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80.属性を表示できたら良いのにね

ボビーはグッと悲しみと悔しさを混ぜた顔をほんの一瞬、下を向いた時だけにした。

顔を上げると元の表情に戻していたので気が付かない人が大半だろう。


その隠された小さな表情の変化に気がついたルーク。


ボビーさんは五歳のクソガキに悲しい過去を指摘されたのに、大人の対応が出来るなんて流石だな。と“納得“した。


ボビーさんはホテルマンだったのだろう。


そう何故か納得できた一瞬だった。

前世の世界のホテルマンは、立ち居振る舞いは美しく、悔しい時も悲しい時も、常にマナーを守ってニコニコしていなければならないと聞いたことがある。


しかし、ボビーさんはそれだけではなさそうだとも感じている。

なんだろう?もっと上の立場な気がするんだよなぁ。


それはともかく、ボビーが持っているスキルはライトと加工。

スキルの属性が光なのに火であると勘違いされ続けている『ライト』に加え、『加工』のスキルは八属性のうち五属性に存在する。

トラウマが出来てしまうはずのコンビネーションなのだ。


「そうか。ボビーは『ライト』のスキル持ちか。それは大変だったなぁ。」


ボビーの両親であるブライアンとバーネットは少しだけ悲しい顔をしていた。


マーモット精霊は更にぎゅうと抱きついている。

これは、なかなかの過去がありそうだ。


「ところでバーネットさんの鑑定はしたの?」


「あぁ、見るか?」


---

バーネット 68歳 王宮御用達サロン職人

スキル:縫製

    ドレスメーカー

魔力量B↑

魔力操作B

---


「うんうん。魔力量がアップしてるね。」


このまま使い込んでいったら『生成』スキルになりそうだな。他のスキルも増える気がする。


「本人は喜んでたぞ。」


それは何より。でもこれくらいの変化なら、ルーク的には問題ない。とりあえず、魔力接続で変化があることだけ確認出来たので、次はボビーだ。


「ジェイクじいちゃん、キースじいちゃん、ボビーさんには俺が伝えても良い?」


「ルークが適任だろ?」


家族もみんな頷いてくれたので、説明をすることにした。



「ボビーさんはこの星には属性というものが幾つ存在すると思いますか?」


「はい。属性は、光、火、土、風、水、草の六つでしょうか。」


ブライアンさんとバーネットさんも頷いている。


この国の旅商人の意見は貴重だ。あちこちに旅しているため、たくさんの情報に触れ続けるため、

総合的な意見を持っている。

とされるのだ。


となると、一般市民の認識として、属性は六つなのか。知らなかった。

まぁ、氷はなかなか出てこないか。水派生の特化型だと言っても問題なさそうだしね。


「これは昨日知ったばかりのことなので、確認が取れ次第、王様からお知らせがくるかと思います。」


ちらりとキースを見る。頷いているので、既に連絡したようだ。


「属性は八つ。水、風、植物、火、氷、大地、生命、光です。」


「「「八つ?」」」


商人さんたちは驚いているようだ。そりゃそうだ。昨日聞いた俺たちだってびっくりしたんだもん。特に驚くのは生命か。


「草と思っていた属性は植物、土と思っていた属性は大地となります。そして、同じ属性でも特化型という派生した属性が確認出来ています。」


そこでキースが手を挙げて発言する。


「みんなも知っての通り。俺の属性は土、つまり大地だという事が判明した。最初のスキルは加工だったが、属性の特定が困難なスキルなので、ボビー同様に苦労した。水系、風系、草系、あぁ、植物だとわかった属性だな。それらを試して全滅。ガラスの加工や金属の加工は当時使えるが数回で倒れる始末で長い間使えないスキルだった。」


キースじいちゃん…そうだったんだ。

苦労したんだなぁ。

有名な話なのか、みんなも目を瞑ってうんうんと大人しく聞いている。


「ある日、土木関係の加工が出来ると分かってからはそれを伸ばして宮廷研究者にまでなったわけだ。昨日俺の属性が大地派生の岩石特化型であるとわかって、納得できた。納得したら体の中の魔力の流れに変化を感じたんだ。」


