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2-9オススメは大根かな

いつの間にやら林の小道を抜け、家が見え始めた。


「ハク、このまま家の中に箱を入れてもらっても良い?」


「家事室ですよね?お任せください!」


白馬の精霊が玄関前で止まったので、ジェイクはサッと背から降りルークを抱き下ろした。


何年か前に、ルークを抱いたまま家に入ろうとして、ルークの頭がドア枠の上にぶつかりかけたのだ。


ルークがそれだけ大きくなったからなので、喜ばしい事なのだが、ジェイクとキースは嬉し悲しで泣いた。


泣くような事ではないと、その時ばかりはルークも表情を消したのだ。


それ以来、扉の行き来だけは必ず下ろす。

ルークとしては、もう抱かれる年齢でも大きさでもなくなってきたので、気にしなくて良い。と言うより、もう抱き上げなくて良いと思うのだが、二人はそうではないらしく…。

いつの頃か、下ろす前にしばし頬擦りタイムが挟まれるようになった。


最近やっとスムーズに下ろされるようになったわけで、ルークは少しホッとしている。


長生きする帰還者なので、少しでも小さい可愛らしい時間を引き伸ばし、堪能したいのだろう。

ルークはそう判断しているので、辞めさせずに放置しているわけだ。


早く次の子供でも生まれたらお役御免になるだろうに、この星では簡単に次の子供を望めない。

もうしばらく我慢する必要があるようだった。



ルークが扉を開けている間に、雪豹の精霊は白馬の精霊の背からスルリと降り立ち、白馬の精霊は小型化して扉をくぐる。荷物と共に家事室へ向かった。家事室の扉は開け放たれているので、そこからどんどん箱を積んでいく。

広い家事室が、果実入りの箱でほぼ埋まった。



「ハク!どうもありがとう!疲れたでしょう?」


ルークは白馬の精霊を抱き寄せて労った。

自分が祖父にされるのは我慢だが、自分が主体になってやることに疑問は感じていないルーク。

精霊たちが嬉しそうなのが救いだ。


お昼の準備を始めるにはもう少し時間があるので、ジェイクと二人で畑の収穫も進めてしまう事にした。


竜巻は初体験なので、どれくらいの規模のものなのか、かなりドキドキしている。緊張の方の。


「ねぇ、じいちゃん。竜巻って、経験あるの?」


「竜巻なー。昔何度かあるな。ここに越してきてからは初めてだ。」


ふむ。六十年ほどで何度か。

頻度はかなり少ないと思って良さそうだ。

前世の映画の知識から、かなりの被害があると予想する。

白馬の精霊にスキルを使ってもらうので、難なく過ごせそうだが、白馬の精霊が居ない普通の家はどうなってしまうのか。地下シェルターがあるわけではないのと、みんながそれほど慌ててないところを見ると、木が揺れて果実が落ちてしまう程度なのだろうか。


「最大の被害でどんな被害があったのか聞いても良い?」


「竜巻のか?俺が知ってる限り、家がなくなるな。巻き上げられて。」


「え?」


「あとは、湖の水が巻き上げられて無くなってしまったというのも聞いたことがある。」


「え??」


どっちもやばいレベルでした。


「どうした?」


「今回は最大級って聞いた気がするんだけど…被害がありそうだよね?」


ルークは飄々と教えてくれたジェイクに、ばっくんばっくんと打ちつけ始めた心臓をどうにか押さえつけつつ聞く。


「あるだろうなぁ。普通の家も畑も全部なくなるくらいの事は覚悟しなきゃな。」


んんんーーー!!!

どれも被害がエグい!!


