第71話 魔物軍団、一斉攻撃!(第三者視点)
「ウッフフフッ! 今頃あの図々しい小娘は慌てふためいているだろうねェ……! その絶望に歪んだ顔を拝むのがホント楽しみだわぁ~~~!」
エイビスは森の中に巨大な体を隠しながら不気味に笑っていた。
テリック村を遠目に眺めつつ、自分の手に舌なめずりをしながら。
彼女の上半身は人のような姿をしていても、思考は人とは大きくかけ離れている。
裏切り、謀略、侮蔑……敵とみなした者へは如何なる手段も厭わない。
そしてそれを悦びにもしているからこそ、エイビスは身悶えているのだ。
これから起きるであろう惨状を想像し、楽しみで仕方がなくて。
「まずはあの村の人間を一人残らず喰ってやろう! 泣き喚こうが容赦なく四肢を引き裂き、あの小娘に見せつけてやるのだ。自分がいかに非力で情けないかを思い知らせるためにねェ!」
そこにもはや慈悲は無い。
ただ蹂躙し、殲滅し、破壊の限りを尽くすことが魔物の本性だからこそ。
「さぁ頃合いだお前たち! 蹂躙し尽くしてしまいなっ!」
「「「ウオオオオオオオ!!!!!」」」
故に、エイビスの命令一つで無数の魔物たちが一斉に動く。
本能を、欲望を露わにし、全てを喰らい尽くすために。
そしてエイビスも動いた。
その巨体を森の外へと晒し、村へと向けて這い始めていく。
彼らにとってもはや壁があろうが無かろうが関係ない。
この大群で攻め入れば崩せない拠点は無い、そう信じていたからだ。
今この時までは。
「エ、エイビス様! 大変です!」
「あん? なんだい? まだ始まったばかりじゃないか」
「そ、それが……あれをご覧ください!」
エイビスは自分たちの勝利を信じて疑わなかった。
だからこそ視界を遮る木々を過ぎた時、彼女は驚愕せざるを得なかった。
自分たちの配下たちが蹂躙、されている。
壁の上から放たれた無数の矢弾により次々と爆砕されていくことによって。
「なっ!? なんだいありゃあああああ!!?」
しかも矢弾は単に放たれている訳ではない。
一つの砲台から「シュビビビ!」と連続で射出されていたのだ。
その様子はまさに機関砲。
当初に製造された物とも違う、一つ進化を果たした武装だった。
そんな壁の上では――
「装弾ヨーシ!」
「狙い、ヨシ!」
「発射トリガー班、準備完了!」
「安全装置解除確認! 発射レバー回転開始!」
魔兎たちが各々の役割を果たし、流れ作業的に矢弾を射出する。
1匹が群がる魔物たちを狙い、
3匹が矢弾を弾倉に交互で流し入れ、
2匹が合図と共に安全レバーに乗って外し、
5匹が回し車を回すことによって弾を連続発射。
その一連作業はテキパキと行われ、弾が切れても再発射までに時間はまるでかからない。
それに例え進軍出来ても、なぜか草に足をとられて動きを止められてしまう。
後はその間に装填完了し、再発射されて蹂躙再開。
その想像を越えた破壊力に、エイビスはもはや顎を落とす勢いで驚くばかりだ。
「ふ、ふざけるんじゃないっ! あんなのがあるなんて聞いてないよ!?」
前線で村に向かっているのは小~中型の魔物たち。
人サイズ以下しかない魔物たちでは爆発する矢弾に耐えることは出来なかった。
それなのに進軍など叶う訳が無い。
「こうなったら、大型の魔物で壁を作りな! オーク、デスグリズリー、サイクロプスども、出番だよっ!」
しかしエイビスもやられるままではない。
大型の魔物を前線に行くよう指示の口笛を鳴らし、再びニヤリと笑う。
「奴らに蹂躙させちゃ雑魚どもの立つ瀬がないからと下げていたが、そうもいかなくなった。ヒヒッ! こうなったらもう奴らもおしまいだねェェェ!」
エイビスの命令通り、巨躯の魔物が途端に次々と走って前線へ。
雑魚の魔物すら押しのけ、踏み潰してでも命令を遂行しようとする。
「そうさ! あんな壁、ぶっ壊しちまいなぁ!」
一気に壁へと接近していく巨大な魔物たち。
砲台の矢弾もさすがに大型の魔物には通用しない。
故に魔兎たちは怯え、逃げるように壁から飛び離れていく。
「「「グオオオオオオ!!!!!」」」
壁にも負けないほどの大きい魔物たちが一挙に壁へ攻撃を仕掛けた。
強靭な爪や、手に持った棍棒、木の幹でドカドカと。
こうなれば壁もそう保ちはしない。
次第に軋み、ひび割れ、崩れていく。
だが突如として大爆発。
