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第6話 ストーカーと童貞

「わっ、私はサユが変態の毒牙にかからないようにしてただけ!そう!保護者だから」

地面に横たわった佐条凛花は必死に言い訳をする、しかし無様な姿から繰り出される弁明には説得力がない。

「だとしてもスマホの監視なんて穏やかじゃねえよ…どうせ監視アプリかなんかを赤穂さんのスマホに常駐させてたんだろ?最近スマホの充電の減りが早いって言ってたけど…お前のせいじゃないのか?」

「だってサユが誰と何話してるのか気になるんだもん!」

「完全にストーカーじゃねぇか!」

だめだこいつ…

彼女の行動には倫理などない、ただ赤穂さんを監視し自分が安全だと思う環境を強制させるのが彼女の正義なんだ。

不幸なことに、彼女は見た目を変えられる能力を得たせいでその願望を実現する術を得てしまった。

普通の人間であればどこかで理解するはずだ、自分には不可能だ、この考えは正常ではない…と。

しかし佐条凛花がその目的を実行すればするほど、実現出来れば出来るほど視野は狭窄し、その願望の正当性が強化されていく。

その能力の性質上誰も彼女の所業をしらない、ゆえに誰も彼女に意見できない。

これまでは…そう俺以外には…

俺は考えもなくただ頭に浮かんだ言葉をそのまま彼女にぶつけた。

「あんただってわかってんだろ?」

「何…?説教でもするつもり?」

「人間誰しも時間と共に変化していくんだ、成功したり失敗したりしてな。大人になるころには赤穂さんだって今とは違う人間になる、あんたがこれまで知っている赤穂さんじゃなくなるんだ。佐条さん、あんたがやっているのは赤穂さんを現状で保存しようとしている…それは愛とか保護とかじゃない、エゴなんだよ」

彼女は激しい舌打ちをし、ため息をついたあと吐き出すように話し始めた。

「エゴだかなんだか知らないけど、それって悪いことなの?あんたは私をどうしたいわけ?私がサユを監視するのをやめさせたいの?それってさ、私がサユにしてきたことと何が違うんだよ。意思を無視して人を好きなようにしようって、それって、結局根本のところでは変わらないじゃん。」

屁理屈だが、共感できる部分はある。

だからこそ俺は訂正しなくてはならない。

「俺は佐条さんが監視をすることをやめろとは言わない」

「…へ?」

佐条凛花は素っ頓狂な声を上げた。

「何か勘違いしているようだから訂正させてもらおう。ただ俺はムカついただけだ」

「…は?結局説教しようたって」

「お前が監視してたら俺が赤穂さんとイチャイチャできないだろうが!」

「は、はああああああああ~!?」

「高校生カップルの青春、その実は実に口にするにもこっぱずかしいものだろうが!それをお前に見られながら楽しめって!?冗談じゃない、寝言は寝て言え。だから言わせてもらう!赤穂さんを監視するのを止めろ!俺はただでさえクソ女に監視されてるというのに…!これ以上オーディエンスが増えたら俺はもう…耐えられない!」

「…本性を現したね」

「なんとでも言え。ただな、赤穂さんのストーカーであるお前が彼女と俺のいちゃつきを見て耐えられるのか…?」

「なんでそんな自信満々なの!?まだ付き合ってもいないのに!」

「い~や付き合うね俺は、いつかは付き合うから」

「無理だよ!サユがあんたなんかと付き合うわけないじゃん!」

「…そうなの!?」

「そうだよ!」

クソッ、そうなのか…?

あんなに好意的な態度を取られても交際は確定ではないのか…?

「あ~やだやだ、これだから童貞は。サユが誰にでも優しいからって自分にもワンチャンあるって思った?」

「…クッ」

そうだ、俺はデートを目前に舞い上がっていた。

俺は恋愛に関してはかなりの初心者(ビギナー)、これまで出会った異性とは命のやり取りしかしてこなかった。

見誤っていた、目標(こうさい)までの距離を…!

「なんか哀れだね、だからそんな活き活きしてたんだ。服もセットアップで決めちゃってさ」

水を得た魚のように煽る彼女は、俺の失態をみることによりどうやら本調子を取り戻したようだ。

「まあ、よかったんじゃない?最後に夢見れてさ」

所詮、夢だったのだ。

いくらおしゃれをして、どれだけデートプランを練ったところで、交際など夢のまた夢だったのだ。

…ん?

「…最後?」

「うん、最後。だってこの能力のことも、保護活動のことも知られたら生かしておくわけなくない?」

このナチュラルサイコパスが…

というか保護活動って言うなよ、ただのストーカーだろお前。

「まあ悪く思わないでね。早く逃げておけばこんなことにはならなかったのに…」

そう話しながら、彼女の体は筋骨隆々の男性へと変化していく。

俺は、変化後のその姿に見覚えがあった。

「体育の…山崎先生か…」

「そう、山崎正和。元ウェイトリフティングの国体選手で、教師になって数年経ったいまでも腕力は馬鹿にできない。これならそこらの男子高校生に力負けすることないでしょ」

「あ~~~~~~~~~~~~~」

なるほど、彼女の能力は姿形を完全に真似るだけでなく腕力などの身体的特徴も再現できる。

筋骨隆々な男性に変身し俺を亡き者にしようというわけか。

これはまずい、非常にまずい。

「あ~~~、やめといた方がいいっすよ…俺も佐条さん殺したくないし…」

「は?そんなハッタリ通用するとでも?」

「いやいや、マジで説明するの難しいんだけど()()()()()()()()()()()()()よマジで。てかやめてください、俺も赤穂さんの友達を殺したくないし…」

「…は?」

マズい、この状況でなにか彼女の地雷を踏んでしまったようだ。

彼女の青筋が痙攣している…ように感じる。

「私はサユの友達じゃない…」

「へ?」

「親友だっ!!!!」

そう叫び彼女は体育教師山崎の姿で殴りかかってくる。

俺はその姿をただ見つめていた。

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