カーボスター中のカルシウムイオン(イオン化カルシウム(iCa)=Ca 2+)とクエン酸イオン(Citrate 3-)の結合様式について(iCa_01 【緒言】)
【緒言】
重炭酸系無酢酸型透析液であるカーボスター【商標:R】中には従来型透析液に含まれる酢酸の代わりに価数3の有機酸であるクエン酸が含まれている。酢酸もクエン酸も水中で水素イオンとそれぞれのカウンターイオンが乖離平衡状態にあるが、酢酸は水中で金属イオンと平衡状態とはならない。一方、クエン酸は金属イオンと平衡状態となり、金属イオンとキレート結合する性質を有する。特に周期表で第三周期以降(アルカリ金属は除く)の金属イオンとは配位結合をする。その平衡定数は人体に対して毒性の高いカドミウムなどの金属イオンでより大きくなるという傾向を示すが、毒性の少ないイオンでも十分に大きいことが知られている。金属イオンとクエン酸イオンの乖離平衡定数が大きいということは、ほとんどすべてのクエン酸イオンが金属イオンと結合しているということを示す(無論、クエン酸イオンと共存する金属イオンがクエン酸イオンの総量よりも多い場合の話である。金属イオンがゼロならば、当然、クエン酸イオンは金属イオンと結合できない)。従来型透析液も無酢酸透析液もその成分にカルシウムイオンとマグネシウムイオンを含んでいる。クエン酸イオンとそれら金属イオンの結合様式は異なる、と考えられるが、カルシウムイオンもマグネシウムイオンもクエン酸イオンとキレート結合する。一方、他のイオン成分である、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどはクエン酸イオンとキレート結合しない。クエン酸が存在しない場合、イオン電極に応答するカルシウムイオンは透析液に含まれる総カルシウムと同量である。例として透析液中にカルシウムが1.5mmol/L(=3.0mEq/L)含まれているとすると、カルシウムイオンは1.5mmol/Lと計測される。これは酢酸がカルシウムイオンとキレート結合しないからである。ところが透析液中にクエン酸イオンが含まれているとクエン酸-カルシウム・キレートが生じ、クエン酸イオンの濃度に依存してカルシウムイオンが失われることになる。カーボスター発売当初の研究では透析液中に残された遊離のカルシウムイオン濃度は1.0~1.25mmol/L(文献:2~5)と測定された。筆者のグループでは種々の検証を重ね、カーボスター中のカルシウムイオン濃度を1.18~1.20mmol/L程度(ただしpH7.6近傍のとき)と実験的に見積もった。
※ イオン選択性電極の特性としてpHが高ければ陽イオンの測定値を相対的に低く、逆にpHが低ければ陽イオンの測定値を相対的に高く示す傾向がある(註:陰イオンの場合は傾向が逆)。なお透析液中に共存するマグネシウムイオンもクエン酸イオンとキレート結合するので透析液の調製状態によってはカルシウムイオンの測定結果に若干の高低が生じることがある。
以下、カルシウムイオン(イオン化カルシウム(iCa)=Ca 2+)とクエン酸イオン(Citrate 3-)の結合様式について考察する。