3-18.もう何度目かわからないやらかしルークは鳥型とハリネズミ型の精霊に怒られない
猛スピードで移動していると、前方が景色が青っぽく見えるようになったところで、スピードを落としながらトプンッと地上に飛び出した。
勢いがあったので空中に躍り出る形となってしまった。かなりの高さまで飛んでしまった。このままでは地上に叩きつけられてしまう!
「しょ『衝撃無効!』」
ルークは咄嗟にスキルを発動。
ポヨンッ
地面に軽く跳ね返され、何度か優しくバウンドして地面に二本足で降り立った。
地面に落ちても全く痛みがないっ!上手くいって良かったぁー!!
と思ったら、
「ルーク様、今のスキルは噂のスキルですなぁ。ですが、何故発動を?」
と腕の中からルークを見上げるハリボー。
「あぁ、地中移動のスキル発動中は、地中と認識される全てが水よりも柔らかくなることをお忘れだったのですぞ…。ごめんなさいですぞ…。」
「こ、こちらこそ。ごめんね。忘れてて?」
“忘れてる“と言われたら、忘れているのだろう。
ルーク自身の認識は“知らない“だが、ルークを昔のルークと同じ魂で一個人と認識している精霊から見たら“忘れてる”になるからだ。
「ルーク様がお作りになったスキルなんですぞ?早く思い出せたらいいですな。」
「そうなんだねー。あはは。」
これは忘れちゃうやつですな。といつ表情をしたハリボーだが、ルークは愛想笑いで気が付かなかった。
ルークはこの時、無駄なスキルを使用してしまったが、魔力は滲み出るほど、溢れるほどあるのだから問題あるまい。と考えていたのだ。
「さて、水場はどっち?光はもう少し増やした方が良い?」
「このままで。そこを真っ直ぐ行ったところです。水場に集まる動物型の精霊たちが、棲家にしていますぞ。」
ちょっとした緩やかな坂道を歩くと、先の方に大きな岩が点在するのが見え始めた。おそらくその先が水場なのだろうか。
岩場に立つと、その先には突如として現れた細い川と溜池のようなものがあり、周囲には草も木も生えていた。沢山の種類の精霊が身を寄せ合って寝ていた。
「寝てる…。」
当たり前だ。もう夜なのだ。
あんな亀裂にハマってる時間なんかなかったのに。
さっさと誰か、精霊を呼んで助けてもらってきていたら、まだ夕方で鳥型精霊も起きていただろう。
「失敗した。大失敗だ。」
さて、こうなった以上どうするべきか。
ルークは足元の岩に腰を下ろし、次なる手を考え始めたところで、隣の岩にふわりとした風を感じた。
「ん?」
隣を見ると、デカくて真っ白なフクロウがいた。
ルークの顔近くを照らしている『ライト』のおかげで、フクロウのベビーピンクのような色で出来たうっすらと模様が見える。
どうやらシベリアワシミミズクだろうとルークは思ったが、ここにはシベリアはないので種族名は違うのだろう。
「しかし、デカいな…。あ、初めまして。ルークです。」
挨拶されたフクロウは、両翼をファサーっと広げた。そのまま体を左右に揺らし、フォオーと一声上げる。
体が大きいので、両翼を広げると大人一人分の幅になった。
「大迫力ー!カッコいい!」
モフモフフサフサのお腹も気になる。鳥なので多分中はほっそい体があるだけなのだが、それが良い。
「太ももとかどうなってんのかなぁ?見てみたいなぁ。」
鳥好きなら猛禽類に分類されるフクロウやタカなどは、憧れの対象。自然界で会える事はほぼ無かった。カフェなどで触れ合えることもあったらしいが、嘴や爪は鋭利なので素手で触らせてもらえたかどうかは定かでは無い。
そして、鳥といえば太もも!インコ用語で申し訳ないが、ももひきと呼ばれるものだ!
フクロウのももひきはどうなっているのか。
変態臭いが何とでも言ってくれ!
だって、可愛いのだ!大好きなのだ!
ルチルで十分だろうって?
もちろんルチルはめちゃ可愛いが、ルチルは親友なのだ。
君のももひき見せてくれない?
なんて、言えるはずがない。
え?精霊相手でもダメだって?
え?ダメなの?
