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3.自立が必須な世界

鑑定スキルが生えたと思しき翌日。

俺は驚いて騒いで、そのまま寝てしまったらしい。


窓の外からはピューヒョロロロロと、トビに似た声が僅かに聞こえている。縄張り争いが始まらないと良いね。

そんなことを思って己の状況から意識を背け、上半身も起こせずに目を開けたまま、ベッドの中にいた。


どうしよう。

黙っていて良い事なんて一つもないのはわかるけれど、バレたらスキルの訓練が始まる。訓練自体は嫌ではない。 楽しみにしてきた一つだ。

しかし、5歳でスキルが生えたなら、残り1年以内に自立しなければならない。


6歳で自立。


自立。出来るのか?

せめて10歳くらいまでは養って貰いたいのだ。


ゴロリと右を向いてみる。


我儘だろうか。我儘か?

みんなそうやって生きてるんだ。

俺だけズルするわけにはいかないよな。


ゴロリと左に向きを変え、頭を抱える。


ぐるぐる考えていたが、どうせ精霊にはバレてるわけだ。

サトラレだし。ダダ漏れだし。サトラレだし。


黙っていたって状況は進んでいくはずだ。

しかも黙っていた分、悪い状況を作らないとも限らない。

サトラレだし。ダダ漏れだし。サトラレだし。


両親に話そうと決心し、ガバリと起き上がってベッドを降りる。


鏡のない洗面台で、できる範囲で身支度を整える。

寝ながら不安で泣いたのか、目がパリパリする。

布巾を水で濡らして絞ってから軽くこすり取る。


全部取れたかどうか確認したい。

鏡、部屋に欲しいな。高価だからなのか家の玄関に一つしか無い。


どんだけ高いんだ、鏡。

いや。贅沢品扱いなのか?

そんな事を考えながら部屋を出てリビングに向かう。


室内灯と街灯の売り上げのお陰なのか、俺の家はそこそこデカい。平屋だけど。


俺と両親、それぞれに部屋があるし、キッチンにリビングダイニング、客間がいくつかある。研究部屋は別棟だ。

一般的な家では、一人一部屋なんて贅沢だし、客間なんてまずあり得ない。と思う。


あれこれ別のことを考えてみるも、やっぱり自立しなきゃならない現状から目を背けることが叶わない。

気持ちが行ったり来たりする。


この恵まれた生活から自立するのかぁ。。


平民が自立する時は国が、集合住宅ではあるが自立支援住宅を準備してくれている。

寝室とキッチン、トイレ、風呂が完備されている、前世でいうところの1K風呂トイレ別である。最低限ではあるが、路頭に迷うことが無いように考えられているのだ。


この風呂トイレが贅沢品ではなくなってから、自立支援住宅は全て立て替えられたそうだ。

この国の王様は今代になってからは、更に事業支援を積極的に行っているのだ。


でも、平屋だけど。

平屋なんだよ。


リビングダイニングの扉の前で息を整える。

大丈夫。なるようにしかならない。

スキル支援という制度もあるし、何とかなるさ!

五〜六歳だったとしても!

きっと!


扉を開けようとした時、生まれた時からの友達の精霊の一人である、白いイタチ君が目の前にパッと現れた。


「ルークゥ、おはよぉー!」


のんびりした声が聞こえると同時に、顔に柔らかいお腹を感じた。

どうやら今日もまた、顔にしがみつかれているようだ。

俺が上手に歩けるようになってからというもの、現れる時はいつもこうだ。


小さな手足を俺の後頭部に回して、落ちないようにしがみついている。可愛い。尻尾はリズミカルに首から肩を摩り叩いている。可愛い。けど、実は5歳の俺にはちょっと重い。この白いイタチはどんどん大きくなってる気がする。


俺が歩けるようになったばかりの頃、抱きつかれた衝撃で、毎回後ろに倒れていたようだ。精霊が見えない両親はそれが精霊の仕業だと理解するまで、突然倒れる息子を心配していたらしい。

