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3-21.減点六十三点

ホールの中央の壇上に立ったカミカミの若い男性がホールから外に繋がる一番大きな扉を指差した。ルークの後ろだ。


扉の開き始めに少しキュルッと音がしたが、後は四枚引き戸はスムーズに開く。

開いた先には保安隊の制服を着た大人たちが、三輪駆動車に足をかけた状態で立っていた。


わぁ!と生徒たちが立ち上がって騒ぎ出した。


「あちゃー。やっぱりか。」


(あら、気がついてた?)ピッ。


「まぁ、うすうす?実演と法律って、タイミング的にもさ、タイムリーだったし。メーネさんとロロガンさんから宮廷に話が行ったんだろうね。」


生徒の大騒ぎでルークの独り言は周囲には聞こえまい。一番後ろに座ったので保安隊がやってきた場所に一番近く、前に人がいないので安心して小声で話す。


(あの制服の子達、ルークにカッコイイ所を見せようと、扉の先でワクワクしてたのよね。その心の声が面白くて笑っちゃったのよ。)ピッ。


「そうなんだ。まぁ、三輪駆動車は今みんなの憧れみたいだしねぇ。でもさ、デザインしたのも考案したのも俺なんだよね。なんなら法律についても口出したの俺だし。何をどうしてカッコいい所を見せてくれると言うのかね?」


と呟けば、だから面白いんじゃないの!とルチルが笑った。


保安隊の人たちは三輪駆動車に乗って中央付近までやってきて、壇上の周囲を何周かしている間に、宮廷役員の制服を着たメガネの男性が壇上に上がると生徒たちはピタリと静まり返り、椅子に座り始めた。


専門書らしい分厚い本を持っているあのメガネの役員が法律の専門家のようだ。


全員が椅子に着席したのをぐるりと見渡して確認した後、メガネの役員もとい、(もうメガネさんと呼ぼう。)が『拡声』とスキルを使ったのがルークには確認出来た。その前に他にも二つ使ったようだが、その二つは解らなかったが、スキル発動と共に沢山のサファイヤ色をした蝶が舞い始め、天井と生徒たちの頭の間を行ったり来たりしながら停滞した。


(風属性の上位スキルかな?あれば便利だねぇ。マイクが作れちゃうじゃん。)


(ふーん。面白い魔道具が出来そうじゃない?んぐ。)


ルチルが漏れ声を我慢したようだ。流石に今は目立ちすぎると思い、ルチルは頑張った。

それにしても綺麗だな。


「初めましてみなさん。我々は宮廷より国王様より直々に任命されました。第四保安隊の者と宮廷法律家のレッジムと申します。

しばらくの間皆さんに交通に関する新しい法律について学んでもらいます。」


みんなじっとメガネさんに注目をしている。


「皆さんは今ここに乗りつけた三輪駆動車をご存知でしょうか。知らないと言う方は挙手でお知らせください。」


生徒たちはから一人の手も上がらない。

むふふ。大分知れ渡っているようだ。


「ふむ。では、この三輪駆動車が王都に導入されるにあたり、法律が新たに成立したことを知らない方は挙手でお知らせください。」


また、生徒たちの手は上がらなかった。


(へぇ。法律が成立したこと自体は周知されてるんだ。)


(精霊王とこの国王が頑張って周知させたらしいわよ?まぁ、全ての内容までは知らないだろうけど。んぐ。)


「ほほう。そうですか。では、法律が出来たことは知っているけれど、その内容まではご存知でない方は挙手をお願いします。」


するとチラホラと手が上がる。


「ふむふむ。では、内容を全て知ってると言う人は挙手をお願いします。」


うーむ。法律の基盤は作ったが、結局作られた法律は確認していないのだ。


ルークは手を挙げなかったが、中央のステージよりも奥に座っている生徒たちが十名程度手を挙げていた。その手付近に光の精霊がふわふわと浮いているのが見える。セキセイインコのゆるキャラっぽい…。


(んー?さっきも見えたけど、あの光の精霊って隠密の子だよね?ゆるキャラだし。なんであんなところにいるんだろう。)


(え!?ルークに頼まれたって言ってるけど、覚えはないの?んぐ。)


(は?俺が頼んだ?んー。ん?