「その割に、みんな落ち着いてる感じがするんだけど?」


「災害は騒いだところでどうにもならんだろう?幸い、俺たちが作った家や施設は、頑丈だから問題はない。この家も大丈夫。命さえあれば、復旧、復興はなんとでもなるさ。」


「そ、そう言う感じなんだね。」


でも、家も畑も巻き上げられちゃうんじゃ、その中に避難している人なんて、簡単に連れ去られてしまうんじゃなかろうか…。

それにしてはじいちゃんは落ち着いてるし、みんな避難したり、対策をしてるって事かな。


ルークとジェイクは畑からできる限りの収穫をし終えて家に戻る。抱えきれなかった野菜は精霊たちが運び込んでくれた。

竜巻が来るらしいので、こちらも家事室だ。

家事室内の通路がこれで埋まってしまった。

体の大きなジェイクとキースでは、奥に入らなそうだ。


家事室に地下室を作ったら良いんじゃないかと思うこの頃。

食材の保存魔法は箱にかけているが、地下の涼しいところで、部屋自体に保存魔法をかけたら入れ放題じゃなかろうか。言わんけども。


ルークとジェイクは手洗いうがいをしてから部屋に入る。


「さて、昼飯を作るかな。大豆ミートとナスのチーズ焼きと具沢山スープにするか!」


「良いね!良いねぇ!大豆ミートの作り置きはまだ沢山あるの?」


「みんなのお気に入りだからな。キースが追加追加で作るから、沢山あるはずだぞ?」


タマちゃんが食べたあの日、みんなも食べたところ、なかなかない食感に大ハマり。


お肉や魚にあまり馴染みがないため、お肉の代替品という認識はゼロなのが良かったのかもしれない。


商品化にも成功し、ヒット商品になっている。俺の会社の工場で作って作っても売れるので、大豆の畑を増やしたところだ。畑の管理はそこに住んでいた精霊と動物が名乗りをあげてくれたので、おまかせしている。


ウチで食べるのは、その製品ではなくキースオリジナルなので、さらに美味しい。

残念ながら、まだキースオリジナルの製品化していない。現在、誠意製作中とのこと。


ジェイクはナスを選んでザクザクとカットして、大豆ミートと合わせて軽く炒める。

ルークはオーブンに入る一番大きな深皿を出して、軽く油を塗った。

その深皿に、ジェイクが炒めたものをざっと入れて、ピンク岩塩を少し多めに削りかけ、チーズをまぶす。


このチーズはジェイクが片手間で作ったもの。

その塊をスキルで細かくカットしたものは濃厚でめちゃくちゃ美味しい。あまり塩味を効かせていないので物足りない人もいそうだが、料理の味の邪魔にならないからと、我が家では重宝している。


