3-31.ペタンペタン、ペー。
公園前では、子連れや子供だけの人々が大勢並んでいて、かなりの行列になっていく。
公園全体はサーカスのテント屋根のような高さのある布の屋根で覆われているので、日焼け対策もバッチリ。色は薄い色にしたので中も明るい。
南公園はアスレチックをイメージした。
中央に小さな子供でも遊べる数段の階段(階段だよ!階段!!画期的だよ!馴染みがなさすぎて遊んでもらえなかったらどうしよう…。)と大きな子供が遊べる縄梯子と長さと高さの違う滑り台を設置。縄梯子で登った先は縄で出来たアスレチックが上空に張り巡らされている。
下り口や上り口にな?縄梯子は周囲ニヶ所に追加、二ヶ所はロッククライミングみたいな壁も設置してある。
絶対に落ちないように、もし落ちても怪我をしないようにスキルも張り巡らせているし、常に監視員が見守ってくれるようになっている。
安全対策もバッチリだ!
本当はターザンロープも付けたかったんだけど、馴染みが無さすぎるってじいちゃんたちに却下されたんだよねぇ。絶対楽しいのに。
滑り台の周囲を東西南北の四区画に分けた。
水遊びゾーン、ボールプールゾーン、小さい子がヨチヨチ歩けるゾーン、触れ合いゾーンだ。
触れ合いゾーンでは、人間に触られても良いよ?という動物に集まってもらった。監視員にお金を払うと、動物のおやつが買えるという、良くある仕組みも組み込んだ。
その周囲に足湯ゾーンだ。
タオルのレンタルもあるが、持ち込みも可能。
セルフランドリーも本日からお披露目だ。
無人なので、開店してある。
監視員からそちらの紹介もして貰ってある。
洗濯魔道具の便利さに気がついてくれる人がいたら良いな。
並んでいる人たちのほとんどは、安心君やビラを凝視しているし、順番が来ると監視員からも注意すべき点など伝えられてから入場する。
問題なく行列は短くなっていく。
ルークに宛てがわれたタープからもそれがよく見えた。
「うんうん。この感じだとどの屋台からもよく見えるね。良い感じ、良い感じ。」
「ルーク様!手を動かしてください!」
「はい!すみません!!」
ローゼリアにサボっていると思われてしまった。ちょっと気になって公園を見ていただけなのに。
ローゼリアが叱ったのも無理もない。
口コミの凄さに二人は驚きつつ手を動かしていた。
かき氷の冷たさも、ガラス容器の素晴らしさも、無料の屋台地図も。
どれか一つを聞きつけて、並んでいる間に残りの二つを耳にして、結局ガラス容器と屋台地図も誰も彼もが欲しがるのだ。
容器に関しては、キースによってたっぷり準備されているので夕方まではどうにか足りそうだ。屋台地図も片手間のスキルでさらっと『複製』して既に箱の中に大量に準備済みだ。
問題は、ユキちゃんに丸投げしてしまったフルーツの凍結だ。
だんだんかき氷の注文に間に合わないフルーツが出てきたのだ。
「ユキちゃん大丈夫?少し休憩する?(ボソリ)」
「大丈夫よ!今話しかけないでぇ!」
必死に温度計と格闘しているのが横目で見える。
指定した温度でないと、上手くかき氷にならないので妥協出来ないのだ。
「桃二つです!ガラス容器で!」
「はい!」
次々と注文が入るので、雪豹の精霊のフォローに回れない。
感覚の問題なのだが、温度を一定にと言ったのがまずかったらしい。
いつもユキちゃんが美味しいって食べてる温度なんだけど、そう言った方が良かったなぁ。
通常ダダ漏れサトラレなのだが、必死な雪豹の精霊がルークの思考を読めるほどの余裕はなかった。
「おまたせ!桃二つ、ガラス容器付きです!」
ワクワク顔で待っていた二人に、桃たっぷりのかき氷を手渡した。ありがとうございます!と声をかけられた。
「ルーク様、次は甘瓜三つにマンゴー四つ、共にガラス容器です!」
「了解です!」
次々に注文が入る。
次は団体様なのか、一気に七つも注文が入った。
確認すると甘瓜が三つ分、マンゴーが三つ分しか凍結が終わっていなかった。
既に自転車操業。
これは、かなりヤバい。
雪豹の精霊に気が付かれないよう、足りない分のマンゴーをさらりと凍結させ、かき氷機にセットした。
ローゼリアの方を見ると、めちゃくちゃ楽しそうに接客してして、彼方はまだまだ余裕がありそうだ。
「お待たせしました!まずはお先にマンゴー四つ、ガラス容器です!甘瓜、もうしばらくお待ちください!」
販売のローゼリア、かき氷にする作業のルークは問題なく捌けているので、雪豹の精霊の助けをしたいところだが、下手に手を出すとがっかりさせてしまうのではないかと、言い出せずにいる。
「甘瓜三つ、ガラス容器です!お待たせしました!」
「お兄ちゃんありがとう!冷たくて可愛くて、私かき氷大好きになっちゃった!」
甘瓜のかき氷を渡した小さな女は、ニコニコと可愛らしい笑顔でルークに礼を伝える。
「こちらこそ、買ってくれてどうもありがとう。冷たいからゆっくり食べるんだよ?キーンって頭が痛くなっちゃうことがあるからね?」
