2-35.馬にもちゃんと涙腺がある
ヒン。ヒン。ヒン。ヒン。
ホワイトソックス独特の声が聞こえてきて、意識が浮上する。まるで歌ってる様だな。
そっと目を開けると、祖父母四人と契約している友達精霊たちの顔が見えた。
「「おお!」」
「あぁ、良かった。目を開けたわ。ルークちゃん、大丈夫?」
背中は冷たいが右手が暖かい。デイジーがずっと握ってくれていたのだろう。
「どうしたの?みんな。」
みんなが覗き込んでいる先には、いつものアプリコット色から深い藍色から朱色のグラデーションに染まった空が見えた。夕方だ。
「覚えてない?落馬して倒れていたのよ。」
落馬…?
言われてみれば、結構な損傷…いや、大きめの損傷をしているとインナーたちが言っていた記憶が蘇るが、落馬?
世界樹と繋がる異次元へ行って、帰ってきたら落馬?して。どちらか一方だけでも心配をかけてしまったはずなのに。
ルークはみんなに対して申し訳ない気持ちになった。
「ごめんね、心配かけたよね。」
デイジー女医がこの場にいると言うことは、既に大きめの損傷を治してもらった後だろう。願いはきちんと届いていた。
良かった。
痛いのは勘弁願いたい。
どんな損傷だったのか、インナーの一人がなんか言っていた気がするけれど思い出せない。
ルークは横になったまま、自分の全身に意識を向ける。特に変わったところは無さそうだ。
キースの手を借りて起き上がると、精霊たちがルークの負担にならないようにそっと寄り添い控え、ホワイトソックスをじっとりと睨みつける。
「あぁ、落馬ってことは…ホワイトソックスから、落ちたのか?」
「なんだ?落ちた前後の記憶が抜けてるのか?」
ジェイクに問われ自分の身に起きた事を思い出そうとする。
さっきまでインナーさんたちとセカンドの女の子と話していたな。
金色にサーモンピンクを混ぜたような柔らかで美しい色だった。
あれが魂の色。
セカンドの男の子とは違うと言う事は、その色合いはその魂が切磋琢磨して勝ち得たもの。
俺の色は濃い金色に見えた。
この色は何を意味するのか。
いや、今はその話じゃない。
インナーさんたちと話す前…
すごい痛くなって意識が遠のいた。
落ちたんだった。
「うん。そうだね。落ちたね。めっちゃ股が痛くて乗ってられなくなったんだよ。」
「「「股…?」」」
デイジー以外の三人が微妙な表情をした。この世界の人間の股には前世の世界のようなものは付いていないが、痛いものは痛い。
それに、この星の馬は前世の星の馬よりも骨格がしっかりしており背も高い。そこから落ちたとなれば、怪我もするだろう。
デイジーは治療をするためにスキルを使ったので、ルークの体の何処が損傷していたのかを知っているが、個人情報だからか皆には知らせていなかったようだ。
医者としての矜持なのだろうか。この星の医者はデイジーしか知らないので、前世とどう違うのか、そう言えば知らないな。
しかし精霊たちは違う。ハクがいるのだ。ハクは馬の精霊である。よってハクは動物の馬との意思疎通はもちろん思考だって簡単に読み取れる。
ハクが原因でルークに骨盤骨折という大怪我をさせたことはダダ漏れだ。
一言で骨盤骨折というと、それだけでも一大事。
骨盤は体の中で一番大きい骨で、骨盤の中には太くて大切な血管や臓器が入っているのだ。骨だけ折れたのでも完治まで大変時間がかかるし、負担も大きい。他の血管や他の臓器も一緒に損傷されていれば、命に関わる骨折なのだ。
インナーたちの歯切れの悪さも、ちょっと命の危険があったからだ。
(殺人未遂ね。)ピ。
ホワイトソックスの首の付け根にとまるルチルはスンとした表情で前を見据える。体に対して大きめのその足は爪を立て、首の皮膚に食い込ませているようだ。
秘めた怒りを感じる。
ヒヒン…。
「大変だったのよ。ルチルちゃんが一人で大暴れして入ってきてねぇ。私たちはルチルちゃんと意思の疎通が出来ないし。」
「精霊たちもルチルの言葉は解らないしな。」
どうやらルチルがみんなに知らせに行ってくれたらしい。ルチルだったらデイジーを呼ばずに治療出来たはずだが…。
ルークはちらりとホワイトソックスを見る。
な、泣いてる…。
めっちゃ反省してる…?
