2.スキルある世界
魔石を円柱に加工するには、『加工』スキルが必要だ。このスキル自体を持っている人は多いが、魔力が少ないからなのかうまく発動出来ない人も多い。今までうまく発動させられなかった『加工』スキル持ちの人の斡旋のために、円柱に加工する仕事を作ったらしいけど。
光源事情としては、それまでは『ライト』のスキル持ちにお金を払って小さな光源を発生させてもらうか、蝋燭か豆皿オイルランプのようなものに火をつけてもらうしかなかったそうだ。
安全をとるなら『ライト』のスキル持ちにお願いして小さな光源を作ってもらうのが良いのだが、値段が高いので毎日となると生活がキツい。
日暮にお願いした『ライト』は2〜4時間くらいで切れちゃうんだって。時間に差があるのは、スキルレベルによるそうだ。しかもこの『ライト』持ちは少なく大変貴重だったらしい。
また、スキル持ちでもお金に相当困っていない限りやりたがらない。魔力を相当使うのか、魔力が足りないのかわからないが、数軒の『ライト』で魔力切れを起こして倒れてしまう人が多いためだ。
高値も仕方がないのだ。
蝋燭や豆皿オイルランプは安価で売ってはいるが、家は煤だらけになるし、つける時に火事になることもあるので本当に最低限しか使われない。
このエピソードでわかってもらったと思うが、そう。この世界に科学はない。そして、めちゃくちゃスローライフを満喫できる程度のど田舎なのだ。万歳!
ちなみにこれで王都なのだ。辺境とかどんな生活をしているのか、想像したくない。
そんな大昔の生活のようなこの星だが、上下水は完備されているので、病気になる者は少ないし、臭いもない。水汲みに行かなくてもよいのだ。万歳!
この上下水完備は、俺の両親の前世の記憶(なんで水道がないの?蛇口はどこ?なんて言ったらしい。)から祖父たちが王様指導という形で、公共事業として普及させたことは有名らしい。
室内灯と街灯が出来るまでは、
太陽が登っておはようございます。
沈んでおやすみなさい。
が一般的だった。
それが、両親の研究開発に半年。公共事業としてから1年で王国中に普及。あっという間に生活環境が変わったのである。
夜の時間を有効に、無償でその光源の設備を使うことが出来るようになった。魔石の電池は『加工』が楽らしく、大量に作り出せるため、そちらは必要な人が必要な分購入してもらっているようだ。
上下水、電気ときたら、次は何が欲しいだろう。
風呂はあるが水風呂なので、暖かい風呂が欲しいが、お湯が出るシステム…
スキルに『お湯』とかないかな。ないか。
ライトノベルのあるあるで『ファイヤーボール』を水に入れて沸騰させるとかは?『ファイヤーボール』のスキル、今のところ聞いたことがない。
スキル…スキル一覧とか見てみたいなぁ。あるんだろうか。あっても王族しか閲覧できないとかだったりするのかなぁ。
魔石を使えば両親なら作れるだろうか。考えて今度伝えてみよう。
スキル、スキルか。
あぁ、俺も早くスキルがほしいー!
と、熱望してみる。スキルが生えるまで随分先なんだよなぁ。
でもスキルが生えたら自立しなきゃならないからなぁ。
「………」
この精霊の加護がある大地で生を受けた人は、分け隔てなくある程度の年齢でスキルが必ず1つは生えるのだが、スキルが生えたその日から1年以内に自立しなければならない。
それを使い、生活基盤を作って生きていくことになるわけだ。
その年齢は様々であるが、概ね13歳程度が多いようだ。
スキルは様々あるようだが、どうやら忘れてしまった前世と繋がりのあるスキルのようなのだ。一般的には知られてない。祖父祖母たちが十年かけて聞き取り調査をしてたどり着いた結果である。
うーん。
どんな人も、前世はこの星ではないどこかで生き、色々な経験を積んでスキルを磨いてものにしたのだろう。
それが、戻ってきて生かすための『スキル』として発現している。のでは?と考えてみる。
いや、わからん。
その辺は両親に任せよう。俺は思い出せる色んなことから、やりたいこと、広めたいことに集中して、スローライフを満喫したい!