「ルーク様?初めまして。私はシロオオフクロウの精霊です。こんなところにいかがなさいましたか?」
ルークが一人ボケ一人ツッコミをしているのが終わるのを、待っていてくれたようだ。申し訳ない。
「精霊ネットワークに上がってるかもしれないけど、うちに双子が生まれたんだ。それでお手伝いさんたちに働いてもらうことになったんだけど、その中の一人の友達精霊がミツバチで。」
「フォオー。寿命がきたわけですね。ミツバチの精霊は寿命が決まっていますからね。それで次の友達精霊をお探しに来たと?」
おぉ。凄いミツバチさんの話でそこまで理解するんだ。
ルークとシロオオフクロウの精霊の間に、二足歩行でぷよっぷよっと左右にちょっと揺れながらやってきたハリネズミの精霊は
「その方は鳥を大変好いているのですぞ。誰か良き者をご紹介くださいませんか?なのですぞ。」
説明をして相談までしてくれる優秀具合。シロオオフクロウの精霊もそれを受けてくれて、二人で何やら話し合いが始まった。
時々漏れ聞こえる声があるが、ルークは既に寝ている鳥型精霊たちに釘付け。
「どんな子が居るんだろう。ワクワクするー!」
二人のために『ライト』を一つ作り出してその場に残し、先程出した『ライト』と一緒に岩場からぴょんと飛び降りて、ゆっくり慎重に進んでいく。
不要な音を立てて起こしてしまったら申し訳ない。睡眠時間は邪魔してはならないのだ。『ライト』の光量も絞った。
ゆっくり近づき、『ライト』で照らす。
細いと思っていた川はやはり川幅に対して流れている量が少ない。
寝ている鳥たちの近くの溜池のようなものは、小さな小さなわんどの名残りのようなものだった。
辛うじて本流と繋がっているが、水の出入りがかなり少ない。近いうちに澱んで臭気を発しそうなこんな場所を、何故仮?の棲家にしたのだろうか。
「うーん。この小さなわんどに、この数の精霊は定員オーバーでしょ?ってか、何でこんなに水量が少ないの?この川の上流はどうなってんの?」
ルークは川に手を突っ込んで、『サーチ』と呟いて上流と下流の様子を調査し始めた。
ルークの薄く伸ばされた魔力は上流下流を驚くスピードで、どんどん進んでいく。
川の中に住んでいる生物たちの生態などは後で調べれば良い。
雨が殆ど降らないこの星は、生活用水は川頼み。命そのものと言っても良いだろう。
川の水が少なくなっているなど、ホーネスト王国では耳にしていない。
だとすれば、(この場所がどこかは知らないが)おそらくホーネスト王国の近くでは無いと予想する。
「はぁ。やっぱり上流堰き止めてるな。何でこんなことしてんだ?下流は…やっぱり干上がってしまって困ってる王国があるじゃん。」
川から手を抜きハンカチで手を拭く。
「早めに上流の国にお説教だな。」
勝手に堰き止めたのか、合意の元川を堰き止めたのかは知らないが、困っている国がある以上、放っては置けない。
しかし、堰き止められたところを壊したりなど勝手なことをして精霊ちゃんの迷惑になったらそれはそれで良くない。
「なら俺が今できるのは、ちょっと水を増やすぐらいか。」
くるりとワンドのある方に向きを変え、近くに手を付いた。この小さな小さななわんどを、小学校なんかにあるプールの二倍程度のサイズにまで広げ、そこから水が湧き出るイメージで魔力を流し、『生成』とスキルを発動した。
地面に流されたルークの魔力が金色に輝き、キラキラと立ち上り、周囲をとんでもなく照らしていく。
「え?えぇ!?なに!?」
「ルーク様…。」「ホオ!」
光はゆっくり収束し、暗闇に溶け込んだ。
こんな現象は初めてで、そしてとても綺麗で、ルークは驚きと共に感動したまま、見惚れてしまった。
ハリネズミの精霊もシロオオフクロウの精霊も驚いた。
ルークの魔力で照らされた範囲は、少し高い岩場から見渡しても先が見えないほど広大であったのだ。
夜行性の二人は眩しくて目を細めていたが、当然夜目がきく。収束した後は難なく全てを見渡せる。
荒野が一瞬にして湿原に変わってしまったのだ。
「フォオ!」
シロオオフクロウの精霊は飛び上がってハリネズミの精霊を足で掴んで飛び上がる。
シロオオフクロウの精霊はその足にハリネズミの精霊をぶら下げながらルークの元へやってきた。二人のために置いてきた『ライト』も一緒に。
ルークの目が二人の精霊を捉えられたのは、『ライト』のおかげだ。
前世において、フクロウはネズミが主食。
捕食者と被食者のそれに見え、ルークは目を広げて驚いた。
「いや、ハリボーはマウスの何十倍もデカいから食べられちゃう事ないし、この世界で肉食の動物がいると聞いたことがないから大丈夫なはずだ。」
と、ちょっと心配しつつ、叱られるんだろうなと到着を待つ。
勝手にわんどを広げてしまったし、なんかよくわからないけど、光がすごかったし。あぁ…良かれと思ってやったんですぅ…あんなに強く光らせるつもりはなかったんですぅ…。
シロオオフクロウの精霊は優しくハリネズミの精霊を大地に下ろすと隣に降りたった。
シロオオフクロウの精霊もハリネズミの精霊はルークにスズイと近寄り、物申す。
「今のはなんですか!」「相談もなしに!ですぞ!」
やっぱり叱られたかー。と両手を顔の前で合わせると謝罪の言葉を発しようとすると、
「「素晴らしすぎます!」」
と喜ばれた。
へ?なんで?