馬に涙腺があると初めて知るルーク。
頭を地面スレスレまで下げ、ボタボタと涙を流している。かなり泣いたのだろう。
涙で地面に水たまりが出来てるし。。
自分が悪かったんですと全身で体現しているようにも見える。まさかあそこまでの大怪我をさせてしまうとは思ってなかったのだろう。
でもさ、懲らしめてやるぞ。という気持ちは感じたけどねーぇ。
ルチルさんや、これが目的かい?
ルークと同じく祖父母たちもホワイトソックスを見て苦笑している。
みんな、俺が股が痛くてホワイトソックスから落ちただけだと思っているようだが、真実は全く違う。
デイジーだけは何となく理解しているだろうが言わずにいてくれているようだ。
(一回くらい見逃すか?でもそれで癖になったら困るし。ルチルはどう思う?)
(甘やかしたらダメよ。あの子は言わばユニコーンの始祖になるのよ?馬やユニコーンたちがそれで良いと思ってしまったらみんな同じことをやるのよ?始祖、ファースト、セカンド、サードという存在はみんなが目指す存在なの。言わば導き手。しっかり反省させてみんなに周知しなきゃ!)ピヨピヨピッピピヨピヨピョョョョ〜!
ルチルは声高く鳴く。
今までの漏れちゃった声ではなく、厳しさを含んだ声だ。
珍しいことだ。
転生前に一緒にいた時でも、これほどしっかり怒っていることを隠さないなんてなかった気がする。
ははぁん。つまりは。だ。
始祖、ファーストである自分がここで言わない事を選択した場合、“我慢して言わないことがこの星の人たちの在り方である“を示すことになる。
(それはいけない…こわい。)
ルークはデイジーの幼少期の並々ならぬ我慢を思い出す。聞いただけではあるが、何故そこまで我慢しなければならなかったのか疑問しかない。
あの場合は、助けを求められる相手がいなかったのも良くなかった。
(もしかしたら、あれはデイジーばあちゃんが目指しているこの星のファースト、セカンド、サードの中に、我慢を美徳としている魂があるのかもしれない。いや、俺が人類の始祖ならば、ここで周知しないことを選択したら、全体がそうなるってことっ!?
『言わない。』が『我慢して言わない』『我慢しろ』と判断されるのなんて、絶対に絶対にごめんだよ!我慢も忍耐もクソ喰らえだ!)
誰かを目標にすることも、されることも、とても怖いことだ。しかし、そう言う存在であるなら、すべきことはしなければならない。
俺は精霊たちにも『すべき事をしてください。』と言ったじゃないか。
(許すことも大切だけどね。反省して次に活かすことがどれほど重要なのか。考えたら解るでしょ?)ピッピ?
(確かに。でも、許して野放しにしてまた他の誰かを同じように傷つけるなんてダメ絶対!
謝罪、反省、再発しない!!
このループは大切!でも、無用な責苦はする必要がない。塩梅が難しいな。)
ジェイクがボビーにしたのはしっかり反省させ、二度と同じ過ちをさせないための厳しさだったと、改めてジェイクの判断力を褒め称えたい気持ちになる。
「じいちゃん、やっぱりすごいや。」
「ん?誰がすごいって?」
ルークの呟きを聞き逃さなかったキースは、目を輝かせてルークを覗き込む。
自分が褒めてもらえたと思ったようだ。
ご、ごめんじいちゃん。
ジェイクじいちゃんに対しての言葉が漏れちゃって…。
キラキラと輝く瞳、少しにやけてしまっている口元。すごい?すごい?と全身がワクワクしている。
違うとは言い難い〜〜〜っ!!
「〜っ!俺のじいちゃん、ばあちゃんたちは、俺のことをいつも思ってくれて、感謝してますっ!」
どう?どう?
