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7.大きな問題、小さな問題

ゴクリ。

ルークは喉をならす。

昨日の結果によって五歳で自立への準備に入るのかどうかが決まるのだ。


スキル『鑑定』が使えなかったから、何となく現状維持ではなかろうかとも思うけれど、スキルが生えていることはイタチ君との会話から推察できるのだ。

両親は昨日の研究結果で、どこまで知ったのだろう。

スキルがある事が判明したとなれば、事業支援で魔力の使い方やスキルの使い方を教わりつつ自立。となるだろう。


どうなるのかは、目の前で朝食を食べている、『研究者』両親の口から聞くまで解らない。


出来れば十歳まではお家に置いてください!

まだ一緒に居させてください!

と心から願う。

隣の床から雪豹さんが頭を持ち上げたので、そちらをみると目を合わせてくる。

ニコリと笑うとまた床に伏した。


どっちだーー!!

精霊たちは、それぞれ思ったようなヒントは与えてくれているらしいが、進んで教えてくれるわけではない。役割があるので、そこからはみ出るようなことをすると、鍛錬所に回されることもあるらしい。聞く限りだけど。


精霊も人間と平等なんだな。


とはいえ、ルークの友達の精霊たちは、比較的ポロッと口に出してしまうタイプが多いので、注意を受けることがあるらしい。精霊の加護の世界で精霊に注意できる存在って、一体…だれ?どんな存在?


目の前の豆料理をフォークで指して口に運びながら、両親をドキドキしながらチラ見する。


アーサーの口の横にサラダのドレッシングがついているのが見えた。そう言えば、ヨダレの跡については何も言われなかったなと思い至る。きっと綺麗に取れたのだろうと思う事にした。


「ん?なんだルーク。食後まで待てないのか?」


ちょっと忘れていた。俺の近い将来。

出来れば早く安心したい。口には豆が入っているので、肯定の意味を込め首を縦に何度も振る。


「そうか…わかった。昨日、あれからの話をしよう…」


アーサーは視線を俺から外してテーブルを見つめる。

アーサーにしては珍しく真剣な眼差しに見えた。研究最中でもあまり見ない表情。合わせた両手の指を撫でながらタイミングを測っている様だ。


アイリスの方も、ルークのいる方向とは反対側に顔を向け、両手を顔に当て小刻みに震えているように見えた。


なんだ…

なんだ。うん。

そうか、俺を手放す事に決まったのか。

手放すというか、決まりに従うしかないよな。

国の決まりなんだもんな。

両親の研究結果は素晴らしいものだったのだろう。

発現はしない『鑑定』を暴き出したに違いない。


ルークから表情がスルスルと落ちてゆく。


そっかー。

スキルが生えていることが確認できちゃったんだな。歯を食いしばって涙を堪える。


トンッとテーブルに指を置いた音がしたので、そっとアーサーの方を向く。

それを待っていたアーサーは、ぱっと顔を上げ


「喜べ!ガラスラップ3種の販売の許可が、今朝王様から貰えたぞー!」


と歓喜の声を上げた。

…あ、あの蓋の?


「あの後厚みとか重さとか!空気穴が必要かとか、散々試作を作りまくった甲斐があったわぁ!盤でだけどっ!

素材がガラスなら、加工スキルでの量産の目処もたってるし、本当に嬉しい!」


二人仲良く手を握り合ったり、ハグし合ったりして喜びを表現している。


うん。これはあれだな。

五歳のキッズの心を弄んだな。完全に。


表情を失ったままのルークを雪豹さんが笑う。


「小さな問題よ。」


どこがだよぅ!


心の中で大声で叫ぶ。悪態をつきたいが言葉が思いつかない事で、だんだん落ち着いてくる。


で、結局俺はどうなるわけ?

スン顔の俺に気がついた両親が疑問を投げかけてくる。


「欲しかったんだろ?ラップ。」

「商品化したら堂々と家で使えるじゃない!フルーツも萎れにくくなるし。あら?もっと喜んでくれると思って寝ずに頑張ったのに…。」


と、悪気が全く感じられない。

アイリスに至っては、シュンとし始める。


あれ?なにこれ。俺が悪いの?


「え、えっと、俺のスキルの、結果は…」


おずおずと尋ねると、


「え?スキル確認出来なかったって昨日話したよな?」


思い出してみると、確かにそんな話は出た。

でもなんか装置で検出した結果を精査するとか言ってなかった?


「スキルの確認出来なかったから、ルークの自立の話は無くなってるし。それよりラップでしょう?」


俺は脱力する。

確かに、うん。あれだけスキルを唱えて発動しなかったんだ。確かにあれで確認が取れたのだろう。

俺の取り越し苦労か。


ならあのスパコンもどきは、何のためなのか…

あれに繋がらなくても、口頭でわかるじゃん…

なんなら、鑑定盤とかでもスキルはわかるもんなんじゃないの?鑑定盤、見たことないけど。


「あれ?不安だったのか?すまん!ルーク!」

「ごめんね!そんな心配してるなんて思わなくて!」

とか遠くから聞こえている気がするが、今はどうでも良い。


イタチ君も教えてくれてたもんなぁ。

大きな問題は起きないって。


ちょっと目尻に涙が出てるぞ。俺。


アーサーの作ったスパコンもどきと、アイリスの作ったモニターもどきの性能はまだまだのようだ。

俺の知っている“スパコン“に、俺自身が勝手に踊らされていた事に気がつく。


ほぼ科学のない世界に帰ってきたのに、科学文明の記憶を持っている事の差異は、こうやってあちこちで現れる。

口に出ないように今後も気をつけよう。


こうして、ルークの自立の道は何年か後となったのだった。


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五歳のキッズの思考ではない。大人の思考だ。
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