3-9.ダダ漏れの壊れ蛇口×2
目覚めると一緒に寝たはずのルチルがベッドに居なかった。
もしや俺の寝相が悪くて逃げたのか?
そう思ってルチル専用の一角に目をやると、止まり木用のアスレチックにあるハンモックに仰向けになって寝ているのが見えた。
いつもは隠れているももひき(太もも)が顕になってるぅぅ!
「平和ー。野生どこに落として来ちゃったのぉー?って感じだねぇ。」
一瞬死んでしまったと勘違いするので、出来れば仰向けに寝るのはやめてほしい。可愛いけど。
ついでにうつ伏せで寝るのもやめてほしい。可愛いけど、心臓がぎゅっとするのだ。
「まぁ、この星では共生してるから野生でもそんなもんなんだろ…うけど…?」
共生。共に生きる。
肉食動物がいない。
つまり、動物間の食物連鎖がない。
「あれ?だとすると外で寝てる鳥さんたちでも、こんな姿を見られたりするってことなのでは!?」
なにそれっ!めちゃくちゃ楽園じゃん!!
今度の休みに早起きして野生の鳥を見に行こうかな。
祖父母の家にいた時と同じくらいの時間に目覚めるルークは、汚れても良い服に着替えて鏡で身だしなみを整え洗濯場へ向かう。
扉にストッパーを刺す事も忘れない。窓を開けると防犯上良く無いからと禁止と言われたので、癖で開けっぱなしにしないように気をつける。
防犯。
王都では必要なのか。まぁ、必要かな。
こんな豪邸だしね。
盗みに入る者がいる可能性があると言う事だろう。盗みに入るならたっぷりのお金を持ってそうな家を選ぶだろうが、カードだけ持って行っても使えないよ?
え、じゃあ、物を盗んでくの?もしくは人?
何それ、めっちゃ怖いっ!!
人を誘拐して、指紋で支払いをさせれば、買えると言えば買えるけど…。無茶じゃない?お店の人が気がつくよね?
え?じゃ、ほしいのはイノチでしょうか…。
こわーい。
「転生前のこの星ではそんな心配無かったよねぇ。やっぱり他所の星の魂がそんな事するのかなぁ。なんでそんな事するんだろう。」
人の物を奪う人の気持ちが知れない。
大体、人の物を奪うのは悪い事でしょ?
自分に対して誠実じゃ無くなるなんて怖いなぁ…。
されて嬉しいこと、して楽しいことを選択して行なった方が心が成長するんじゃなかろうか。
洗濯場にある洗濯魔道具に洗濯物を入れていく。
いつものように電源のボタンを押し、全自動のボタンを押した。
ウィーンと静かな起動音がし始めて、給水が始まった。
「便利なんだけどねぇ。」
この洗濯魔道具を見た人は、これがいかに便利なのか解らないのか、売れない。
驚くほど、売れなかった。
量産するために工場も稼働していたのに、だ。
現在、在庫がモリモリで倉庫を圧迫しているので、他の魔道具に作り替えられないか考え中との事だ。
何故売れないのか、お客さんに聞き取り調査をしたらしい。
「洗濯物は自分たちの手で洗えるからね。」
「こんな高額な魔道具は必要ないよ。」
概ねそんな反応だったそうだ。
洗濯する時間を他の時間に使えますよ。
手で洗うより早く洗えますよ。
絞るのが楽になりますよ。
と利点を挙げるが、国民性なのか、自力で出来る事は自力でやるという精神が強い。
宿屋や宮廷など、多くの洗濯物が出るところからは「人を雇うより安いよ!」と購入してくれたが、一般家庭にほぼ普及していない。
「この王国は常夏だからねぇ。びしょびしょで干してもその日のうちに乾いちゃうし。冬があるなら手がかじかむから欲しがられるだろうけど。それならやっぱり乾燥機も付けたいよねぇ。」
ルークは独り言を言いながら振り向き、誰かにぶつかった。
「わふっ!おとと…ごめんなさ」「ルーク。乾燥機って?」
ぶつかった相手はアーサーだった。
被り気味に話し出したのもアーサーだ。
両手には昨日脱いで放置していたと思われる靴下が片方ずつ握られていた。握っているのはもちろん足を入れる方だ。
「洗濯機、もうこの王国では売れないと諦めて、潰すか販路を他国に変えてみると言う話が出ているんだ。」
「そ、そう。」
「で?乾燥機とは?乾燥…ドライヤー的なやつかな?」
こんな早朝から目がマジだ。
あんなに宮廷での仕事が忙しいのに、他の商品やら新しい物やらに目を向けられるのはすごいと思うし尊敬できる。
でも、ちょっと、目が、ほんと怖い…。
新しいものに向けるワクワク感だけではなく、今は寝不足の日々が始まったからだ。
目の下のクマが見える。
双子の赤ん坊の世話は単純に一人の二倍ではないと聞いた事がある。前世の世界でだが。
それにしても、クマが深すぎない?始まったばかりだよね?仕事が忙しいのかな?