「……ちょ……の?」
そのためにも、生えてくるはずの『スキル』が何であるのかは重要なのだ。
二つ以上のスキルを持つ者も時々いるが、2つ目からは精霊から貰うというのが一般的。
精霊は国中にいるのだが、残念ながら通常見ることは叶わない。契約しているか、加護を与えられるか、友達になるか。いづれかで姿を見ることが叶うと言われている。
「ねえってば、またなのー?」
ハッと意識を声のした方に向けると、ペットボトルサイズの可愛らしい女の子が「戻ってこーい!」とフワフワと浮きながら声をかけてくれていた。
「あぁ、ごめん!早くスキルが欲しいなって思ってさ。」
時々考えこんでは自分の世界に入ってしまって、呼び戻される。
これくらいで怒られることはないからといって、もっと大切にしないといけないな。
と、改めて考える。
「スキルねぇ。どんなスキルが欲しいの?」
「うーん。どんなスキルがあるのか知らないからなぁ。でも、便利なやつが良いよね。使い勝手のいいやつ。魔力切れで倒れちゃうのはやっぱり困るしさ。」
魔力切れはかなり苦しいらしい。酷い魔力切れは命にも関わるとも聞く。苦しいのはごめんだ。
でも、スキルを使うには魔力は使わなきゃならないし、スキルを使って生活しなきゃならないなら、安易に選べない。選んだとしてもそれが生えてくるとは限らないけどね。
「ふーん。魔力ねぇ…。」
微妙な表情をしてこちらを伺い見るその女の子こそ、生まれた時にそばにいてくれた精霊の1人で、名前はまだ教えてもらえていないけれど、仲良くしてくれている精霊だ。
「うん。魔力。」
「魔力切れなんて気にしないでいーと思うよ?」
と言いながら俺の頭のてっぺんをペシンと小さな手で軽く叩く。
いやいや、気にするでしょ!命に関わる場合もあるんでしょ!?増やせるなら増やしておきたいけど、俺はまだスキルが生えていないのでスキルは使えない。よって増やすこともできないのだ。
「いやいやいや!それ以上増やしてどーすんのさ」
と、心の声に対して返事をくれる。
精霊に心の声はダダ漏れだ。何も秘密になどできない。精霊に対してはサトラレ状態。一方通行。それがこの星の精霊という存在なのだ。
「え?俺、魔力多いの?」
「おっと。まだ言っちゃいけなかった。ううん。何でもなーい!今日はもう帰るねー!」
最初の方は声が小さくて聞こえなかったが、あっという間にパッと消えたので、帰って行ったのだろう。精霊たちはいつもちょっとの時間で帰っていく。
彼女たちは彼女たちで使命があるらしく、言えることと言えない事が明確に分かれているらしい。
今回のようにヒントのような正解のような言葉をこぼすことも多いのだが、大丈夫なのだろうか。
そっと自分の耳につけてもらったイヤーカフを撫でる。
「俺、魔力多いのか…」
自分の中に集中してみても、何にも感じない。
調べられないかなぁ。スキル『鑑定』とかあったら良いのにな。
そう思ったところで目の前に半透明な白い画面のようなものがスパっと差し込み現れた。
「な、なに!ど、どーなった?」
思わず声が出てしまう。
びっくりするでしょ。こんな地球のラノベではテンプレな状況。
「これ、鑑定の結果だったりするのか?」
じっくり見てみると、
“机 オーク材で加工されたもの
加工者 ミーノ”
と出ている。
え、えっと…
これから寝るベッドではなく、目についていた机を鑑定してしまったらしい。
「ってか、これって、俺のスキル『鑑定』?生えちゃったの?5歳で?もう自立の準備に入らなきゃならないのーーー?」
まだ早いよー!
まだこの世界ではガッツリキッズだよーー!!
こんなちっちゃい体でどうしろっていうのさ!
誰か嘘だと言ってくれーーー!!