mmol/L程度)を考慮しても、1.50mmol/Lには及ばなかったので「前提及び仮定」の7が結論となる。
2)因みに塩化コバルトを1.50 mmol/L加えたCSではCa測定値が1.46 mmol/L、3.0 mmol/L加えたCSでは1.48 mmol/Lとなった。
このことからクエン酸イオンとの配位能はCo 2+ > Ca 2+ ではあるが両者が共存する場合、配位に競合が生じるのであろう(「前提及び仮定」の4が誤り)。
3)用意が簡単のためEX-Z/D用校正液1ベースのイオン選択性検査試薬を用いた妨害イオン(+ 100 mmol/L)の結果は、
であった(0.33 mmol/Lコバルトイオンを加えても実際上の妨害はない)。
【今後の予定】
1)次に傍証または検証法を考え付くまで保留とする。
以下はかなりラフです。
【確認実験】
1)コバルトイオンとクエン酸イオンが配位結合するかどうか?
1 mol/L CoCl2 溶液と1 mol/L Citrate 3- 溶液を準備し、
イ)1 mol/L CoCl2 溶液1 mL+水2 mL
ロ)1 mol/L CoCl2 溶液1 mL+1 mol/L Citrate 3- 3Na溶液2 mL
を調製し、液色の変化を確認した。
明らかにd電子の遷移が起こっているので配位結合しているとした(図参照)。
※ ロが二つあるのは続く確認のため。
なお液色は出来るだけ現物と近くなるように写真撮影後加工した(背景が青いのはそのため)。
1 mol/L Citrate 3- 3Na溶液:クエン酸三ナトリウム二水和物49.0167 gを正確に秤量し8割程度精製水を充たした500mLメスフラスコ中に攪拌しながら加え、溶解後一旦攪拌を止めてからメスアップし、再度数分間攪拌した。
2)1で調製した溶液を
ハ)室温(イ、ロ) ニ)60℃(ロ) で乾燥した。
【Co-O距離】
以下の結果Co-O距離は1.89~2.12 Åであった。分子模型で最も結合距離近い2.0 Åのボンドを使って確認したが、クエン酸イオンと三座で配位結合するのに問題はなかった。
http://www.ipcbee.com/vol12/13-C039.pdf(リンク切れ)
Sample R, Å N
Co-O 1.89 4
Co-O 1.98 1.33
http://www.dragon.lv/exafs/akuzmin/papers/ak4.pdf(リンク切れ)
rt≒0.198 nm から 0.212 nm
【コバルトイオンとクエン酸イオンの結合】
http://ftp.oldenbourg.de/pub/download/frei/ncs/218-3/200460.pdf(リンク切れ)
the Co—O bond distances are 1.913(3) Å and 1.918(3) Å
ポリマーの場合。
http://journals.iucr.org/e/issues/2012/05/00/zl2468/zl2468sup0.html(リンク切れ)
The Co2+ cation is located on a crystallographic inversion center and is coordinated by six O atoms from two different citrate units, forming a [Co(C6H5O7)2]4- building unit with Co-O bond lengths between 2.0578 (17) and 2.0813 (16) Å.
結晶構造解析はアンモニア塩だが[Co(C6H5O7)2]4- (Ca 2+ :Citrate 3- =1:2)が得られている。
以上