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カーボスター中のカルシウムイオン濃度について(簡易版)

【結論】

 pH7.60近傍におけるカーボスター中のカルシウムイオン濃度は約1.20 mmol/Lであると考えられる。


【上記の理由】

 カーボスターはpH調整剤として酢酸の代わりクエン酸を用いている。そのクエン酸がカルシウムイオン(及びマグネシウムイオン)とキレート結合するため、イオンの一部が消費され、残りのカルシウムイオンしか測定(検出)できないことによる。


【実験的検証】

 無酢酸透析液用校正で校正した「カルシウムイオン分析装置(イオン選択性電極法)」を用い、カーボスターと同組成でクエン酸の代わりに酢酸を用いた酢酸型カーボスター透析液(仮称)を測定すると、その結果は1.5 mmol/Lとなった。すなわち、クエン酸が含まれていなければ理論値通りの測定結果が得られる。よってクエン酸によりカルシウムイオンの低下が生じていると推定できる。


【これまでの各機器での測定例】

 各社各様の測定機でカーボスターのカルシウムイオン濃度を測定すると、いずれの測定器でも理論値の1.5 mmol/Lとはならず1.0~1.25 mmol/Lという低い範囲となった.

1)iCa:1.05±0.01 mmol/L

 神戸大学・血液浄化センターでの測定値 Lapidlab348(バイエルメディカル株式会社用)使用

2)iCa:1.25 mmol/L

 クエン酸の30%弱がクエン酸カルシウムとなる ⇒ CABの実効iCa濃度は2.5mEq/L程度 Phama Medica 26 (4), 2008

3)iCa:1.04 mmol/L

 CABの平均的な透析液iCaは1.04mmol/L,pHは平均7.625であった.透析後の血液中iCa値は平均1.25mmol/L,pHの平均は7.470であった. 第56回(社)日本透析医学会学術集会・総会、6月18日(土曜日)午前 - 一般演題ポスター 無酢酸透析-2「カーボスター(R)(CAB)使用時のイオン化カルシウム(iCa)値の検討」、たちばな台病院透析センター1), たちばな台病院人工透析内科2)、○荒井 良博1), 宇佐美 誠1), 高山 濯1), 島津 偉一2), 鈴木 信之2)

4)iCa:1.0 mmol/L

 研究報告「II 訊けば判る!個人用透析装置での「カーボスター○R」の使い方」東京医科歯科大学医学部付属病院 血液浄化療法部 菅野有造 先生


【理論的考察】

 第0近似:クエン酸は三座の配位子なので――理想的な場合(すなわち無限希釈状態では)――カルシウムイオン(またはマグネシウムイオン)1ヶに対し、クエン酸イオンは2ヶ結合すると仮定する。カーボスター中に存在するカルシウムイオン(以下、iCaと略記)、マグネシウムイオン(以下、iMgと略記)、クエン酸イオン(以下、Cit 3-)の濃度は、それぞれ1.50、0.5、0.67(=2/3)(mmol/L)(カーボスター添付文書参照)であり、その割合比は9:3:4となる。これを単純に個数と考えるとCit 3- に消費されるiCa + iMgの総量は9 + 3 = 12ヶとなる。マグネシウムイオンもカルシウムイオンのようにクエン酸イオンと1:2で錯形成し、且つその錯形成定数もカルシウムイオンと等しいと仮定すると、金属イオン1ヶについて2ヶのCit 3- が消費される。よって残るイオン種の総量は10ヶとなり、これを濃度に戻すと1.67 mmol/Lとなる。この値は(iCa + iMg)の値である。iCaとiMgの成分比は9:3なので、iCa/(iCa + iMg)= 9/12、iMg/(iCa + iMg)= 3/12より、この割合で上記に重みを付けて単純計算すると、クエン酸と結合していないフリーのiCa及びiMg濃度は、それぞれ、iCa = 1.67 ×(9/12)=1.25、iMg = 1.67×(3/12)=0.42(mmol/L)と算出される。よってカーボスター中のカルシウムイオンの濃度は1.25 mmol/L。

 第1近似:上記考察より得られた測定値は実験結果からはまだ遠いので更に考察を進める。第0近似ではiCaは無限希釈状態(活量=1、事実上数mmol/L以下の濃度)にあって初めてCit 3- と [Ca(Cit 3-)2] 4- を形成できると仮定したが、これは実はiMgでは成立しない(理由はMgがScから始まる遷移金属ではないため)。よってiMgは無限希釈状態でもCit 3- と最大でも1:1でしか結合できないと仮定する。これはiCaの側から見れば

Cit 3- を競合する能力がiCaの最大半分ということである。だが、それでは判り難いので、ここではiMgの代わりに、iCaと共存し、iMgと同じ程度にiCaとCit 3-を競合する架空の金属イオンiMを考える(iMは Cit 3- と[M(Cit 3-)2] 4- のように錯結合する)。するとiCaの側から見て、共存するイオン比は9:3:4ではなく、

9:1.5:4(iMg → iM補正 3×0.5=1.5)→ 18:3:8(整数比)→ 126:21:56

(Cit 3-数で割り切れる整数比)と補正されることになる。

{(18 + 3)-(8/2)}/12 = {(126 + 21)-(56/2)}/84 = 1.42、1.42×18/21

= 1.42×126/147 = 1.21(mol/L)なので、上記の仮定におけるiCa濃度は1.21 mmol/Lと見積もられる(この場合、iMg濃度を上記のように見積もることはできない)。カーボスター中にマグネシウムイオンが含まれない場合のiCa濃度は1.17 mmol/Lと算出されるので、ここまでの考えから推定されるカーボスター中のカルシウムイオン濃度は、

1.17 <(iCa)<1.21(mmol/L)となる。

 ※ カルシウムイオン及びマグネシウムイオン濃度を種々に変化させた溶液を測定した実験結果から、

  実際にはもう少し複雑な各種なキレート状態が共存していると考えられる。


挿絵(By みてみん)


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