3-14.自己紹介1
「では改めて自己紹介をお願いできますか?」
アイリスに促され、引っ越しを終え仕事内容を確認した六名が、ルーク、両親、その隣に双子のベビーベッドの前に座っている。
今日は色々あったから、ちょっと寝てしまいたかったけれど、新しい使用人の人たちが俺を待っていたと聞いたら無碍にはできまい。
アイリスはルークが怪我をしたと聞いた時には心配で自己紹介は翌日に延期しようかと思ったようだ。
連絡がきた時は双子を見に母親である“ドクターデイジー“が来ていたのは神獣様の天啓か。
「アイリスちゃん。私に任せてもらえる?元気で帰ってくるわ。」
と、サクって出かけて行った。
あぁ、母さんに任せていたら大丈夫だわ。
と、なんとなく思ったとか。
そして、元気に二人で帰ってきて、ホッとしたのも束の間。
「良い子を見つけたの。絶対うちのチームに必要な子だから頑張ってくるわね?」
とウキウキで出かけて行った。
ホミナーさんと契約を詰めるのだろう。
アイリスからしたら、なんのこっちゃ?であるが、息子は元気に帰ってきたし、続行しましょ。となったそうな。(後日談)
父さんだったらこうはならなかったよね。
……絶対ならなかった。
隣にいる父さんからは懇願するような眼差しで見つめられているけれど、後でね!後で!!
「では私から。」
玄関へ向かう扉側のソファに座っていた女性が立ち上がった。背は小さめで耳が大きいのがチャームポイントだろうか。おっとりした雰囲気で、ちょっとぽっちゃりした可愛いらしい人だ。
ルークは話を聞きつつ鑑定することにした。
前回はスキルのみの超簡易鑑定。
今からは普通の簡易鑑定だ。鑑定盤よりちょっとだけ詳しくわかる。
「『ベビーシッター』兼『調理補助』のスキルを持つエスポワールです。あ、本名は長くて小さな子に呼んでもらえないのがとっても寂しかったので、愛称のエマとお呼びください!お願いします!
レン様のお世話をさせていただく事になりました。
時間のある時はおやつ作りをさせてもらいます。甘味関係が大得意です!焼き菓子は大好きですが食べる専門です。
生のフルーツを使った生菓子の方が得意なので、喜んでもらえたら嬉しいです!
ハンナ様ほどの腕前では決してありませんが、小腹が空いた時などに食べていただけるかなと思います。
よろしくお願いします。」
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エマ(エスポワール)・クロウ 120歳 (オッティの妹)
職業:ベビーシッター、調理師
友達精霊:植物の精霊レッサーパンダ(妹)
スキル:ベビーシッター、調理補助
魔力量:B
魔力操作:E
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ふむ。魔力詰まりか。
レッサーパンダって精霊のいる里ではいろんなお手伝いしてくれてたよね?ジュースのグラスを運んでくれたりとか。手先も器用だったから、料理、調理系のスキルは納得かも。
魔力詰まりを解消したら、どっちのスキルが成長するのかなあ?楽しみだなぁ。
エマの肩にはレッサーパンダの精霊がぶら下がっていて、長くてしましまな尻尾を振りながら、ウィンクを投げかけてくる。
誰に向けてるんだろうと、レッサーパンダの精霊が見ている方へ目を向けると、投げられているウィンクをめんどくさそうに叩き退けているアイリスのカワウソの精霊がいた。
あー。それは無理だ。残念だけど。
そのカワウソの精霊は母さんラブなんだよ。
諦めなね?
「「「よろしくお願いします。」」」
ちょっと緊張しちゃったわ。とエマがソファに座ると、隣に座っていたエマの旦那さんと思われる男性がとろけるような笑顔でエマさんを見ていた。
既視感!
キースじいちゃんがデイジーばあちゃんに向ける眼差しと同じ!!
故に問題なし!!
仲良いことは美しきかな。です!
その旦那さんは筋肉隆々でガタイが良い。
ボディビルダーを思い浮かべてしまったくらいだ。
顔はさっぱり一重のイケメンさんだ。
そんな彼はゆっくり立ち上がる。
「エスト・クロウです。エマの夫です。
直前までは警備員で生計を立ててました。おそらくすぐにバレますので、先にお伝えさせていただきますが、最初の仕事は宮廷の宰相付きの間諜をしていました。
スキルが有用でしたので。
ハンナ様のご実家に警備員として引き取っていただいてからはずっと警備の仕事をさせていただいております。
警備で抜かりは一度もございません。窓や扉を全開にしていただいて大丈夫です。
体力にも体術にも自信があります。
どうぞよろしくお願いします。」
お。淡々と話す感じが良いねぇ。
頼りになりそう。
「「「よろしくお願いします。」」」
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エスト・クロウ 122歳
職業:警備員(元スパイ)
友達精霊:光の精霊テントウムシ
スキル:光の目
魔力量:A
魔力操作:B
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ふむ。てんとう虫…エスト・クロウ…??