そっとイタチ君を両手で引き剥がし、長い首を支えるように縦抱っこをする。尻尾が腕にそっと寄せられた。


「おはよう。イタチ君」


名前は教えてもらえていないので、見た目を記憶の底にある、知ってる名前に置き換えて、そう呼ばせてもらっている。

真名は契約に使われる大切なものらしく、友達になっても教えてもらえない。


「重いといやー?乗んない方がいいー?」


いつものように、精霊には心の声ダダ漏れである

のんびりしたイタチ君の声に癒される。


「ううん。全然嫌じゃないよ。どっちかって言うと嬉しいよ。もふもふでふわふわのお腹で。」


「ほんと〜?じゃあこれからもしてあげるねもふもふ楽しんでね〜。」


楽しんで良いと許可をもらったので、首とお腹にほおを寄せる。ふわふわもちもちのお腹にも癒される。さっきまでの不安が消えていくようだ。


「あ、元気出たみたいだね。良かった〜!もうちょっと抱っこさせてあげるね〜!」


と、イタチ君も満更でも無いようだ。

癒し要員だ。有り難い。嬉しい。

左肩にイタチ君の顔をもたれかけるように抱き直すと、イタチ君も居心地良さそうに体重をかけてくれる。左腕の命の重さを感じながらリビングの扉を叩いた。


「あら、起きたの?入ってらっしゃいな」


母親の声が聞こえたので、イタチ君を抱っこしたまま入室して扉を閉める。


「おはようございます。父さん、母さん」


「お。ルークおはよう。ん?今日はどの精霊が一緒なんだ?良いなぁ。ルークは見えて。俺も見てみたい!しかも触らせてもらえるなんて!羨ましいぞっ!」


ダイニングテーブルについていた父親が、俺の不自然な左腕を見て、いいな。羨ましいなと言う。

笑ってはいるが、本当に羨ましそうな顔をするからちょっと笑ってしまう。


ダイニングテーブルに朝食の配膳をしながら母親が


「本当よね。私も一度で良いから会ってみたいわぁ。でも見えないって事は、その使命と資格がないって事だから、私は私で頑張っていつか資格を得られるようにするわ。」


お互い頑張りましょ。と父親にアイコンタクトをしている。俺の両親は本当に仲が良い。喧嘩しているところなんて一度も見たことがない。良い夫婦なんだと思う。


ただ、知っている夫婦が、自分の両親と、祖父たちの3組しかいないので、比較しようが無いけれど。

どのペアも仲良しで、ほんわかする。


配膳の最後に、今日の食後のフルーツであるイチゴのような赤い実を母親が並べるのを見ていたら、このご飯ともあと一年でお別れかと、寂しくなってしまって俯いてしまった。


「どうかしたか?ルーク」

「あらあら、涙の跡があるじゃない。怖い夢でも見たのかな?」


父親はあまりわかってなかったようだが、母親には心配をかけてしまった。

母親の動きを察してイタチ君が腕から浮かび上がって距離をとった。あぁ、俺の癒しが!!


目の周りのパリパリは取りきれてなかったようで、母親に見つかってしまった。濡れたハンカチで綺麗に拭ってもらった。


やはり部屋に鏡は必須だと思う。


「怖い夢は、見たのかもしれない。あのね、スキルが生えたかもしれないんだ。スキルが生えたら自立しなきゃいけないでしょ。だから俺…」


不安になって怖い夢を見たのかも。と最後まで口から発音される前に、両親に遮られた。


「「スキルが生えたかもしれない?どういう事なのか、詳しく教えてくれる(か)?」」


さ、さすが研究熱心の両親。

ほぼ同時に同じセリフを繰り出してくるとは…。


ワクワクという文字が両親の後ろに見えるようだ。


昨夜のことを二人に話す。

精霊に、俺の魔力が多いみたいなことを言われたあと、その後目に付いていた部屋の机を鑑定できてしまったこと。


話を聞いた二人は、ささっと朝ごはんを済ませ(早食いすぎない!?)、別棟にある研究部屋に行こうと誘ってくる。

さあ早く、早くお食べと目が急かしてくるのだ。


こ、これは、研究対象を見る目だ。。


こうなると、いつもの優しく思いやりのある両親ではなくなる。いつもなら、急いで食べると喉に詰めてしまうからゆっくり食べなさい。と言ってくるのに。


五歳でスキルが生えるなんて、前代未聞だもんな。そりゃ、楽しくなっちゃうよねぇ。


喉にご飯を詰めない程度に急いで食べ終えると、待ちきれなかった両親によって、食後のフルーツもそこそこに両腕を支えられ…いや、もう俺両親に両腕を取られて浮かんでるし!足浮いてるし!な状態で別棟まで連れて行かれるのであった。


フルーツ!食べ損ねてる!

捕獲されてる!


「あの両親に話したら、こうなるのも仕方ないよねぇ〜」


と言いながら、フワーっと追いかけてきてくれる白い色のイタチ君。イタチ君もこの両親の反応に納得して出来ちゃうのだ。

さすが、サトラレ、ダダ漏れ、サトラレ。


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