あ!そう言えば頼んだ!危険運転していた生徒を追って張り付くように言ったんだった!)


精霊には思考がダダ漏れ、サトラレ。

見えていた光の精霊がひゅるひゅると落ちていくのが見えた。


(ご、ごめん!ありがとう!もうしばらく張り付いててくれる?)


ルークは強く念話で願うが落ちた光の精霊に届いただろうか。届いたと信じよう。


ルークが光の精霊に念話を送っている時、光の精霊が居たあたりで「おお!」「流石です!」と生徒たちのざわめきが広がっていた。


(なんだ?光の精霊はみんなに見えないはずなのに。)


(違うわ。法律の内容を全て知ってるって挙手した子が周囲に煽てられて、三輪駆動車の免許証を見せびらかしたのよ。んぐ。)


(へぇ。誰でも免許は取れるのに?)


(三輪駆動車を持ってるって証明になるんじゃないの?まだそれほど普及してないんでしょ?んぐ。)


(そう言うことか。なかなかの金額のうえ、少し前に予約販売が終わったばかりのはずだから、今持ってるってことは予約していたか、一般販売されたばかりの三輪駆動車を手に入れられたって自慢になるわけね。)


ルークは納得して、生徒たちの声に耳を傾けつつ、視線を送る。


「さすがルーク様ですわ!」

「確かルーク様のご実家が販売権を持ってらっしゃるとか!」

「三輪駆動車の技術提供したという話もあったよな?」

「精霊のいる里の権利もお持ちだとか。」

「え!本当にそのルーク様なのですか!知りませんでした!」

「噂が一人歩きしているのだとばかり。」

「知らなかった!」「凄い人だったんじゃん!」


誰かが投じた一石がまるで水の波紋が広がるように周囲に広がっていくのが見えた。


それを無言で見つめる保安隊の面々。

今日この場にいる保安隊の人達は昨日トーマスの部屋で会った第四保安隊の隊員たち。

厳しい視線で三輪駆動車の免許証を掲げる青年になったばかりの年齢の生徒を見つめている。


見つめられている注目の的の生徒が椅子から立ち上がったため、座ったままのルークからも顔だけが見えた。頭の上にヨレヨレの光の精霊が乗っているのも見えた。さっき落ちた光の精霊だ。


「さぁさぁ、みんな落ち着きたまえ。授業はこれからだよ?保安隊の皆さんお騒がせをしました。」


ふふんと顎を突き出し、周囲の生徒たちを細めた目で見下げるその生徒。


(んー?否定も肯定もしないと?一瞬身バレしたのかと焦ったじゃないか。なんか色々情報があやふやだけど。)


「……のに。」


隣の女の子が何か呟いたが聞き取れなかった。


「おお!君が噂のルーク君か!次の休みに精霊のいる里温泉に行けることになったんだよ!後で名物を教えてくれるか?」


中央のステージの周囲に散らばる保安隊の一人が、ルーク・フェヌックスの正面に移動して話しかけたようだ。


「え、はい。そうですね。今は授業中ですので、時間のある時にでも。」


(へぇ。それはぜひ同席したいもんだ。)


ゆっくり座ったのか、ルークからは見えなくなった。


---

ルーク・フェヌックス 15歳 *

職業:王都学校五年生 フェヌックス次期領主

友達精霊:なし

スキル:なし

魔力量:D

魔力操作:D

---


うん。平凡。

友達精霊がいないのは、この星の魂じゃ無いからか?