ん?あれ?
ルークは鑑定結果とエストを交互に見る。
顔に見覚えがあるようなないような。
てんとう虫。クロウ姓…。
「ルーク様。お気付きですか。流石です!」
「え?」
なになに?俺、何かに気がついてるの!?
「ルーク様がお気付きのように、自分はセバスチャンとビルの親類…あの二人は孫と曾孫ですね。」
「「「ええっ!!」」」
た、確かに苗字はクロウだ。一緒だ。
ビルさんと同じてんとう虫と友達精霊だし。
世界は狭いな!!
「あぁ、苗字持ちですが、自分の父の代で爵位は返上されてますのでバリバリの平民です。」
「「そ、そうですか。」」
アーサーとアイリスは驚きのまま固まっている。
セバスチャンとビルさんを知ってるようだ。流石宮廷勤め人である。
「やはりルーク様はすごいですね!」
「可愛いですしね。」
「聞いていた通りです!」
「ほらほらみなさん、落ち着いて。」
「自己紹介の途中ですよ?」
一通り話し終えたのか、ピタリとおしゃべりが止んだ。
俺が凄い?聞いていた通り?一体どこから??
「失礼しました。孫と曾孫から手紙が来ましてね。二人が大変お世話になったようで。ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げられる。
ルークと両親も一緒にぺこりと頭を下げる。
「友達精霊ですとか、魔力接続ですとか、新しいスキルが生えたとかですね。事細かく教えてくれるんですよ。あ、もちろん手紙ですので暗号多用です。バレてはいけませんから。」
「そうそう!とても楽しい話でした!」
「気になる内容ばかりで!」
「友達精霊もですが、私は属性が気になりました!」
「ほらほらみなさん、落ち着いて。」
「自己紹介の途中ですよ?でも知りたいです。」
六人みんながワクワクした表情でルークを見つめる。
「ぐぅ…まさかすでにバレバレだとは。しかもみなさん好意的だし!」
「ふふ…あはは!もういつものルークで良いんじゃない?」
「取り繕ったまま一緒に生活なんてできないしなぁ。」
アイリスとアーサーにそう言われてしまえば、一人黙って鑑定結果を見ているのも、それについて一人でほくそ笑んでいるのも馬鹿馬鹿しくなった。
「確かに。じゃあ、いつも通り、やっちゃいますけど、みなさんご内密に。ですよ?」
「「「「「「もっちろん!」」」」」」
まさかセバスチャン経由でバレバレだと思ってなかったなー。
この六人は、ハンナばあちゃんの実家で大昔に仲良くなってから、六人一緒に暮らしたり、離れたりしながらも連絡を取り合って親交を深めてきたらしい。
つまりダダ漏れだ!
って精霊かいっ!
と、一人突っ込んでみる。
「よし!じゃあ、すでに自己紹介をしてもらった二人から。他の皆さんは自己紹介後に伝えますね!」
と告げて同意を得た。
よしよし!久しぶりに一丁やったりますか!
「エマさんの属性は植物です。」
「植物!料理系のスキルは植物の属性の人が多いと聞いたことがありますが、私もそうなんですね!」
と、エマさんはとても嬉しそうだ。
「友達精霊はレッサーパンダです!母さんの友達精霊のカワウソ精霊に一目惚れしたらしく、ウインク攻めしてますが、残念ながらフラれてます。」
と伝えると、エマさんの肩のレッサーパンダはなんで言うんだよぉー!とちょっと涙目で怒っていた。
「ふふ。そんなことがあるんですね。私も見てみたいです。友達なのに見えないなんて、一方通行は寂しいですね。」
確かに。
でも、何かの力が人間側に溜まれば契約できることもあるのだ。頑張ってもらいたい。
「あと気になったのは、エマさんの魔力詰まりですね。」
「「「「「魔力詰まり?」」」」」
「はい。魔力量はBと高いのに、魔力操作がEですのでほぼスキルは使えなかったんじゃないでしょうか。解消したら、ベビーシッターか料理補助のスキルが成長するかもですし、新しいスキルを得やすくなったりしますね。絶対じゃないですが。」
ここまで話すと、六人のワクワク顔がキラキラと輝き出した。
「ルークの魔力接続の効果は絶大です。元に戻りたいという人はいませんでしたが、それは今までの話です。もちろん元には戻せません。魔力回路に詰まった何かを綺麗に解消してしまうからだと仮説を立てています。」
「なので、よく考えてから魔力接続をすることをオススメします。」
アイリスとアーサーがデメリット側の説明をしてくれた。
アーサーは膝の上に準備していた鑑定盤をテーブルの上に置く。そのつもりだったようだ。なら言ってくれたら良かったのに…。
今までデメリットの話はしてこなかったけれど、大丈夫だったんだろうか…。
「問題ありません!」
エマさんは心が決まっているようだ。
「ルーク様は気遣ってくれているのか、仰りませんでしたが、私は百二十歳になりました。
帰還者だと解り、二十年ごとにあちこちに転々としてきました。スキルがもっと使えたらもっと楽しく、人のために働けるのになって思うことも多いんです。だから、ぜひお願いします!新しい自分、いいえ。本当の私を知りたいんです!」
本当の自分。
確かに。
と思ってしまった。
もちろんこんな言葉がなくても魔力接続するつもりだったけれど。
この星に生まれてスキルをもらう。それはごく当たり前のことなのに、使える人が少ないこと少ないこと。
魔力詰まりが何故起きるのかはわからないが、もしかすると虐げられないためなのかもしれない。
まだ歴史は学んでないが、大変な苦労をした時代があったのはなんとなく知っている。
触れるし声も聞こえる精霊たちがいた時代に、多くの精霊たちが狩られた。ならその精霊からもらったスキルで仕事をしていた人たちはどうだったろう。やはり虐げられた可能性は大いにあるのでは?