たっぷりチーズを乗せた深皿をオーブンに入れてスイッチを入れた。お昼の時間に仕上がるだろう。


「よし、次な。」


深鍋に冷蔵庫に入っていた残りの野菜たちをザクザクカットして入れていく。


ルークは朝作った水キムチならぬ水漬けの入ったガラス容器を一つ取り出した。


「ん?なんだそれは?」


「今朝ばあちゃんと二人で作った水キムチ。漬物ね。唐辛子がなかったから、味が決まるかわからないけど。」


「唐辛子とは…。」


突然どこからともなくレイギッシュの声が聞こえた。


「これか?」


と、作業台の隙間から顔を出したレイギッシュ。

ピカリと光らせ、作り出した何本かの唐辛子をふわふわと宙に浮かせてルークの手元へ落とした。


「そう!これ!レイギッシュ作ってくれたの!?ありがとう!」


「お。赤の侵略者じゃないか。そんなのどうやって使うんだ?」


スープは軽く煮込むだけの状態のようで、加熱盤の上でグツグツといっている。


「これはね?こうやって輪切りにしてー、この中に入れます。」


ルークは輪切りの唐辛子を入れて蓋をしたガラス容器を軽く振って、唐辛子をホエーに混ぜ合わせるようにする。


「じいちゃん、これ発酵させられる?」


「発酵か…。うん。出来ると思うが、やったことが無いから加減が難しいかもな。」


「中の野菜に汁が馴染んで柔らかくなる程度が良いんだけど。」


ジェイクは集中して、ゆっくり発酵させる。レイギッシュがピッタリ背中に張り付いているので、上手く発酵させられそうだ。


「こんなもんでどうだ?」


ルークは蓋を開けて、一番硬い人参を摘んで口に入れた。

シャクシャクとして歯応えが残っていて良い感じだ。

じんわり浅漬けよりもなまろやかさがあって辛くない。しかし、唐辛子が少しだけアクセントになっていて好きな味に整っていた。


「美味しく出来てる!俺は好きだけど、侵略者入りだし、どうかな?」


ルークはガラス容器をジェイクの前に寄せて食べるように促した。


「オススメは多分大根かな。」


ジェイクは大根をひとつ摘んで口に入れる。

大根もシャクシャクと良い音を奏でている。


「んまいな!これ、ホエーで漬け込んだのか!?こりゃ、焼酎や清酒と合わせたら美味そうだ!昼過ぎにサイモンが来るんだったか?分けてやったら喜びそうだな!」


「そう?俺は前世も焼酎派じゃなかったみたいで、そこはよくわからないや。じいちゃんにお任せしても良い?」


「任せろ!」


ジェイクはルークに微笑みかけてから鍋の確認をする。味見をしてから岩塩をガリガリと削り入れ、加熱盤のスイッチを切った。


「あとは、みんなが帰ってきてからだな。時間もありそうだし、サラダも追加して作っておくか!」


ジェイクは家事室へ向かってサラダ用の野菜を選別して戻ってくると、さっとサラダを作ってしまった。

手慣れているのであっという間だ。

その後も何やらキッチンで作業をしているので、覗いてみる。

豆の水煮を作っているようだった。

時々水煮にして、保存魔法のかかったキャニスターに入れている。この星で豆は主食だからだ。


「ただいまー!」


ハンナがいい笑顔でリビングに入ってきた。

材料の調達がうまくいったのかもしれない。


「「おかえり!」」


「んー!チーズの焼けるいい香り!何を作ってるの?」


「大豆ミートとナスのチーズ焼きだよ。そっちの調子は?」


ジェイクはダイニングテーブルの準備をするために台布巾の準備をした。

ルークはそれをみて、みんなの分のお手拭きの準備をする。

チーズ焼きの時は、口の周りが汚れる家族が多いのだ。美味しいので口一杯に頬張って食べるためだろう。自分も含めてだが…。


「後はサトウキビの布だけ。後で工場へ行ってシーツとカバーを作ったら、明後日の宮廷行きの定期馬車に乗せるつもり。」


工場には、あちこちからサトウキビのカスが届けられている。そこの従業員が、繊維とホワイトリカーにしているのだ。

ホワイトリカーは桔梗酒造へ。繊維は布にして縫製を生業としているお針子さんのやっているお店へ運ばれる。


精霊のいる温泉は、宮廷の保養施設となり、何度か往復していると、口コミであっという間に人気になってしまった。


普段お休みの日にのんべんだらりとしていた役員たちが、こぞって予約を入れ出した。

何故か道に亀裂が入ることなく、安全に往復出来ているのも魅力的だったようだ。


それならばと、馬車が毎日の定期便とされたのだ。

保養地であるこの地へ、御者と役員たちがやってきて、馬も共に宿泊。

残された馬車に、前日に来ていた馬と御者、保養目的でやってきていた役員たちが乗って王都へ帰るのだ。


つまり、車体だけが王都とここを往復している。

みかねたジェイクが、車体に強化魔法をかけた。

馬のためにライトも掛けたかったが、その時はまだ王宮から許可が降りていなかったので、掛けずにいた。


