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3-55.豪華だけど別にいらない

「ふふん、ふんふん、ふふん、ふふん。」


「「「「「……。」」」」」


時々無駄に首を振るジェイクの鼻歌が、朝食を待つダイニングルームに響いている。


昨日の建国祭結果発表とその余韻は遅くまで続いたので、祖父母たちは我が家に宿泊てしもらったのだ。


ルークが新王都に引っ越して来てからというもの、ちょくちょくやってきている祖父母たち。

辺境での仕事は大丈夫なのか?

宿泊先に、お気に入りでも出来たのだろうか?


祖父母には何年も世話になった。やっと孫から解放されたのだ、あまり突っ込んで聞くのは忍びない。それぞれの生活があるのだ。

謎はそのままにしている。


未だに同じ新王都に住んでいると言えていない祖父母たちは、今回ルークたちの家に宿泊するようにすすめられた。


「宿泊費用もさ、続けていたらバカに出来ないでしょう?まだまだ長生きするでしょ?それに、久々にみんなで居られるのは嬉しいし。」


などと可愛い孫に言われたら断ることもできず。

結果一泊し、一緒に朝食を待つことになっている。


ルークのセリフの端々に、(いつ死ねるかわからないのだから。)というニュアンスが感じられたが、そこはスルースキルで華麗に聞かなかったことにする祖父母。


同じ新王都に住んでいることをなかなか告げられず、ちょっと申し訳ないと思いつつも、ルークと一緒に食べられる朝食も嬉しいし、もしかしたら双子が起きてリビングに連れてこられるかもっ!なんて思えば、にやけてしまう。


が、ジェイクのちょっと調子外れな鼻歌の原因はそれだけではない。


ニヤニヤしながら、みんなに見えるように耳につけたルークとのお揃いのイヤーカフを揺らしてみるジェイク。


「「「「……。」」」」


「はぁ…。ジェイクじいちゃん、嬉しいの解ったから、その鼻歌やめて。ちょっと調子がズレててこっちの調子を崩しにかかってる感じがして、ちょっとイライラしちゃうから。」


「おっと、それは申し訳ない。嬉しすぎてつい、な?」


最近、ジェイクじいちゃんはレイギッシュの面倒なところが似てきた気がする。変なアピールやめて欲しいんだよね。


ルーク!よく言った!とダイニングテーブルについていた家族たちは内心思っていた。


昨日の結果発表で一位を取ったジェイクの射的屋台。それからずっと、変な鼻歌と耳につけたイヤーカフを揺らすアピールが続いていたのだ。


「ジェイクじいちゃんさ、俺あの後すぐ寝ちゃったから知らないんだけど、みんなからの賞品は何だったの?」



売り上げ第一位はジェイクじいちゃんの射的屋台だった。


ダントツで。


前世の記憶から引っ張ってきた射的なんてものは、この世界には無い遊びだった。

そのうえ…。


ルチルに聞いたのだが、まだ俺が転生する前のこの星の住人は、狩りを生業として生きている狩猟民族が多かったそうだ。

何を狩っていたのか、とても気になったが、もうその対象はこの星にはいないそうなので、聞いても意味がないと判断して聞かないままにした。

ルチルが狩りの話をする時、悲しそうな顔をしていたから、聞けなかったというのもある。


まさか鳥ではあるまいね?


