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2-33. ヒ、ヒン、ヒヒヒンヒンヒンヒヒヒヒヒンヒンヒンヒン!

移動で三半規管がやられるのか、行きと同様目が回っていて、立っていられずに冷たい土に寝そべった。


「土が気持ちいい。これ、慣れるのかなぁ。」


慣れるほど移動したくないな。と思いつつ、ひんやりした地面に頬寄せる。


気持ち悪さが土に吸い込まれるように少しずつ治っていくのがわかる。

そっと、ゆっくりと、目を開けて横になったまま周囲を見渡すと、夕方に近い時間なのか日差しがかなり傾いていた。


通りで。この土の冷たさにも納得がいく。


ルチルが帰ってくる時間は調節できると言っていたが、早過ぎず、遅過ぎない時間を選択してくれたようだ。

早過ぎたら精霊たちが残っていて大騒ぎになっただろうし、遅過ぎたら祖父母に心配をかけてしまう。

夕方から程よい時間だ。


しばし土の温度とひんやりした優しい感触を楽しんだ後起きあがろうとすると、頬に生温いつるりとしているが湿った感触があった。


びっくりしたが、次元移動で残った気持ち悪さを刺激しないように、緩慢な動きでそちらに視線を向ける。


犯人はホワイトソックスだった。

その長い舌でペロリと舐め上げられたのだ。


見上げているからだろうか、笑っているように見えるのは。


「ホワイトソックス、ただいま。」


そっと手を伸ばして顔を撫でてやると、ヒンと小さく声を出した。


「あら、まだ気が付かないの?この子は笑ってるのよ?」


どこからかルチルの声がする。よく見るとホワイトソックスの背中にルチルが止まっていた。もう元のフェニックスの幼鳥の姿だった。


「笑ってる?笑う馬?」


ゆっくり体を持ち上げて土の上に座る。顔を寄せてくるホワイトソックスを片手で撫で続ける。

ホワイトソックスは笑うと言うより拗ねる馬と言うイメージしかない。が…


「笑う…え?嘘でしょ?ホワイトソックスってユニコーンってこと!?」


ヒヒーン!


「ご名答。遅かったわね?こんな普通の馬いるわけないじゃない。あんなにヒントを与えてあげてたのに。」


うっそでしょ!?

まさか一風変わった変人ならぬ変馬だと思っていたら、ユニコーン!!


ヒヒン…


「あ、ごめんごめん!ってか、ユニコーンって念話出来ちゃう感じなの?」


ヒヒン!


「人間の言葉はきちんと理解できるわね、ペガススとユニコーンは。念話が出来る子もいるけど、ペガススとユニコーンの全員が念話を使えるわけじゃないわ。」


「すごいじゃん。ペガススとユニコーンって。そっかー。そうなんだぁ。」


前世の記憶とは違い角はないけど、笑う馬…ユニコーンは面白い馬だったのか。ユニコーンは乙女が好き、純潔を司るとか、角が水を浄化するとか色んな伝承があったはずだが、後付けなのか、他の星で似た動物が居たのか。


ルークは立ち上がるとホワイトソックスに抱きついて両手で全身を撫でてやる。届く範囲だけだが。

そんなルークの考えにルチルとユニコーンが笑う。


「乙女好きっていうのは、この星原産だからでしょうね。この星には他の星のように性別はあっても“性“はないからね。肉体同士の関わりがないのが常識で、関わりがある方が違和感を持つのでしょ。違和感のある者に近づこうと思わないものでしょ。まぁ、ユニコーンは何故か女子好きなのだけど。」


ルークは撫でていた手をぴたりと止めた。


「やっぱりハーレムだったのか…。」


考えてみれば、守ってもらうなら男子だって良かったはず。女子限定?にしたのは、果たしてホワイトソックスだったのか、女子だったのか…。


ヒ、ヒヒン…。

(そ、そんなことは…。)


ルークから目を逸らしたホワイトソックスは、言い訳のように鳴いた。


「決定!女の子好きー!!これ以上のハーレムは許しません!せめて数頭…そうだな、三頭くらいにして!」


ヒ、ヒヒン!!

