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94.有能な者は他国も欲しい

みんなでリビングに戻ると、待ってましたとハンナとブライアン、バーネットに外に連れ出された。もちろんジェイクも一緒だ。


約束していた毛刈りの時間。

あんなに色々あったのに、まだ食後四十分程度しか経過していなかったのが恐ろしい


ボビーは、倉庫から昨日使ったリヤカーとワタが入っていた箱を五つ乗せて引っ張り出し、ジェイクに託す。


ジェイクは、昨日は無理やり魔力接続をさせ、今日は怖い思いをさせてしまったことを反省している。

少しでもルークに楽をさせてやろうと、片手にガゼボの予備クッションとルークを抱き上げて、そのリヤカーの後ろにクッションを置き、その上にルークを座らせた。

座らせたルークに、キースから渡された鑑定盤を持たせる。


「ルークといたら必要になるから。」


だそうだ。


ルークの足がぶらついて車輪に引っかかると危ないので、スキルを使ってその場で足置き場を付けた。


「おぉ!早業!ありがとうじいちゃん!」


バーネットが綿花の種の入った小さな箱を荷台から持ってきたので、それをルークの後ろに置く。


準備は万端かな?いざ出発!

となった時、ブライアンとバーネットは、


「最初で最後の商人の仕事だと思って、私たちのためにガッツリ稼ぎなさい!歩合で最後の給料をあげるわ!」「ほんとほんと!」


とボビーさんを励ましていた。

ボビーさんはこれから即席店舗を開くことになっている。

その話を耳にした御者の二人も、旅商人の品は珍しい物が多いので、是非一緒に見させてください!と参加を表明。

よって商人一人で客六人を相手する、対面販売をするのだ。


今まで人嫌いの人間不信。

商売でほとんど顔を出すことのなかったボビーがどこまでできるのか。脱皮した今なら頑張れるだろうか。頑張って欲しい。頑張れ!ボビーならできる!


「予約も取れるだけ取っておくよ!」


と力強い返事が返ってきたのを聞いて、じゃあと手を振り、前を向くブライアンさんとバーネットさんは、少し涙ぐんでいた。



そんな二人をそっとしておこうと、ハンナは持っていた大きめなカゴをリヤカーに乗せて、ルークの隣に座った。


「おい、ハンナまで座るのか?」


「だって、このクッション、気持ち良いじゃない?」


そんなやりとりの中、出発!


「確かにそのクッションはめちゃくちゃ気持ちがいい。どこで手に入れたんだっけ?」


ジェイクは楽々リヤカーを引いていく。

指一本でもオッケーなのだ。

ボビーの軽量化『ライト』のスキルは本当に素晴らしい。今まで知られていなかったことが、残念でならない。馬車の車体を軽量化したら、馬がどれほど楽できるだろうか。耐久性の問題さえクリアできたら、どれだけ乗せても大丈夫そうだ。リュックやカバンを軽量化したら、絶対よろこばれるだろう。


「バーネットたちに頼んで仕入れてもらったのよ。良いわよね、コレ、へたりにくいからマットレスに良いんじゃないかと思って、昨日あの子たちの部屋のマットレスを、それにしてみたわ。」


「え?ハンナ、スキルで作れたの?」


「そうなのよ!バーネット!マットレスなんて作ったことなんかないし、マットレス以外でもスキルなんて使ったこともなかったから、自信はなかったのよ。ほんと申し訳ないけど新人の子達のマットレスを実験台にさせてもらったってわけ。嫌なら自分たちで買い換えるでしょ?最初からマットレス付きのベッドが用意されてるなんてありえないもの。」