すごい、が感謝、になっちゃったけど。誤魔化せた!?
「そうね。ジェイク、キース、ハンナ、デイジーのルークの思う気持ちは素晴らしいと思うわ。」
「「「「「うんうんうん!」」」」」
雪豹の精霊が助け舟を出すと、周囲の契約精霊たちも嬉しそうに頷く。さすがダダ漏れサトラレ。素晴らしい連携だ。
「そうかぁ〜。」
「いや、普通だろ。」
「そうね。足りないくらいだわ。」
「でもそう思ってくれるルークちゃんも素晴らしいのよ〜。」
ただただ喜ぶキースに、ジェイクとハンナはそうでもないと突っ込んだ。デイジーに至ってはそう感じることができる思考の持ち主であることを褒めちぎる。
(良い家族ね!)ピッ!
(ありがとう。俺もそう思う。でもタイミングがね?)
キースに抱き上げられ、祖父母が乗ってきた三輪駆動車の荷台に乗る。荷台に直接置かれるのかと思ったが、キースの膝の上に横抱きのまま移動が開始された。運転手はハンナだった。
ホワイトソックスは後ろから暗い雰囲気のまま悲しい顔のまま着いてきている。
「……恥ずかしい。」
ルークは両手で顔を覆う。
「もう十歳なのに、そろそろ十一歳なのに、こんな、姫抱っこ…。」
モゴモゴと呟いているので、何を言っているのかみんなには解らないようだ。
(ありがたいじゃない。甘えられる時にたっぷり甘えるのがいいわ。)ピッピ。
(ま、そうなんだけどね。)
ルークを膝の上に乗せ、念話しているルチルを肩に乗せているキースはにんまりと満面の笑みだ。
そんな二人を眺めながら、ジェイクはルークに問う。
「で、なんで落馬した?ルチルに着いて行って倒れているルークを見て肝が冷えたぞ?ハクは精霊たちに何やら告げたようだが、誰も何も言わん。こんなことは初めてだろう?」
「精霊たちはみんなルークのことが好きだからなぁ。」
デイジーは聞き手に回ることにしたようで、うなずく程度。
(言って良いわよ。精霊たちはみんな知ってるし、精霊ネットワークには既に上がってるし。)ピッ。
「ルチルの声は寝言みたいに漏れちゃう感じなんだな。肩に乗せて初めて解った。鳥、可愛いなぁ。テイムというスキルがあれば出来そうだ。聞いたことがないが、作り出せたりしないか?それだと属性は何になるんだ?」
「キース。可愛いのは解る!今俺はお前がとても羨ましい!!俺もルークを抱っこして、ルチルを肩に乗せたい!!」
「二人とも落ち着いて。ね?脱線するとそのままになっちゃうでしょ?知りたい時にそれだとちょっと困るのよ。」
2人を宥め、冷静に話を続けるデイジーも、チラチラとルチルを見ている。羨ましいのだろう。
話が脱線しがちな件について、デイジーもルークと同じように感じていたようだ。脱線して本筋に戻れず、知りたかったことが解らないままになるのだ。これは良くない。後々自分の足を引っ張ることになりかねない。
「俺も悪かったんだけどさ。ホワイトソックスがハーレムなのはどうなのかなと思ってたんだよ。今、牡馬はホワイトソックスだけになっちゃってるでしょ?厩の収容数は決まってるのに仔馬は増えるし、雌馬も仔馬も離れたがらないし。」
「あぁ。まぁ、俺の馬もトレードで居なくなってしまったしな。」
「俺の相棒だった牡馬も雌馬に変わった。」
ジェイクとキースも思うところがあったらしい。
「この星の生き物ってペアリング、つまり二人で一人って感じでしょ?一対一で対等に、愛し愛されるのがペアなんじゃないの?なのになんで馬だけハーレムなわけ?おかしくない?だから、雌馬を減らすか現状維持にしようってホワイトソックスに伝えたら、嫌だったみたいで空にこう、ぴゅーんと放り投げられてさ。背中に股から着地。スキルも使ってなかったから骨盤が割れて魂飛び出ちゃったんだって。」
あははと笑うルークに驚く祖父母。
「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」
みんなは後ろから泣き泣き着いてきているホワイトソックスにパッと目を向ける。