今のこの世界はほぼ肉食ではない。

時々兎肉や魚が出ることがあるが、何年かに一度あるかないかである。

ルークが祖父母と暮らしたほぼ六年の間、精霊たちにもらったヒメマスを二度ほど食べたくらいだ。


基本は野菜と豆料理で事足りる体なのだ。


とはいえ、肉や魚を食べても問題なく消化できるし、病気にもならない。

動物を食べるために飼育する人も居ないし、それを止める倫理観があるわけでもない。

そう思うと今“狩猟“が残っていないのがちょっと不思議だ。


そんな狩猟民族だった遺伝子でも残っているのか、“射的“は王都民の心に火をつけたのだ。


大人から子供まで、男女問わず。

所謂老若男女全ての年齢層で人気を博した。


ルークは知らなかったが、建国祭のあの日、祭りの終了時間を過ぎてもジェイクの屋台からは人が減らず。警邏の保安隊が見つけて解散を言い渡してくれるまで、


「景品はいらねぇ!射的をもう一回させてくれ!」「俺もだ!」「ぜひ私も!子供がいた手前出来なかったの!」「中毒性があるぅ!」「もう一回!もう一回だけで良い!!」


と、ジェイクは客に拘束されていたのだ。


そりゃ、一位にもなるよね。

景品が既に底を尽きても、目的は射的なのだから。

時間外労働についての利益を抜いても一位だったそうだ。


第二位は精機商会が出した塩焼きそば店だ。

王都民からしたら初めての食べ物。

初めは伺いつつウロウロするだけだった客たちに、お味見として一口ずつ配り始めたら、口コミで広がって大忙しになったとか。


だよねぇ!焼きそばは正義だよねぇ!

ソースは今のところ作れていないので、いつか開発したい。多分材料さえ揃えられたら大量生産できると思うんだよ。


塩焼きそばに使った大豆ミートは加工品なので、元のお豆よりお値段が上がるので二位となったようだが、大豆ミートをまだ知らなかった人たちへの周知になったので、今日から大豆ミートを作る工場はフル稼働との事だ。


大豆ミートだけ、と、塩焼きそばセットの二種で売り出す。


それ、絶対売れちゃうよね。

自宅で簡単に、同じように作れるセットなんて、昨日の興奮冷めやらぬ。だよ。


この星の大豆ミートは乾燥させていないのですぐに使える。入れ物には保存魔法を緩くかけているので、十日ほどは常温で保存可能。冷蔵盤付きの棚にでも置いておけば、ひと月は持つだろうが、それは伝えていないそうだ。

すっかり忘れて食べてしまって食中毒。なんて事が起きないようにとの配慮だとか。


そして三位は僅差で花工房のクレープ屋だった。

モチモチとした食感は「今までに無かった!」と喜ばれ、従業員たちは休む暇なく焼き続けたそうだ。

その結果、従業員たちは「しばらくクレープは見たくない。」と言ってるそうだ。


うん。わかる。

俺もしばらくかき氷見たくないもんね。


僅差で四位となったのはキースの革バンドの店だ。


本人曰く、身バレしないように陰気な職人風に変装していたキースだが、キースマジックにより、色気ダダ漏れの頼もしい男になってしまっていたため、女性に人気を博してしまった。


さらに、どんなに変装しても湧き出る男の色気。

普段も男に好かれる傾向にあるキースは、昨日も人気が出てしまったらしい。


名入れは文字数によって追加料金が加算されるシステムだった。文字数が多ければ多いほど料金が上がる。

にもかかわらず、「革バンドの部分であれば、好きな場所に文字が入れられますよ。」とキース言った言葉が、“革部分であれば、どれだけでも文字が入れられる“と変換されて口コミで広がった。


しかも、キースが目の前で名入れをしてくれるというので、出来るだけ長い文字を入れたいと行列が出来ていったそうだ。

素材の利益ではなく、文字入れの利益で三位に僅差の第四位。

どれだけ文字打ちをしたのか。

お疲れ様です。


ちなみに、精霊のいる里のフルーツを使ったルーク、デイジー、ヒナギク工房、精霊のいる里は、下位となった。

これは精霊のいる里のフルーツが高価であるためである。


そして、ダントツの最下位はアーサーの店。

仕方がない。

多分オルゴールの金額が製品と釣り合ってなかったのだろう。


全部金属だったもんね。

周囲を木造にするとか、ガラス製にするとかして素材の値段を下げる努力をしたら良かったんだろうけど、忙しい中よく頑張って作ったのだから、褒めておいた。



「みんなの賞品な。

びっくりするくらいいつも通りの知ってるやつばかりだったんで、欲しそうにしていた奴らに分けてやった。くじ引きで引いたやつにな。」


「え。」


嘘でしょ?

要らないからってあげちゃうとか、信じられない。


と思っていたが、どうやら本当に家族としてはみんな持っていたり知っていたりする、一般的になものだったらしい。


アーサーからは何に使えるのかギア。(は?何それ。父さんどういうつもり!?)


