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20.要橋渡し

昼食の後、みんなはリビングのソファでゆっくりするようなので、お腹がいっぱいになったルークは、腹ごなしを兼ねて母アイリスのお見舞いをすることにした。


白カエルちゃんは、明日は絶対に来てねー!と棲家に帰った。


アイリスが寝ているのは母方の客間だと思うので、リビングを出てルークが寝ていた部屋のある方向を見る。


ここからだと、透明なガラス窓を使っているから、中庭に面したこちら側の廊下と、中庭の向こう側の廊下が一望できる。


部屋に風を通すためか、誰もいない部屋は扉が開いている。閉まっている部屋は一つしかないので、多分あの部屋にアイリスが寝ているのだろう。


扉の前に立ち止まって軽くノックするが返事はない。やはりまだ寝ているらしい。


地球での乗り物の二日酔いは、脳だけじゃなくて耳とか目、足の筋肉、自律神経とか、いろんな事が原因だったはず。この世界でも同じなんだろうか。

思い出せる対策は多くなく、わかる限りは昨日のうちに試してみた。あとは、サングラスとか?下着で締め付けてるとよくないとかくらいしか思い出せない。


この世界の女性の下着事情はよく知らない。

酔い止め薬は開発されているのだろうか。

あったら飲ませてるから、ないのだろう。

誰か『創薬』のスキルで作ってくれないかな。


ふと、欠けたメガネの青年を思う。

あの「草-創薬」表示も謎だなぁ。

二つ目のスキルだったので、スキルは精霊に貰えてるけど本人が気づいてないってパターンなのかな?

それとも魔力が足りなくて使えないとか?


どちらにせよ薬がないなら…うーん。

自律神経を整えるのには炭酸水って記憶が浮かんできた。あるのかな?炭酸水。


もう一度軽くノックをするが、やはり返事はない。そうっと扉を開け覗き込むとベッドの上で寝ているアイリスが見えた。

その隣には心配そうにアイリスを覗き込んでいるカワウソ精霊がいた。

この地限定で何度かアイリスの周りで見かけたことのある白いカワウソ精霊だ。


扉から顔だけ出している俺に気がついたカワウソ精霊は、にこりと微笑みその両手を口元に持っていった。

静かにね?のジェスチャーだろう。


うん。起こさないよ。


まだ具合が良くならないなら、起こしてしまっても申し訳ないないし、俺には元気になるように祈るくらいしか出来ない。


そっと扉を元に戻し、リビングに戻る事にした。


さっきの白カエルちゃんの話からすると、精霊は気に入った人間のそばにくる事があるっぽい。

昔見たデイジーばあちゃんの頭の上の白いカエルはその日一日は頭に乗っていた記憶がある。

そんな長時間そばに居てくれるルークの友達精霊は、ハリネズミ執事さんくらいなもので、他の精霊は朝ごはんのちょっとした時間くらいだ。


俺はそこまで好かれてないのかも知れないなぁ。


みんなちょっとの時間しか現れないのだ。

ハリネズミ執事さんは現れてもずっと寝てるから顔も思い出せなくなりそうだった。


そう思うとちょっぴり悲しい。


小石なんて落ちていないけど、蹴りたい気持ちになった。ちょっとだけね。


この家は敷地が広く部屋数も多い。

客間も多いのだ。別棟の研究室もあるし。

お手伝いさんを二人くらい雇ったら良いのにな。と思って聞いた事がある。


なかなか気にいる人がいないのだと言われた。


若い人だと、都会から離れすぎていて可哀想だし、同じ年くらいだと、下手したら看取らなきゃいけない事もありそうだ。縁起が悪い話だけど。


気心の知れた者同士で、心穏やかでいる方が良いのもわかる。


本人たちは否定しているが、未だに王家預かりの宮廷研究員なので、研究結果が盗まれるなんて心配も?ありえないか。この国に限って。


今のスタイルが四人には良いのだろう。


今回の滞在で、なるべくみんなに迷惑をかけないようにするために、自分でできることは自分でやろう!

お手伝いもして、沢山お話もして!

