星の歌声
星屑を乗せた列車が、漆黒の宇宙を音もなく滑る。
窓の外には、無数の星々が瞬き、遥か彼方には、渦巻く星雲が淡く光を放つ。
まるで高精細なプラネタリウムのようなその光景に、リクは深く息を吐いた。
隣には、月の光に照らされ銀髪を輝かせるルリが寄り添う。
その横顔は、まるで彫刻のように完璧な美しさだった。
リクは、ルリの柔らかな髪に指を絡ませ、遠い記憶の底へと意識を沈めていく。
幼い頃、地球のプラネタリウムで見た星空を思い出す。
それは、本物の星空とは違う、人工的な光の世界だった。
しかし、それでもリクは、その美しさに心を奪われた。
そして今、リクは本物の星空を、それも宇宙空間から眺めている。
それは、プラネタリウムの比ではない、圧倒的な美しさだった。
「ねぇ、リク」
ルリが囁く。
「もうすぐ星祭りの駅に着くって。そこで、特別な歌が聴けるんだって」
リクはゆっくりと目を開け、星屑のように煌めくルリの瞳を見つめる。
「星祭り?」
遠い記憶の底から、その言葉が蘇る。
幼い頃、ルリと一緒に絵本で読んだ星祭りの物語。
それは、星々が年に一度集まり、歌と踊りで新たな星を祝福する、というファンタジーだった。
リクは、それがただの物語だと思っていた。
しかし、今、リクは星祭りが現実にあることを知った。
それは、リクにとって、新たな希望の光だった。
「ああ、そうだ。星の誕生を祝う祭りだ。でも、どうして…?」
ルリは答えの代わりに、リクの胸に顔を埋めた。
「リク、私、あの歌を聴いたら、きっと何かを思い出す気がするの。あなたとの約束を…」
リクの胸に、微かな痛みが走る。
彼もまた、星祭りの歌声に何かを感じていた。
それは、懐かしさと切なさ、そして微かな期待が織りなす、複雑な感情だった。
それは、まるで前世の記憶が呼び起こされるような、不思議な感覚だった。
数時間後、星屑列車は星祭りの駅に到着した。
無数のランタンが夜空を彩り、幻想的な光に包まれたその駅は、まるで夢の世界のようだった。
石畳のプラットホームには、様々な星からやってきた人々が集い、思い思いの衣装を身に纏っている。
地球人、火星人、金星人、そして、リクとルリのような、今はもう存在しない星から来た人々。
彼らは皆、星祭りの歌声を聴くために、この駅に集まったのだ。
市場には、見たこともない果物や光を放つ鉱石が並び、異国情緒あふれる香りが漂っていた。
リクは、地球で食べたことのあるリンゴに似た果物を見つけた。それは、懐かしい味がした。
リクとルリは、人混みをかき分け、駅の中央広場へと向かう。
広場の中央には、巨大な水晶のステージがそびえ立ち、その周りには、古代文字が刻まれた石柱が円を描くように並んでいる。
石柱には、星屑列車の歴史と、星祭りの起源が記されていた。
それは、何千年も前に、宇宙を旅する種族が、星屑の力を使って戦争を終わらせ、平和をもたらしたという伝説だった。
リクは、その伝説を初めて知った。
それは、リクにとって、新たな希望の物語だった。
ステージには、白いドレスを纏った女性が現れる。
彼女の名は、セラ。
星屑列車の歌姫として、人々に愛されている存在だ。
セラはゆっくりと目を開き、星屑でできた竪琴を手に取る。
そして、静かに歌い始めた。
セラの歌声は、天から降り注ぐ光のように広場全体を包み込む。
それは、喜びと悲しみ、愛と憎しみ、生と死、あらゆる感情を表現する魂の歌だった。
人々は、その歌声に心を打たれ、涙を流す。
リクとルリもまた、セラの歌声に涙を流した。
それは、前世の記憶を呼び覚ます、魂の共鳴だった。
二人はかつて、ヴェガという星で夫婦として暮らしていた。
しかし、戦争によって引き裂かれ、それぞれの願いを星に託して命を落としたのだ。
そして今、星屑列車によって再び巡り合い、星祭りの歌声によって、過去の記憶が呼び覚まされたのだった。
二人は、互いの手を握りしめ、涙を流しながら、前世の記憶を語り合った。
ヴェガでの幸せな日々、戦争の悲惨さ、そして、再会を願って星に託した願い。
それは、あまりにも切なく、そして美しい物語だった。
セラの歌声が最高潮に達した時、夜空に無数の流れ星が降り注ぐ。
それは、人々の願いが星屑となって集まり、新たな星を生み出す瞬間だった。
その光は、まるで二人の未来を祝福するかのように、二人の顔を優しく照らす。
リクはルリを抱きしめ、ルリはリクの胸に顔をうずめる。
二人は、言葉はなくとも、互いの心を感じていた。
それは、幾千年の時を超えて再び結ばれた、二人の魂の再会だった。
星祭りが終わり、星屑列車は再び走り出す。
リクとルリは、展望車に戻り、窓の外を流れる景色を眺めていた。
二人の心は、星祭りの歌声と、過去生の記憶で満たされていた。
「リク」
ルリは、リクの手を握りながら言った。
「私、思い出したの。ヴェガで、あなたと見た最後の夕焼け。あの時、あなたは私に言ったわ。『たとえどんなことがあっても、必ずまた巡り会おう』って」
リクは、ルリの言葉に涙を浮かべる。
「僕も思い出したよ、ルリ。君との約束、絶対に忘れないって誓ったんだ」
二人は固く抱き合い、互いの温もりを感じる。
それは、永遠に続く愛の証だった。
星屑列車は、希望を乗せて、夜空をどこまでも走り続ける。
二人の旅は、まだ始まったばかりだ。
喜びも悲しみも分かち合いながら、互いの絆を深め、愛を育んでいく。
そして、いつか、二人は、星屑列車の最後の目的地へと辿り着き、そこで、宇宙の真実に触れることになるだろう。
それは、愛と希望、そして再生の物語。
二人は、過去を乗り越え、未来へと進んでいく。
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