この星の赤ん坊はあまり泣かないしぐずらない。
それは精霊達があやしてくれているからでもあるし、元々の性質もある。
それでも三から四時間間隔でミルクを与えるのだ。夜中でも関係ない。
新生児は目を離した隙に死んでしまう事もある。最新の注意をしなければならない。
アーサーの目の下のクマは今後濃くならないうちに、お手伝いさんたちが引っ越して来てくれる事を祈ろう。
「乾燥機はね?」
ルークはアーサーに乾燥機の利点説明をする。
季節や室内環境に左右されることなく温度をかけて衣類を早く乾燥させる事ができること。
でも常夏だからあんまり関係なかったんだよね。
洗った洗濯物を干さなくても乾かす事ができるから干し場が狭かったり洗濯物が多くて干す場所が足りない時に便利なこと。
でも土地は広いし、王都のどの家にも干し場は確保されてるんだよね。
洗濯機と一体型なら洗濯物を入れてスイッチ押したら乾いて終えるから、あとは畳むだけで済むこと。
これは便利だと思うけど、どうだろうか。家事の手間がかなり省けると思うんだけど。
乾燥機の設定を高温乾燥にしたら、ダニが死滅するので、ダニの健康被害が減ること
枕とか丸洗いして乾燥機にかけたいよねぇ。カバー交換するだけだと、ちょっとねぇ。
アーサーの目はだんだんとキラッキラし始めた。
「構造はね?」
ルークはアーサーに乾燥機の構造を知ってる限り説明し、
「ま。洗濯魔道具についてる羽根に乾燥付与でいいと思うけどね。」
と、安易なアイデアを出した。
「それだと洗濯物がシワだらけにならないのか?」
「うーん。パンパンに入れたらなるだろうね。量は調整する必要はあると思うから、実験は繰り返す必要はあると思う。」
こんな感じのやり取りを続けながらキッチンへ。
「ねぇ、ルーク。今日、学校に行かなきゃならないのかい?」
「え?まだそんな事考えてるの?当然行くよ?」
大丈夫だと言っても不安なのだろうか。あれだけ言ったのに…。
「そっか…。気を付けて行くんだよ?」
とアーサーに抱きしめられた。
学校は危険な場所ではありませんよ?
