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第82話 変わった姿で帰還を果たしましょう

「――間も無くテリック村に着きます、ネルル様」


「はい。ウールトさん、ここまでの道中ありがとうございます」


「いえ、ネルル様のためなればこそ! 我ら聖護騎士団はあなたのために――」


「うるっせぇ! 何度その御託を並べやがるっ!」


「うぐわっ! ジェイルやめろォ!? 押すんじゃあない、馬車から落ちるだろうがァ!」


 ここまでとても賑やかな道中でした。

 それでいてとても清々しい気分です。

 感じ方まで変わって、まるで本当に生まれ変わったかのよう。


 こんなにも晴れ渡った気分になれたのは久しぶり。

 この辺りの空気も美味しくて、なんだか嬉しくてたまりません。


 チッパーさんたちは元気にやっているでしょうか?

 村人の皆さんと仲良く出来ているといいのですが。


 ……テリック村を旅立ってからもう一ヵ月近く。

 結局、首都での一件を片付けるのに多く時間を要してしまいましたね。


 でも全てが丸く片付いたからやっと帰れます。

 後は()()()()()()()()わたくしに、チッパーさんたちは気付いてくださるでしょうか。


「着きました! ジェイルのことは私に任せて行ってください!」


「それぁ俺の台詞だテメェ!」


「ふふっ、ありがとうお二人とも」


 こんな仲の良い二人に誘われ、高級馬車からストンと降ります。

 後に付いていたもう一台の馬車からもミネッタさんたちの降りる姿が見えました。


 それで共に村へ歩いていくと、さっそく村人の皆さんが駆け寄ってきます。


「皆さん、ただいま戻りました。大変お待たせして申し訳ありませんでした」


 そこで礼儀正しく感謝の一礼。

 皆さんが驚きながら周りを囲む中、村へとゆっくり足を踏み入れていく。


 すると、遠くから見慣れた()()が走ってやってまいりました。


 チッパーさんとツブレさんです。

 遥か向こうにはグモンさんも見えますね。

 まだたった一ヵ月しか経っていないのに、とても懐かしく感じます。


「いよぉネルル! やっと帰って来たなぁ!」


 ああ、チッパーさんの逞しい声が聞こえて参りました。

 この時をどれだけ待ちわびたことかっ!


「はい、ただいま戻りました。待たせてしまって本当に申し訳ありません」


「なんだかネルル、こんな短時間に凄い大人になった雰囲気なんだナ!」


「そうですね……ええ、大人になりましたとも」


 そう、大人になりました。

 この一ヵ月で、随分と色々なことがあったから。


 ……わたくしの分身である赤ん坊を前に、転生を考えたこともありました。


 でも、そうしたらアンフェルミィの魂がどうなるのかと悩みもしました。


 それに残された魔物の体もどうなるか、あまりに不安でなりませんでした。




 だからわたくしは、変わらないことを選んだ。

 邪悪で凶悪な魔物のままで、しかし聖女であることを望んだのです。


 そしてその末に進化までも果たしたのです。

 ワーキトンから〝グランドキャッティア〟という類を見ない種族へと。




 これがわたくしが最良だと思った選択。

 誰も不幸にならず、誰も消えない、誰もが納得する答え。


 だって、わたくしだってもう魔物を辞められませんから。

 彼らと会話が出来なくなるなんて、あまりにも大きな損失となりえますからね。


「そういや随分と背が伸びたなぁ。人間みたいになってらぁ」


「ええーっ!? 毛も伸びましたし見てくださいよこのツヤツヤロングヘアを! かなりゴージャスに変わったと思うんですけどぉ!?」


 グランドキャッティアと進化したことで、わたくしは人間並みの姿になりました。

 それでいて大人のワーキャットの風貌も継承し、全体的に長毛へと変わっています。


 それでも胸がまったく無いことだけは惜しいですけどね。

 早熟で授乳する必要もない種族ですから仕方ないのですけども。


「んなこと言われたってワーキャットのことなんざわからねぇよぉ。それよかネルルはネルルでいいじゃねぇか」


「んもぉ~~~!」


 でもどうやらチッパーさんたちはあまり見た目では驚かないようです。

 もっとも、わたくしだって認識してくれているだけで充分嬉しいのですけどね。


『なんですかこの魔物たちは。あまりに無礼なので焼き払ってもよろしいですか?』


「ダメです! 彼らはわたくしの大事なお友達ですっ!」


「ひゃー、見ないうちにまた変なの連れてきたなぁお前」


 パラミーも無駄に好戦的なのはあいかわらずですねぇ。

 他の魔物と争わないよう少し教育した方が良いかもしれません。


「おいおい、お前が連れてきたのは棒っ切れだけじゃないのかよぉ!?」


「人間の赤ん坊なんだナ」


「はい、これからわたくしたちの仲間になる子です」


「はーい、アンフェルミィちゃんだよ~、御挨拶ぅ~!」


「だぁ、だぁ」


 アンフェルミィもその教育のために連れて参りました。

 変な思想にまみれている首都よりも、テリック村の方がずっと健やかに育てられそうですからね。


 まぁ、しばらくはミネッタさんの家に預かることになりそうですけども。


「お嬢様、おかえりになられたと思ったらまさかお子様を連れて来るなんてぇ! 一体誰とのお子様ですかっ! まさかファズ様ですかっ!? 身ごもっていたなんて、どぉーしてワタクシに相談してくださらなかったのですかあっ!!?」


「何言ってんのシパリ!? 全然違うよ!!!!!」


 眼鏡メイドのシパリさんも久々ながらに暴走しております。

 まぁ勘違いするのも仕方ありませんよね、赤ん坊を大事そうに抱えてちゃ。


「ま、この子のことは俺たち村の住人全員で育てた方がいいってなったのさ。ここなら仲のいい魔物も多くて、偏見なく育てられそうだしな」


「ほほうファズ君、君は兵士の役目を忘れて帰ろうというのかね?」


「え!? あ、いや違うんスよ! でもほら、監視とか必要じゃないッスか!」


「「そうだよねぇ、守らなきゃいけないもんねぇ兵士として!」」


「あぁーもぉ~~~!」


 どうやらいじりがいのあるファズさんもこの村に戻って来る気満々みたいです。

 これからもどんどんと楽しくなってくるでしょうねぇ。


「んじゃま、そんな訳で俺ら国家権力はとっとと帰るわ。後は任せていいよな?」


「ええ、きっとこれ以上に発展してみせますよ」


「うむ。だから貴様はとっとと消えろ」


「ウールト、テメェも来るんだよォ! もう聖護騎士団は解散って決まっただろうがァ!!!!!」


「イテテテ! 耳を、耳を引っ張るんじゃなああああい!!!!!」


 あらあら、本当に仲がよろしいことで。

 結局力では勝てないので、ウールトさんもしぶしぶ帰ることとなりましたが。


 彼らとの再会が楽しみですね。

 この国の政治が早く落ち着くことを願ってやみません。


 願わくば、元の平穏な国へともどりますように。


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