またアスタリスクが付いてるな。

じっと結果の*を眺める。


---

天王星人:密入星者、現在潜んで生活中→DV・モラハラの祖。精神攻撃が得意。頭の回転が良く口も上手い。強い妄想力で丸め込むのはお手のもの。

---


この星の人、結構入り込んでるのかもなぁ。

この持ち前の“良い頭の回転“で、精霊ちゃんたちの精霊送りを逃れてきたのだろう。

頭が良くて回転が良いなら、良い方に使えばそれなりにこの星の役にも立つのだろうが…


(DVとモラハラか。どっちも要らんな。)


ルチルからの返事は無い。

さっきの言葉にも哀愁が感じられたし、思うところは深いのだろう。


あれ?と言うか俺、このフェヌックス君と間違えられて一瞬死んだんじゃなかった?まだ捕まってなかったのか。嫌疑不十分ってやつか?


「今の君。さっきの質問で挙手をしていたね?」


メガネがルーク・フェヌックスに声を掛けたようでガタリと椅子を揺らして再度立ち上がったのか、またフェヌックスの顔がルークから見えるようになった。


「はい!新たな法律が成立したと父上から手紙と新たな法律書が届きましたので、全て暗記させてもらいました!」


メガネさんの質問にフェヌックスは胸を張って答える。


「凄いぜ!ルーク!あの分厚い法律書を暗記するなんて!」


やけに声の大きな太鼓持ちがいるな。体もデカいからか頭頂部が見えてる。これなら鑑定できるか。


---

ジャイン・ラピーナ 15歳 *

職業:王都学校五年生 ラピーナ次期領主

友達精霊:なし

スキル:なし

魔力量:D

魔力操作:D

---


んー?

ラピーナ?ラピナ…

イタリア語で強奪とかって意味じゃなかった?

じゃあ、ジャインってもしや、前世の世界で有名なガキ大将的な…。

いやいや、まさかね?

たまたまだよね?


アスタリスクに注目する。


---

海王星人:密入星者、現在潜んで生活中→暴力・強奪の祖。暴力の権化。恐怖の権化。楽しく暴力を振う。責任転嫁がお手のもの。

---


またか。

このペアが多いのか?

でも昨日の保安隊の海王星人より、こっちの方が小者って感じがするのは、領地の差があるからか?


昨日の海王星人は叔父さんがエロガンス領主で侯爵だって言ってたっけ。

こっちのフェヌックスは確か伯爵相当で、海王星人のラピーナは何年か前にどっかの領地とくっついて男爵から子爵になったんだったか。

なはず!

フェヌックスの方が爵位が上だから太鼓持ちなんてやってるのか。


正直、爵位の上下があったところで俺には関係ない。

俺がすべきことは色々あるだろうが、何より優先されるのは星の意向だ。

この件に関する星の意向は、密入星者から領地をこの星の子に返して真っ当な領地経営をしてもらうこともその一つだと感じる。


密入星者も他星の転生者も、この王国にはあんまり入ってきてないって話だったはずだけど、なかなかに見つけている気がする。


学校だもんね。あちこちから人が集まるから会いやすいだけだよね?


他の王国にはどれだけ入ってきてるのかね?ちょっと怖いよね。

今思えば、他の王国から俺を捕まえにきたラグラーだって、絶対他の星の魂だった。あの時はまだ鑑定出来なかったからわからなかったけど。


じっとその海王星人、ジャイン・ラピーナの見えている頭頂部に注目していると、後頭部からジリジリと光の精霊が這い上がってくるのが見えた。


(ということは、あの危険運転の犯人はこの二人ってことか。)


「ほほう。暗記。ですか。それが本当なら素晴らしいですね。私でも暗記はしておりませんので、優秀なのでしょうねぇ。」


なんだ?メガネさんのメガネが光ったように感じたぞ?


「では、第五十条第一項第三号をどうぞ。」


突然の質問!されたらビビるやつ!

全校生徒の前とか、俺なら絶対やだー!


「え?は?え?」


「あれ?答えられませんか?では、第五十条第五項第二号を暗唱してください。」


む、無茶振り!

フェヌックス君、青筋立てちゃってるし!

でも暗記したのが本当なら言えるよね?

