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第4話 セットアップは無難に着れる

日曜の早朝、俺は決戦に挑むべく身支度を進めていた。

オンラインショップで無難に買い付けたセットアップは、普段制服しか着ない俺でもそれなりにキマって見える。

昨晩は全く眠れなかった。

というのも赤穂さんのお気に入りコンテンツである『ギルティアニマルズ』を徹夜で勉強していたからだ。

少しでも話についていくためにと思い調べたところどうやらアニメ化しているらしく、軽い気持ちで見始めた結果一晩かかってしまった。

二話に一度は動物の断末魔があり、三話に一度はワオキツネザルが他の動物を噛み殺すという謎のアニメ。

これが下は女児から上は中高年男性にまで人気があるというのだから驚きだ、彼らはこのアニメを見たことがあるのだろうか、キャラクターの可愛さに騙されてるんじゃないのか。


今日のデートプランはこうだ。

まず駅前で合流、この合流は本日のデートにおいて重要な意味を持つものになる。

古来より、高校生の男女が校外で出会うと一つの心理作用が生まれると言われている。

その名も『普段制服姿は見慣れてるけど、私服姿みると印象が変わるな~』効果だ。

これはただの友人から恋愛対象にランクアップを目指す際にも有効なテクニックの一つである、胡散臭い恋愛インフルエンサーも言っていた。

名の通り私服姿で異性であることを強く印象付けることにより、普段では抱かないであろう心証を植え付けるテクニック。

もちろん私服がダサい場合にはこの作用は逆効果になってしまうが、無難なセットアップであれば特に問題はないだろう。


そして次にコラボカフェで食事。

コラボカフェがどんなものかは知らないが、赤穂さんの話によるとどうやら飲み物一品につき景品が一個ついてくるらしい。

そして彼女は言っていた。

景品をコンプ、つまり全種類手に入れたいと。

ネットで調べてみたところ景品は完全ランダム、通常種十二種類、シークレット種が四景品の計十六種類。

ダブりなしでも十六杯のドリンクを飲まなければ全景品は手に入らない…

しかもシークレットは封入率低めという極悪使用、これが一番のギルティじゃないか?

それに一人につきドリンク二品までという制限もあるため、最低でも四回は入店し直さなければならない。

俺が食べること自体は大した問題じゃない。

問題はそれ以外の全部だ。

まず食事、満腹感は眠気を誘う。

赤穂さんはか弱い女の子、彼女の体系から推測してもそこまで食べれる方ではないだろう。

そして入店し直しの際の行列、期間限定の催しには行列は付き物だ。

いくら運動部といえども風景の変わらない行列に長時間並んだら疲労は蓄積していく。

満腹感、眠気、疲労、これらは二人の関係を悪化させる要因に十分なりえる。

この対策のため、俺は歌苗に頭を下げて彼女特製の会話マニュアルを手に入れていた。

曰く、政府要人からでも機密を引き出す会話術が記されているらしい。

あまり頼りにはしていないが、恋愛において用意し過ぎということはない、胡散臭い恋愛インフルエンサーも言っていた。


そして解散…という流れだ。

なかなかに難易度の高いミッションになるが、できることはすべてやった。

人事を尽くして天命を待つ、中国の古い人もそう言っていた。

脳内で一通り作戦のおさらいをした俺は家を後にし駅に向かう。

待ち合わせには早すぎる気もするが、遅れないに越したことはないだろう。

日曜の早朝ということもあり、住宅街の人通りは少ない。

「なんで休日の朝って清々しさがあるんだろう…」

空も青く、鳥のさえずりも心地よく感じられる。

そんな人通りのない住宅街道路の先に、見覚えのある人影が見えた。

まさか…こんなところにいるわけがない…!

「八海く~ん!お~い!」

「赤穂さん!?」

声で分かる、赤穂さんだ。

なぜ…待ち合わせは駅前のはず…時間もまだ早い…

ハッ…!まさか俺に会いにわざわざ…!

「赤穂さん…なんでここに?」

「約束の時間まで待てなくて来ちゃった!八海くんもちょっと早いんじゃない?」

「あぁ、うん。ちょっと早く起きちゃったからさ…」

まさか彼女の方から会いに来てくれるなんて…

俺は感激していた、これまでの人生ではその可能性すら感じなかった怒涛の幸福、恋愛ってここまで上手くいっていいのか。

「今日は涼しいといいね~」

そういいながら近づいてきた彼女の私服姿は制服とは違う刺激をはらんでいた。

スポーティーの中に少女性を含んだその私服姿に、俺は脳の奥で唐突な疼きを感じていた。

(…!…まさかな)

経験上、この疼きが起きるときは大抵ろくな事が起きない。

しかしこのシチュエーションでそんな要素は考えられないため、俺は杞憂だと思い込もうとした。

「あれ?八海くん目の下にクマできてるよ、夜更かし?」

そういい彼女は俺の顔を覗き込む、その様子を見た俺の脳はさらに疼きだしていた。

「あ、ああ。徹夜でギルティアニマルのアニメ見てたんだよ、全部は見れなかったけど…」

「ほんと!?そこまでギルマルに興味があるなら言ってくれたらよかったのに~、私のおすすめの回はね…」

強い違和感とともに疼きが痛みに変わっていく。

しかし俺は違和感の正体をつかみきれていなかった。

「まあアニメは土曜の朝放送だからいつもは朝練で見れないんだよね~ほんとは()もリアタイしたいんだけどな…」

(…!)

彼女の話に俺は違和感の正体を見出した。

だとすると非常に厄介だ、この事態を片付けて果たして待ち合わせに間に合うのか…

違和感の正体を理解しても以前何が起きているかわかっていない俺は一つの問を彼女に投げた。

「お前…誰だよ」

「…え?どうしたの八海くん…なんだか怖いよ」

「赤穂さんじゃないだろお前…何が目的だよ、こんな方法で近づいて」

「…そっか」

ため息交じりに答えた彼女の体は、破砕された肉を混ぜるような音とともに変形を始める。

「まあ、抵抗してくれた方がやりやすいかな」

その声と姿に、俺はかすかだが見覚えがあった。

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