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第61話 話し合えば結構わかりあえるものです

 グモンさんが家出したと聞かされた時は驚きました。

 しかし塩を無限に産み出す塩ゴーレムになって帰ってきたことで、頼もしさがまさに倍増です。


 彼から採れる塩のおかげで、お料理の幅も随分と広がりそう。

 川の上流で採れた岩塩なんてとっくの昔に消費しきりましたからねぇ。

 思わぬ収穫に感謝の心でいっぱいです。


「――ということもあり、今はお塩にも困らなくなりました」


「すごいね、塩なんて今でも割と貴重品なのに……」


「そうだぜ。特に最近は海の方で魔物が暴れているようで海産の塩の生産量も減ってんだ。おかげで支給の飯も塩気が減って仕方がねぇ」


「それは兵士の皆さんの頑張りが足りないからでは?」


「ぐっ、痛い所突きやがんなぁこの猫……」


 そんな訳で今日は塩を使ったお料理の指南をしてもらおうと思って村にまでやってきたのですが。


 そうしたらなぜかファズさんがピタっと同行。

 ミネッタさんの家の中にまで付いてくる始末です。

 お二人は幼馴染らしいですが、少しはデリカシーを気にした方がよいのでは?


「ではわたくしはミネッタさんとお料理のお話をするのでファズさんはお帰りになってもよろしいですよ」


「いやいや、一兵士としてそういう訳にはいかねぇ。国民を守るのも俺の役目だからな、一兵士として!」


「とかなんとか言ってミネッタさんの傍にいたいだけでは?」


「バッ、バババカ野郎ッ! そそそんな訳ねぇだろおっ!」


 それにしたってわかりやすいですね、このファズさんって方。

 ちょっと指摘しただけで顔を赤くしちゃって、可愛いくらいウブすぎます。

 男性との交友経験の無いわたくしでさえわかっちゃうくらいに。


「あはは、もう子どもじゃないんだし、親も兄貴たちもいないし冒険者にもなったんだから守ってもらわなくても平気だってぇ~!」


 それでも気付かないミネッタさんの鈍感さもなかなかに面白いですが。

 ついついニマニマと笑みが零れてしまいます。


「あ~でも料理ならステラおばさんに教えてもらった方がいいかも。あの人漬物とかもやってたし、最近は塩が手に入らなくて~って悩んでたみたいだから」


「さすが困った時のステラさんですね。では直接お家を尋ねてみることにいたしましょう。実は家の場所までは知らないのですが」


「仕方ねぇなぁ、じゃあ俺が案内してやるよ」


「いえ、ファズさんはお帰りになられても平気ですよ」


「いや行くぜ一兵士として!」


 んもぉ、この方も強情ですねぇ。


 おかげさまでミネッタさんがもう見送る気満々です。

 本当なら彼女と二人で村を歩き回りたかったのですが、他にやることもあるみたいなので無理強いは出来ませんね。


 仕方なくファズさんと二人でステラさんのお家へ向かうことになりました。

 しかし共通話題がまったく無いので何をどう話していいやら。


「なぁネルルさんよぉ」


 そう思っていたらファズさんの方から話し掛けてきてくださいました。

 しかもなんだかしおらしい感じ。まさか「さん」付けで呼ばれるとは思いもしませんでした。


 そう驚いて見上げてみると、顔が赤くなっています。

 なるほど、察するに先ほどの話題の続きでしょうか。


「べ、別に俺はミネッタをどう思ってるとか、そ、そういうのはないんだからなっ!」


「あーはいはい、そういう気持ちは隠さない方が将来のためですよー」


「だ、だからぁ! そうやって経験者目線で語るのはやめろよぉ!」


 別に経験者でもないのですけどね。

 ただ、大事だと思ったから正直にそう話しただけで。


 ……実際、前世でもそういうことは多々ありましたから。


 とあるパーティメンバーだった男性は「戦いの後に話がある」と相談されたのに、その後に帰らぬ人となってしまって。

 ある仲の良かった女性からは「次は旅の話を聞かせて」と再会を約束していたのに、次に会った時は悪逆の魔女と罵られて。


 こうなるなら、その時に話したいことをとにかく話しておけばよかった。

 そう後悔したことはもはや数え切れません。


 それを伏せてファズさんに伝えるのは老婆心からなのでしょうか?

 前世からの年齢を足しても彼らとほとんど変わらないのですけども。


「と、ともかくとして変な誤解を広げるようなことをするのはよしてくれ! いざという時はちゃんと自分で言うから!」


「……わかりました。でも決して後悔しないようにしっかりと立ち回ってくださいね。わたくしも貴方の幸せを望んでいる一人なのですから」


「お、おう、ありがとな」


 こうしてちゃんと素直に笑う所は素敵ですね。

 責任感もあるみたいなので、しっかり者のミネッタさんとはきっとお似合いでしょう。

 なんだか二人の夫婦姿がすぐにでも目に浮かぶよう。


 しかし、いざこう話してみると男性との恋バナも悪くありませんねぇ。

 前世じゃこんな腹を割った話を出来る方もいませんでしたし、実に有意義です。


 ……あら? そう思っていた矢先にファズさんが頭を撫でてきました。

 ぶっきらぼうなようで意外と優しい所もあるのかもしれません。

 手つきも柔らかいですし、これはこれで悪くありません。


「おや、ネコチャン様とファズ様、お二人でお散歩ですかな?」


 そう二人で歩いていたら修道士のウィーゴさんと遭遇しました。

 道端の雑草を抜いていたようで、景色の先に整えられた跡が見受けられます。


「ええ、これからステラさんのお宅を訪ねようかと思いまして」


「そうでしたか。道中はわたくしめが土を掘り返した所もありますゆえ、つまづきにならぬようお気をつけくださいませ」


「お気遣いありがとうございます」


 こちらの笑顔もとてもお優しい。

 まるで根っからの善人であるかのようですね。


 しかしマンドラゴラさんから根掘り葉掘り聞いた限りの話ですと……。


「ところでウィーゴさん」


「はい、なんでしょう?」


「実はマンドラゴラさんから事情を聞きました。なんでもウィーゴさんは――」


「ああそのことですか。ええ、良く存じていますとも。皆様には記憶喪失、と偽って伏せさせては頂いておりますが、実はしっかりと、ね」


「やはり……」


 こんな話題を振ると、祈るように両手を合わせて頭を下げてきました。

 どうやらこの村に来る前のことはしっかり記憶にあるようです。


「……少し、歩きながら独り言をいたしましょうか」


 するとウィーゴさんはわたくしたちと歩調を合わせてきました。

 そんな目線は顔と共に青空を仰ぐように向けられていて。


 きっと彼の抱える闇は相当に重いのでしょう。

 すぐにそう察せるくらい、その憂鬱な様子には言い得ない哀愁が漂っておられたのです。


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