何年か前にやっとライトのスキルの使えるものが揃ったというので、解禁となり、馬は快適そうだ。


また、白馬の精霊が復活してから、馬の能力向上が著しく、御者たちの度肝を抜いた。


いつもの小さな荷馬車は必ず二頭引きだったのが、今では一頭で事足りる。

各地で驚きの声が上がったのは数年前の話だ。


さらに、あの、例の馬車の荷台。

ルークがユニサス号と名付けたデコ荷台だが、六頭引きが必須だったのが、今では四頭で引けるようになったのだ。まぁ、普段使われないので、あくまでも余談なのだが。


そこに、ライトで軽量化された荷台となれば、馬も楽々引けるからか、仔馬が産まれる率が上がったと、こちらも各地で声が上がっている。


仔馬の件は、カエル母さんのおかげだけど、みんなは知らないしね。


その話を聞いた時、ルークたちはそんな話をしたものだ。


どの動物も人間の子供も、なかなか生まれてこなかったが、誕生率が上がったのは、国としては喜ばしい事のようだ。

が、精霊ちゃんの話から考えると、精霊王たちはじっくり見極める必要があるので、気が抜けないかもしれない。


身近で人間の子供が産まれた話はまだ聞かないが、人間も生まれてきてるんだろうな。

早くみんなと俺のためにも次の孫が生まれて欲しいものだ。



「「ただいまー!」」


「お。おかえりー!」「「おかえり。」」


キースとデイジーが扉を開けて声をかけ、中には入らずお手洗いへ向かった。


数年前、キースが風邪菌を持ち帰った。

帰宅して手洗いうがいをせずに、ルークに抱きつき風邪を引かせた。

デイジーが鑑定した結果だ。

すぐにデイジーが薬を処方するか快癒のスキルを使うかを花豹の精霊と相談し、薬の処方となった。

ルークが働きすぎているので、休ませるためだ。

快癒のスキルはその場で治ってしまうので、休暇を取らないのだ。

本人は働いているつもりがないので、休暇を取る考えもなかった。


それ以来キースは手洗いうがいを徹底している。

デイジーもそれに慣れてしまった。

ハンナは常に手洗いうがいを済ませてから部屋に入るようにしているらしい。


「みんな帰ってきたから、ランチマットとスプーン、フォークをお願いできるか?」


ジェイクはルークに頼むと、スープ皿を取り出し始めた。


ルークはランチマットを敷き、スプーンとフォークを並べている間に、ハンナが飲み物の準備をしてくれた。

ダイニングテーブルの準備が整うと、ジェイクがスープの入った皿を並べて行く。ルークはサラダの取り皿とサラダを運び、ハンナが大豆ミートとナスのチーズ焼きをオーブンから出してダイニングテーブルの中央に置いた。

ジェイクが冷蔵庫からドレッシングと水キムチを持ってきてくれた。


「そういえば、ドレッシングの商品化ってしてないよねぇ。」


「ドレッシングは好みが分かれてるからな。」


ジェイクはルークを椅子に座らせると、隣に座った。


「でも、お食事処のドレッシングは二種類くらいって話じゃない?そのレシピが知りたいって声があるって聞いてるけど、レシピは教えないんでしょう?なら、油とお酢を入れて混ぜるだけの商品を作ったら?保存魔法を三か月から半年かけて。」


「なんだそれは?」


ルークはノートに書いていく。

ビンにあらかじめ岩塩やらハーブやらを入れたものを商品とし、そこに好きなお酢と油を入れ蓋をして瓶を振って攪拌してもらってドレッシングが完成する。という前世のどなたかのアイデアをいただいた。


これの良いところは、


一、計量カップを使用せずとも良い。

一、常に同じ味で仕上がる。

一、好きな油とお酢でアレンジが出来る。


だな。

それも隣に記載する。


この世界で通用するかわからないので、いつだったかも伝えそびれていたものだ。


「良いかもなぁ。」「すごいな。瓶のサイズによって出来上がる量が変えられるのも良いな。」「これなら同じ味になるのねぇ。」「いろんなハーブで作れるから、研究しがいがあるわね!」


気がつくとキースとデイジーも戻ってきていて、ノートを覗いていた。

午後、ハンナはこれの研究をしようと喜んだ。


みんな集まったので、昼食となった。


大豆ミートとナスのチーズ焼きは大人気であっという間にテーブルから消えた。

水キムチは初お目見えなので、残ると思ったが、ルークが作ったものでまずかったものが無い!とみんな物おじせずに沢山取り皿に置いて、バクバク食べていた。

気に入ってもらえたようで、午後キースはこれの研究をしようと喜んだ。


デイジーはあわあわ液の、新たな香り付けについて研究するらしい。


ジェイクはルークと一緒にサイモンのお相手をしてくれるそうだ。


昼食を食べ終え、片付けも終えて、サイモンを待つばかりとなった。

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