スキルを持つ人間は、強欲な者の個人資産とされた(奴隷とか。そう言いたくないからね)可能性は無かっただろうか。
そうやって苦しい時代を過ごした魂なら、次に生まれる時、“スキルは使えない“を選択することもあるはず。痛いのも苦しいのも嫌だもん。
どうだろう。辻褄は合うのでは?
今ならスキルを使っても良いのだ。
帰還者だから隠れる必要はあるかもだけど、スキルが使えて辛い思いをする人はいない。
そんな時代なのだ!
「うんうん。そうだね。スキルを使えるのが本当の自分だよね。」
大いに納得したルークは立ち上がってエマの元へ歩く。それを見てアーサーがエマの現在のステータスを鑑定してくれた。
そっか!魔力接続前後のステータスを目で確認できた方がみんな解りやすくていいもんね?
父さんグッジョブ!
「背中を触っても良いですか?」
と、エマとエストに尋ねる。
俺はまだ子供だが、性別としてはオスである。
エストから睨まれたらたまらない。
「くくく。本当に可愛らしい方だ。大丈夫ですよ。ルーク様にヤキモチは妬きませんので、ご安心ください。」
エストに笑われながらエマの背中に右手を付け、植物の精霊レッサーパンダと目を合わせる。
この子は小さな子が好きそうだな。と感じる。するとレッサーパンダはニンマリと笑って返事をしてくれた。
よし!
「エマさんは『ベビーシッター』とスキルを唱えて下さい。両手は…今は、そうです。そうやって手のひらを合わせて。…はいっ!」
「『ベビーシッター』」
ルークの魔力が、少しだけエマに流れる。
エマの魔力回路を硬く閉めていた理がパリンパリンと砕けていく。
ルークは今まで気が付かなかったこんな変化に驚いた。おそらく今までもこうだったのだ。それを感じるようになってきたのだと感じた。
エマの全身がふんわり輝き、収束した。
「うん。ちゃんと発動されましたね。」
アイリスの隣に寝ていた双子の片割れのレンがパッチリ目を開けている。
「あらあら起きたの?ミルクでもオムツでも無いのに?」
アイリスは喜びの声をあげた。
「「「「「「おお!」」」」」」
六名からも見えるらしい。
双子はまだあまり動きはしないのだが、二重の目をパッチリ開き、空を見つめている。
そこにいるのはエマさんのレッサーパンダパンダの精霊なんですけどね。みんなには見えないよねぇ。
「父さん、鑑定してあげて?」
「お。そうだった!」
レンを見てニヤニヤしていたアーサーも我に帰り鑑定盤をエマに向けて起動した。
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エマ(エスポワール)・クロウ 120歳
職業:ベビーシッター、調理師
スキル:ベビーシッター、子守唄↑
調理補助
魔力量:B→B+↑
魔力操作:E→C↑
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結果をみんなで覗き込む。
あ、職業欄が出来てる。
父さん、いつの間にやらマイナーチェンジしたね?
でもやっぱり属性は出ないのかぁ。
そのうち実験とかで拘束されそう…。
「まぁ!!凄いわ!スキルが増えてるっ!子守唄?レン様が寝れない時に使ってみなきゃですね!」
エマはとても嬉しいのか、隣のエストの手を掴んでブンブン振って興奮している。エストも目を見開いて、鑑定結果に見入っていた。
「まさか、魔力量まで上がるとは。考察のしがいがありますね。」
と呟くので、
「セバスチャンさんも、ビルさんも、魔力量は上がってましたよ。」
と伝えておいた。
二人からは知らされてなかったのか。
あんなに長文を書くセバスチャンからも?
