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4.研究熱心な両親

本邸から外に出ると眩しいオレンジ色の朝日が差していた。


ガシャン。


そのまま別棟の研究部屋に連れられ、扉を閉められる。

この音を聞くと、しばらく部屋から出られないことをよく知っているルークの心拍数は絶対に上がった。未だに慣れない。


父アーサーの前には、地球でいう大きめの菓子箱サイズの板状のものが、床から天井まで綺麗に積み重なっている。

それが研究部屋の壁一面に広がっているのだ。

部屋は学校の教室くらいあったはずなのに、今では準備室のニ倍くらいしかない。


その全ての板状のものと、例の円柱型に加工済みの魔石がめちゃくちゃ沢山配線で繋がれている。

それとは別に、どこに繋がっているのか辿れない配線の束をアーサーが両手に持っていた。


いつのまにかパンツ一丁にされている!

何これ、父さんのスキル?スキルなの?


スキルではなくただ素早いだけなのだが、ルークはまだスキルに関する情報をほとんど得られていないので、勘違いしたままふかふかなベットの上に寝るように促され、仕方なしに横になるルーク。まな板の上の鯉のようだ。こうなったらなす術がない。


アーサーによって、背中側も腹側も手のひらや指先、その関節でさえも、一センチ間隔かも思えるほど、余す所なく、持っていた配線がペタペタと貼り付け繋がれていく。


母アイリスからは、ヘルメットのような謎の物体を被せられた。それなりの重さがあり、もう首は動かせない。

そのヘルメットからも大量の配線が生えており、例の円柱型に加工済みの魔石と沢山繋がれているし、部屋一面の菓子箱にも繋がっていた。

何やらスイッチらしきものも見えるぞ。


光を発している横一列に数枚並べられた板状のものの前に、素早く移動するアイリス。


板状の何ぞかは、俺全部初お目見えの物たちなんですけど…


初お目見えのものたちを見て思い出す。


“電池“や“電気“なるものを、三歳の俺から聞いた両親は、前世の記憶がそれぞれ流れてきたのだそうだ。

アーサーは「スパコンが欲しい!」と叫び

アイリスは「なんでモニターがないの!」と悔しがり、がっかりしたという。


どっちもないよ。異世界だもの。

だったのに…

多分この二人は代用品を作り出したのだろう。性能は段違いに落ちるだろうけど。


こんな風に、前世を思い出すためのトリガーは、その人次第のようだ。

父方の祖母ハンナは、俺が呟いた“フィナンシェ“がトリガーになり、フィナンシェとマドレーヌを代用品を使って作り出している。前世の世界であった材料がこの星ではないことも多々あるのだ。

腕前はプロ級なので、売り出したら良いのにと思うが、面倒なのかそれはしなくて良いらしい。商売人ではないのか?


そんなことよりも。だ。その初お目見えの何かの物体から出ている大量の配線たちってば、このスローライフの世界ではあり得なかったやつじゃん?

文明をどれだけ飛び越えるつもり??

そんなの招き入れて良いの???


ルークは思う。

初見の物体を一人息子の俺で試すのやめてくれー!


街灯と室内灯の試作をしつつ、こんな訳のわからないものまで作っていたという事実。どれだけ『研究者』なんだか…


うちの両親のスキルは、『研究者』で、祖父祖母四人は『知りたがり』を持っている。どっちも似たようなスキルらしい。知りたがりの上位互換が研究者だろう。聞いたまんまだけど。多分。


なぜか似たスキル持ち同士で結婚することが多いこの王国。

あまりにも違うと生活スタイルが異なりすぎるためなのか、あまりうまく行かなくなるらしい。

結婚に至らないどころか、お付き合いすら始まらないという。


いや、こうも考えられるか。一緒にいられる人同士とか、一緒に居ようと約束した人同士に似た種類のスキルが生えるとか?

それなら、ちょいとロマンだなぁ。


ルークたちが住んでるホーネスト王国の王様と王妃様が『コマンド(統率とか命令するとか)』というスキルをそれぞれ持っているからかもしれない。

そういう世界だし。前王と前王妃も似たようなスキル持ちだったそうだし。王族特有のスキルなのかもだけど。


「さぁ、始めようか!」


いつものように現実逃避をしている間に準備が整ってしまったようだ。

アーサーの声に、ざっと顔色が悪くなった自覚がある。


「あ、あの、父さん!それ、大丈夫なんだよね?」


心配になってつい尋ねてしまうのは許して欲しい。こんなの怖いに決まってる!電気流れるとか?ビリビリしちゃうとか?ヒィィ!


と縮み上がっていると、ずっとこっちを眺めていたイタチ君が


「大丈夫だよ〜。大きな問題は起きないと思う〜。」


ほ、本当?それ。

いや、精霊は嘘をつけないのだ。イタチ君が言うなら大丈夫なんだろう…

あれ?でも小さい問題は起きるってことなんじゃ…


「大丈夫だぞ、ルーク。俺はなんの憂いも感じない。安心して横になっていなさい。」


いや、“俺は“ってなによ!

こっちは憂いを感じてるわっ!

精霊様は小さい問題が起きると、暗に仰っていたみたいなんですけど!

解決策、あるんでしょうねぇ!


「では目を瞑って、力を抜いてみて。」


モニターらしき板状のものを見つめたままのアイリスに言われて目を瞑り、頑張って脱力する。

なかなか力が抜けない。

が、諦める方が早いのだ。

諦めよう。諦めるんだ俺。


目を瞑ったので、これで何があっても目玉が飛び出てなくなっちゃうなんて事は起きないだろう。そんなのあり得ないと思いたい。本当怖い!


まぁ、俺を慈しんでくれている両親に限って、怪我や欠損なんてさせないだろうけど。

治せるスキルなんてものもあったりするのだろうか。『ヒール』なんてあったら、めちゃくちゃ便利だよなぁ。あるなら欲しいな。生きていたらちょっとした怪我と絶対にあるし。死なない限り治すことができるチートだったりしたら、また面白そうだ。


流れている聞き慣れない機械音を耳にしながら、俺は密かに願う。


初お目見えのあの物体さん、本当、お手柔らかにお願いしますよ…

ヒール、聞いたことないから存在しないかもだし。

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