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雑魚は世界一を夢見る

 

 いえ〜い!ユーリくんが仲間になったぜ〜!やったぁ!!聞いた感じサポーターらしいから、俺の力を底上げしてくれるようになんのかな?まぁ、現状は雑魚らしいけど。


 はい。そんなこんなで俺たちは今、そこら辺の宿屋で話し合いをしています。ちなみに宿屋に泊まる金はユーリくんに出してもらいました!ありがたいね!


 じゃあさっさと本題に移りますかね。題して【どうにかしてユーリくんをチートにしよう計画】だ!ネーミングセンス終わってるけど、まぁいっか。名前よりも内容の方が重要だからな。


 現状をまとめると、ユーリくんはある日を境に成長が止まったと。そしてサポーターとして頑張ってたけど、周りとの差は広がっていったと。ここまではさっきの話でも分かったことだ。


 ここで大事なのはユーリくんが本当に才能がないのかという点だ。本当に才能がないなら強化アイテムなりをゲットしに行く必要がある。もし才能があるなら、それをどうにかして開花させる方法を見つける。


 個人的にはユーリくんは才能があるパターンだと思うのだ。なぜそう思うのか。それは彼の話を聞いていて違和感を感じた点があったから。『ある日を境に成長が止まった』彼はそう言っていた。


 成長に上限値が定められている可能性もあるが、俺はラノベとかウェブ小説の知識からある可能性を見出した。


 そう【呪い】だ。


 もし、何らかの形で呪いをかけられ、成長を阻害されているとしたら、それを解いてしまえば何とかなるのではなかろうかと。


 もちろん呪いではない可能性もある。一般人である俺にはそこら辺はよく分からないからな。ただそっちの展開の方がありそうな気がした!なんせ追放とかいうベタな展開があるような世界だし。


 ってな訳で成長が止まったあたりで、どこら辺にいたとか。どのダンジョンに行ったのかとかを詳しく聞いてみることにした。



 よぉーし!ユーリくんから聞き出したダンジョンに馬車で2日かけて到着だァ!……やっべぇ、吐きそう。日本と違って道の整備が行き届いてないから揺れが凄まじかった。吐き気でめっちゃ顔が険しくなってるけど、ユーリくんを怖がらせてないか不安。


 っていうか呪いがかけられてる想定で来たけど、なんもなかったらただの骨折り損だよなぁ。教会とか行って解呪してもらう方が良かったのでは?

 ……はぁ、もっと念入りに考えときゃ良かったな。こういうところで計画性のなさが露呈するんだよなぁ。まぁ、なんとかなるっしょ!俺、転生者ですし。


 しっかし、今からこの薄暗い洞窟の中を進んでいくのか。帰りたくなってきたな。でも!俺の安寧のために!ここで逃げる訳にはイカンのだ!!


 覚悟を決めて俺たちは洞窟の中へと侵入していく。ちなみに俺はまともな装備を持ってないので基本的にステルスしながら奥に進んでいくぜ。最悪戦闘になったら全力で逃げる!そのスタンスで行こう。


 ……うっげ。さっそく骸骨が歩き回ってんだけどアレは多分【スケルトン】だな。立派に盾やら剣なんて持っちゃって!俺より装備充実してんじゃねぇか!ムカつく!


 内心焦ってる俺とは対照的にユーリくんは平気そうだ。異世界人って凄いね。俺は骸骨が歩いてるっていう異常光景にまだ慣れそうにないわ。


「倒さないんですか?」


 ユーリくんが小声で俺に話しかけてくる。……何言ってるのかしらこの子。あんなのに接敵したら俺はボコボコにされて肉を剥がれてヤツらと同じ姿にされちゃうでしょうが!安全第一なんだから却下!却下!!


 ユーリくんは戦う気満々だったが、言い訳並べてどうにか納得して貰えた。いやぁー、最近の若者は血気盛んだなぁ。怖い怖い。


 ということでステルス継続。スケルトンがこっちを見ていない内にそそくさと先に進んでいく。

 さすがの俺もなんの考えもなしに、ダンジョンをさまよっているわけじゃない。ちゃんと目的地は決まっている。そう!このダンジョンのボス部屋だ!

 多分、呪いかけたとしたらそのボスだろ。だいたい相場はそう決まってんだよ。


 幸いなことにこのダンジョンは初心者向けで、マップが作られてるからボスまでの最短経路が分かる。

 ……ん?どこからマップを入手したかって?そりゃ、道端で泥酔して寝てた冒険者から金品を盗んで、換金して得た金で買ったんだよ。にしてもあの冒険者の持ち物、大した金になんなかったな。


 まぁ、そんなどうでもいいことはさておき。そろそろボス部屋にたどり着きそうなんだが、ボス部屋の前になんかヤベェやつが待ち構えている。


 俺の目線の先に黒い布を纏った鎌持ち骸骨が浮いてる。うっわぁ……強そっ。

 ……ってかあれがボスじゃないの!?


