第9話 ワンルーム同棲って…マジすか
「2人で暮らすって…どういうことだよ!」
『部長から出された条件なんだから仕方ないじゃない』
部長とは俺と歌苗が所属する諜報機関の責任者だ。
機関の最終決定権をすべて握っており部長の命令は総理大臣令よりも優先される、という決まりは機関に入って最初に教え込まれる掟の1つ。
『あのあとね~、凛夏ちゃんを教育対象から外してもらうように上層部に掛け合ってみたのよ。そこで出された条件の一つが八海と凛夏ちゃんの同棲ってわけ。まあ要するにA級以上職員の常時監視は必須ってことね』
「だったらお前が佐条さんの監視要員になればいいだろ!あんた俺より上級のS級だろうが!」
能力者で構成される諜報機関職員は能力や素行により全員級分けされている。
超防衛本能を持つ俺はその能力に有用性を見出され七年前の十歳の時点でA級に分類されていた。
ちなみに歌苗は特例扱いのS級、単純に能力を比較しても俺の数倍は戦闘有用性があるらしい(部長談)。
『あんたねぇ…このままでいいと思ってるの?』
「はぁ…?」
『生まれてから今に至るまでまともに接してきた女性って私だけでしょ、あんた』
「ウッ!」
歌苗の心無い一言が俺のハートを傷つける、思わず声が漏れた。
『十歳のころのあんたは可愛かったわね~。夜泣きべそかいてて私が添い寝してあげてたっけ。いや~あの頃のあんたは素直で可愛かった~、お姉ちゃん~って』
「もうっ…!やめていただけないでしょうか…!」
『女の子云々ってのは冗談だけど…とにかくね、自分が救った人間のその後ってのを身近で見るってのも大事だと思うわよ。あんたのこれまでを考えたらなら尚更ね』
「救ったって…今回に限っては俺は何にも…」
『そう?能力者に命狙われた場合、機関で育ってきた人間なら即座にぶっ殺し…てのが定石だと思うけど。あんたは突っ立ってるだけで凛夏ちゃんを殺せた、のにそうしなかった。煽るだけ煽って自分を襲わせればそれで終わりだったのにね。そういうところ、私含めた機関の職員とは決定的な違いだと思うわよ、もちろん良い意味で』
「…まあ、一緒に暮らすのが部長命令なのは理解したよ。だけどさ、俺んちワンルームだよ!?いい話し風に締めようとしてもひとつ屋根の下思春期の男女が暮らすって事実は変わらないんだよ!?」
「思春期って…キモっ」
背中から佐条さんからの口撃が飛んできた。
「そもそも佐条さんは納得してるの!?これから一緒に暮らすことになるんだよ!?しかもいつまで続くか分からないし!」
「私は割と嫌じゃない。監視下にいれば生活費出るらしいし、不自由しなさそう。こっちの家の方が学校もサユの家も近いし…」
「適応力っ!!!」
『本人も親御さんも了承済みだし部長命令だしで、もうあんたが意義を申し立てたところでどうしようもないんだよね~』
「親御さんにまで根回ししてるのかよ…いったいどんな手を」
『あぁ、あんたの住んでるその集合住宅一棟まるまる買い上げて名義を学校法人にしたの。遠方地からの通学の負担軽減みたいな名目でデッチ上げて、凛夏ちゃんは試験的に下宿みたいな扱いで資料作って親御さんに説明したら二つ返事でOKもらえたわ』
「なんで一日もたってないのにそこまでできるんだよ…」
国家権力、恐るべし。
「てか一棟買い上げたんなら隣室とかで良くないか…?」
『監視難度Aだからね、それは無理』
「常時目視可能な状態に置くことが大前提…ってことか」
『まあ、異性とかそういうの意識せずに寮のルームメイトだと思って仲良くしな。凛夏ちゃんにはあんたの能力のことも説明しといたから、あんたが危惧するようなことも起きないだろうしね』
「さいですか…」
どうやら同棲は避けられないらしい。
これが何を意味するか、部屋で気が休まらないというのもそうだが一番の問題は赤穂さんとおうちデートができないことだ。
俺は今後の展望に思いを馳せて深いため息をついたのだった。