と注意を促し手を振った。
「「「「可愛い…。」」」」
ルークの呟きと、周囲の人たちの呟きが重なり、目を合わせる。
先程の女の子とルークのやり取りを周囲のみんなも微笑ましく見ていたのだ。
あははと互いに笑って目を逸らし、次の注文をこなしていく。
「よう!姉ちゃん!もう体調は大丈夫なのかい?マンゴー三つ頼めるか?使い捨ての容器で。」
ローゼリアがなんとなく聞いたことのある声に声掛けされているので、ルークはそちらを見る。
ローゼリアはほぼ気を失った状態だったので困惑顔だったが、ルークには見覚えがあった。
自分が非常識全開でロロガン一家の三人をぶっ倒れさせた時に運んでくれた三人組の一人だったのだ。
「こんにちは!先程はありがとうございました!お陰様で三人とも復活してます!ローゼリアさん、ほら、さっき倒れた時に助けてくれた人だよ。」
と、ローゼリアに教える。
ローゼリアはにっこり笑って
「その節は助けていただき、ありがとうございました!お陰様で元気に仕事をさせていただいています!」
「おお、良かった良かった!それより、ここで屋台地図ってのがかき氷を買うと貰えるって聞いて来たんだが、まだあるかい?」
ローゼリアは箱からさっと三部手に取り、こちらですよ。と手渡しているのを見ながら、ルークはマンゴーのかき氷を三つ仕上げていく。
ペタンペタン…。
「助かるよ。この新王都は初めて来たんでね。何処に何があるやら。」
「どちらからいらしたんですか?」
「ロスカ王国だよ。」
「「「「え!?」」」」
聞き耳を立てていた周囲の人たちも驚いた声を出した。
ロスカ王国とは旧アバランチェ王国の事で、数年前に新王が誕生し、ホーネスト王国の対立国家だったのを友好国として認めてもらえるように体制が整ったばかりの王国なのだ。
それだけでも驚きなのに、更に驚く事実として、その距離があげられるだろう。
大陸の中央に位置するホーネスト王国に対し、ロスカ王国は最北端を含む北西に位置するとても寒い地区。
馬の能力が爆上がりした今でも、馬車で一月半(少し前までは数ヶ月)はかかる距離をやってきたと聞けば誰でも驚くだろう。
ペタンペタン…。
「それは遠いところからお疲れ様です。宿は取れてますか?」
ルークが尋ねると、周囲の者たちもロスカ王国からやってきたお兄さんを見る。
「ありがたいことに、北の地区で取れたんだよ。そこで馬たちを休憩させてる。ただ屋台の場所取りが南しか取れなくてなぁ。荷物の搬入にてんやわんやだったよ。」
「商人さんなんですね。お疲れ様です。」
それは可哀想なことをしてしまったかも。
何処から来たのか、宿は何処なのかも考慮して場所を決めてあげたら良かったな。
ペタンペタン…。
ルークは反省し、忘れないようにノートに書き出しておきたかったが、今は手が離せないので精霊ネットワークに記しておいた。
「いやいや、南で良かったよ!この地図によると、冷たいものが食べられる屋台はここだけだろう?この国は暑くて暑くて。また買いにくるよ!」
まだ渡してもいないのに、冷たいものが食べたかったんだな。
「今回の三つは、今日お助けいただいたお礼とさせてください。あの時助けていただけなかったら、途方に暮れていたはずですから。ありがとうございました!」
「ありがとうございます!」
二人でお礼を伝え、マンゴーのかき氷を三つ乗せたトレーをランニングシャツのお兄さんに渡した。
「え?良いのかい?そんなつもりは無かったんだが…。でも、ありがたくいただくよ!また後で買いにくるけど、次はちゃんと支払うからね!」
と笑顔で去っていく。
アバランチェ王国と言えば、ルークを誘拐しようとしたラグラーと人格破壊を促す魔道具を思い出すが、やはりおかしな人間はごく一部だったのだろう。
今日会った三人はとても良い人たちだった。
俺センサーは反応しなかったし。
嫌な人はなんとなく解るものだ。それを俺センサーとこっそり呼んでいる。
「ルーク様!次は甘瓜二つ、桃四つです!共にガラス容器でお願いしまーす!」
ペタンペタン…。
「はーい!」
それにしても、さっきからペタペタと地面から聞き慣れない音が聞こえるが、一体なんだ?と、かき氷機にフルーツをセットしてスイッチを押したところで、音が通っていった場所を確認する。
「ペッ!!!」
「ぺ?」
突然変な声を出したルークをローゼリアが何事かと見る。
「なんでもないでーす!もうしばらくお待ち下さーい!」
「はーい。お願いしまーす。」
ローゼリアが客に向かって支払いのお願いをしているのを聞きながら、今見たモノを再確認する。
「ぺ?」
うん。ペンギンだ。
しかも、キングペンギンの精霊だ。多分。
首元にうっすらと見える薄ーい水色の模様で判断した。
まぁ、キングでもコウテイでも良い。とにかくデカい。デカさではコウテイペンギンよりもデカいのだ。
「ルーク様!やはりルーク様ではありませんか!?なにゆえこんな場所に!?ぺー!」
え?
