39.みんなの精霊
成長した枇杷の木は、風で葉や枝がそよいでいる。
白カエルちゃんも満足そうだ。
湖のカエルたちも顔を出して、枇杷の子供の成長を見ていたようだったし、移動してきたモモンガの親子とも顔を合わせていた。
沢山のおやつを準備したけど、みんなに行き渡っただろうか。
次の機会には数を増やせるようにおやつ作りを手伝おう。
まだこの体は小さいので、手伝いになっているか足手纏いになっているかは正直わからないけど。頑張ります!
おやつをあげて、食べてもらって、枇杷の木を移植?して。
今回のミッションは全て終了したはずだ。
あ、デイジーの満足度が最重要かもしれないけど。
今回のこのミッションを誰よりも楽しみにしていたデイジーは、まだ頭の上にカエル母さんが乗っていると思っているようで、頭を動かさないようにすることに全集中を使っているようだ。首と背中を痛めそうだ。
「デイジーばあちゃん!カエル母さんはもう帰って行ったから大丈夫だよ。」
「え?そうなの?もう?精霊さんは忙しいものね。」
と残念そうだが、
「見えなかったし感触も解らなかったけど、そばに来てくれて、来てくれてることがあると知れて、とても嬉しいわ。カエル様、ありがとう。また来るわ。また来てね。」
と湖に向かって声をかけた。
湖の奥の方にいるカエル母さんが動いたのか、奥から波紋がこちらに広がってきた。それが返事のように見えて、デイジーはまた喜んだ。
ゼリーの乗っていたお皿を全て回収し、シートに戻ることになった。
シートはブナの木陰一面に敷かれていて、どこに座っても涼しそうだ。
シートの端で指先の白カエルちゃんには鼻先に戻ってもらう。お茶をするのに両手を使いたいからだ。小皿に移ってもらうことも考えたが、足元にその小皿を置くのは怖い。
人間用に準備したカゴからコップを出し、広い口に蓋のついたピッチャーからハーブティーを注いでもらい飲むが、ぬるい。
「冷たかったらもっと良いのになぁ。」
「だれも氷を作れるスキルを持ってないからな。常温は体に良い!諦めろ。ほら飲め。」
ジェイクは笑いながらハーブティーをゴクゴクと飲んでいる。
氷か。氷が入った飲み物が飲みたくなるほど暑くはないんだけど。でも氷が欲しいなら、
「氷なら急冷盤で作れるんじゃないの?」
「「「それだ。」」」
ルークの言葉で、急冷盤を知っている三人は声を合わせる。知らない人は頭の上にハテナが飛んでいるので、ジェイクが説明していく。
「じゃあ、作ろうか!」
さすがに、ここへは急冷盤を持ってきていないので、アーサーが作ろうとしたのだが、みんなでやめさせた。
寝不足で昼前に寝落ちし、馬車でも仮眠をとっていたのだ。そんな状態なら魔力は使わず温存させておけ。と大人たちが止めたのだ。
それに、今日はそれほど暑くはない。
あの『盤生成』がどれくらい魔力を使うのか、使った魔力がどれくらいで回復するのか、ルークにはわからない。
が、魔力切れ、枯渇は命に関わる。
是非とも休んでてほしい。うん。お願い休んでて!!
せっかく帰還者は長生きすると聞いて、どこかで不安だった気持ちが落ち着いたのだ。死ぬ様なことをされたら困る。
一人で生きていくのはやはり辛い。
少しでも長くみんなと楽しく暮らしていきたい。
魔力切れなんかでいなくならないで欲しいのだ。
枇杷のカップケーキを一つとってもらったので、両手で持って眺めてみる。
枇杷の実が最大限たっぷり入っているようだ。生地自体にも練り込んであるのか、うっすらオレンジ色に染まっている。
一口口に入れると、少しの咀嚼で溶けるかのように消えていく。
「美味しい!白カエルちゃんも食べてみて!」
白カエルちゃんは待ってましたと言わんばかりに、ルークの鼻先からカップケーキに飛び移ると、生地から飛び出ている枇杷にパクリと食いついた。
大きく開けた口で器用に食べているらしい。
いつ見ても白カエルちゃんの動きや仕草は可愛い。ほんわか癒されていると、
「で、ルーク。あとは何を隠してるって?」
アイリスの追求が始まったようだ。
先程、みんなのそばにいることがある精霊を教えてから、みなそれぞれ気になっていたようだ。
まぁ、気になるよね。
今のところ、ルークが見たことと感じたことから考えているのは、
一般の鑑定では判らない人間の属性とそばにきてくれる精霊の属性が一致しているのではないか。
と言うことだ。
一人でいくら考えても結果、結論まで辿り着くのは、知識が少なすぎて大変そうだった。それなら、その自分の考えをみんなにシェアして、意見を聞いてみることにしたのだ。
「これはあくまでも観察した結果であって、実験や検証はしていないことなのだけど。」
と大前提を述べた上での話となる。
「それで良いわ。教えて。」
みんなノートを出している。どこから出したんだ?準備が良すぎない?
「ハンナばあちゃんにくっついている精霊は見たことがないから、わからない。けど、俺は、属性は草なんじゃないかと思ってる。」
「草…」
「うん。食べ物関係のスキル持ちの人はみんな草なんじゃないかと思ってるんだ。ハンナばあちゃんは、ハーブ好きだしお茶作りも好きだし。」
「では俺も?」
「うん。キースじいちゃんも属性は草。でもなんとなくもう一つ持ってそうだなって。」
「ダブルか。一つは草。成長のスキルが草だとすると、レベルを上げればジェイクの成長が使える可能性があるのか。試してみよう。もう一つは土だと思う。上下水道の試し施工の時、土の加工が使えたから。」
「なら、もう一人精霊が近くに来てるのかも?また見かけたら知らせるね。」
「うん。よろしく。」
父アーサーの目線がワクワクとうるさい。
わかったよ。次は父さんね!