「おい!ハンナ!前!前見てくれ!気持ちは分かるがっ!」
運転中のハンナまで後ろを向いたので、ジェイクは慌てた。
「だって!それって一回死んだってことじゃないの!?もしくは死にかけたってことになるんじゃないのー!?」
ハンナとしては、大切な孫になにしてくれとんじゃ!と心穏やかにはいられず、きぃぃ!と大きな声を出してペダルを漕ぎまくる。
「デイジー、なんで君まで驚いてるんだ?治療する際に解ったんだろう?」
キースはデイジーの反応に驚いて尋ねる始末。
「も、もちろん!骨盤骨折、内腸骨動脈も損傷していたし、神経の圧迫もかなりのもので、あのまま放置していたら歩けなくなるような重症だったわよ?だけどそれは落馬してお尻から落ちて、頭を打ったのだと思ったのよ。側頭部にこぶもあったし。」
あぁ、そういう驚きか。とキースは頷いているが、ジェイクにとってはどちらでも構わない。なんなら人間の体の構造についてあまり良く知らない。
「ないちょうこつど…?専門用語?みんな知ってるのか?良く分からんが、骨盤骨折は解る。デイジーのスキルが無ければヤバかったな…。」
デイジーは、そうなのよ。と頷いてから
「骨盤骨折に伴う損傷だと思ってもらえば良いわ。動脈が損傷して内出血がかなり起きていたの。それで内臓やら神経やらを圧迫して危険な状態だったのよ。そんな大怪我を信頼していた自分の馬にさせられたなんて…これは大変なことよ…。」
デイジーはホワイトソックスを白い目でちらりと見ると、もう見たくもないと言いそうな表情をしてから目を逸らした。
ガーン。
ホワイトソックスはますます落ち込むが、自業自得。ミスして怪我をさせたのではない。怪我をする事が解らなかった訳でもない。
故意に怪我をさせたのだ。ホワイトソックスの最大の失敗は人間がそれほど脆いとは思っていなかった事だ。
「俺たちの馬を手放してでも、大切にしてきてやったんだけどな。」
「ルークの馬だからと甘やかしすぎたのかも。」
ジェイクもキースもホワイトソックスの今後について考える必要があると視線で会話をした。
「確かにね。面白い馬だと思って甘やかしてしまったわね…。それで骨盤骨折!?大怪我じゃないっ!ルークの魂がその痛みに耐えられないと判断したんだわ。きっと。だからそれ以上痛みを感じないように魂が分離したのね。」
ハンナは運転しながら一人呟く。
「あー。まぁ、そんなこんながあったからさ、ホワイトソックスのした事、雌馬と仔馬にはこの話をしようと思う。同じ事が起きないように起こさないようにね。注意喚起を兼ねて。あの子達は人間のの言葉が解るから。
で、その後のことなんだけど、雌馬が見限るならそれで良し。それなら、じいちゃんたちの好きな馬とトレード、もしくは雌馬を販売して、新たに牡馬を購入しても良し。仔馬に関してなんだけど、所有権は手放さず自由放牧にしたいと思う。半野生を目指す感じにしたい。帰ってきたい時には帰ってきて良いけど、自由に生きてもらう。野生の馬は結構いるしね。」
ルークが願望を言うのは珍しい。
祖父母はこれも成長だなと、微笑ましく思った。
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家に到着すると、まず厩へ向かう。
ハンナとデイジーは夕食を仕上げると言う名目で家に戻った。本当はホワイトソックスを責めてしまわぬよう、冷静な自分を取り戻すために物理的に距離を取った形だ。
ルークから距離をとって、まだ泣いている。
厳しいようだが、泣く事は反省ではない。自己肯定感が低く、意識がまだ自分に向いている証拠だ。気が付いてくれたら良いのだが。
ルークが雌馬と仔馬を集合させ、あらましを説明する。
仔馬たちは心得たと頷いて、キースとジェイクの方へ。所有権を示すため、ある一定の年齢になったら耳に穴を開けるのだが、まだしていなかったのだ。
穴の場所と所有者を宮廷に提出して登録する。トレードした場合も深刻する。
