希望の光
冷たい風が頬を刺すように吹き付け、吐く息が白く煙る薄暗いプラットホームに、少年リクは一人佇んでいた。
15歳の誕生日を迎えたばかりのリクは、古びた駅舎の時計を見上げ、ため息をついた。
「もうこんな時間か…」
リクの瞳は、月明かりにぼんやりと浮かび上がる錆びついた線路の先を見つめていた。
どこまでも続く線路は、まるでリクの人生そのものだった。
どこまでも続く孤独と不安。
希望の光が見えない暗闇。
それは、幼い頃に両親を火事で失い、冷たい施設で育った彼の人生を象徴しているようだった。
リクはポケットから一枚の切符を取り出した。
それは、ボロボロに破れ、文字もほとんど判読できないほど古びたものだった。
切符の端には、「星屑列車」という文字がかすかに残っていた。
それは、リクが両親を失った夜、父が握りしめていた切符。
リクにとっては、両親の愛の証であり、唯一の希望だった。
幼い頃、リクは父から「星屑列車」の話を聞かされた。
満天の星空を駆け抜け、乗客一人ひとりの願いを叶えるという、幻の列車。
それは、悲しみで打ちひしがれたリクの心を温かく照らす、希望の物語だった。
「リク、いつか星屑列車に乗って、君の願いを叶えるんだ」
父の優しい声が、リクの胸に蘇る。
「僕の願い…それは、もう二度と一人ぼっちにはなりたくない。誰かと温かい場所を分かち合いたいんだ」
リクは、切符を握りしめながら、心の中で呟いた。
施設での生活は、孤独で冷たいものだった。
誰にも心を開けず、自分の殻に閉じこもる日々。
そんなリクにとって、「星屑列車」は、温かい家庭や優しい笑顔を持つ人々との出会いを約束してくれる、夢のような存在だった。
ある日、リクは施設の図書室で古い本を見つけた。
「星屑列車の伝説」と書かれたその本には、列車の幻想的な絵が描かれていた。
豪華な客車、星屑を散りばめたような車体、そして、暖かな光を灯す窓。
「こんなにも美しい列車が、本当に存在するのか? もし本当なら、きっと僕を孤独から救い出してくれるはずだ」
リクは、その絵に、温かい家庭や優しい笑顔を持つ人々との出会いを重ねて、何度も何度も見つめ、心に刻み込んだ。
そして、15歳の誕生日を迎えた夜、リクは施設を抜け出した。
目指すは、本に書かれていた「星屑列車」の駅。
夜道をひたすら歩き続け、夜が明けると、リクは小さな駅にたどり着いた。
誰もいない、寂れた駅。
ひび割れたプラットホームには雑草が生い茂り、駅舎の窓ガラスは割れていた。
「ここだ…」
リクは、本に書かれていた駅の描写と照らし合わせ、確信した。
ここが「星屑列車」の駅だと。
リクは、プラットホームのベンチに腰を下ろし、列車を待った。
しかし、列車は来ない。
日が暮れ、夜が明け、また日が暮れても。
「もしかしたら、星屑列車は本当に幻なのかもしれない…」
リクは、諦めかけた。
空腹と疲労で足が震え、孤独感に押しつぶされそうになった。
その時、ポケットの中の破れた切符が、月の光に照らされて輝いた。
「諦めるもんか。絶対に諦めない! だって、星屑列車は、僕にとって希望そのものなんだ」
リクは、もう一度立ち上がった。
そして、線路を歩き始めた。
どこまでも続く線路を、ひたすら歩き続けた。
数日後、リクは小さな町にたどり着いた。
そこで、リクは一人の老人に出会った。
老人は、リクの話を聞いて、こう言った。
「星屑列車は、確かに存在する。しかし、それは、誰もが乗れる列車ではない。星屑列車に乗れるのは、希望を失わず、諦めない者だけだ。そして、その切符を本当に必要としている者だけだ」
リクは、老人の言葉に励まされた。
そして、再び歩き始めた。
ある夜、リクは、遠くから汽笛の音を聞いた。
それは、まるで夜空に響く希望の歌のようだった。
リクは、線路に向かって走り出した。
そして、ついに「星屑列車」を見つけた。
漆黒の闇の中を、星屑を散りばめたような車体が、幻想的な光を放ちながらゆっくりと近づいてくる。
列車は、リクの前に静かに止まった。
リクは、破れた切符を手に、列車に乗り込んだ。
車内は、暖かく、優しい光で満たされていた。
豪華な座席、きらびやかなシャンデリア、そして、楽しそうな笑い声。
リクは、夢の中にいるようだった。
列車は、ゆっくりと動き出した。
リクは、窓の外を流れる景色を眺めた。
どこまでも続く線路、満天の星空、そして、夜明け前の空。
それは、リクが今まで見たことのない、美しく、希望に満ちた世界だった。
「星屑列車」は、リクを希望の地へと連れて行ってくれるだろう。
たとえそれが叶わぬ夢だとしても、リクは走り続ける。
希望という名の駅を目指して。
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