勉強する場です。登下校は…気を付けます。主に三輪駆動車とぶつからないように。
朝が来たが、アイリスは双子と一緒に寝室で寝ている。
夜中の世話はきついのだ。寝かせておこう。
双子用の朝一のミルクを温度設定した加熱盤で温めアーサーに渡す。
「朝ごはんは目玉焼きとサラダ、豆とかぼちゃのミルクスープで良いかな?」
双子にミルクを飲ませに行くアーサーにルークは確認を取る。
「めちゃくちゃ嬉しい。よろしくぅー。」
ミルクの入れ物を振りながらアーサーは寝室へ帰って行った。
「よし!チャチャっと作ってしまおう!」
ルークはエプロンをして朝食作りに取り掛かる。
祖父母の家で祖父母と一緒に作ったり、作っているところを見せてもらったりしたおかげで、ルークはすっかり料理上手になっていた。
スープは鍋に材料を入れて加熱盤に乗せ加熱を開始。
サラダに出来そうな野菜をザクザク包丁で切って水に晒す。人参はキースと一緒に作り上げたスライサーで千切りにしていく。
ドレッシングはハンナばあちゃん直伝のハーブドレッシング。これは蒸し豆にも合うので大好きだ。
「でも、新鮮なハーブが手に入らないんだよなぁ。苗でも買って中庭で栽培しようかな。ドライハーブも良いけど、生ハーブが欲しい。」
いつも通り独り言を繰り返しながら、最後の卵を割って焼いた。
ワンプレートに盛り付け、ダイニングテーブルに配膳し、両親の分はガラスラップで覆っておく。起きて来た時間に食べて貰えば良いだろう。
そう言えば、このガラスラップも売れなかったそうで、在庫は満載らしい。洗濯魔道具の時にも思ったが、何故見切り発車で工場化をするのだろうか。
「これはこれで良いと思うけど、ラップではない。使い捨てじゃないし、サイズも一定だし。ラップとは呼べないんだよ。俺的に。」
ガラスラップをじっくり見る。
「なら保存魔法付与してみるとか?素材はガラスだし付与出来る。保存魔法を使える人が少ないって話だし、そっちが話題で売れてるなら有りじゃない?これで覆っておけば作りたてのまま保存できる。お。良さそう〜!」
ルークからちょびっと魔力が抜けてガラスラップが光った。
思うままにスキルが使えてしまう。
制御のしようもない。
もう何も思うまい。
いつも通りだ。
気にしたら負けだ。うん。
ルークは気にするのを再度やめた。
周囲にバレても知らん顔すれば良い。
また気にしちゃうこともあるだろうけど…。
常識は捨て去ってはならぬぅ。
「俺じゃない。俺じゃない。バレないバレない。いただきまーす!」
一人で朝ごはんを済ませ、制服に着替えるために部屋へ戻った。
「おはよう、ルチル。起きた?」
部屋の扉を開けると、ルチルがスサーっと、片足と片翼を一緒に伸ばしているのが目に入った。
(うん。でもまだちょっと眠いから、今日ものんびりあちこち飛んでくるわ。明日から一緒に学校に行こうかしら。)ピー。
ルチルはルチルの仕事や用事があるだろう。無理に学校へ付き合う必要はないので、好きにしたら良いのだ。
「りょうかーい。無理に学校に来なくても良いからね?一昨日も言ったけど、学校の校長が結構な鳥好きみたいだから、面倒な事もありそうだし。」
(あぁ、そんな事言ってたわね。でも鳥好きに悪い人はいないと言うわよ?)ピーヨ。
一億年前後鳥型精霊と空にある故郷で寝ていたのに、そんな言葉が存在するの?
鳥という生き物自体、この星に今生きている人からしたら新種なのに?
ルークの思考はダダ漏れサトラレなので、ルチルは目だけで薄く笑う。
(大昔のルーク自身の言葉だけどね。覚えてないわよね。)ピッ。
「そ、そうなの?覚えてないや。当時はそうだったんだろうねぇ。」
(まさか。ルークがそれだけ鳥バカだったってことよ?)ピッピッピー?
「うはっ!納得しかけた!バカにされたっ!でも可愛いんだもん、鳥!仕草もフォルムも匂いも!