でも、緊張しちゃうかー。こんな大勢の前だもんね。


「おやおや?条項号ではわかりにくかったですか?では解りやすく優しくしましょうか。三輪駆動車に乗る際安全ベルトはどうしますか?」


フェヌックスは安心したのか、質問が優しくなりすぎたのか、含み笑いを噛み殺し


「もちろん着用が義務です。着用しなければ免許証から減点されます。減点は三十点で免許は失効、五十点で免許剥奪となり二度と免許は発行されません。ちなみに安全ベルト無着用で五点減点となります。」


声高々に言う。

じゃあ後ニ十五点で失効だね?


「ほう。減点の話は答えられるのですね。ではスピード出し過ぎでは?」


「そちらも減点対象ですね。専用道路でのスピード出し過ぎで五点減点、専用道路外でのスピード出し過ぎで十点減点となります。誰かが近くにいて危険運転と認定されたらどちらもさらに五点減点です。」


へぇ。じゃあフェヌックス君はさらに十五点減点で残り十点だよ?


「よく学んでいるようです。では、並列運転についてはどうでしょう。」


メガネさんが言うと、低学年の子達にも解るようにだろうか、ステージ下で保安隊の人たちが三輪駆動車で並列で運転を始めた。王都用の三輪駆動車の後ろには、荷物入れの大きなカゴが設置されているので並列運転すると後輪同士がぶつかる危険性が高くとても危険なのだ。王都用として、リヤカー部分を小さくはしたが、その分運転している人の注意力は下がるのか、


ガシャン!


あぁ、見本としてぶつかったのだろうけど、びっくりした。周囲の生徒たちもビクリと大きく体を震わせた。


こんな風に結構大きな音がするし、運転不能になって転んでしまう事もある。今はスピードがほぼ出ていなかったので怪我はないだろうが、安全ベルトしていても危険なのだ。


「今のように並列運転はとても危険ですので、減点は十点です。」


フェヌックス君…ゼロ点になっちゃったけど?

免許失効したけど?


「そうです。さらにスピードが出ていた場合は追加で五点マイナスとなります。」


メガネさんがダメ押しとばかりにルーク・フェヌックス君に告げる。

フェヌックス君!マイナス五点だって!!やばく無い!?ゼロ突破したよ!?


「では、後三つ。専用道路以外での運転、三輪駆動車の放置、最後は個体番号の削り取り。について教えていただけますか?」


ルーク・フェヌックスはここにきてようやくメガネの話している意図に気がついたのか、静かに震え始めた。


「せ、専用道路外での運転は、げ、減点十。放置で減点五、こ、個体番号の削り取りは減点八です。が、こちらは犯罪となるため見つかれば即刻逮捕されます。」


「ご名答!素晴らしい。きちんと覚えていて偉いですね。皆さんルーク・フェヌックス君に拍手を!」


メガネが全生徒に拍手をするように言う。

何も知らない生徒たちはわぁ!凄い!さすが!と言いながら拍手を送った。


いやいやいや、フルネーム知ってるとか、知り合いなの?違うよね?さっき“今の君“って言ってたもんね?


マイナス二十八点。失効三十点分を含めたら五十八点。余裕で免許剥奪じゃん?


(自業自得ね。)ピッ


色んなことに気がつかないふりをしているのか、ルーク・フェヌックスは片手を上げて周囲にアピールしながら椅子に座った。


「では、そこの君、そうです。君です。今の話をきちんとメモをしていて偉いですね。」


メガネに指差された女子生徒が立ち上がったのでルークから顔が見えるようになった。

身長が高いので高学年のようだ。


「ルーク・フェヌックス君が言ってくれた減点の数字もメモしていますか?」


「あ、はい!」


メガネの質問に真面目な表情のまま答える女子生徒は、昨日の騒ぎの時に倒れた女の子の真後ろに立っていた女の子だった。


「では、計算してください。あぁ、他の皆さんも考えてくださいね。

学校に置いてあった三輪駆動車の車体番号を削り、鍵を壊して車盗、安全ベルトもせずに専用道路以外を物凄いスピードで並列運転。人を轢きかけ爆速し、角を曲がりきれずに転んで怪我をしたので一台放置して禁止されている二人乗りをしてそのまま逃亡。さて、何点減点になりますか?」