小さな穴程度と侮りそうだが、これの偽装はなかなかに難しいようだ。空いた穴は塞がらない。塞ぐような偽装はうまくいった試しがない。
体に穴を開けたり傷つけたりしたくはないが---極力痛くないように開ける方法があるそうだ---色の薄い馬は珍しいので盗難に遭いやすい。盗難があった際、穴の位置でどこの所有の馬か見分けをつけるためなのだから、こればかりは仕方がない。
それを聞いた時、ルークはピアスを思い出したのだ。せっかくだからピアスをつけさせて、パッと見て解るようにしたらどうだと提案した。
ピアスはルークとイタチの精霊によって、ダイヤモンドで作ることにした。
相談したらイタチの精霊は大喜びしていた。
ダイヤは埋め戻すほどあるのだ。失敗しても痛くも痒くもない。
明日は新居に引っ越しで、一日中ルークは暇になるはずだった。危ないからと手伝わせてもらえないのだ。
「ふっふっふ。」
ルークの前世の記憶から引っ張り出した、ダイヤモンドを一番美しく見せるカットを施したものにする予定でワクワクしている。
まだ作れていないので、ピアス待ちの仔馬にはジェイクとキースが首に赤いリボンを巻いてもらった。
話を聞いた雌馬たちは、ホワイトソックスを一瞥もせずに頭を突き合わせてヒンヒンと話し合っていた。
その様子を泣きながらもじっと見つめるホワイトソックス。ちょっと可哀想な気もするが、インナーさんたちが言うには、この後他の野生の雌馬たちが遣わされるはず。つまり、モテモテは今後も続くはずだ。必要な仔馬が一定数生み出されるまでは…。
(これぞ種馬扱い。なんか辛いかもー。)
種なんてないけどね!
(自業自得よ。)ピッ。
失敗したら、反省し、二度とやらないと魂に刻まれるまで同じような出来事が繰り返される。これは宇宙の理で恐ろしく優しくないように思えるが、大前提として、それを学ぶために生まれてきている。それに、この星の魂の場合、そう言ったことをしない魂になるまで肉体を得ることができないのがこの星なのだ。
ホワイトソックスの場合、今回の生まではなんの問題もなかったようだ。
白馬の精霊とホワイトソックスの魂が、そのユニコーンの体に異常に長い期間共存していた。
ホワイトソックスからしたら、突然入ってきた精霊の膨大なエネルギーが体を動かすので、自分のエネルギーがなくても良い状態を得られてきたわけだ。
最初は争ったようだが、動物と精霊の魂が持つエネルギー量は雲泥の差。負けてしまったのだ。
ルークによって白馬の精霊はその魂と膨大なエネルギーを持って体からごっそり抜けていった。一度なくなったエネルギーはそう簡単に元には戻らない。
そんなわけでエネルギー不足だったのだ。
ルークの魔力が補填されたが、完全に自分のものにしたわけではない。馴染ませている最中だし、自分のエネルギーを出せるように訓練していかねばならない。
自分のエネルギーが弱ければ、卑屈にもなる。自信もなくなる。
そうやって、簡単に自分の気持ちのコントロールを失い、しでかしたことが、神様殺害未遂。
業が深すぎた。
可哀想ではあるが、エネルギー不足も魔力詰まりでも耐えられる者であれば、屁でもないのだ。
ホワイトソックスは、エネルギー量で白馬の精霊に負けた後、白馬の精霊のエネルギーで散々楽をした。と、精霊ネットワークに挙げられていた。
雌馬たちの相談?が続く中、ルークはふと気がついた。
「あれ?そう言えばハクは?帰ってきてから会ってないよね?」
「ハクはルークが目覚めるちょっと前に消えたぞ?」
「呼ばれたので行ってきますとか言ってたぞ?」
どうやらインナーたちは本当にハクを呼び寄せたらしい。役目があるのだろう。
「しかし、ホワイトソックスの子供達、また増えていたな。これ以上は厩が足りんと思っていたから、自由放牧できるのは良い判断だったな。」
「ピアスというアイデアも良いな。身元確認のための穴にアクセサリーをつける。これは流行るかもしれん。」
キースも自分の牡馬が再び出来たら、自分デザインのピアスを付けてやるんだと嬉しそうにしている。
ヒヒン!