「んー??甘瓜二つ、桃四つでーす!」
出来上がったかき氷をカウンターに置いて、受け渡しもローゼリアに任せることにする。
ローゼリアも慣れたもので、出されたかき氷をお客様へと渡してくれた。
「知り合い?ペンギンの精霊に知り合い居たっけかな?(ボソリ)」
「なんですと!?私をお忘れですかぁぁ!!ルークさまぁ!!ぺー!」
「ルーク様!次は桃二つです!使い捨ての容器でお願いします!」
「はーい!」
注文は途切れる事がなく、ペンギンの精霊に構っている時間が全く取れそうにない。
仕方がないのでちょっと放置させて。
後で時間取るから!
「そうですか…。解ったのです。ぺ。」
語尾がとても気になるが、放置しても良さそうだ。ちゃっちゃと次のかき氷を作ってしまおう!
「ほう。かき氷ですか。ふむふむ。」
ペンギンの精霊は、ルークが座った椅子と作業台の間、膝と膝の間に体を捻り込み特等席でルークの作業を見守る。
うはぁ。めっちゃ邪魔だな。
ムチムチしててめっちゃ気持ち良いけど、少し屈んでくれないと手元が見えないっ!
すると、すっとしゃがんでくれたので手元が見えるようになる。
ダダ漏れサトラレである。
「さっきの者たちがこの王国に行くと言うので、馬車に便乗させて貰ってきたのです。ペー。」
突然始まる独白に、戸惑うルーク。
「まさか馬車でひと月半も掛かるとは思わず。そして、この王国がこんなに暑くなっているとも思わず。苦労の連続だったのです。ぺぇ。」
そ、そうなんだ。
「ルーク様にお会いしたくて、Hに内緒で出てきたのです。」
ん?「ん?」
ルークが思うのと同時に、雪豹の精霊が反応した。
「転移で来れば一瞬でしたが、王国から王国への転移など、大量の精霊力を使えばHにバレますからね。こっそり抜け出すには徒歩か馬車しかなかったのです。ペッ。」
んん!?
めっちゃ気になる!なんでこんな忙しい時に独白なんてっ!!ずるいじゃん!
「え?Q様!?」
え?クィーン?
いや、キングペンギンです。クィーンペンギンじゃないです。
あれ?この星にはクィーンペンギンっていう名前のペンギンが?
居なくもなさそう。
「ぺー?」
雪豹の精霊が驚きの声を上げたので、ルークはちらりと雪豹の精霊の方へ目をやる。
くわっと口を開け、目をまん丸くしている雪豹の精霊が目に入った。
めっちゃ驚いてるじゃん!そんな顔見たことないかも!
ってか、ユキちゃんのお知り合い?
「アッシュアッシュと父上の名が出るので何かと思ったら!クィーン様ではないですか!?」
「おお。アッシュの娘ではないか。久しいなぁ。息災であったか?ぺ。」
二人はルークを挟んで話し始める。
気になるからあっちでやってて欲しいな。
ペンギンの精霊は腹這いになると、スルーっと雪豹の精霊の横に滑っていく。
そんな移動方法があるなら、なんでペタンペタンと歩いてきたのかな?
絶対そっちの方が早く移動できるじゃん?
「忘れていたのだ。わっはっは!ぺ。」
そうですか…。
賑わう周囲の声と祭りならではの音楽がスピーカーから比較的大きな音で聞こえてくる。
いろんな音に紛れて精霊同士の話は進んでいく。
「クィーン様がこちらにいらっしゃる事、父は知らないのですか…。」
「そうなのだ。秘密だ。また精霊王になれとか言われてな。折角戻ってきたのに、ルーク様に会わずに精霊王になんかになったら会いに来れないではないか!ぺー!」
え!?精霊王に!?