自分の好きが理解されなくても良いよ。でも否定はされたくないし、したくないよね。」
あえて否定しなくても良いんだよ。
それぞれ好みが違うから面白いんだしさ。
制服に着替え、今日も自分で作ったイヤーカフとイヤーカフ型の安心君を装着した。
「よし!ルチル、行ってくるね?」
(ええ。気をつけてねぇ〜。)
ルークは両親と双子を起こさないようにそっと家を出て学校へ向かう。今日の授業はなんだったかな。とか今月の授業はどんなのがあったっけ?と再確認しながら。
アーサーにバレたら「危険でしょ!それで三輪駆動車に轢かれかかったんでしょ!」と叱られるはずだが、すっかり忘れていた。
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「ん?“授業構成に変更あり担当教師の指示を仰ぐように“?時間割が変わるのか。せっかく今月分の時間割を暗記したのにな。」
学校に来たら最初に確認するように言われた、管理室の前にある掲示板。
多めの生徒達が取り囲みザワザワしていたので、ルークは遠くから『望遠』のスキルでその内容を確認した。
これだけ離れていたらいくら独り言を呟いても誰にも聞かれることはない。ルークはそうやって自衛する。独り言を言わないという自衛は無理そうだから。
大きな文字で書かれた内容は、必ず見てね。と主張するかのような赤い文字で書かれていて、生徒達も困惑気味のようだ。
こんな内容はあまりなかったのかもしれない。
ルークは混んでいる掲示板の前を通らず、裏側に回って教師棟に入る。教師棟と勉強棟の間にある出入り口だ。
教師にあるトーマスの部屋の戸を叩く。
トントントン
「ルークです。失礼します。」
部屋の中にはトーマスしかいないのが感覚でわかったので返事を待たずに入室した。
この感覚って熱感知とかかなぁ…。
「おやぁ?ルーク君?今日は随分と早いですねぇ。」
ポワーンとしたトーマスにそう言われ、様子がいつもと違う気がして注意深くトーマスを観察しながら返事をすると、トーマスの頭の上に半透明な白い画面が現れた。超簡易鑑定だ。
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トーマス
状態異常:寝不足による集中力の低下
頭痛、めまい、便秘症状有り。
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うわぁ…。トーマスさん、可哀想…。
「…そうですか?授業の一コマ目に間に合うように来たんですけど。」
「え?もうそんな時間ですか!?」
トーマスは慌てて窓の外を見て時間の確認をする。植物の影で時間の確認をするタイプの人のようだ。
ちなみにルークは腹時計と感覚だ。
学校に適した時計が必要では?
個別の授業だけなら問題ないだろうが、数名での授業であれば、待たされた側に文句も出るのでは?そこまで待たされた側は泣き寝入りか?
ここ数日だけだが、見かけた全ての生徒達で安心君を持たない者はいなかった。
生徒用の時計のアプリをダウンロードするとか?父さんなら作れそうだし。帰ったら言ってみようか。覚えていたら。
「あぁ。ほんとですね…。」
トーマスは簡易鑑定の結果通り、ちょっと具合が悪そうに見えた。
「大丈夫ですか?無理するなとは言えませんが、適度に休憩とってくださいね?食事もとるんですよ?好き嫌いしたらダメですよ?」
ルークはトーマスの母親になったかのような口ぶりで心配すると
「はい。母上。」
とトーマスに返される。
「誰がお母さんですか!しっかりしてくださいよ?トーマス先生。」
「おやまぁ。これは失礼。そのとても良い注意のされ方はまるで母上のようでしたよ?なので思わず。」
二人でクスクスと笑った後、トーマスは執務デスクの上に置かれた紙のうち一枚をルークに差し出した。
何枚かあるという事は、トーマスは何名か生徒を担当しているのだろう。
「こちらがルーク君の新しい授業構成となります。」
「え?俺の業構成も変わったんですか?まだ三日目なのに?」
驚いて問えば、トーマスが少し苦い表情を浮かべ、授業構成を確認するように言われる。
「ええ。集会が追加されたんですよ。」
そうなの?なんかあったの?
と思いつつ、渡された紙で授業構成の確認をする。
「え?今日は全休?明日からは月末まで一コマ目に全学年ホールに集合?」
今日の全休は教師のためだ。
トーマスがこれなら、他の教師も同様フラッフラだろう。
新しい授業構成は、朝登校中に暗記した時間割が一コマ分後ろにズレ、空いた一つ目の授業枠が全てホールに集合と書かれていた。
「こんな事初めてですよ。全生徒分授業構成を書き直し。すると低学年の子達の帰りが遅くなってしまうので、次の月に回さねばならなかったりして、教師全員さっきまでかかりました…。ふわぁぁ…。」
「お、お疲れ様です。それで寝不足なんですね…。」
それにしても、今日一日を潰し、ひと月の間一コマ目を使ってホールに集合って。一体なんだ?