ベット自体、本来自分で準備しなければならないもののひとつだ。

今回は肌掛けまでサービスしてしまった。


「そんないきなりで作れるなんて…。いいえ。そうね。私も昨日いきなり『衣類作成』なんてできちゃったもの。あるわよね?ありえるわよね?」


「あり得るあり得る。」


「で、そのクッションの中身よ。作れたのね?」


「え?ええ。どうしたの?」


バーネットさんは真面目な顔になって、リヤカーに乗ったハンナの横に近寄った。


「お願い!私とブライアン用に細長い馬車用のマットレス作ってくれない?」


両手を合わせて願い始めるバーネット。


「もちろんいいわよ。でも、バーネットも作れそうだけど。」


「いいえ。私は全く作れる気がしないのよ。服の専門家だからなのかしら?」


「確かに。私もバーネットみたいな服を作れる自信はないわ。でもワタの準備がないじゃない?」


「あぁ…そうだったわ」


あからさまにがっかりするバーネットさんとブライアンさん。


おぉ。ブライアンさんまで。そんなにこのクッションで出来たマットレスが欲しいのか。


リヤカーを引いていたジェイクは、


「なら、今日の毛刈りした羊毛で、ブライアンに作って貰えば良いだろう?ワタ。」


「あら!そうよ!そうしましょう!」


「良いのですか?こちらで取れる羊毛は昨日卸したようなワタとは、質が違いすぎますよ?」


ブライアンさんは、遠慮がちに言う。


「そうなのか?じゃあ色々相殺してくれ。勘定と計算はそちらに任せるから。それに、質の良い羊毛で作った方が、マットレスの質も上がるだろう?」


ジェイクはいつものように笑う。


「では、有り難くそうさせていただきます。」


「ねぇ、バーネット、いつも使ってる馬車用の折りたたみのマットレスものはどうしたの?」


「あぁ、少し前にへたってきてしまったから、狙っていたそのクッションを作ってる工房に買いに行ったのよ。人気の工房だし、多少待ってでも、欲しくって。」


その工房で作るクッションは、なかなかへたらないうえ、座り心地、寝心地が良いと人気が高く、四角いクッション、縦長のクッション、馬車用マットレス、室内用マットレス、座席用に至るまで、あらゆる形の物を作っていたらしい。


縦長のクッションというのが、今ハンナとルークが尻の下に敷いているものだ。


バーネットさんたちも仕入れた時に、御者席用に一つ、縦長のクッションを購入して使ってみたところ…旅商人、最大の天敵である腰痛が激減したのだそうだ。

出来れば避けたい御者。取り入れてからは、そこに座りたいがために奪い合うほどに。


コレは素晴らしいものだから、次回その街に寄ったら、マットレスを一新しよう!と決めていたらしい。


「そしたら、他の国で商売を始めた?とかでいなくなっちゃってたのよ!」


「あぁ、手に入らなくなっちゃったのね?」


「そうなの。どこの国に行ったか、不思議と誰も知らなくて。辿ろうにも辿れず。周囲の取引していた商人も、街の人もそりゃもうがっかりよ。」


それは、落胆しただろうなぁ。


「バロニィ王国でーす。」


新生タマちゃんが突然話しかけてきた。

そう言えばどこにいるのか辺りを見渡すと、頭の上の方でフヨフヨ浮かびながら着いて来ていた。


なんでそこ?しかも、まだフヨフヨ飛び。


「太陽さんに近いとー、みーんなからは見えにくいでーす。」


身バレ防止ってことね?

でも、ここにいる人たちは大丈夫でしょ?


「でーす!」


そうでしたー。という感じで、タマちゃんは嬉しそうに勾玉を回しながら旋回してルークの頭の上に乗って、腹を押しつけ手足を頭に貼り付けた。


「で、バロニィ王国って?」


「「「「え?バロニィ王国!?」」」」


タマちゃんと会話するのに、声に出したルーク。その口から出た王国名に大人たちが驚いた。


「え?バロニィ王国に何かあるの?」


ブライアンとバーネットは、眉を下げて顔を見合わせたあと、真面目な顔で、


「ルークさん、その王国には旅商人の入り込みはもちろん、民の流入流出を頑なに拒み続けている謎の王国と言われています。他国の要人であろうとも招き入れられない限り入国はできないのです。」


ブライアンさんが真面目な顔をして話してくれたからか、みんなの雰囲気がピリッとしたからか、少しその国の怖さみたいなものを感じた。


「そうなんですか…なんか不気味な感じですね。」


「ルークはバロニィ王国なんてどこで知ったの?タマちゃん?」


「うん。タマちゃんが突然会話に入って来たから、オウム返ししただけなんだけど。」


「ということは、その工房の行った他国っていうのがバロニィ王国ってことなの?」


驚いたハンナが微妙な顔をする。


「でーすでーす!」


「そうだって。なんで知ってるの?タマちゃん。」


新生タマちゃんはルークの視界を遮るように顔を下げて目を合わせてくる。


「精霊ネットワークがありまーす。精霊が見ていた事は、共有されまーすでーす。」


なにそれ、恐ろし。

ダダ漏れサトラレどころじゃないじゃん。

んで、前が見えない!