雌馬たちの話し合いは終わったようだ。
「じゃあ、ホワイトソックスのそばを離れても良いと思う子はじいちゃんたちのところへ行って、縞々のリボンを結んでもらってね。」
ホワイトソックスはじっと雌馬たちを見ていた。
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馬たちの選択が終了し、珍しく食事をとってから岩盤浴へ向かう。汗をかいてポカポカに温まってからお休み処でそれぞれが思い思いの休憩を取った。
(そう言えば精霊のみんな、帰ってきてからずっとダンマリだったけど、何かあったの?)
ルークは座布団を二つ並べた上に寝そべり、胸の上で丸まっているルチルに年話で語りかける。
(インナーからハクへ、ハクからみんなに伝えてもらったの。今回のホワイトソックスの件はルーク自身で決定して欲しかったから。精霊たちの意見は聞かせたくなくてね。)ピィー。
(そっか。俺ちゃんと選べてた?)
ピロロロ。
「お。ルチルはこんな時間でもご機嫌だな。でも、そろそろ帰ろう。」
「あぁ、明日は肉体労働だからな。早く寝ておこう。」
「「はいはい。」」
みんなでお休み処を出てこの施設の入り口へ向かうと、カウンターでお酒を楽しんでいる人たちに話しかけられた。
「おぉ!こんばんは。お邪魔してるよ。」
「うふふ。こんばんは。良い夜ね。」
「「「「王様、王妃様…。」」」」
「こんばんは。楽しんでもらえているようで光栄です。」
ルークだけが礼儀正しく挨拶をする。祖父母はまた来てるよ、週一で来るなよ。と言う表情だ。
「なんだなんだ。そんなに嫌がるな。流石に傷ついちゃうぞ?毎週ちゃんと予約してるし、貸切分の金は払っている。」
「ちゃんとお仕事も終わらせてから来てますよ。」
「それなら良いが…。」
「「「毎週…。」」」
頼むから王族相手なんだから、ちゃんとして欲しい。。
ルークの心の叫びだ。
元々王様と王妃様は真面目に仕事をこなしていたが、ここに来るようになってからその仕事の効率が上がったらしい。宰相や周囲の宮廷役員たちは大喜びで、ここに来る事を喜ばしく思っているようだ。
と、時々噂で聞く。
「何年か前に、この酒に似たのが王都で販売されたんだよ!でもここのが一番美味しく感じてなぁ。普段の晩酌はそっちを飲んでるがね。あれも美味い!」
「私はこっち。もう、ハマっちゃって!温泉のお湯も良いし、お部屋も素敵すぎて、こっちを王都にしたら良いのに。って思っちゃう。うふふ。」
「このグラスも持ちやすくて良い。売らんのか?」
「持ちやすいし結露もしないデザインも素敵よね!ここ専用?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。
帰ろう出口に歩いて行く祖父母。
取り残される孫の俺!
(頑張れ!)ピッ!
(ぬぅ…俺の味方はいないのか…。)
ふぅと深呼吸して
「そのグラスは職人さんでもなかなか難しいらしくて現在修行してもらっています!そっちのお酒は桔梗酒造さんから分岐した子会社にお願いしています。どこかの貴族の領地で貴族の方と一緒に作ってるはずです。宮廷に登録してありますので、そちらでご確認を。今日も良き夜を!」
それだけ告げるとぺこりと頭を下げて祖父母の後を追う。
「そうかそうか。またな、ルーク!」
「またねぇ、ルークさん。うふふふ。」
おっとりして良い夫婦に見えるが、王族だ。
未だ前世の記憶にある“小説やアニメの中の王族“の意識が抜けきらない。
なんかしちゃったら、不敬罪とかめっちゃ怖い!!