(ひ、ひどい!!)


「ひどくありません!他の牡馬が可哀想でしょ!」


ヒ、ヒン、ヒヒヒンヒンヒンヒヒヒヒヒンヒンヒンヒン!

(で、でも、ペガススとユニコーンを増やすと言う役割があるんですよ!)


「ええー。」


じっとり視線をホワイトソックスに送るルーク。


「ねぇ、ルチル。魂が持つエネルギーで肉体の遺伝子のオンオフが決まるって話だったよね?」


先程インナーたちの棲家で聞いた話を持ち出すルーク。


「そうね。」


「じゃあさ、この星において近い親族関係にある者同士で子供を授かるとしたら何か問題はあるの?」


ルチルはルークの言いたいことが分かったようだ。ルークの前世の星では、近親者同士の結婚で血が濃くなると劣性遺伝子が表に出やすくなって病気になりやすかったり知的障害が出てしまった、という事例があった。

そのため、ユニコーンが一頭しか居ないこの状況から、ユニコーンを増やすとなると沢山の奥さんが必要になるぜ。と言っているのがホワイトソックス。それに対してルークは奥さんは三人程度にして生まれたユニコーンの子供も同様に三人程度にして、ゆっくり増やしなよ。問題ないなら近親でのペアもありなんじゃないの?言っているわけだ。


「問題ないわ。けど、ユニコーンとペガススはルークのところにしか居ない現実と、今のこの子の奥さんたちの気持ちを考えるなら、現状維持で良いんじゃないかしら。減らそうとしても、(現在ペアリング出来ているホワイトソックスの奥さんたちは)離れたがらないでしょ。」


あの子達、この子のことが大好きだからねぇ。とルチルが言うので、ルークは、


「ルチルが言うなら仕方がない。それで妥協してあげるよ。」


とホワイトソックスに伝えた。


ガーン。という表情を隠すことなく、明らかにがっかりしているホワイトソックスだが、今だって沢山の奥さんたちがいるのだ。充分すぎるんじゃなかろうか。


「ホワイトソックスは、女の子好きなんだね。嫌いよりは良いけどさ、今の奥さんたちを大切にしないとね。」


「馬はハーレムを成すものだけど、今で納得しなさいな。」


ルークとルチルに言われて、ホワイトソックスは渋々頷く。


「馬、ハーレムなんだ…。なんか残念…がっかり。」


ルークの言葉に、ホワイトソックスこそがっかりしたようだが、馬の本能としてのハーレムなのだから、仕方がない。


「ルークの言う通り、ハーレムってガッカリよねぇ。そういえばなんでハーレム作るようになったんだったかしら…?」


「精霊ネットワークで調べたらわかるかなぁ?」


なんとなくがっかりしたルークとルチルが精霊ネットワークを探る。

しょんぼりしたホワイトソックスだが、ホワイトソックスも一夫一妻だった頃の記憶もあるようで、少しだけ首を傾げて二人の回答を待つ。


「「見つけた。」」


「そっか。乱獲で数が減って、ユニコーンを始め馬全般が驚くほどいなくなってしまって、その上ハクを閉じ込められたことで子を成せず…。」


仕方がなかったようだ。

絶滅だけは防ぎたかった馬としては、苦肉の策だったのだろう。今とほぼ変わらない。


「じゃあさ、ある程度増えたら、その…衝動?抑えられる感じなのかな?本能的に。」


ルークはホワイトソックスに尋ねる。

ホワイトソックスは意味をしっかり理解したのか、大きく頷いた。


「でも新しい女子は増えないよ?」


厩はこれ以上増やせない。

え?増やせないか?

今住んでいる家の周辺に厩は増やせないが、明日新しい家の周辺に作る予定の厩の周辺の敷地は…広い。広げられそうだ…。


ダダ漏れサトラレなので、ルークの思考はホワイトソックスにもダダ漏れだ。喜びに目を光らせるホワイトソックス。


「いや!増やせたとしてだよ?世話をするのは大変だよ?じいちゃんたちが世話をすることになるんだよ?」


ヒヒン!ヒンヒンヒンヒンヒン!!ヒヒヒン!