 ……え?ユーリくんも知らないの?じゃあなんだよアイツ。見るからに「最凶」って感じの雰囲気漂わせてんだけど。……う〜ん、帰るか。さすがにアレと戦ったら死ぬだろ。ワンチャンボスより強そうだし。

 ユーリくんも気圧されてるし、一旦帰ろうと言って、ヤツから一瞬目を離したその瞬間。



 目の前に命を刈り取らんと、鎌を振り下ろす死神が現れた。


 俺は咄嗟の判断でユーリくんを横に押し飛ばし、自身も横に飛ぶことで攻撃を回避した。そして酷く歪んだ笑みを浮かべる死神を凝視する。

 ……嘘だろアイツ。音もなく近寄ってきやがった。さすがに反則だろ!初心者向けダンジョンって肩書きはどこいった!!


 ……どうする。……逃げられそうもないし、戦うしかないが、どうやってこのバカみたいな速度で動く凶悪骸骨に勝つ?


 そんなことを考えている間にもヤツによる追撃の手は止まない。どうやらヤツは俺に狙いを定めたらしい。武器持ってないし、弱そうだからそりゃそうだが。


 鎌による連続攻撃に俺の体はいくつもの切り傷ができる。……ただ何かおかしい。ヤツの速度なら俺は対応できずに首を刎られているはずだ。


 つまりここから導き出されることは、ヤツは俺をいたぶるのを楽しんでいる。弱者を痛めつけ、抵抗虚しく自身に殺される様を見て愉悦に浸りたいといった感じだろう。……性格悪ぃなこの骸骨!



 たが、そこが致命的な隙となりえるな。ヤツは俺を簡単には殺さない。そして俺たちを弱者として見ている故に発生する油断。そこを突くしかない!


 俺は向こう側で震えているユーリに対して目で訴えかける。お前が倒すんだと。武器を持ってない俺がどうにかこうにかしたところでダメージなんて与えられない。だからこそ、お前に託す。


「ゥオオオオオオオオオッッ!!!!!」


 覚悟を決めた俺は雄叫びを上げてヤツに突撃する。逃げ惑うだけの雑魚による突然の反撃にヤツは戸惑い、一瞬の硬直が発生する。


 俺は腕を広げてヤツに抱きつき、捕らえる。俺という重りが加わったことでヤツの機動力は低下し、自由には動けないはずだ。もちろん、俺も何も出来ないが。

 ヤツは俺を必死に引き剥がそうと、何度も殴りつける。鎌による攻撃をしないのはここまで接近されたら振りづらいのと、自身にも当たる可能性があるからだろう。


 ただ魔物による打撃は想像以上に強く、額が割れて顔にヌルリとした血が流れる。背中や頭部に伝わる衝撃と痛みで今にも意識を手放してしまいそうになるが、気合いで耐える。ここで死ぬわけにはいかないからな。


