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第56話 誤解は早々に晴らしましょう

「えっ、悪だくみ? それはきっと誤解だと思いますが……」


 久しぶりにミネッタさんが訪れたと思いきや、急に変なことを尋ねられました。

 わたくしが村の人たちをおかしくしているのではないか、なんて妙な話ですね。


「だが実際、村の人たちは二ヶ月前とまるっきり変わっちまってるんだぞ!?」


「えっと、具体的にはどのように?」


「それはだな、太っていた人が細身になったり、それほど強くなかった人がパワフルになったりしてんだ!」


「あとお年寄りが元気になって、好き嫌いの多い人が何でも食べるようになったり」


「他にも低い背丈を気にしていた子どもが急激に背丈を伸ばしていたんだぞ!?」


「……なんだぁ~、全部良いことじゃないですかぁ」


「うん、改めて言われてみるとまぁ確かに」


「ううっ……」


 ファズさんという方はわたくしを責めたいのでしょうけど、仰ること全てがどうにも悪いように聞こえません。


 だから正論を伝えたのですけど、それでも彼はまだ疑っているようですね。

 せっかく夕食に招待したのに、彼だけが食べ物を口にしようともしません。


 そのせいで楽しい団欒がもうお通夜状態です。


「だ、だけどいきなりこんな風になるのは明らかに不自然だろ!?」


「そうですね、いきなり変化を目にすれば疑うのも無理はないでしょう」


「ほら、やっぱり何か思う所があるんだろう!?」


 話している雰囲気から、彼の正義感のようなものはひしひしと感じます。

 ですが少し空回りしているような感じですね。


 それならもう理屈で黙らせる他ないのかもしれません。


「わたくしとしては特に策略とかは考えておりません。ですが村の方々の変化に関しては思い当たる節があります」


 こう答えると、お手製のナプキンで口を丁寧に拭き、ファズさんへ目を向けます。

 するとファズさんは動揺したのか、ピクリと僅かに身を引かせました。


「……わたくしたちが唯一村に供給しているのはこの地で栽培した野菜。それらは元々、村より頂いた種から育てたものです。その点は村の方々も存じ上げております」


「えっ……」


「しかし村で作ったものと異なる点は、この地で育った野菜が極限にまで栄養価を高められているという所です」


「極限にまで……」

「栄養価が高められている!?」


「そう。それ故にこの地で採れた野菜を食すことで、元々体調不全だった肉体を本来あるべき健康体へと〝回復させた〟というのが正しい見解だとわたくしは考えています」


 そこでわたくしは席を立ち、台所から加工済みマンドラゴラを持ってきました。

 しかしファズさんはこれが何なのかはわからないようで首を傾げています。


「これはマンドラゴラです」


「「――はあ!!!???」」


 はい、予想通りの反応です。

 村人の方々と同じですね。


「お二人も知っているようですね。〝マンドラゴラの伝説〟を」


「知らない訳がねぇ! だってマンドラゴラっつったら超高級食材じゃねぇか!? 万病にだって効くってくらいで、貴族がこぞって欲しがるってくらいの!?」


「そうだよ! だって採れなくなって久しくて、もう滅多に見つからないってことで有名なんだから!」


「はい、そうです。ですけどこれ、テリック村でもらった大根の種を育てたら成ったんですよね」


「「はああああ!!!!!?????」」


 お二人とももう目が飛び出しそうなくらいに驚いていますね。


 まぁでもここまでも予想通り。

 村人の皆さんと遜色違わない驚愕っぷりです。


「そこから察するに、マンドラゴラは滅多に見つからないのではなく、〝成長しきるまで育たなくなった〟が真実なのではないかとわたくしは見ています」


「そ、育たなくなった……?」


「ええ。悪いのは野菜ではなく大地の方。長い年月の間に何かしらの理由で生育能力を衰えさせたのではないか、とね」


 その理由はそれとなくわかっています。

 しかし今はそれを語る時ではないでしょう。


「そして未成熟な野菜たちでは必要な栄養も摂れず、結果的に村人たちの健康にも支障をきたしていたのかもしれません」


「それは確かにそうかも。だってこの村の食文化は百年以上もずっと変わらないって聞いたし」


「でも食材の方が変わったから本来必要なもんが摂れなくなってったってことかよ……」


「まぁそう発覚したのは偶然なのですけどね。ここの野菜を卸したことで皆さんのためになれたのはとても喜ばしいことです」


 ここまで伝えればファズさんももう抵抗の意思も失ったようです。

 それなので再び席に着くと料理皿をスススっと彼に寄せて差し上げました。


「そんな高級食材をふんだんに使用したお料理です。よろしければ堪能していってくださいませ。まだまだ料理は下手なので美味しくはないかもしれませんが」


「ファズ君、ここまできて遠慮するのはさすがに失礼だよ?」


「わ、わかってるって! た、食べる、食べるよ!」


 ようやくファズさんが食器を手に、ちびちびと食べ始めてくれました。

 しかしそれでも抵抗感はあるようなので、彼には何かしらの複雑な理由があるのかもしれません。

 

 だとしても食べてくださったのは嬉しい限りです。


「ち、ちくしょう、美味いじゃねえかあ! あーもう!」


「ホントだよね! 下手だなんて謙遜だってぇ」


「いえいえ、食材が良いからですよ! 魔兎さんたちが丹精込めて育ててくださっているので!」


 ふう、良かった。しっかり食べてくださっています。

 おかげでチッパーさんたちも安心して食べ始めることが出来ました。

 やっぱりあそこまで敵意を剥き出しにされると食べにくいですものね。


 さて、それではわたくしもいただくとしましょうか。


「でもさ、この毛が入ってるのだけはちょっといただけないよなぁ……」


「んもぉファズ君! そんな文句言うなら私に寄越しなさいよ!」


「あ! おいそれ俺のぉ!?」


 うーん、料理の腕以前に少し衛生面も考えないといけなさそうです。

 わたくしの方にも課題は多そうですねぇ。


 ……そう考えを巡らせながら二人の騒がしくとも微笑ましい様子を眺める。

 こんな楽しい日々が帰ってきたことが嬉しくって、自然と摘まんだフォークの先がピョコピョコと踊っておりました。


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