(大丈夫!自分が養うから!!お願い!)


うーん。


「ねぇ、ルチル。ホワイトソックスの子供たちって、馬、ユニコーン、ペガススの割合はどんな感じ?」


「そうねぇ。等分って感じね。この星全体の割合を考えるとちょうど良いと思うわ。」


なら問題ないか。でも、ルチルとしてはどう思ってるんだろう。


「良いんじゃない?思うようにして良いわ。ダメな時には止めるから。」


ルチルはそう言うが、本当に俺が勝手に進めてしまって良いのだろうか。だって俺、神様なんでしょ?勝手に色々進めたら星が思う未来と異なるんじゃないだろうか。


「だから大丈夫よ。あなたの思考は私と繋がってるようなものだから。」


「え…。それも初耳なんだけど…。俺の思考ってルチルに筒抜けというだけじゃなくて、繋がってる?」


筒抜けは別に今更だけど、繋がってるとなると俺の前世とか全部丸見えってこと?そういえば何故かルチルに話してないし考えてもいないのに理解されてる事がある。それに対して疑問も持ってなかった。だって神獣だし。で済ませていた。


「ええ。この星との繋がりが私とルークでは同じレベルで強いのだけど…まぁ、世界樹の足元にも行ってきたしね。誕生日が近いのに記憶が出てくる兆しがないことも気になっていたし、ちょうど良かったわよね。」


ルチルの言った後半はほぼ呟きになっていたのでルークには届かなかった。


「レベル。ここでもレベルか…。まるでゲームだな。」


ルークはルークで別のことを考えていたので、きっかけを逃す。


「それにしても…なんかおかしいわね…。」


ルークといまひとつ噛み合わない『神様』についてルチルは考える。この気持ちの悪い齟齬は一体どこからくるのか知りたくなり、ルークの思考の沼に飛び込み沈黙する。

ルークは気が付かずにホワイトソックスに声をかけた。


「ルチルがああ言ってくれたから、とりあえずは現状維持で。それより迎えにきてくれたんだよね?温泉に入りたいし、帰ろっか?」


自分のパートナーの話をそれよりと蔑ろにされた気分になったホワイトソックスだったが、これ以上言い合って妻を減らされたら困ると理解したようだ。


ヒンヒンヒン


と、ちょっと文句を言った後、ルークの着用している服の首元をガブリと噛んで、勢いよくブンと顔を真上にあげる。ルークはその勢いで真上に浮き上がり、ホワイトソックスの背中に座る形で着地した。


「〜〜〜っ!!」


股とお尻が裂けちゃうんじゃないかと言うほど痛いが、痛過ぎて声にならない。いや、お尻はすでに割れている。経験はないが、骨盤が割れたと言われても納得できるほどの激痛がルークを襲う。


この乗せられ方は何度か体験しているが今回初めて受けた激痛に悶絶する。


ヒンッ!


ルークの心配をするでもなく、これに懲りたら奥さんに手を出すんじゃねーぞ?とでも言いたげに、目を合わせた後プイと前を向いて歩き出した。


っっ!!

ホワイトソックス〜っ!

これ、絶対わざとだよね?

失敗したって顔じゃないし声でもないもんね?

性格悪っ!!

そうかいそうかい。そっちがその気なら受けてたとうじゃないか!


ルークは悶絶しながらホワイトソックスに揺られ始めたが、緩やかな動きでも痛過ぎて座っていられそうにない。

徐々に脂汗が浮かぶ。

手からばかりか全身から力が抜けていく。


ルークはホワイトソックスの背中に乗っていることが出来ず、意識を失いゆっくり倒れるように落馬した。

補足

次元を超えて帰ってきたらルチルは少し成長しました。

見た目はほぼ変わりませんが人間の言葉が話せるようになったのです。

ルークは次元を超えたこと、落馬したことで、少し混乱しているのでその事に気がつきません。

持ち前の鈍感力を発揮しつつあり、今後もしばらく気が付きませんので、ルークってばお間抜けさんね。と生暖かく見守って下さるとありがたいです。

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