他の事を書きまくり、書き忘れたのかもしれないね。
「ふむ。手紙で確認しなくては。」
と呟いていたので、そちらでどうぞお願いします。
続いてエストさんだけど…。
魔力量、魔力操作共に問題はない。AとBなら問題なくスキルも使えるだろう。
「となると、伝えるのは、友達精霊の方かな?光の精霊のテントウムシ。ビルさんと同じか。でもスキル名が違うってことは、てんとう虫の種類が違う?ビルさんのてんとう虫…ナナホシテントウだった記憶が…うーん。虫は範疇外だからよく覚えてないな。申し訳ない。」
ルークの独り言、皆静かに耳を傾けている。
隣のアーサーとアイリスが二人して、人差し指を口元に置いているからだ。
六人は、よくあることなのだと理解し、じっと待つ。
「エストさん、ちょっと失礼しますね。」
エストの周囲を見て回る。どこかにてんとう虫の精霊がいるはずなのだ。
頭の上にも首元にも全身見るが見当たらない。
「えー。居ないわけないのに!てんとう虫の精霊さーん!どこですかぁー?」
ルークは少し大きめの声でてんとう虫の精霊を呼んでみる。
うん。来るわけないか。
と思っていたら、アーサーの肩にいる巻貝からオレンジ色の触手が伸びて、アーサーではなくアーサーの後ろにある窓を撫でていた。
「え?」
アーサーの後ろに窓はあるが、結構ちゃんと離れているのだ。
ルークはアーサーの後ろに回り込んで見てみる。
「長っ!!触覚ながっ!!」
二メートル以上はある距離を、オレンジ色の触手が伸びて、窓にいる小さな白い精霊をそっと撫でている。
「ちっちゃ!いや、デカい??てんとう虫の中のオオテントウか。白いけど…。巻貝も教えてくれたのかな?どうもありがとう!」
シュルッと触手は巻貝へ帰っていく。
ルークはそれを見守ってから窓に張り付いているオオテントウの精霊にそっと手を伸ばす。
オオテントウの精霊は硬いさや羽を三度広げ、したの柔らかい後ろ羽を開いてエストの方へ飛んでいった。
「うん。やっぱり昆虫の合図はわかんないんだよなぁ…。」
と呟いて自分の座っていたソファに戻って説明した。
友達精霊はてんとう虫のオオテントウで光の属性であること、魔力量と魔力操作に問題はないが、魔力接続したければやるよと。
てんとう虫と教えた時には、
「ビルと同じでしたか。そんな気はしてました。光の属性と聞いて嬉しく思います。」
だし、魔力接続の話をした時は、
「是非。と言いたいところですが、おそらく本当に必要なのは、自分ではありません。有り難い事に、自分はスキルを使って働けて来ましたので。何か必要になった際にお願いできますか?」
と腰が低いうえ、引き下がれる。
人に譲るこの姿勢。俺的にかなり好感度が高い。良い人〜。俺はちょろいのだ。それで良いのだ。
「では、次の方、自己紹介をお願いします。」
アイリスが程よいところで次を促してくれた。
大変ありがたい。
「はい!オーリーと申します
『ベビーシッター』と『家庭教師』のスキルを持っております。リリー様のお世話をさせていただけることになりました。よろしくお願いします。
私は平民の出です。親の顔は知りません。
母が一人で産んでくれたと聞いています。
オッティと結婚するまで天涯孤独に生きて行くのだと思っていましたが、結婚して、エマが妹になってくれて、とても幸せな時間を過ごさせてもらっています。
私にとって家族は大切です。こちらのご家庭に入らせていただくにあたって、あの…非常に勝手ではありますが、家族のようになれたらと思っています。
どうぞよろしくお願いします!」
大きく頭を下げてくれたこのオーリーさん。
親がいない中で苦労したのが言葉からうかがえた。
「ふふ。オーリーったら。皆様、オーリーは可愛い人や可愛い物、全部大好きなんですよ〜。特に女の子が大好きすぎるので、リリー様のお世話係に決まった時は、ちょっと飛び上がって喜んでましたの。」
「やだ!エマ!言わないでって言ったのにっ!」
と真っ赤になって恥ずかしがっている。
「オーリーさんが可愛いじゃん。」
と思わず心の声が出てしまえば、ここにいる全ての大人たちが、大きく頷いた。
それを見てますます真っ赤になって、ボスンとソファに座ってしまったオーリー。
さて、ステータスはー?




