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34.葉っぱで十分

「お。見えてきたぞ、ルーク!枇杷の木だ。」


印のついた木を探さなきゃ。

早く見つかると良いな。

と思ったら…


「…じいちゃん、これほんと?」


「ん?何だ?見ての通りだ。」


「この三本しか、枇杷の木ないの?」


「そうだな。」


昨日母方の祖母デイジーが、どの枇杷の木にしようかと何時間も悩んだというのは、この三本だという。


「……。」


三本の枇杷の木の前に立ち、見上げる。

なかなかのサイズだ。


もっと沢山あって、悩んで悩んで絞り込んだ二本なのではなく、三本中の二本…。

選びきれなくて二本……。


デイジーばあちゃん、どれだけカエル様ラブなの?

どれだけ優柔不断なの?


三本の木のうち、二本に赤い紐が巻かれている。

良い目印になっている。


「俺には違いがわからないんだけど、味?食べてみても良い?」


「そうだな。食べてみるか。」


ジェイクは手を伸ばしてみる。実までギリギリ届かない距離であることを確認し、広がっている枝葉を見上げる。

選ばれた二本の間に陣取ると、ポケットから何かを取り出す。

それは平たく、ルークの手の幅大に見える。

ジェイクは自分の足元にそれを置くと軽く土を掛けて植えた。


「じいちゃん何埋めたの?」


「ん?ステップ種だよ。みんなは“葉っぱ“って呼んでる。」


「なにそれ。葉っぱ?」


まあ見てろというと、植えた上に手を添え魔力を流す。


植えた場所がググッと持ち上がり、割れ目から丸まったかなり太めの茎が見え始め、ポンっと双葉が土から顔を出した。


「なにそれ、めちゃデカくない?」


生まれた双葉はルークの手ほどのサイズがある。

双葉の間からジャックと豆の木のように、太い茎がスルスルと伸びてゆき、枇杷の木より少し高くなったところで上に伸びる成長を止めた。

そのあと、双葉がぐんぐん大きくなって、完全に動きを止めた。


ルークが腕を回しても指が届くかどうかほどの太めの茎に、マンホールサイズまで大きくなった双葉。

よく見ると茎は少し螺旋状に捻じれている幹のようで枝葉がところどころついている。

見える葉は手のひらサイズくらいでちょっと大きい。


あのサイズの種から瞬く間にこのサイズに成長するなんてと驚愕する。


「な、何これ…」


「うん。ステップ種だよ。その葉の上に乗ってごらん。」


ジェイクはお手本となるように、ルークに示した葉とは逆の葉っぱに乗って茎に手を置く。

すると、乗った葉っぱはゆっくりと螺旋にそって茎を上がっていき、手を離したところで動きを止めた。


食べ頃の枇杷の実を二つ取り、また茎に触れるとするすると降りてきて、ほらこの通り。とばかりに両手を上に上げて戯けたみせた。


なにそれ、なにこれーーー!!

エレベーターみたいじゃん!

安全性は皆無に見えるけど!


「面白すぎー!!」


ルークも葉っぱに乗って茎に触れてみる。

動き出してだんだん目線が高くなってきたところで一度茎から手を離してみると動きを止め、もう一度触れると下がっていって地面に葉っぱの裏が着くと動きを止める。

もう一度茎を触り直すとまた上に登り始める。


ただの上下運動ではないのがまた面白い。


ジェイクが収穫した木とは違う木の実が手に届きそうなところに来たので手を離す。葉っぱは動きを止める。

美味しそうな香りのするものを二つ収穫して茎に触れ、地面に戻ってきた。


こんな便利なものがあるなら、脚立や階段は必要ないよねぇ。両親に「二階」「階段」を説明した時に、必要ないと言われたのも頷ける。

作成・設置に手間も時間もかかる階段なんかより、エレベーターのようなこの葉っぱで十分なのだ。


「便利!これなら脚立も必要ないね!」


「脚立…なんか聞いたことあるな。」


「大工さんはよく使ってたよ。高いところに登るための梯子を二つ組み合わせた踏み台みたいなやつなんだ。建設中の階段のついていない家の二階とか、屋根の上にも登れるし、内装を仕上げる時にも使うやつなんだけど…」


「二階!階段!!」


前世大工さんにはトリガーになったりするのかな?


「そうか。うん。昨日の大工と比べると揺さぶりほとんど感じないな。それでも前世の記憶が浮かんでくるが。建築業なら知ってて当然のキーワードだからなのか?いや、前世では当たり前のキーワードか。逆だったら二度強く揺さぶられたのかもしれないな。」


ううむ。と自分の感覚を言葉にするジェイク。


トリガーはその人の前世に深く関わってきたものってことは解ってきたけど、その人の前世が判らない限りトリガーも解らない。


それならいっそ、自分の感じたことを素直に言葉に出すのが良いのだけれど、その人にとって思い出したくないことだとしたら…


「ねえ、じいちゃん。いつもはね?思ったことや感じた事を口に出したら、誰かのトリガーになった。って感じなんだ。」


真剣な顔をして話し出すルークを見て、ジェイクは真剣に聞く体制になった。


「でもね、昨日の大工さんのトリガーはわざとなんだ。聞いてみたくなっちゃった。じいちゃんを見ていたら、前世のじいちゃんを思い出して、もしかしたらって、確認したくなって…。俺のわがままで、じいちゃんには辛い記憶を思い出させてしまったかもしれない。ごめんなさい。」


ジェイクが前世でも自分の祖父であった事が解ったことは、ただただ嬉しい結果だった。

しかし、自分以外の人を傷つけてしまったかもしれないというのはとても怖い。

それなのに、自分の“確認してみたい“という気持ちだけで、いたずらにトリガーを引いたのだ。


「ルーク。大丈夫。これは俺の感じたことだから、他のみんなが同じとは限らないけどな。お前が生まれて会いに行った時、アーサーが生まれたのを見た時よりも、湧き上がる嬉しいって気持ちがな、その、大きかったんだよ。」


アーサーには内緒な?と笑う。


「今思うと。会えて嬉しいとか、やっと会えたとか、そういうのじゃなくて、まさかここで会えるなんて。だったように思う。」


そっと抱っこをしてくれる。重くない?


