クロニクル【01】I
クロニクル【01】2013年01月21日
カーボスター中のカルシウムイオン(イオン化カルシウム=Ca 2+)と クエン酸イオン(Citrate 3-)の結合様式について
【目的】
調製済みカーボスター(以下、CSと略記)中に含まれる全Ca 2+ 濃度は理論値通りであれば3 mEq/L = 1.5 mmol/Lである。CSは成分にクエン酸イオン(Citrate 3-)2mEq/L = 0.67 mmol/Lを含むので全Ca 2+ のうち何割かがクエン酸イオンにキレートされ、残りがCa 2+ として挙動する。このCa 2+ 濃度は文献や発表により1.0~1.25 mmol/L(電解質またはガス分析装置を用いた電極法による)と様々であり、基準品が存在しないこともあって定まっていない。また現在のところ電極法以外にCa 2+ 濃度を測定する方法がなく、クロスチェックもままならない。このCa 2+ 濃度を妥当な考えを用いて理論的に割り出す。
【仮定】
Ca 2+ 1ヶに対しCitrate 3- 2ヶが配位結合(Citrate 3- は三座配位子)すると仮定し、Citrate 3- により消費されるCa 2+ を求め、それを全Ca 2+ から引いて残りのCa 2+ を求める。
【実験】
使用模型 HGS分子構造模型B及びDセット(丸善)
方 法 Ca 2+ に配位結合(正八面体構造)を仮定し、クエン酸イオン(分子模型)を実際に配位させて確認した(Ca 2+ と配位子との結合距離は2.4オングストローム=0.24 nmとした。表1参照)。
【結果】
1)Citrate 3- の立体構造からCa 2+ とCitrate 3- からなる配座には2種類が考えられた(Ca 2+ に配位している頂点側の酸素原子の次の炭素原子に結合している原子が水素原子(2ヶ)か酸素原子(炭素と二重結合)かの違い)。
2)実際に分子模型を組み立ててみると上記2例ともにカルシウム-酸素分子間にごく僅かな張力があることがわかったが、表1の関係が正しく反映された模型であれば無理のない配置であるとも考えられた(または配位子が足を一本上げている状態なのかもしれない)。
3)Ca 2+ にCitrate 3- が配位する向きには頂点最短方向三軸及び半赤道方向三軸が考えられるが、後者はCitrate 3- の長さ不足のため、物理的に不可能であるとわかった。
4)Citrate 3- の中央に位置する炭素原子に直接結合した水酸基(-C-OH)の酸素原子は配位子結合に与らない(立体的に不可能)であることがわかった。
5)上記も考慮し、CS中のCa 2+(またはイオン化カルシウム=iCa)濃度は約1.17 mmol/Lと求められた(ただしカーボスターが理論値通りに作製された場合)(本文(Ca_01~Ca_19)参照)。
【考察】
1)Ca 2+ 1ヶに対してCitrate 3- が2ヶ配位結合して生じる錯イオンは水溶液中でのみ存在できると推察した(本文参照)。
2)CSには既に5年以上の販売実績があり、また各種透析機関等における使用で成分中のCa 2+ 濃度が低いことも事実として知られているが、これまでCa 2+ 濃度に関する理論的な考察が提出されなかった。これはクエン酸カルシウム(粉末)の結合比
Ca 2+ :Citrate 3- =3:2(価数は差し引きゼロ)がCS使用者及び研究者の頭の中にあり、それがCa 2+ の錯形成能を思い至らしめなかったからではないかと考察した。
【今後の予定】
1)この件に関しては検証方法がないので、ここまでとする(例えば同様にクエン酸イオンを三配位する他の金属イオンと比較する形で円偏向二色性の測定を行えば、その偏向特性より多少の理論的裏付けができるかもしれない)。