なんだ?なんか聞き覚えが?思い出してきたのか?
確か、アバランチェ王国を統治していた精霊王はEイーラで、既に鍛錬所へ送られた後のはず。
残念ながらこの世での浄化は無理だったからだ。
精霊王が居なくなると、薄かった加護が完全に無くなってしまうので、雪豹父の精霊に次期精霊王をとお願いしたのだが、やはりQクィーンこそが相応しいからと、精霊王代理にしかなって貰えなかったのだ。
うん。思い出してきた。
代理なので、やはり加護が薄めになってしまう。
補うために雪豹父の精霊を中心に、精霊王代理を五人指名してきたわけだが…。
ちゃんと仲良くやってくれているのだろうか。
そこに、クィーンが帰ってきたとなれば、大喜びだったはず。
それが今ここに?
「なんでさ。」
ルークは思わず呟いた。
「で?雪豹は何をしている?」
話し込んで作業を中断していた雪豹の精霊は、ペンギンの精霊に尋ねられて、ひゃあ!と声を出して、慌てて作業を再開した。
「ふむ。マイナス十八度。」
雪豹の精霊がやっとマイナス十八度に凍らせた桃を掠め取って、モグモグと食べてしまったペンギンの精霊に、雪豹の精霊は愕然と口を開けた。
「な、な、なー!!!」
「モグモグ、ごっくん。そう騒ぐでない。これは美味だな。ほれ、雪豹も食べてみよ。」
出来上がったもう一つの桃を雪豹の口に放り込んだ。
「んぐー!!美味しいー!!」
文句が言いたかったはずの雪豹の精霊だが、食べてみたら、いつも美味しく食べている自分好みの氷具合だと気がついた。
「なんだ。そう言う事…。」
雪豹の精霊はため息をついた。ルークは自分が一番好みの凍り具合を温度で示してくれていたのだと、食べてみてようやく気が付いたのだ。
「ほれほれ、そこの箱の中のフルーツの皮を剥いて、皮はカットしてあちらへ。実は一定の温度にまで下げてあの箱に転移するのだろう?ちゃちゃっとやってしまおうか。」
「え!?クィーンも凍結の手伝いを!?」
ペンギンの精霊は、戸惑う雪豹の精霊をよそに嬉々として手伝いを始めたのだった。
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塩焼きそばを人数分手に入れたロロガンとローラは、アイリスのところで、エマとオーリーというお手伝いさんがそれぞれ抱いていた双子を愛でつつ、チョコバナナ二種類を人数分ゲットし、アーサーの店の前で呆然としていた。
「ア、アーサー様…。これは?」
「え?ブリキのおもちゃだよ?」
アーサーの屋台はネジ巻きで動くゴツイおもちゃと洒落っ気のない箱が並べられていた。
「ぶりき?」
聞きなれない言葉がゆえに、ロロガンはオウム返ししかできない。
「ブリキっていうのはね?鋼板の表面にスズをメッキしたものなんだよ。錆びに強く、耐食性があって、前世では溶接や半田にも適しているからって広く使われてきた素材なんだよぉ!」
「うん。一切理解出来ませんが、前世って事は、新素材ですね?ちゃんと精機商会に通しました?」
「あ…すっかり忘れていた!」
ロロガンとに言われて、慌てて安心君で通信を始めるアーサーをよそに、ローラは全く洒落っ気のない四角い箱を手に取る。
どうやらこの箱は蓋が開くようになっているようなので、そっと開いてみると、建国祭といえばこの曲!という有名な曲の一小節が流れた。
めちゃくちゃ良い音を奏でるので、周囲にいる人も音に釣られてやってくるが。
「めっちゃ無骨っすね。」
ロロガンは呟くと、ローラも頷く。
「「これはこれじゃ売れない…。」」
通信を終えたアーサーは、
「え?何で?こっちはこう、ネジを巻くとほら!動くんだよ!子供に遊んでもらえるでしょ?こっちもネジで巻いて、ほら!ネジが壊れない限り、ずっと音楽が鳴るんだよ?」
ほらほら!と、親切に大変わかりやすくプレゼンしてくれるのだが、いかんせん色が全て灰色で色気も素っ気もない。
ブリキのおもちゃを子供向けというが、拘りすぎていてデカくて重い。
決して子供が楽に遊べるサイズではないのだ。
腕も飛ぶと言って、「ロケットパーンチ!」と謎の呪文を呟きつつボタンを押すと、確かに肘から下が飛んでいくのだが、それが一体何だと言うのか。
作った人形の腕を飛ばしたら、子供の教育上よろしく無い。
折角見ていた親子が顔色を無くして去って行った。
アーサーは大丈夫だろうかと、ロロガンとローラは本気で心配になったのだった。
誤差報告大変助かります。
ありがとうございます。