明日からひと月ホールに集合する、そのホールだが、今いる教師棟から教室棟を抜け、北にある三棟の真ん中。
西の運動棟(更衣室、武道室など有り)、北のホール棟、東の製作棟(食堂×三、家庭科室や技術室のような、何かを作るための教室有り)と生徒達の間では呼ばれ始めていた。
本来の名前があるだろうが、おそらく生徒達は呼びやすい名前で呼び続けるので、こっちの名前に変わっていくだろう。
「何をするんですかね?トーマス先生のところに情報は来てないんですか?」
トーマスだって教師なのだ。何かしらの情報を持っているだろう。
「ルーク君。聞いたことがない?壊れた蛇口って。」
「は?壊れた、蛇口ですか?それは水が止まらなくて困るでしょうね。」
想像してみる。
前世の世界での水圧はこの世界の水圧とは全く異なる。
月とスッポンと言って良い。
前世の世界で蛇口が壊れたら、物凄い勢いで水がジャージャーと出続けて周囲は水浸しになるだろうし、片付けも水道代も恐怖。
それにひきかえこの星では、蛇口が壊れても、蛇口をめいいっぱい開いても大した量は出ないのだ。水が勿体無いので気持ちは抉れるが。
「そうですよね?困らせたんですよ。」
トーマスさんの顔色が悪くなってきた。
なんなの?どこかの蛇口壊したの?
「えっと?何かあったんですか?」
「壊れた蛇口。それ僕の通り名のようになってるんです。」
「壊れた、蛇口?」
「ほら、ルーク君と初めて会って魔力接続をしてもらって嬉しくなって、あの幸運を独り占めするのが罪のような気がして、ルーク君との話を周囲にしゃべってしまってたんですよ。そしたら、お前の口は壊れた蛇口だと言われ始めまして…。」
「壊れた蛇口…垂れ流し的な?」
「ええ。そんなわけで、口が軽いからと、重要な事などは教えてもらえなくなったんです。ちゃんと秘密だと言われた事は漏らした事が無いのに。酷いと思いません?」
「思いません。」
「ルーク君まで酷いぃぃ!!」
俺的にはどちらでも良い情報なのだ。
ただ、個人情報は厳守していただきたい。
わーわーと騒ぐトーマスを宥めていると、廊下がガヤガヤとうるさくなった。
「ぐすん。何かあったんでしょうか。」
「おそらくは。かなりの人数が廊下にいるようです。」
ルークは熱感知でわかる範囲で二十名ほどだと思った。
「うーん。こっそり扉を開いて声だけ聞いて見ますか?」
「えー。お行儀がよろしくありませんよ?」
「母上、知りたいのです。お許しください!」
「誰がお母さんですか!って、引っ張りますね?」
あははと二人で笑った瞬間、この部屋の扉がノックされた。
トントントン
「「え?」」
トーマスと二人で顔を見合わせる。
廊下の騒ぎ、この部屋の扉がノックされる。
黙ってお互いを指差した。
「お前か?」という意味合いで。
「はい。どちら様ですか?」
「宮廷保安隊の者です。こちらにルーク・フェヌックスさんがいらっしゃると管理人から聞いて来ました。」
「え?ルーク君ですか?まぁ、はい。おりますが。えっと?」
トーマスに見られたルークは、
先日の保安隊の二人とは声が違うし、特に何かしたわけでもないし、自分ではないんじゃないかと思って首を振り、
「人違いじゃないですか?ルーク・フェヌックスと聞こえた気がしますし。」
「は?なんです?その誤植。」
「誤植って!」
印刷物みたいなこと言うね?この世界に印刷物は無いはずだけど?え?知らないうちにコピー機作った人でもいる?
ルークとトーマスが小声でツッコミあっていると、ガチャリと扉が開かれた。入室の許可は与えていないが、トーマスが「ルークは居る」と言ったからだろう。
「失礼させてもらいますねぇ。」