「怖くなーいでーす!精霊王とルークは、知りたい事ー全部知らなきゃになりまーすからー。」


は?何それどう言う事!?なんで俺??


タマちゃんは、しまった。と言う顔をして、空に浮かんで行ってしまった。


精霊さんたちの、この、

言っちゃった。どうしよう。

消えておこうかな?

の行動、どうにかならないもんかな。


でも、新生タマちゃん、表情が少しだけだけど、豊かになったなぁ。


「どうなんだ?ルーク。」


タマちゃんに言われた事、全部を伝えても、俺自身も訳がわかっていない。そんな事を伝えたら、みんなを混乱の渦に巻き込むだけだ。なら、


「正解みたいだよ。あとは知らないみたい。」


上を見るとタマちゃんは旋回を続けていた。

聞こえていたはずのジェイクは何も言わなかった。




「おーい!毛刈りをするぞー」


羊たちがよく目撃されている場所までやってきて、ブライアンさんがそう叫ぶと、羊たちは待ってましたと言わんばかりにその重たい羊毛を携えて、えっちらおっちらと走り寄ってくる。


遠くにいた羊たちもかけてきているようだ。


ブライアンの元に次々と集まってくる羊たち。しばらく待つと、ブライアンの前には、二列で綺麗に並ぶ羊たちが揃っていた。

後ろの羊たちが見えない。一体何頭の羊が、並んでいるのか。


「二頭ずつ毛刈りをしていくんですか?」


「そうです。しかし壮観ですよねぇ。」


うーん。これ、スキルを二頭ずつ使っていって、最後まで魔力は持つのだろうか。


ルークはそばにいるジェイクに耳打ちする。


「うーん。ギリギリか?確かブライアンの魔力操作はDだったし、羊たちの数がなんだかとっても多い気がする。いや、ちょっと待てよ?まだ来るのか?どうなってる?」


緩やかな坂道の先まで羊が並んでいるのが見える。まだ集合出来ていない子達もいる。


「いや、ダメだな。いくらなんでもこの数は無謀だ。」


ルークは肘を曲げてジェイクに開いた右手を見せる。


「良いかなぁ?」


ぶっ!


ジェイクは吹き出し笑ってしまう。


「良いなそれ。説明無しでやってやれ!」


「うん。この数の羊毛の保存って大変そうだよね。嵩張っちゃって。」


「そうだな。後で頑張ってあの箱に詰めような。」


リヤカーで持ってきた箱は羊毛を詰めるためのものだったのかぁ。

でも、あの五個で足りるの?

フワフワで入りにくそうだし。


二人は連れ立ってブライアンさんの背後に立つと、ブライアンの背中にいた羊精霊さんが背中から降りて場所を譲ってくれた。こちらを見てベーと鳴いたので、よろしくな。という意味であると受け取った。


「ルークは毛刈りを初めて見るから特等席で見せたいんだが、良いかな?」


とブライアンさんに告げ、ブライアンさんの背後をしっかり確保した。


「今日はとても数が多いですが、なんだかできる気がしています。では、いきます!」


の声でルークの右手はブライアンさんの背中に置かれた。


「『毛刈り・圧縮』」


「「「は?」」」


聞いたことのないスキルに、バーネットとジェイク、ハンナは声が出てしまう。


そろそろ慣れて欲しいなぁ。俺は新しいスキルを与えることができるみたいなんだし。


ルークはそんなことを考えながら、自分から抜けた魔力がブライアンを通じて羊たちに広がっていくのを、楽しい気持ちで感じていた。


光に包まれたのは、半分程度の羊だ。

明るく開けた場所のため、みんなにこの魔力の光は見えない。

広がった魔力の光が収束すると、全身カットされ、スッキリした羊たちが広がっている。

普段はなかなかカットができない顔周りまでスッキリだ。


刈られた羊毛は、圧縮されたブロック状で、この近くと向こうの方に現れた。


「へぇ。こんな感じになるのかー。」


ルークは手前に現れた、ブロック状になった羊毛のそばまで、みんなを置いて歩いていき、触ってみる。サラサラとして、ゴミが一切見当たらない。かなり近寄っているのに、お日様の匂いがした。