「父さん肩に乗っている巻貝ね。前世の地球では、スケーリーフットとか、ウロコフネタマガイとかって名前の巻貝に似ていてるんだ。体が金属で出来てて“鉄の鎧を身にまとっている“と言われていたことから、属性は金、じゃないかな。」
「金!」
「でも父さんのスキル、ちょっと特殊じゃない?材料なしで作り出せちゃうし。だから、錬金術の金かなって。今の所。他の属性のスキル、ジェイクじいちゃんの成長くらいしか見たことなくて、判断が難しいんだけど。」
「それは、そうかもしれない。」
アーサーの隣にいたハンナが納得と言った顔。
「金属系の『生成』スキル持ちで、材料から作り出してしまう子を知ってるわ。そう言うものだと思ってたけど、錬金術とするなら、ありえなくないわね。」
しかし、ジェイクの意見は違うようだ。
「『盤生成』のスキルが『金-加工』の最上位クラスだと考えるとどうだ?俺の『加工』は属性が草、今それが統合されて上位クラスにレベルアップして『建築士』。まだ使ってないからわからないし、天啓もないからこれも判断が難しい。ハンナの知ってるその人の話を聞けたらヒントになりそうだな。」
「そうね。手紙を出してみようかしら?帰還者だからまだ生きてると思うし。」
え?手紙?どうやって出すの?
と聞いたら、手紙を書いたら近くの街に出しに行って配達人にお願いするのだそうだ。受け取った側も同様。あとは、商人が来るタイミングでお願いする方法があるらしい。
うわぁ。。手間がかかるねぇ。
まぁ、そっちはお願いしてみよう。
統合してレベルアップ。もし盤生成が属性金の最上位クラスなら、父さんって規格外なんじゃ…
うん。情報を集めよう。情報は多いほど良い!
「ジェイクじいちゃんの牡鹿精霊は、さっき“枇杷の子供“に場所を尋ねてる時、後ろで「そこで良い」って囁いてたよ。」
「え?あの時?確かに「そこで良い」って聞こえたんだが。牡鹿の精霊の声?」
「うん。東の林か果実園に住んでるっぽくて、じいちゃんから少し離れたたころにいることが多いんだ。」
「え?あそこに住んでるの?」
「多分ね。聞いたわけじゃないけど、通るたびにいるから、そうかなって。」
「そうか。わかった。ルークありがとう。」
木と意思疎通できてるのかと思ってたよ。と少し恥ずかしそうにしてるけど、それも絶対にないとは言い切れない。両方あるかもって白カエルちゃんも言ってたしね?
「両方ね。」
白カエルちゃんは教えてくれる。
「じいちゃん、木とも意思疎通取れてるって。」
「おお!そうか!どちらも嬉しいものだな。」
うんうん。どちらも良いよね。
ファンタジーには違いない!
「母さんにはカワウソ精霊ね。昨日ガゼボでのおやつタイムの時に背中に一人、膝の上に一人いた。膝の上に座ってた方は、母さんのサブレをとって食べてた。」
「精霊のいたずら!」
「うん。地球では泳ぐのが好きな動物だったはず。多分。あとね、カワウソって他の動物が破棄した土の巣穴なんかを自分たちのサイズにカスタマイズしたりするんだよ。サポート系の母さんらしいよね。」
「サポート系!誰かのスキルを助けるスキルね!」
ウキウキしてる。なんかちょっと違う気もするけど、喜んでいるので放っておこう。カワウソは可愛くて大好きなのだそうだ。良かった良かった。
「最後にデイジーばあちゃんだけど、カエル母さん。属性は水だと思うから、化粧品オタクのスキルも液体系の化粧品なら作れちゃうんじゃない?レベルによるだろうけど。」
「私が水で、ハンナが草だから、頭用あわあわ液を作ってても失敗が少ないのかしらっ!」
「それはありそう!どんどん試してみて。」
二人に声援を送る。
頑張って〜!ボディソープ所望します!
みんな喜んでくれてるところ悪いけど、キースじいちゃんみたく複数の属性を持てるなら、まだまだ出て来るのかも。まぁ、ここに来てまだ二日だ。まだまだ観察や検証の余地がある。
白カエルちゃんがあくびをする。そろそろ帰った方が良いかな?
「デイジーはダブルよ。もっと色々話して前世からスキルを引っ張り出してあげると良いわ。」
「そうなんだ!…っていうかさ。気になってたことを一つ聞いても良い?」
なあに?と目を擦る
「二つ目以降のスキルは精霊がくれるって聞いてたんだけど…?」
「そうよ。二つめ以降は自然に生えてくることはないわ。仲良しの精霊が与えるの。」
「あ、仲良しの精霊がスキルをくれるんだ。一緒にいるのを見かける子たちってことだよね?でもさ、『精霊が』くれるんだよね?精霊が。
なんか。みんなのスキル、俺の言葉がトリガーになってスキルが生えてきてるっぽいんだけど…俺人間だよね?」
「ぶはっ!あなたは人間よ。あははは!!」
その笑い、なんかのフラグになったりしてない?
「ルーク。もっと沢山経験しなさい。それで沢山考えなさいな。」
白カエルちゃんは片手をあげて消えていった。鼻先にいたのでぼやけていて、ピントが合わずしっかり見えなかった。
しかし。だ。
否定されなかった。
ってことは、キースじいちゃんが想像した通り
俺のトリガーは新スキル発生トリガーってことー?
「「「「「「仲良しの精霊がスキルをくれる。」」」」」」
らしいです!