さっきは顔拭きを甘えさせてもらっちゃったけどね。


お見舞いは不発に終わったわけだけど、まだ枇杷の木の選定へ行く時間にはなりそうにない。


さてと、どうやって時間をつぶそうか。


風を通すため、中庭のテラスへ向かう窓が開いており、そこから風が入ってくるのを感じる。


この家はどの部屋も気持ちよく風が通る。中庭があるので光もたっぷり取り入れられる。

そう希望して家を建てて貰ったのだそうだ。

ルークは何故かジェイクが建てたと思っていたので、違うと聞いて驚いた。


細長い中庭にあるテラスに出てると、中央に植えられたシンボルツリーのオリーブの木と低木の周囲に小花が植えられたプランターが綺麗に配置されており、それを囲むようにウッドデッキが設置されていた。

前回来た時はウッドデッキはなかった気がする。

ここに椅子とか置いて、風を感じて寝るのも気持ちよさそうだと目を瞑る。


この中庭は祖父母みんなの合作の気がした。


俺も大人になったらこんな素敵な家に住みたいな。

その前に自立しなきゃだよなー。の流れで、俺の問題、スキル発動について思い出した!

やばい!すっかり忘れてた。


鑑定と共有というスキルだったか。

一時的に一部解放とかなんとか書かれていて、使えちゃったんだよな。


目を閉じ、深呼吸をしてからじっと自分の手のひら見つめて『鑑定』と唱えてみる。


……何も起こらないな。

じゃあ、『共有』は?いや、誰もいないこの場で、誰と何を共有するのか。


テラスは良く風が通る。髪の間を風がすり抜けていくが、暖かいお湯で髪や頭を洗っていないので、サラサラとはならない。水の限界だ。

石鹸も環境に配慮した優しいものしかないからか、泡立ちもイマイチ。というかほとんど泡が出ない。だからこそお湯が欲しいのだ。

お湯があればあの石鹸でも泡立つかもしれない。


そうだ!枇杷の木の選定の後にでも、温泉に連れて行ってもらおう!


「温泉!温泉!」


約束を取り付けるため、急いでみんなのいるリビングに戻ることにした。


テラスから廊下に走り出てリビングの扉を開き入室すると、温泉に行きたいと声をかける。


「温泉か!良いねぇ。俺もいく!」


父さんは喜んでるけど、母さんの看病はしなくて良いの?


「温泉なら夕方みんなで行きましょう?もうちょっとしたらおやつを作りださなきゃならないし。」


父方の祖母ハンナが言う。

あれ?母方の祖母デイジーのクッキーは?

俺の疑問が顔に出ていたのか、ハンナはチラリとデイジーをみて、俺の耳元でそっと告げる


「あの様子のデイジーじゃ、おやつなんて作れないわ。“カエル様“のための枇杷の木探しに夢中だもの。だから、代わりに私が他の焼き菓子を作るわ。それでも良いかしら?沢山友達が来ているのでしょう?」


デイジーを見ると、フルーツの木について書いてあると思われる本を積み上げ、選ぶ方法などを再読しているようだ。目がヤバい。真剣すぎる。


うん。あっちはあっちを優先させてあげよう。枇杷の木の選定についていくつもりだったけど、俺がいると迷惑になりそうだ。やめた方が良い。


「キースじいちゃん!俺、邪魔しちゃ悪いから枇杷の木選定はやっぱ遠慮するよ。ハンナばあちゃんたちとおやつ作ることにする!」


だから思いっきりデイジーばあちゃんの選定に付き合ってあげてください!


デイジーを優しげな目で見つめていた母方の祖父キースは心得たとゆっくり頷いた。


あら。手伝ってくれるのね!と両手を合わせて嬉しそうなハンナ


「なら俺も菓子作りを手伝うか。で、その菓子を持ってガゼボだな!」


父方の祖父ジェイクはニヤリと笑うので、同じようにニヤリと笑って返す。後暇そうなアーサーに目を向けると、両手を上げて苦笑していた。


「わかった。俺もそっちを手伝うよ。」


みんなでジェイクの入れてくれた香り高いローズヒップティーを飲んで一息ついてから行動開始だ。


キースとデイジーは本を片付け、敷地内にあるみんなの果実園へと呼んでいる場所へ向かった。枇杷の木はそこから一本拝借して、湖のほとりに埋める予定としたらしい。

場所は明日、ルークと行って決めたいとデイジーばあちゃんに言われた。

というか、懇願に近かった。


ルークの両手を両手で包み顔を近づけて、キラキラ輝く瞳で、お願いされたのだ。


多分、精霊さんとの橋渡し役を任命されたのだろう。

問題ありません。お安いご用です。

なんなら立候補させていただきます。

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