 ……まぁ、どのみち耐えるのはもう終わりだ。


「……俺たちの勝ちだな。」


 ヤツの背後に忍び寄ったユーリの一撃で、ヤツの頭部が粉々に砕け散った。


◆◇◆◇◆◇


 彼と出会ったあとそのまま宿屋へと向かった。そして今後のことについて話し合った。


「じゃあ話そっか。……あっ、そういえば自己紹介してなかったね。俺の名前は……あ〜そうだな。【ヒビキ】だ。よろしく」


「よ、よろしくお願いしますっ」


「そんな緊張しないでもいいよ。俺と君は協力関係なんだから。気楽に行こう」


「わ、分かりました」


 ……やっぱり優しい。こんなに僕と向き合ってくれるなんていつぶりだろう。


「それじゃ、まず君の現状をまとめていこう。君は確かサポーターだったよね。で、成長がある日を境に止まってしまった。それで君は自分の才能の無さを痛感したと」


「……はい」


「だけどね、俺はそこがひっかかったんだよね」


「え?」


「だって変だろ?なんの前触れもなく成長がピタッと止まるなんてことがホントに起きるのか?」


「あっ……」


 ……確かにそうだ。なんで今までそこを疑わなかったんだ。基本的に魔法を使う上で成長にストップがかかるなんてことは滅多にない。常に成長を続けるものだ。


「それでね。俺は1つ仮説を立てた。何者かによって【呪い】が掛けられている」


「の、呪いっ!?」


「まぁ、あくまでも仮説だけどね。それで、君が成長が止まった日のこと覚えているかな?」


 僕はその問いに首を縦に振った。忘れるはずもない。あの日から僕の悲劇は始まったのだから。


「じゃあその日よりも前に攻略したダンジョンとかどこに居たとか教えてよ。ユーリくんが仮に呪いをかけられているなら、呪いをかけたやつを見つけるヒントになるかもだし」


「分かりました!」


 僕は成長が止まった日から前の段階にどの町に居たか、どのダンジョンに挑んだかなどの情報を話した。その結果、1つ怪しげな場所が浮かび上がった。



【骸の迷宮】……初心者向けダンジョンであり、スケルトンが多く出現するダンジョン。

 少し前に僕も仲間と一緒に攻略したところだ。


「よーし。じゃあそこ行くか!とはいえ今日はもう夕暮れ時だし、寝て体調を万全にしてからね」


「は、はい!」


 その後、僕たちは就寝して、後日馬車に乗り、2日ほどかけて目的のダンジョンまでやってきた。


「……」


 馬車から降りた辺りからヒビキさんが凄い険しい顔をしている。何か思うところがあるのだろうか。彼の考えていることなんて、バカな僕にはよく分からない。


「……じ、じゃあ入ろっか」


「あ、あの……装備とかはつけないんですか?」


「…………俺は軽装が合ってるんだよ」


「な、なるほどです!」


 色々準備をしてそのままダンジョンへと入っていく。ヒビキさんが前を歩いて僕が着いていくといった形だ。少し進むとスケルトンがそこら辺を闊歩しているのが見えた。


「……隠れながらスルーするぞ」


 僕はその発言に疑問を抱いた。


「倒さないんですか?」


「あくまでも目標は呪いをかけたヤツを見つけて倒すことだ。それっぽいヤツ以外とは戦闘せず体力を温存した方がいい」


 その発言を聞いて僕は納得する。やっぱりヒビキさんは凄い人だ。常に先を見据えて行動している。


「それじゃ静かに動くよ。お口チャックね」


 僕は指示通り口を閉じて、ゆっくりと音を立てないようにスケルトンたちを避けながら奥に進んでいく。

 そして最奥部に到着した……けど。


 ダンジョンのボスがいる部屋の前に見たこともない魔物が鎮座していた。前に来た時にはあんなのはいなかった。見た目は黒い布を身に着けたスケルトン。だがヤツは宙に浮き、手には身の丈を超えるほどの鎌を持っている。


 そして何より、今まで出会った魔物とは比較にならないほど濃い魔力を放っている。アレと対面してはならないと危険信号が鳴り止まない。


「……ぁ……な、何あれ……っ……」


「……アレやばそうだね。さすがに戦うのはキツイな。」


 あんな奴を目の前にヒビキさんは冷静さを保っている。……僕はなんて情けないのだろうか。おぞましい程の魔力に当てられて先程から震えが止まらない。


「……一旦帰ろっか。あいつの情報調べたり、対策してから次来よう」


 そう言って、ヒビキさんは来た道を振り返った。

 そこには先程反対方向に居た、アイツが鎌を振りおろそうとしていた。


「えっ……」


「くっ!」


 僕は唖然として動けなかった。そんな僕をヒビキさんは押し飛ばす。それによってギリギリで命を拾った。あと数瞬遅れていたら胴体を鎌で切り裂かれていたことだろう。


「…………ッ!」


 すぐに体制を立て直そうとするが、立ち上がる瞬間、ヤツの酷く歪んだ笑みを見てしまい、あまりの恐怖から手に持っていた武器を落としてしまう。


「おいこらっ!こっち向け!!」


 ヒビキさんが声をあげる。するとヤツはヒビキさんへと注意を向け、その鎌で切りかかっていく。ヒビキさんは躱しつつも、体に傷が次々についていく。


 僕はそれをただ見るだけしかできなかった。恐怖により足がすくんでしまった。

 ……ヒビキさんはあんな化け物を相手にして、怖くないのだろうか。


 ……ヒビキさんが僕を見ている。目で力強く僕に何かを訴えかけている。こんな体たらくを見せて、やっぱり無能だと思われているのだろうか。

 ……いや、違う。あの目はきっと……僕にやれってことだ……でもそんなの無理に決まっている。戦ってすらいないのに恐怖でまともに動けずにいる僕にそんなことできるわけが無い……っ。



 …………諦めるのか?……チャンスを手放してまた1人になってもいいのか?……そんなの嫌だ。また1人になるのは嫌だっ!


 ……自分を信じてくれる人がいる。自分に期待してくれる人がいる。その人を助けられずして、何が世界一の冒険者になるだ。


 体の震えは止まらない。恐怖は消えていない。でも、彼の期待に答えたい。僕は覚悟を決めて、武器を手に取った。


「ゥオオオオオオオオオッッ!!!!!」


 その瞬間、ヒビキさんが雄叫びを上げ、ヤツに急接近し、体にしがみついた。それにより、ヤツの意識から僕という存在が消える。

 ヒビキさんが作ったこのチャンス逃す訳には行かない!気づかれないようにヤツの背後にせまり、そして……


 思い切り武器を振るった。


「……俺たちの勝ちだ」


 不意をついた一撃は、ヤツの頭部を粉々に砕き、浮かび上がる体を地に落とした。


「……はぁ……はぁ……っ」


 ……倒した……やった……

 恐怖から解放された安心感で体の力が抜け、パタリと倒れる。息も絶え絶えで今にも気を失いそうだ。そんな僕をヒビキさんが見下ろす。


「……よくやったな」


 その言葉が心に染み渡る。とても温かく充足感のある言葉。ヒビキさんのおかげで僕は世界一の冒険者になる夢に近づけたと思う。能力的な面と精神的な面のどちらとも。

 何となく感じる。新しい自分へと生まれ変わる感覚を。枷を外したかのような解放感。体に魔力が満ち満ちていく。

 多分……呪いの正体はアイツだったのだろう。納得と共に僕は意識を手放した。


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