「え?えぇ!?」


メガネは先程の話で出てこなかった減点対象の現象まで加えて話したため、誰も計算が出来ず、ザワザワと困惑の波が広がっていく。


「減点六十二点。免許剥奪だ。」


開け放たれたままのホールから外に繋がる扉から、保安隊隊長が紙を二枚片手に掲げながら入ってきた。


「ルーク・フェヌックス、並びにジャイン・ラピーナ。個体番号削り取りと三輪駆動車盗難の容疑で逮捕する。確保!」


「「「「はっ!」」」」


保安隊隊長の後ろから保安隊の人達が駆け足で入ってきて、二人を後手で縛り上げた。

生徒たちはびっくりして椅子から転げ落ちたり立ち上がったりしてちょっとした騒ぎになってしまった。

ルークもびっくりしたので椅子から立ち上がってしまっていた。


「陰謀だ!」「無実だ!」「俺は知らない!」「濡れ衣だ!」「証拠を見せろ!」などと二人は暴れたが保安隊員たちは問答無用。

周囲の生徒たちは邪魔にならないようにステージから遠のいて呆然と見つめていたが、


「俺を誰だと思ってる!?」


というルーク・フェヌックスの声に、隊長は保安隊に待つように指示をしたので、みんなが静まり返った。


「君が、誰だって?」


隊長は一歩一歩フェヌックスに近寄っていく。

後ろ姿しか見えないが、ちょっと怖い。


「俺はかの有名なルークだぞ?バックにはあの有名なジェイクさんやキースさんが付いてる。三輪駆動車だって俺が考案したものだし、精霊の里の権利だって持ってる!」


「え?そうなの?」


思わず声が出てしまった。静かになったタイミングだったので、全生徒から注目を浴びてしまった。

しかも、保安隊隊長と保安隊のみんなの視線が生ぬるい。


ごめんなさい。邪魔をしてしまって!


ただ、口に出ちゃったものは仕方がない。気になることは聞いてしまおう。


ルークはイヤーカフ型の安心君でメーネさんに音声通話を繋げ、静かに話し出す。

メーネさんにちゃんと聞いてもらうための間を確保するためだ。


「精霊のいる里、の権利って?例えばどんなものを持ってるんですか?」


そんなのあったかな?権利売買したなんてメーネさんからは聞いたことがないのだ。赤字でもないし、真っ黒字なのに売る必要が見当たらない。


「ちっ。そんな事も知らないのか。まぁ、その身長からすると新入生か?お子様だもんな。知らなくて当然か。」


ルーク・フェヌックス君は馬鹿にしたように大きな声で教えてくれるようだ。

マウント取らなきゃ死んじゃう病気かな?


「はい。入学してまだ数日なので!」


君のことも君の罪もよく知りませんよ!


「俺はな?精霊の里の権利を持ってんだよ!知ってるか?精霊の里!巷で有名なリゾート地で予約が取れない温泉施設や旅館があるんだ。そこには本当に精霊がいるらしいんだよ。凄いだろ?」


声高々に話してくれるが、

うん。知ってる。

としか感想はない。


「ええと。ですから、そこのなんの権利ですか?土地?宿泊施設?温泉施設?周囲の舗装された道?」


耳のイヤーカフからはメーネの困惑した声で「権利は一つも手放してないですよー。」と聞こえる。ですよねぇ?


「だから!精霊の里の全ての権利だよ!調べたら解る!あそこの会長はルークってみんな知ってるんだよ!」


周囲の生徒たちに困惑の声が上がり始めた。

おそらく高学年の子達だろう。


「あぁ、そう言う事ですか。」


ルーク・フェニックスの記載をルーク・フェヌックスの誤植ってことにして、知り得た全部を自分の物だと言い始めて引っ込みつかなくなっちゃったやつね。子供のやり方ね。

まさか本物が入学してくるなんて思わなかったのだろうし。

本当に権利を持ってないなら勝手に言ってたら良いんじゃない?子供のやり取りに興味はないし。何の効力もない。あるのは詐欺罪くらいだ。


それならじいちゃんたちの名前の後にさん付けは無いんじゃない?あれ?貴族って自分の祖父にさん付けで話しかけたりする?しないよね?