アイリスからは足湯で使えるタオルのセット。(うん。持ってる。)


キースからは、革バンド。(うん、持ってる。)


ハンナとデイジーからは、七種類が入った高級ブラシセット。ジェイクには不必要。

くじ引きは凄惨を極めたそうな。


精機商会からは、盤の引換券。

花工房からは、焼き菓子の引換券。

ヒナギク工房からは、ガラス製品の引換券。

精霊のいる里からは、温泉施設の入場チケットとナップサック、湯浴み着、作務衣、タオル、スリッパの引換券。


うん。どれも知ってるし、今更どれも…。

いや、焼き菓子の引換券とガラス製品の引換券は欲しいかも。お店に行って好きなやつと交換できるんでしょ?ちょっと楽しそう。


いや。お金は沢山持っているのだ。

自分で買おう。そのうち自分でみんなの店に行ってみるのも悪くない。


バタバタしていて、すっかり忘れていたけれども、公園地区の様子も見に行かなきゃだ。


そうして思い出して、今日は学校の帰りに行ってみようと心に書き留める。


「お待たせをしたしました。」


ちょうど良いタイミングで朝食が運ばれてきた。今日の配膳もペコーラとペラニカ。

完璧に配膳して、ぺこりと頭を下げるとスッとキッチンの方へ消えていった。



「ご馳走様でした!」


食後のお茶も素晴らしいタイミングで運ばれてくる。本当に有能すぎて、居なくなられたら困る人材である。


でもこのままでは、ダメな人間が増えていく気もしている。優秀すぎるが故に全て先読みしてやってくれるのだ。


ルークは自分で出来ることは、できるだけ先んじてやるように、こちらも心に書き留める。


気にしなきゃならない事が日々どんどん積み上がっていく気がするが、気にしておかねば周囲に迷惑をかけ続けることに。

それだけは避けたい。


お茶を飲み終わると、今日は学校の帰りに公園地区を見てくる事を伝える。


「何を言ってる?今日は昨日の続きがあるだろう?スヴァーニル氏の魔力接続がまだだ。」


キースに言われ、ハッとする。


…思わずハッとしてしまったが、魔力接続の約束なんてしていただろうか?

すっかり忘れているのだが、キースが言うのだから間違いないのだろう。


「えっと、じゃあどこへ行けば?」


「三輪駆動車で学校まで迎えに行く。終わったら三輪駆動車の駐輪スペースに来てくれ。」


「わかった。そんなわけで、今日もキースじいちゃんと一緒にいるから、帰りが遅くなっても心配しないで大丈夫だから。」


「解った。」「気をつけて帰っておいで。」


アーサーとアイリスはそう言うと、二人とも今日は遅くなるとの事。放送盤についての問い合わせが他国から来るだろうから、質疑応答の例文を一通り知りたいとの事で呼び出しがあったらしい。


「あー。それは遅くなるやつね。」

「そうね。キツいやつだわ。」


ハンナとデイジーは少しやな顔をした。

上下水道の公共事業の時に経験したのだろう。


多分クレーマー対策みたいなやつなんだろうな。とルークは解釈した。

前世でやった事があるが、精神力がゴリゴリ削られる奴だ。


どの世界にもおかしな奴はいる。

この世界においても、そう言う奴が入り込んでしまっている以上、対策は必須なのだろう。


頑張ってください!!

心で応援して、制服に着替えて学校に行く事を伝えてダイニングを出て部屋へ向かう。


「トビー!学校に行くけど、一緒に行くかい?」


ルークは部屋で着替えつつ、トビーのために準備した簡易的な止まり木で待っていてくれたトビに声をかける。


ピーオ!

とひと鳴きし、首を傾げるトビー。

なんと言ってるか理解出来ないが、一緒に来るなら肩に乗ってくるだろう。

着替え終えて部屋を出ようとすると、スルリと飛び上がり肩に乗ってきたので、一緒に行くのだろう。


ピーオの声は“うん“の可能性ありね。


トビーを肩に乗せて家を出て学校に向かう。

いつもと同じ通り道。いつもと違うのは、肩に乗っているのがルチルではなくトビーだと言う点くらいだ。


「なんだろう…?今日はやけに視線を感じるなぁ。」


道中みんなが振り返って見つめてくるのだ。


ルチルはみんなに見えにくい(ルチル本人が隠蔽のスキルを使ったり使わなかったりする)が、トビーはスキルを使えない普通の鳥、トビ。しかもでっかいのでみんなの目に晒されていることに学校に到着し、トーマスに言われるまで気が付かなかったルークであった。

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