「この景色!こんな一瞬で!有り難いです!私たちの棲家をこんなに素敵にしてくださって!皆喜びます!」
「そうですぞ!鳥型の精霊の棲家に出来る場所は大変少ないのですぞ!困っていると精霊ネットワークに上がっていたのですぞ!この地は多くの鳥型精霊の棲家となりましょう!ですぞ!」
そう言われて周囲を見渡すが、辺りは静まり返った静寂と暗闇のみだ。ルークの目には先程と何ら変わりがない大地がそこにあるだけだ。
ルークは思いの外広範囲が光ってしまったな。と思ったくらいで、イメージしたのは百メートルプールから水が湧き出て川に流れていくくらいなもので、そんなに大層なことをした認識はない。
しかし、鳥たちの棲家がなくて困っているという情報は知らなかったので、もっと大きく作ってやれば良かったなぁと思う。しかも叱られなかったし。
「勝手にごめんね。調べてみたら川の上流が堰き止められてて、川の水量が制限されて下流の人たちも困ってるみたいなんだよ。水が供給されないと疫病とか感染症が出ることもあるからね。この事は精霊ネットワークに書き込めば、精霊王たちがなんとかしてくれるんじゃないかなぁ。っと。」
ルーク話しながら精霊ネットワークに川の上流が堰き止められてて下流の国が困ってるようだと書き込みをするために、接続をする、が。
「あれ?この川の名前ってあるの?知ってる?」
「「三です。」」
三番目の川という意味の三だが、ルークは地理をしっかり学んでいないので、この川の名前からこの場所がどこなのか検討がつかない。しかも、
「サン?太陽みたいだねぇ。可愛い名前じゃーん。」
と勘違いまでしている。
精霊ネットワークに書き込むことに集中しているので、精霊二人の微妙な表情変化は目に入らない。
「これがルーク様ですぞ。」
「今世のルーク様はあのファースト女子のような性格ですね。昔のルーク様はもっと落ち着きがあってあまりおしゃべりじゃありませんでした。」
シロオオフクロウの精霊は懐かしそうに目を細める。
「言われてみれば。あの方はまだ帰ってらっしゃいませんね。鳥型精霊たちは寂しいでしょう?ですぞ。」
「それはもう。あの方はどれだけ我らを愛してくださったか今も覚えておりますよ。ですが、いつかお戻りになった時に、褒めていただけるよう今後は尽力いたしませんとね。長い事いろんな事を放棄してきてしまいましたから。」
シロオオフクロウの精霊は、先程のルークの光ですっかり目を覚ました他の精霊達の元へノッシノッシと両翼を広げてバランスをとりながら歩いていく。
ハリネズミの精霊も二足歩行でぷよっぷよっと左右にちょっと揺れながらその後を追った。
「…サン川の上流が堰き止められていて下流の国の水が干上がり困っている。なぜ堰き止めているのか要確認せよ。っと。これでとりあえず良いかな。あーいや、ここのわんどのことも追加するかー。書いておかないと王様にも怒られちゃうよねぇ…。」
少しだけ大きくしたし、水も流れ出して川に流れ込んでる…うん。これくらいの水量なら上流が堰き止めていた水を解放しても大丈夫そうだね。下流は問題無さそうだよっと。
精霊ネットワークへの書き込みを終えたので、離れた場所の『ライト』に目を向ける。
その『ライト』はゆっくり自分に近づいてきていたので、ルークもそちらへ寄っていくと、のっしのっしと翼を広げて歩く白い大きなフクロウとぷよっぷよっと二足歩行で頑張って歩く大きな白い動物が見え始めた。
くっ!めっちゃ可愛いんだけど!!なんでわざわざ不得意な歩きを選択してるの!?飛んだら早いし、四足歩行の方が得意でしょーに!
でも、可愛いからそのままでいてください!!
とルークは心の中で願った。
「ルーク様。この者たちが、是非ベロニカに会ってみたいと言っておりますので、面通りをさせましょう。ですぞ!」
「ちょっと!ハリボー!面通りって!事件の関係者に容疑者を見せて犯人かどうかを確かめることでしょ!誰も犯罪犯してないから!!」
ハリネズミの精霊にしっかり突っ込んだ後、紹介するためにハリネズミの精霊が手を指した方を見るが、よく見えない。『ライト』の光量を上げると、うっすらとシロオオフクロウの後ろに細面の精霊が見えたのだった。