「うわぁ!カッチカチだよ!これ持ち上がるかなぁ?」


少し押してみてもびくともしない。

両手で体重をかけてみてもダメだった。



「やはり五歳の限界か。」


「大人なーら、二人でギリギリ大丈夫でーす!」


タマちゃんがどこからか話しかけてくる。


そうなんだ。ここにはジェイクじいちゃんとブライアンさんがいるもんね。ならいっか。



みんなの方へ振り向くとガニ股で驚いたままの四人の前を、一頭一頭ベーと挨拶をして帰っていくのが見えた。

羊たちは皆一様にスッキリ顔、口角が上がっているので、喜んでいるように見えた。


「大丈夫ー?驚きすぎじゃない?特にジェイクじいちゃんとハンナばあちゃんは。何度も経験してるでしょ!」


順番がやってきたと、坂道の下の方から重たい羊毛を着たままの羊たちがワラワラとやってきている。呆けている場合ではないのだ。


「ブライアンさん!羊が待ってますよ。やっちゃいましょ?」


「はっ!え、えぇ。えぇっ!!いや、いや、失礼しました。…ええっ!!はい!やりましょう!!」


何度も落ち着かせようとして失敗していたブライアンさんも、もっこもこの羊たちを見て半分我に返れたようだ。半分は夢現か。


「で、ではいきます!『毛刈り・圧縮』」


二度目は魔力接続しないでやってもらった。一回目との変化を見たかったから。


羊精霊さんが、しっかり背中にへばりついているので問題ないだろう。困ってる態度もしてないし。


ジェイクはルークの右手がブライアンの背中に置かれていないことに気がついて少し慌てたが、

ルークの表情が晴れやかだったので、問題ないと判断した。


ルークは目を閉じて、ブライアンさんから充分な量の魔力が羊に向けて発せられているのを感じていた。


いつからか、魔力の流れを感じられるようになったなぁ。操作Gは、これとは関係なさそうなのが泣けてくるよ。


あれ?聞き流してしまったけど、さっきブライアンは、「今日はとても数が多いですが、なんだかできる気がしています。」と言ってなかった…?


あぁ!忘れてた!!昨夜半分寝たような状態でみんなの鑑定をしていたっけ。

ブライアンさんの魔力操作はD→Bになって魔力詰まりが解消されてたんだー!あー?


考え事をしている間に、残ったすべての羊たちが、


スッキリしたよーありがとうべー


とでも言っているように鳴いて帰りはじめていた。


こりゃ、またスキルが増えたかな?

なんとなくだけど、魔力操作が上がるとそれに伴いスキルも増えていく気がする。

早く鑑定してみたい!


周囲を見渡すと、ブライアンさんの二回のスキル使用で、すべての羊の毛刈りを終え帰っていく羊の遠い背中と、点在している羊毛ブロック合計四つ。


この、大人二人かがりでギリギリ持ち上げられる重さのブロックが四つ。ボビーさんの軽量化の『ライト』のスキルを使ったリヤカーが無かったら、人間では運べなかっただろう。馬車で来なくちゃいけなくなるとこだった。後でボビーさんにお礼を言わなければ。


そして、呆けていた大人たちは、なんとか復活の兆しが見え始めていた。

ルークはジェイクの使う予定の『成長』スキルを早く見たいので、ジェイクとブライアンさんに声をかけて、羊毛ブロックの収集に向かう。


「じいちゃん!ブライアンさん!羊毛ブロックかなり重くて俺では運べません!リヤカーは俺が引くので、積んでいって下さーい!」


サクッと指示を出してリヤカーの元へ。

リヤカーに乗せた綿花の箱、クッション、鑑定盤、大きなカゴをハンナばあちゃんの足元は置き、羊毛を入れる予定だった箱を積んだまま、リヤカーを引いて羊毛ブロックの元へ。


「ほら!早く乗せて下さーい!」


と叫べば、ジェイクとブライアンは急いでやってきて、二人がかりでヒーヒー言いながら箱に納めた。箱一つに羊毛ブロック一つがシンデレラフィットで仕舞うことができた。


「こ、この羊毛ブロックには、羊についたゴミや汚れが一切ない。脂っぽい匂いも一切ない。こんなツヤツヤな状態なら、洗浄、乾燥、洗浄、乾燥の手間が一切なく、このまま解除して売ることができますよ!!」


ブライアンさんが喜び始めた。

そのスキルはブライアンさんのものですよ。

大切に使ってくださいね。


と心で思ったら、ブライアンさんの背中の羊精霊が嫌そうな顔でベート鳴いた。


上から目線で語るなって?


