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第1話 初対面の女子と寿司

高校二年の春、この俺、長光八海(ながみやつみ)に転機が訪れた。


クラス替えに伴う不安が彼らにそれを起こさせた。

その名も連絡先交換会。

この連絡先交換会というのは妙なもので、普段はガードが堅い女子とも連絡先が交換できるという不思議な磁場を放つ。

一年の時にクラスが違う、素性を知られていない、絡みがないという一般的には連絡先交換からほど遠い関係性がなぜかこの場では有利に働く。

いうならば革命である。


俺はこの機に全力で便乗し隣席の文学系女子と前の席の運動部女子の連絡先を獲得した。

我がスマホに光が灯された、生涯でも記念すべき瞬間であった。

このアプローチを許される権利を生かすも殺すも自分次第。

新学期一日目の放課後、俺は至って冷静であった。


失敗のビジョンは主に二つ。

連絡するのを日和って得たものを腐らせるか、成功実現の手段を誤って敗北者になるのか。

前者は論外、好機を前にして失敗の可能性を理由に後ずさりするものはどんな状況であっても成功できない。

胡散臭いインフルエンサーもそういっている。

後者はどうか、これもある一つのコツさえ押さえていれば避けられる。

そのコツとは…焦らないことだ。

急いては事を仕損じる、胡散臭いインフルエンサーもそういっている。

連投、即返信、時期尚早なアポイントメントの打診など、これらは言うまでもなく悪手。

日々一歩ずつ焦らず互いの距離を縮める、王道、正統手段。

これ以外の方法を選択することはあり得ない。


…と、このように俺は自宅で脳内作戦会議を繰り広げていた。

「重要なのは最初の一手…」

そう、最初の一手を打つのに最善のタイミングは今なのだ。

連絡先を交換した日の放課後、ごく自然にかつ自分を印象付けられる最良の時。

とりあえずメッセージ送ってみましたという体でハードルも高くなく、かつやり取りの中で何か共通の話題を見つけられたならば翌日に直接話す口実も出来る。

意を決した俺はメッセージアプリを立ち上げ、文字を打ち込み始める。

通常では考えられない手汗を制服で拭いながらごく自然な男子学生の文体を装い綴る。

「報告書でも書いてんの?」

気配のなかったはずの背後から声をかけられた俺は、咄嗟に声の出所にあるであろう顔面に拳を打ち込む。

がその拳は避けられ、声の主にスマホを取り上げられる。

「え~!女の子じゃん!そっかー、八海もそっかー、男の子だもんね」

この不審者は俺の保護者係兼監視係の歌苗(かなえ)、気配を消すのが異様にうまく自宅で完全に油断している俺を驚かすのが趣味のクソ女だ。

「返せっ!あとこの家は俺が正式に契約した個人宅であり、個人宅内は一般的にはプライベートな空間で」

「はいはい、センズリ中は避けるようにするから。それと」

彼女は俺にスマホの画面を向ける。

「センスなさすぎ、まさかこれ送るつもりだったの?」

女の子に送る予定の文章を見られただけでなく、ダメ出しもされている。

こんな状況であってもこの女に反論するのはいい考えとは言えない、非常に長引く。

この状況での最善手は

「…具体的にどこが悪い」

このように彼女の口から罵倒の言葉が出やすいように誘導する。

これを行うことにより歌苗は俺のプライドを折るための言葉を一通り吐いた後、満足して帰っていくのだ。

「そうね…全部かな」

「んなっ」

「文章全体が童貞丸出しというか、奥底に潜む下心が隠しきれていないんだよね。あと長すぎ、十行オーバーって業務連絡じゃないんだから」

そういいながら彼女は俺のスマホを我が物顔で操作する。

「…なにをしている?」

「お手本。女心の化身である私があんたのためにモテ男文章考えてあげるから、安心しな」

まずい、歌苗のあの顔はなにか新しいおもちゃを見つけたときの顔だ。

俺の一生に一度あるかどうかの好機がこいつのお楽しみになってしまう。

「余計なお世話だ!返せっ!」

俺は彼女の手からスマホを取り上げようとつかみかかる。

「ちょっ!まてまて!もうちょいだから!」

「マジで勘弁してくれ!ガチで!」

「あっ」

「へ?」

歌苗はスマホの画面を確認した後一息つき言った。

「わりっ!送っちった!」

なるほど、終わった。

いやまだ希望がある、彼女の文章がまともであればリカバリーはいくらでも…

恐る恐るスマホを覗き込む…

『寿司でもいかねぇか』

「…なんで?」

「いやぁ~やっぱり寿司でしょ!あれ、その子って生もの苦手系?」

かくして俺の青春は終わりを告げたのだった。

少年が普通の恋愛を目指しつつ女の子に命を狙われ続ける能力者もの作品です。

初連載ですがよろしくお願いします。

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