「だから昨日前世を知って、俺がどれほど嬉しかったのかをルークは知らないだろう?多分ルークが俺に会えて嬉しいって思ってくれた十倍、俺の方が嬉しいって気持ちだったぞ。」


と、顔が近くなった俺の顔を見て、子供のような事を言って笑わせようとする。


おいおい!実年齢より、精神年齢が上な俺だぞ?

何十倍とか、そんな小学生の低学年が言うようなセリフに引っかかるもんか!


「俺の方がその気持ちの何十倍も嬉しかったよ!」


と、さらに子供のような事を言って抱きしめた。

引っかかってやったんだ。引っかかりたくなったんだ。だって、本当にそう思ったんだ!


二人で思い切りぎゅうぎゅう抱きしめ合う。


「それよりもルークの方が辛かっただろう?残す側だった俺は思い切り生きていたから後悔はないもんだ。でも残された側は、そうではないからな。」


「辛いこともあったけど、じいちゃんが俺に沢山のことを残してくれたお陰で大丈夫だった。ありがとう。じいちゃん。」


「なら、今回だって思った通りにやってみろ。後悔するならやって後悔しろ。ただ、人も自分も傷つけると分かっているならするなよ?」


「うん!それはしない。約束する。」


じいちゃんの温もりをたっぷり堪能したな。と思えたくらいのタイミングで地面に降ろされた。


悲しい顔をしたり、寂しくなると抱っこしてくれるのは、昔から変わらないな。じいちゃん、ありがとう。


トリガー繋がりでもう一つ、ルークが気になっていたことをジェイクに質問する


「じいちゃんの新しいスキル『建築士』だったじゃない?なんで『大工』じゃなかったのかなぁ。」


前世大工さんだったのに。と続けると


「え?俺、建築士だったよ?」


え?…え!!


「なんだぁ?大工だと思ってたのか?」


めちゃくちゃ笑われるが、ずっと大工さんだと思ってた。確かに建築事務所を経営していたけど。


「結構有名な建築士だったんだけどなぁ。」


えええぇーー!!うそうそうそーーー!!!

誰も教えてくれなかったし、大工さんだと思ってきたから確認もしなかった。


確認って、大切だな。。


収穫した実は、抱きしめあった時に落としてしまったので、それは拾って枇杷の木の根本に避け、もう一度葉っぱに乗って収穫をした。


葉っぱを座れる高さまで上げて止め、二人で座った。茎を触らないようにだけ気をつける。


どちらの枇杷もジューシーで甘く、甲乙をつけ難い。

どうしようかな。


葉っぱから降りて、成長具合を見る。

デイジーは、縦に伸びてるのと横に伸びてるの、どちらが良いかと聞いてきた気がする。


枇杷の木を見ながらぐるぐる回って見るが、それもよく解らない。

縦に枝葉が伸びているように見えた木も見方を変えると横に枝葉が広がっているのだ。


「これは困ったな。デイジーばあちゃんが選べなかったのも納得かも。」


こうなると、逆に候補から外された一本が気になってくるな。何基準だったんだろう?


今度は触れてみる。触ってもわからないので目を瞑って抱きついてみた。解らないだろうけど、なんとなく抱きついてみたくなったのだ。

二本とも抱きついたが、当然何も感じない。


ジェイクを見ると、葉っぱの根元に向かって魔力を流していた。マンホールサイズの葉っぱも太い茎も成長とは逆再生のように動き出し、土に戻って行く。

平たい種を拾ってポケットに入れこちらを見るジェイク。


ジェイクのすごい“魔法“を見せられたルークは、ジェイク法式を採用してみることにした。


「白カエルちゃんたちの棲家に行っても良いよって言ってくれる子はいるかな?」


と、二本の枇杷の木を見ながら口に出してみたのだ。


「お。俺と同じやり方だな。」


横にならんだジェイクが笑うと、ジェイク側の木がなんとなく光った気がした。


「え?君が行ってくれるの?」


とその木に近寄ると、ジェイクも驚いて


「良いよって言ったぞ。」


と、同じその木を見上げた。


二人で顔を合わせる。

ルークは光って見え、ジェイクは声を聞いたのだ。

人によって感じ方は様々なのか。と二人で驚嘆した。


「じゃあ、下処理してしまうか。」


腰に手を当て枇杷の木を見上げるジェイクは言う。


「じいちゃん、どうやって処置するの?シャベルも持ってきてないし。それに、どうやって運ぶの?リヤカーもないし、大八車もないでしょ?魔法とかスキルを使うの?」


この木の根を下処理するのは相当大変だ。

それにシャベルもなければ根っこを保護するネットも紐もない。手ぶらできてしまっている。


それに、運ぶのだって一人では絶対に無理だ。ルークは邪魔にしかならないだろう。


「なんだそれは?物は必要ないぞ?」


じいちゃんは立候補した木に手を置き


「どうぞあなたの子供を分けてください。」


と願いを口にする。

すると、上から枝が一本ポトリと落ちてきた。


「ほれ、持っていこう!」


えええーー!!なにそれーー!!

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