詰めが甘いなぁ。やるならちゃんと調べなきゃね?


納得したルークは椅子に座ってしまう。


保安隊の人達は、え?それで良いの?と言う表情だが、あえて口には出さずにいてくれた。ルークが目立ちたくないって言っていたのを覚えていてくれたようだ。


「はん!そんなわけでな!俺には強力なバックが付いてるんだ!宰相も認めたキースさんとジェイクさんだぞ?こんなことが耳に入ったら大変なことになるんだからな!ほら!放せよ!」


フェヌックス君は保安隊に強気の発言を繰り返している。


それ、自分でついた嘘が自分の中で本当になっちゃってるって感じ?キースじいちゃんもジェイクじいちゃんも、俺が罪を犯したら涙ながらに説教して罪を償って来いって言うと思うし、見知らぬフェヌックス君を庇うことなんてないと思うよ?


ルークは可哀想な子を見るような視線を送っていた自分の目を瞑った。勝手にやっててくれ。


「ルーク!その時は俺も助けてくれよな!大体あれはお前が持ちかけた話なんだから、当然助けてくれるんだよな?いつも通りだろ?」


と、ジャイン・ラピーナがルーク・フェヌックスに空気を全く読まない発言をしはじめる。

一人だけ助かろうとしていると思ったのだろう。主犯はお前だと言い出したのだ。


「うるさい!黙れ!」


フェヌックス君。お友達は選んだ方が良かったかもね。濡れ衣だ陰謀だと騒いで切り抜けたかっただろうに、このジァイン・ラピーナのセリフによって、罪を認めたようなものだ。


「うそつき!!」


大人しく座っていた隣の女子がいきなり大声を出し始めた。


「そのルーク・フェヌックスさんは、ずっと自分がそのルークだって言い続けていたけれど、真っ赤な嘘!昨日本物のルーク・フェニックスさんがこの学校にいるって、沢山の人たちが目撃したんだから!」


「ふえぇ!!」


ルークはこんなはずではなかったと、さっと隠蔽のスキルで身を隠して、するすると後ろ足でステージから遠のいていき、壁に張り付いた。


この女子の投げかけた一石も、生徒の中にじわじわと広がる。


「昨日、俺も本物見た。」

「トーマス先生のとこの昨日の事件だろ?」

「私も聞いたわ。」


「ずっと表記に間違いがあるだけだって言っていたけど、管理人の人もルーク・フェニックスさんが存在するっていうことを言ってました!そこのルーク・フェヌックスさんは偽物です!ずっと嘘をついてみんなを騙してたんです!」


「な、な!何の根拠があって!お前!あの時の女だな!何だよ!お前こそそんな嘘で俺にやり返したつもりかよ!」


「うそ!じゃぁ、あの時のも?」「私の時のだって!」「俺も。おかしいとは思ってたんだ。全然土産を持ってきてくれないし。」「奢らされてた。」「騙されたのか。」


あちこちで騒いでいて、これは収拾がつくのか?どれだけ嘘ついてどれだけ搾取してきたんだよ。


「これは聞き取りが必要か…。ホミナー頼む!」


「はい!」


保安隊隊長に言われて、ホミナーさんが騒ぎ出した女の子のところへ行く。手の空いていた保安隊の人達も話に追従していた生徒たちのもとへ散らばり、声に耳を傾けた。


あちこちで保安隊を中心に輪になってしまった。

ステージ上にいたメガネはふぅと息を吐いてステップを降りた。


「『拡声』『レコード』『共にオフ』はぁ。ルーク・フェニックスくんですよね?」


メガネさん、改め、宮廷法律家のレッジムさんは隠蔽で隠れているはずのルークを探し当てて声をかけて来た。


(何でバレたのー!)

