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目が覚めるとそこは異世界であった

 

 俺は転生した。


 天使にロクな説明も貰えないまま異世界に叩き落とされたのだ。やはりヤツは天使の皮を被った悪魔だったに違いない。

 現在、俺は野原の上で仰向けになっている。

 目が覚めた時にはこうなっていたのだ。

 とりあえず現状を打開するために起き上がり、周囲を見渡したところ街らしきものが見えたのでそこに向かってみることにする。


 歩きながら現在の状況を軽く整理してみよう。

 顔はよく確認できていないが背丈や体つきから見るに容姿の変更はないものだと思われる。

 服は元々スーツを着ていたはずだが、材質の悪い布の服に変わっている。肌触りがかなり悪い。

 金……は当然ない。そもそもあったところでこの世界で使える保証がない。


 そして今一番気になっているのが、能力や魔力の有無だ。先程から「ステータスオープン」や「メニュー」と虚空に向かって叫んでいるが、何も現れない。

 意識を集中させ「ファイア」などとそれっぽく唱えてみるが、何も起こらない。

 要するに、俺は日本にいた頃と何も変わっていない可能性が高い。なんなら1文無しで服のグレードが落ちてる分、弱体化しているといえるだろう。


 どうやらあの天使は俺のことが嫌いらしい、俺も嫌いだ。などと思っていると道端にある草むらから突然、謎の生命体が現れた。


「ぴきゅっ」


 ぷるんとした丸っこい体に綺麗な水色のボディ。恐らくこいつは【スライム】だ。

 多少ここが異世界かどうか疑っていたが、こんな生き物がいるということは異世界で間違いないのだろう。

 せっかくだ。さっきから溜まりに溜まったストレスをコイツをボコボコにすることで発散するとしよう。

 スライムなんて雑魚と相場が決まってるんだ、一撃で粉砕してやるぜぇ!

 体の真ん中にある赤い石のようなものが弱点っぽいのでそこ目掛けて助走をつけながら一気に蹴りを叩き込もうとする。


「ぴぎぃ!!」


 スライムは危機を感じたようで、迎撃するためにこちらにバレーボールサイズの水の球をぶつけてくる。

 本来避けるべきであるが、最弱の魔物の一撃なんてどうせしょうもないと思い、防御せずにそのまま突っ込み、水の球と接触する。


 次の瞬間、俺は凄まじい勢いで後ろに吹っ飛ばされた。


 …………一体何が起きた?腹部に思いきり殴られたかのような衝撃と痛みが襲ってくる。

 想定外の状況に混乱しそうになるが、冷静さを保つことに集中する。幸い骨折した訳ではないので、まだ動くことはできる。

 ズキズキと痛む腹部を抑えながら立ち上がり、スライムへと目を向ける。顔が無いから表情は分からないが、ぴょんぴょんと跳ねている様子から喜んでいるのがわかる。


 なんだアイツめちゃくちゃムカつく!スライムの癖に生意気だぞ!……とはいえ、どうやって戦えばいいのだろうか。

 近づくとまたあの水の球に吹っ飛ばされるから、遠距離から攻撃するのが有効だろう。


 投擲物を探しに周囲を見渡すと、地面に手のひらサイズの石がゴロゴロ転がっていたので手に取り、思いっきりぶん投げる。

 さすがに軌道が丸わかりなので簡単に避けられてしまうが、石はまだまだあるのだ。

 コントロール?作戦?そんなのは一流の考えること。

 3流はとにかく数打って当てる!それしかない!俺はこんなやつに負ける訳にはいかんのダァアア!!!!




 はぁ……はぁ……勝った……っ!!俺はやったぞぉおお!!!

 息を荒げながら、勝ち誇るようにガッツポーズを決める。

 石を投げること約50回前後。さすがに肩が悲鳴を上げていたが、なんとか命中し、無事に核を破壊した。

 というわけでスライム相手に辛勝したわけだが、この先不安でしかない。

 だってどう考えてもあのスライムが強いようには思えない。絶対にもっと強い生物が存在するはずだ。

 それに遭遇したら俺は100%死んでしまうだろう。

 ……密かに目標に掲げていた冒険者の道は早速閉ざされたかもしれんな。


 とりあえず街に向かおう。武器を揃えればどうにかなるかもしれない。とりあえずその可能性に賭けてみよう。


 俺は重たい足取りで再び街へと向かっていく。


 しばらく歩いて街の検問所まで辿り着いた。日本語が使えない可能性もあったが無事に通じたようで内心ホッとした。だがしかし、どうやらお金を払わないと中に入れないようだ。

 もちろん俺はお金を持っていないので盗賊に襲われて金品を持ってかれたことにして同情を誘う。

 優しい門番だったようで、俺の嘘に騙され、今回だけ特別に入れてもらえることになった。

 事前に欠伸をして涙を演出したのが決め手だったに違いない。


 街の中は活気に溢れており、人の声が絶えない。露店がいくつも並んでおり、商売が盛んであるのが見て取れる。

 露店には古着や雑貨、日用品など様々な物品が売られており、中でも食料はさっきから歩きっぱなしでお腹が空いてる分、魅力的に見えてしまう。

 ただ、先程も確認したように俺には金がないので悔し涙を流しながら、その場から去った。…………肉食べたかったなぁ…………



 …………まずい、このままだと餓死してしまう。というか金がないので宿屋に泊まることすら出来ない。少なくとも今日は野宿確定だ。本来なら日本の自宅で美味しい飯にありつけて、ふかふかのベッドで寝ていられたはずなのに……


 ……ないものねだりしても何も始まらない。とにかく今は金になる仕事を探す必要がある、どこかで雇って貰えないだろうか。

 職を求めてフラフラと街の中をさまよっていると、一際賑やかな声が響く建物があった。見た感じ酒場っぽいな。……頼み込めばここで働かせて貰えるかもしれない。そんな淡い期待を抱えながら酒場に入ろうとすると、男の怒鳴り声が聞こえた。


「お前は俺たちのパーティーにはいらねぇんだよ!!さっさと出ていけ無能!!!」


 苛立ちと不満が詰まったような声が外に漏れ出す。酒場の前で静かに耳を傾けていると、いきなり酒場の扉が勢いよく開き、気弱そうな男の子が目に涙を浮かべながら、どこかへ走り去っていった。

 ……状況から推察するに恐らく彼はパーティーから追い出されてしまったのだろう。

 ということは彼はラノベとかウェブ小説でよく見かける追放モノの主人公にでもなるんだろうか。羨ましい限りだ。

 ……とはいえ俺には関係ない話……



 ……いや、本当にそうか?この世界を生き抜く上で大事なのは……主人公格を味方につけることなんじゃないか?こういうの定番だとこの後、実はチートスキルを持っていることが発覚して無双していくというのをよく見る。

 ならその恩恵にあやかるべきなんじゃないか?……追放された直後に初めてなった味方というポジションに滑り込むのがベストなんじゃないか?


 この考えに至った時には既に彼が行った方向へ向かって走り出していた。急がないと彼はハーレムを形成し、俺が入る隙が無くなってしまう!……それだけは阻止する。絶対に他のやつに取らせはしない。俺の安寧と異世界でのワクワクを両立するために!!


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