大型の魔物を木っ端みじんに吹き飛ばし、周囲の雑魚たちすら滅していった。
「……は?」
エイビスは何が起きたのか理解できていない。
まさか壁が爆発炎上して切り札たちを吹き飛ばし、さらには炎の壁が出来るなど思ってもいなかったようだ。
それに大型の魔物たちはそこまで賢くない。
別の場所でも命令のままに壁を壊し、爆散していく。
仲間たちが隣で吹き飛ぼうが関係無く、次々に「ドォン、ドォン」と爆音を上げて。
それでエイビスが唖然としている間に大型は一匹残らず消し炭に。
雑魚の魔物たちも炎の壁を前に立ち尽くすばかりだった。
「あー……」
「ど、どうすればよろしいのですかエイビス様!?」
「……いいやもう考えるの面倒くせぇ! みんな突っ込んじまいなァァァァァ!!!」
こうなるとエイビス自身も思考を放棄せざるを得なかったようだ。
全員に進軍を命令し、自身も目を血走らせて這っていく。
やはり彼女も魔物だったのだ。
知能があろうとも冷静さを欠くと闘争本能が表に出てしまう。
それが敗因になるとも気付かずに。
「命令系統が崩れたぞ! 今だ、突撃ィ!」
「「「ウオオオオオ!!!!!」」」
魔物たちの統率が途端に崩れて怯みを見せる。
その隙を突き、村人とネルルのお友達軍団の混成部隊が炎を掻き分け、各所にて突撃していく。
村人はドネウ老を筆頭にした広域防衛陣形。
武人ボルグら魔物勢は斬り込み突撃陣形。
更には内部より援護用の単発バリスタ砲が火を噴く。
高低伸縮式の足場によって高く上げられ、高所から魔兎たちが狙いを付けていたのだ。
「な、なんなんだ、なんだってんだいッッッ!!!!! なんなんだこのザマはっ!!!!!」
エイビスがようやく到着するももはや手遅れ。
前線の魔物たちに士気は無く、逃げる者が多発する始末だ。
そのおかげで戦線はテリック村陣営が完全に支配していた。
「エイビス! もう貴様の負けだ! 大人しくこの場から去れぇ!」
「うるさいトカゲ風情が! こうなったらアタシ一人ででも貴様らを根絶やしにしてやるっ! それだけの力がアタシにはあるんだからなあッッッ!!!!!」
ただエイビスの力はそれでもなお強大だった。
雑魚の魔物たちに対しては一騎当千の活躍をしていたボルグも、尻尾にはたかれて軽く吹き飛ばされてしまう。
他の部下たちも同様で、その太く長い尾の一撃を堪えられる者は誰一人いない。
「何故ならっ!!! アタシには素晴らしい力が備わっているッ! 大魔勲五七衆の一人、〝黒毒王ナガン=ジャリカ〟の力がねぇ!」
圧倒的質量。
圧倒的筋力。
そして圧倒的魔力。
今前線にてその力を持つエイビスを止められる者はいない。
――そう、彼女は思い込んでいた。
「ハッ!?」
だが突如、景色の果てから突如として「ドォン!」と激音が鳴り響いた。
そしてそれと同時に打ちあがる一筋の光。
その光筋がゆっくりと弧を描くと、徐々に膨らみながらエイビスへと向かっていく。
それが何なのか、エイビスにはわかる訳も無かった。
ただ「光った何かが飛んでくる」と認識しただけだった。
次の瞬間に、自身の胸がその光によって貫かれるその時までは。
「カ、カハッ!?」
「……やはり、貴女も魔族の力を受け継いでいた、という訳ですか」
光はエイビスを貫くと大地へ静かに落ち、スッと立ち上がって振り向く。
その正体はネルル本人。
彼女が光の弾丸として放たれ、直接エイビスに手を下したのだ。
「キ、キサマ、な、なぜ……!?」
「残念ながら、こうなることも想定済みでした。なにせもう二体も魔族の眷属を倒したものでして」
「なッ!?」
「さようならエイビスさん。願わくば貴女とは出会った時のような雰囲気のままお友達になりたかった」
その末にエイビスの体がパキパキと崩れ、灰と化した。
ネルルの正体を知ることもなく、ただ悔しさを滲ませた顔を浮かべたままに。
「ああ、やはり今だと心苦しさは否めませんね。いつまでこんな不毛な争いが続くのでしょう……」
そんな不浄の灰が昇って消えていく中、ネルルはボソッと本音を漏らしながら空を仰いだ。
戦いたくなくても戦わざるを得ない。
知りたくても知ることも許されない。
そんなジレンマを抱えた胸を抑え、彼女は密かに祈る。
せめて頭を撫でてくれた時のエイビスが報われてくれることを。
あれが例え偽りの姿だったのだとしても、ネルルが嬉しく思ったことに違いはなかったのだから。