(慌ててスキルを使ったから穴だらけなのよ。レベルが低いの。んぐ。)


「はぁ。何で解ったんです?」


ルークはとりあえず隠蔽を解いてレッジムに向き合う。


「使われたのは風の隠蔽のスキルですよね?自分も風の属性なので、見分けられるようになったんですよ。セバスチャンに教わって、ね?」


「え?セバスチャンさんと仲良しですか?」


「お世話になってます。」


「へぇ!そうなんですね?鑑定しても?」


ルークのこの反応にセバスチャンの言った通りだ!と笑いながら、良いですよと答えてくれた。


何故笑う?

セバスチャンさんと仲良しならこちら側の人間だろう。


---

レッジム 35歳→帰還者

職業:宮廷法律家 法律室所属

スキル:拡声、レコードオン、レコードオフ

    信賞必罰、隠蔽看破

魔力量:B

魔力操作:B

---


「ゆ、優秀なんですね。魔力詰まりもなく、魔力量も豊富。このレコードというのは、風属性で記録…音の記録のみですか?」


「そうです。音で記録したものを後で再生して紙に書き記したりしています。今回の捕物劇でも使用しました。言い逃れが出来ないように。ですね。でも、アーサーの魔道具がその上を行きそうなんで、必要無くなりそうです。」


それはえらいすんません。

アーサーの魔道具、トーマスの教師棟の部屋につけられたといつ画像を送る魔道具だろう。


「んー。でも、レッジムさんは光の属性も持ってますよね?」


「はっ!?」

「え?」


レッジムはルークの腕を引いてホールから素早く外へ出る。今外には誰もいないので秘密の話をするには最適だ。


「ルーク君?自分は風の属性なんですけど?」


「レッジムさん?レッジムさんの友達精霊はレテノールモルフォチョウという、風と光のダブルですよ!」


「ぐはっ!!」


レッジムさんは謎の声を発して膝から崩れ落ち、手のひらで何とか頭が地面にぶつかることを避けた。

跪き頭を垂れるその姿はよく見る姿だな。流行ってるのかな?


「ダブルだなんて…ずっと知らずに生きてきました…。」


ちょっと涙声だが、何とか生きているようで良かったです。


「そんな方ばかりですよ。大丈夫ですよ。」とルークはしゃがんで背中を摩ってやりながら、ついでとばかりに魔力接続をしながら伝えてみる。


「多分ですけどね?音だけじゃなく、音声と映像の二つを同時に記録できるようになると思うんですよ。『レコーディングオン』で。」


「え?『レコーディングオン』ですか?」


レッジムがルークに顔を向けながら呟いた言葉でスキルは発動された。


ジワリとルークの魔力がレッジムに流れ込み、新たなスキルを生み出した。


---

レッジム 35歳→帰還者

職業:宮廷法律家 法律室所属

スキル:拡声

    信賞必罰、隠蔽看破

    レコーディング

魔力量:B→B+↑

魔力操作:B→A−↑

---


ルークはさらりと鑑定結果のスキルと魔力量、魔力操作を書き出してレッジムに渡す。


「は?はぁ??」


「レコードがレコーディングに統合進化したようですね。今までのように音だけ記録したい時は『レコード』で音声と映像の録音がしたい時は『レコーディング』ですね。こっちの再生の時は魔力操作が難しいかもですね。それでA−まで上がったんだと思います。訓練次第でAになっちゃいますねぇ!」


「へ?えぇ!?」


驚きで言葉が出てこないレッジムの後ろを、捕縛されたルーク・フェヌックスのジェイン・ラピーナの二人が宮廷へ向けて護送されていく。

両脇をしっかり保安隊によって固められているので、二人からルークが見えることはなかった。


ホールの中から、「ま、まだ早い時間ですが、本日はこれにて終了と致します。生徒の皆さんはごゆっくり休憩をしてから二コマ目の授業にご参加してください。」


まだあの人は緊張しているのか、選んだ言葉がどこかおかしかった。

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