べー。


悪かったよ。ごめんね。


べー。


そんなやりとりをしながら、次のブロックへ移動し、また箱に羊毛ブロックをしまっていく。

四つ目のブロックな持ち上げられたとき、その裏から前にルークか が触らせてもらったあの羊精霊と思う精霊が立っていた。


「あ、こんにちは!えっと、前にお会いしたかな?」


と声をかけると


「モッフモッフ出来ない。残念?」


と少し寂しそうに聞いてきた。やはりあの精霊さんのようだ。

さっきブライアンさんがここの羊の毛刈りをしたからなのか、この羊精霊さんもスッキリしていて見違える。


「うん。残念だけど、でも撫でさせて貰えるかな?」


「!! フワフワする?」


「うん。する!」


少し照れ顔の羊精霊さんのスッキリした身体を撫で回す。前回と違って全然感触が違うし、この羊毛カットされた表面で風が流れているのだ。涼しそう。


モッフモッフも良いけれど、この毛刈り後の皮膚の感じも良い。毛がなくなってしまったので、怪我には気をつけてね?


「フッワフワ〜」


喜んで帰っていく。やっぱり浮いて移動しているようだ。羊の精霊さんは属性が風で決定です!


羊の精霊さんに手を振っていると、横からギンギンの視線を感じた。何事かと思ってそちらを見ると、ブライアンさんの背中に張り付いている巨大な羊精霊だ。


え?なに?何があった?


目を見開き、瞳孔を横長にしたまま、凝視される。


な、なんなの?


べー。


いや、わかんないし。


ベーベー。


抗議されてるのだけは何と無くわかるけれど、される意味が全く判らない。

ごめんよ。


そんな寄り道をしつつ、すべての羊毛を箱にいれたら、一つ箱が余ってしまった。


「あの羊の数の羊毛が、この箱に全て収まるなんて…。」


「だな。いつもの倍はいた。箱が足りないと思ったが余るとは…。」


と、圧縮の凄さに目を回していた。


「でも、余ったおかげで、綿花の収穫まで出来ちゃうんじゃない?」


「ルーク!それ良いわね!あ、でもジェイクはいつもそこまではやらないわよね?」


「いや、今日はせっかくだから、最後のタネになるところまでやってみるよ。」 


いつのまにか復活していたハンナとジェイクが

そういうので、ますます楽しみになった。


前回の枇杷の子供の時同様、今回も花が咲くところまでで終わりかと思っていたからだ。


「それなら借りた分の種が返せるね!」


「まぁ!ルークったら!」


大人が笑う。なぜ笑われているのか解らない。微妙だ。もしかして買い取りだった?借りてたんじゃなくて?


「どこにタネを撒くの?」


「この少し先の養蜂場の手前に使っていない空き地があるから、そこにしようと思う。それで良いかい?ハンナ。」


「ええ。じゃあそこで一休みしましょうか。」


ハンナはリヤカーにタネの箱、クッション、鑑定盤、大きなカゴを乗せ、バーネットを座らせ、ルークを抱き寄せ膝の上に乗せてリヤカーの後ろに座った。


「どう?重さは感じる?」


ハンナがリヤカーを引いてくれているジェイクに尋ねる。


「それが全く。末恐ろしいな。この軽量化のスキルは。上手いことやらないと、国で奪い合いになるぞ。」


それを聞いたブライアンとバーネットは、震え上がった。


「ひ、広げたいと思っていたんですが、まだしない方が良いと言うことですよね?」


バーネットがジェイクに尋ねる。


「そうだな。キースが王様に伝えてると思うから、そのお達しが出るまでは内緒の方が良いかもしれないな。」


ルークだって狙われたのだ。有益で知られていないスキル持ちだったら、狙われないわけがない。ラグラーに捕まってしまった少女も何か特別なスキル持ちだったのかもしれないのだ。


「わ、分かりました!絶対誰にも言いません!!」


固く誓うブライアンとバーネット。


しばらくはそうした方良いだろう。

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