プロローグ的なもの
君たちは異世界における「追放」というものをご存知だろうか。
簡単に言えば、所属しているグループから異分子を排除する行為だ。
近頃の創作物では「弱いから」「役立たずだから」「気に食わないから」「立場的に問題がある」など、様々な理由で追放されるキャラクターがよく登場する。
そして追放された彼らが仲間を見返すためにハーレムを築き、最強になって大活躍する――そんな展開を、君たちもどこかで見たことがあるだろう。
さて、少し話を変えよう。つい先程、哀れにもトラックに跳ねられて死んだ男がいた。
だが彼の死には、とある事情が隠されている。なんと、天使の手違いで命を奪われてしまったらしいのだ。
気の毒な話だと思わないか?命を奪われた彼は謝罪だけで済むはずがない。
このような不始末を犯した天使は、それ相応の責任を取るべきだ。
――察しのいい君たちなら、もう分かるだろう?
そう、彼には異世界に転生するチャンスが与えられたのだ。
これから語られるのは、そんな彼の物語である。追放?――それがどう関わるのかは、続きを読めば分かるはずさ。
それでは、お話のはじまりはじまり――
◆◇◆◇◆◇
━━はいはい皆さん、こんにちわ。
俺の名前は三雲響。ついさっきまで立派な社会人してたんだけどね、なんか通勤中に車に撥ねられたらしいんだ。
まぁ、よくある事故だし、運が悪かったって話で片付けてもよかった。だが、次に目を開けたとき、俺の目の前では一人の女の子が土下座していた。
正直、状況が飲み込めないまま、「なんでそんなことしてるの?」と尋ねた。すると――
「大変申し訳ございません!私の不手際であなたを殺してしまいました!!!」
彼女の声は謝罪で震えていた。どうやらこの子は天使らしい。話を聞くと、上司である神様からブラック企業の社員並みに働かされ、過労で意識が混濁した結果、俺の名前を死者のリストに書き込んだとか。
……つまり、俺は手違いで殺されたわけだ。
謝罪に次ぐ謝罪をする彼女。普通の男なら、ここで寛大な心を見せる場面なのかもしれない。
「仕方ないね」「大変だったんだね」――そんな温かい言葉をかけるべきだ。はい、せーの――
「ふざけてんのかぁぁぁあアアアッ!!」
「頭踏みつけないでくださいぃ!ごめんなさい!ごめんなさい!!!」
「人の人生勝手に終わらせて謝罪で済むなら警察いらねぇんだよ!お前何やってんだぁああああ!!」
大人といえど限度がある。死を手違いでプレゼントされた俺は、さすがに限界だった。
目の前の天使――いや、もはや堕天使の頭を足で踏みつけ、全力で怒りをぶつけている。
しかし、そんな憂さ晴らしをしたところで現状は何も変わらない。
俺は死んだ。これは揺るぎない事実だ。この後どうなるかは目の前の天使に聞くしかない。
「……チッ。それで?この後どうなんの?そっちの不手際だから生き返れたりすんの?」
「い、いや、その……1度死んだものは生き返らないのが世界のルールなのでっ!」
冷たく呟く俺を前に、天使は縮こまりながらも反論してくる。その1度しかない命を奪った自覚をもう少し持って欲しい。
「うんうん、確かにね。人って生き返らないもんね。でもさぁ、それだと納得できないんだわ。俺を殺した責任……取ってくれるかな?」
「せ、責任ですか!?……え、エッチなのはよくないですよっ!///」
「あ"ぁ?俺を殺したヤツに欲情なんてするかっ!この色欲まみれの堕天使がっ!」
「ひぃっ!ごめんなさい!」
――はぁ、こんな奴に俺の人生は壊されたのか。
俺は大きくため息をつき、今までの人生を振り返る。
最近、そこそこの給料が出る会社に就職出来たんだよな。
上司や同僚にも恵まれて、可愛い同期の女の子とも仲良くなったのに……俺の人生ここからだったのに……
「……もういいよ。とりあえずどんな形でも良いから、俺が納得できるものを提示して。それが出来たら俺も甘んじて受け入れるから」
さすがにこれ以上うだうだ言ってもどうにもならなさそうだしな。なら貰えるもんを根こそぎ貰う。
「……そ、それなら転生はどうでしょうか!」
「……転生?」
その言葉に、俺の興味は一気に引き寄せられる。転生といえば、異世界で無双する系の定番だ。
目の前の天使はそこそこ男心を理解しているらしい。剣と魔法の世界で無双してみたい――そんな願望は少年なら誰だって抱くもんだ。
「はい!転生先は犬なんて可愛くてオススメ……イデデッ!?」
踵の方に更に力を込める。
前言撤回。目の前の天使は男心というものを全くと言っていいほど理解してないらしい。死んで犬になれとは、余程人間を舐め腐っているようだ。
「違ぇだろうがよ……こういうのは異世界に転生させるのがテンプレだろうが。ちゃんと今の人間界を勉強してこい!」
「す、すみません……と、ともかく、異世界に行きたいと仰られるなら、この私にお任せ下さい!早速転生の準備に取り掛かります!」
「うんうん……ん?どういう世界とかの説明は?特典は?」
俺の言葉を無視しながら目の前の少女は、チョークで床に魔法陣のようなものをスラスラと書き込んでいく。
「準備完了です!それじゃあ2度目の生を楽しんでください!!」
「おい、クソっ!?待っ……!」
急いで止めようとしたが時すでに遅し、突如目の前が光で包まれ、俺の意識が刈り取られていく。
気絶する間際、俺は天使に向かって中指を立て、誓いを立てた。
――次会ったら粉々にしてやる、と。
この作品が面白いと感じていただけたら【いいね】、【ブックマーク】【★評価】を押していただけると励みになります