ルークから鑑定盤を受け取って操作し、自分の鑑定結果をみんなに見せる。


---

キース・フェニックス 53歳 特別宮廷研究員

スキル:知りたがり

    加工・生成

    成長

    料理長

魔力量B+

魔力操作A

---


「「「なんだこのスキルの多さ!」」」


「いや、そこではない。魔力量はBからB+に、魔力操作はBからAにレベルアップしていた。」


「あら!ほんとだわ。納得しただけで変化があるなら、勘違いしている人に知らせてあげられると良いのだけど。」


デイジーの話は最もだ。

今後は宮廷の人が率先してやってくれたら良いね。

俺は一人しかいないから、全員見て感じたことを伝えるのは無理だ。


キースが手のひらを上にしたままルークに差し出した。続きをどうぞというわけだ。


「そういうわけで、色々な特化型があること、そして、同じスキル…例えば加工ですね。同じスキル名でも属性が違えば思ったような結果を出せるまで時間をかけなければなりませんよね?」


商人三人は不思議そうな顔をしつつ頷いている。

ボビーの話と繋がらないと思っているのだろう。


「ボビーさん。ボビーさんの苦労したスキル、『ライト』ですが、ボビーさんの属性は光ではありません。」


「「「え?」」」


「ライトにはもう一つ属性があるそうです。」


「それは!?」


「大地です。ボビーさんの属性は大地です。なので、系統の同じガラス工房職人をする事がなんとか出来たんです。」


「え?ボビーはダブルだったわけではなくて?ボビーはずっとダブルだと期待されてきました。光と土です。夜の光源確保のために、頼まれる家を回っては倒れるギリギリまで毎日働いて…。もう光属性の『ライト』は使えないと見切りをつけて、ガラス加工で頑張ってきたんです!」


バーネットが、それがまさか!と呟いている。


へぇ。光と知ってたんだ。火ではなくて。その辺りはスキル支援で鑑定してくれる人によるのかもしれないなぁ。


鑑定の結果を見る限り、どうやっても使えない『ライト』を切り捨てるまで気持ちの整理に時間がかかったのかもしれない。『ライト』より使えるガラス『加工』も職人と呼ばれるまで相当頑張ったに違いない。でもさ、ボビーさんの属性は違うと思うんだよね。ガラス特化じゃないよね。大元の属性は同じだから使えないことはないだろうけど。


「ボビーさん、ガラスの加工も、他の専門家に比べたら魔力消費は激しかったんじゃないですか?」


「…はい。」


「それもそのはずです。友達精霊はマーモット。属性は大地派生の土特化だと思います。」


マーモットは土に穴を掘って住処にしている動物だ。諸説あったはずだが歴史的には黄金を掘るアリとも言われていたらしい。それなら、土特化で間違いないと思う。

ちらりとボビーさんの腹にくっついているマーモットを見ると、顔を腹につけたまま、首を上下に振っている。多分正解なのだ。


「「「土特化?」」」


「試さなければ分かりませんが、おそらく良い土壌を作ったり、ならしもできるかもしれません。陶芸をするのも良いと思います。」


「「「陶芸?」」」


「あれ?陶芸ってないの?」


「陶芸…陶芸!!」


と、キースが呟いている。

もしかしてトリガー?前世で趣味だった?

ごめんだけど、じいちゃんは後でね!


「どういうものだ?名前が違うのかもしれない。」


ジェイクには刺さっていないようだ。

ジェイクじいちゃんの前世で陶芸をやる時間はなかったもんね。


「あ。陶芸というのは、粘土を成形して高温で焼成して陶磁器、器を作る技術のことで、いわゆる焼き物ですね。」


「陶芸…焼き物だな。この国では行われていないが、他国では発達しつつあるよ。ボビーは知ってるんじゃないか?」


陶芸が刺さっているキースが、頑張ってボビーを促している。


「あ、あぁ。旅の途中で見かける事があった。薬材によって絵付けや色付けが出来ると。それを自分が?」


「やる気があれば。ですけどね。色々言いましたが、絶対はないので、やはり試してもらうしかないです。好みもあるかもしれませんし。そこは、ごめんなさい。」


ぺこりと頭を下げる。

偉そうなことを言ってるくせに、確定情報が少ないんだよね。ほんと、申し訳ないです。


「い、いや、これだけ解るなんて、今後どれだけ生きていたって知ることは無かったでしょう!ルーク君、どうもありがとう!」


時間経過で人見知りを突破したのか?

感動して人見知りが死んだ状態なのか。

いや、俺に慣れてくれたのか?


「で、スキル『ライト』なんですが、光属性は光源を作り出す『ライト』、大地属性は軽量化させる『ライト』だそうです。」


「「「はぁぁ!??」」」


解ります。その気持ち。ならスキル名を『軽量化』にしてくれたらそれで済んだ話なのだ。



「そうでーす。狂ったやつらに邪魔されたでーす。プンプンでーす。」


あ、タマちゃん!戻ってきてくれたんだね?


「もうボビーからー、光精霊に対する悪意がー、きえましたでーす。だから見られても大丈夫でーす。」


え?勘違いライトで光精霊を嫌ってたってこと?


「でーす。仕方がないでーす。人間はそういうものでーす。幼い幼いでーす。」


そうなんだ。なんか、ごめんね。んで、ありがとう!


「どういたーしましてーでーす。」


じゃあ、続けるね?というと、タマちゃんは嬉しそうに目を三日月形に変えた。



「びっくりついでにボビーさん。」


「あはは。もうなんでも来いですよ。」


「ですよねぇ?では遠慮なく。」


お互い苦笑し合ってから告げてみる。

ボビーさんの前世と思われる職業を。


すうっと息を吸い込んで、気を引き締めてから思い切って伝える。


「ボビーさんの前世、“ホテルの支配人“か“総支配人“だったんじゃありませんか?」


「!!!」


目を見開き、口も開けて唇を震わせている。

これはトリガーになったっぽいな。


「でーすねー。良いのが生えまーす。」


見ているルークの家族は見慣れた光景だが、ブライアンとバーネットからしたら初めての出来事で、苦しんでいるように見える息子をとても心配しているようだ。


「ホテルマンは立ち居振る舞いを厳しくチェックされるそうです。ホテルの顔として、厳しい訓練を受けたのではないかと。支配人や総支配人はホテルにおける最高責任者、経営者と言っても過言ではありません。ボビーさんはガラス工房のやり方が未熟だと感じて訂正するように伝えたりしませんでしたか?」


「あ、あぁ、はい。それでうまくいかなくなって…。」


ボビーは俯いてしまう。俯いてマーモットに近付いた顔は、上を向いたマーモットの顔にぶつかりそうなくらいで、マーモットはそっと両手でボビーの顔を挟み込んだ。


これはっ!!

マーモット精霊が癒そうと頑張っているな。羨ましい。


「これは私見ですが、職人というのは、自分の感覚を大切にすることで技術を向上していくので、“決まったやり方“を告げられるだけで、押し付けられたと感じる人たちだと俺は思っています。」


横でジェイクが笑う。昔の職人は感覚主義だからな。それで経営もうまくいかない。人の話を聞かんから。と。


「ボビーさん、沢山話しましたが、今どんな感じですか?」


「一気に情報が入ってきて、正直混乱しています。」


「ですよねぇ。トリガーが刺さったみたいですし、鑑定してみて、気になるスキルがあれば、使ってみませんか?」


「はい。頭を整理するためにもお願いします。」


---

ボビー 45歳 元ガラス工房職人

スキル:ライト

    加工

    総支配人↑

魔力量B→B+

魔力操作B→A

---


「おお。総支配人が生えてるー!やっぱりそうだよね。素晴らしい能力だよ!まさかのスキル!でもこのスキルは魔力を使わないかなぁ。でも、伝播とかで従業員に一方的かもだけど、念話的に使えたりしないかなぁ?お。魔力接続無しで魔力操作がAになってる!魔力詰まりはなかったってことになるのかも!」


「「「これは。」」」


商人三人は抱き合って喜んでいるし、ルークは心の声という名の独り言を隠す気もないようだ。

ルークの祖父母は、笑ったり、ため息をついて苦笑いをしたり。


「正しい認識をするってこともポイントになるんだね!キースじいちゃんのお陰でまた一つ解明できたね!どうもありがとう!」


「うん。陶芸についてはまた後日頼むよ、ルーク。それよりも、ボビーについてなんだが。」


「うん。同じ考えだと思う。じいちゃんにお願いしても?」


「俺で良いのか?」


「五歳のガキンチョが誘うよりも現実味が違うでしょ?」


キースとルークは内緒話をしていたが、みんなが落ち着いてソファに座ったところで、キースが代表してボビーに話す。


「ボビー。君をうちのスーパー温泉と高級温泉旅館の総支配人にスカウトしたい。」


「「「え?」」」


「もちろん、商人を続けたいというならそれで良い。こちらも君の意見を尊重して諦める。今日か明日には、管理するものたちがそのつもりでここにやってくる。どんな者たちが来るにせよ、俺らからしたら、有能な者にお願いしたい。」


「ええと。」


「引き受けてくれるとなったら、給料は王宮か宮廷からでる。経理は別に置くことになるが。直属の上司、というか相談役はルークとジェイクと俺の三人になるか?基本はボビーのやりたいようにやってもらうことになると思う。報連相は必須になるが。存分に力を振るって欲しい。」


「それは!」


キースが畳み掛けにきている。逃したくないのだろう。正直、総支配人のスキルなら、ほぼ丸投げでうまくいく未来しか見えない。


ルークたちは、丸投げできる専門家を欲していた。

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