168.メーネのタイプ?
メーネはボビーとくっつくのか。
自分がマー君(マーモットの精霊)と契約白紙になった翌日、シェアハウスにもルーク君が行方不明になったとの一報が寄せられた。
*自分がルーク君をルークと呼んでいた事自体が慢心を生んだのだ。請われたからと言って上下関係を無視した結果があれなのだ。自分を戒めるためにも、今後はきちんと君か様をつけるべきだ!と、様をつけたら何故か従業員の皆んなに白い目で見られたので、君を付けることにした。解せぬ。
あんなに精霊たちに愛されている人間が行方不明!?
自分達従業員もルーク君の捜索に参加したいと申し出たが、それよりもルークのおかげで仕事場となったスーパー温泉と旅館を守る事を優先してほしいと言われてしまった。
仕事を放り出すわけにはいかないし、今だって人手が足りていないのだ。探す時間となれば、睡眠時間を削る以外ない。
それをオーナーたちだって解っているからこその反応だが、なんだか寂しい。
そんなわけで、自分たち従業員は、粛々と課せられた仕事を行う。
新しく入った従業員は料理人が二人、補助が一人、旅館用の従業員が二人の合計五人だ。
料理人二人は夫婦で、キースさんと旧知の中らしい。
キースの作ったレシピで料理が作れると言うので、早々に手を上げていたのだそうだ。
しかし、勤めているレストランのオーナーが、
「突然抜けたられたら、レストランが潰れてしまうよぅ!!」
と泣きの待ったを掛けたられ、時間がかかってしまったらしい。
新たな従業員が雇われてから、たった一日でレシピを受け渡して宮廷の馬車に乗ってやってきたとの事だ。
新たな従業員さん、可哀想に。大丈夫だったろうか。
でも入ってくれてありがとうございます!
お陰でこちらのお食事処が回ります!!
この夫婦、キースさんの残してくれたレシピをキラキラとした目で見て、ウッキウキだった。
こっちが引くくらいに…。
料理補助は、支援所を出たばかりのマリーネという女の子。
マックスと同じく十三歳で、支援所での顔見知りだという。
ここの話を聞いて、どうしようか迷っているうちに、マックスが決まって早々に出立していくのを見て、遅ればせながら自分もと、ダメ元で申し込んだら合格してしまったそうだ。
”合格してしまった”彼女も不安だろうが、こっちも不安だ。
この子はここでやっていけるのだろうか。
と思っていたが、マックスが手を挙げてくれたので、とりあえず彼に預けることにした。
マックスは見た目と異なりしっかりしているので大丈夫だろう。
料理人の二人もマックスにお願いすることにする。
料理人二人と補助二人なら、人数もバランスも良いので、お食事処の心配は要らなそうだ。
マックスには何かあればすぐに報連相をするように言いつけた。
問題は旅館側の従業員だ。新たに入った二人に問題があるのではない。人数に不安があるのだ。
二人の従業員はこれまた夫婦でやってきたのだが、到底二人では回せない施設のデカさ。
旅館内の受付、掃除、部屋の掃除、洗濯、在庫管理、案内、販売、馬車の取扱もしなければならない。
これを二人で回すのは現実的ではない。
どうしようか悩む間もなくジェイクさんが即戦力の二人、サイラスとサティを勧誘してきてくれたので、大いに助かった。
案内、販売、馬車の取扱はこの二人が受け取ってくれる事になったので、かなり楽になった。
新たな従業員が来るまで、自分とメーネが補助に当たる。
スーパー温泉は精霊達が温泉内の掃除をしてくれるからナニーとトニーで回せるだろう。
そんな感じで、スーパー温泉と旅館はどうにかこうにか回している。
自分は空き時間が出来ると、ルーク君が教えてくれた“陶芸“に着手するようにしていた。
デイジーさんが湯呑の受け皿をジュースの実の殻で作ってくれたので、初めはスキルでガラス容器を作って、それを湯呑の代わりにしていた。
しかし、マー君が見えなくなってから、あの湧き上がるような力の泉が自分の中から感じられなくなってしまった。
鑑定盤で鑑定はしていないが、多分“オールマイティ“ではなくなったのだろう。
魔力量も魔力操作もワンランク以上下がったと思う。
スキルを使うのも慎重にしなければ、早々に魔力切れを起こしそうだった。
そのため、ガラス容器作りは控えて、陶芸に力を入れ直した。
ガラス職人をしていたおかげで、人気のある器の大きさや色、数などは把握できていた。
そうか。そうだな。
やってきた仕事は無駄なことなど一つも無かったのだ。
商人の時、ウツウツとしてきちんと仕事をしてこなかった事が、悔やまれるようになっていた。
なんという無駄な時間を過ごしてきたのか。
きちんと商人をしていたら、横のつながりは絶対に出来ていたし、今その繋がりを使う事が出来たはずだ。
その前のガラス職人をしていた職場にしてもそうだ。今と同じ気持ちで働いていたら、あの工房のガラス製品をここで使うために購入したって良かったのだ。あの工房のガラス製品は人気があったし、性能もデザインもピカイチだったのだから。
あのガラス容器に、マックスの作ったブラウニーを乗せたら素敵だっただろう。
もちろん自分でも作れるが、量産は出来ないし、色付けの薬剤がまず手に入らない。
「無駄な生き方をしてきたもんだ。」
お食事処で使えそうな器の試作をしながら、己と向き合い反省をし続ける。
ボビーは精神的にどんどん成長していっていた。
そんなボビーを見つめるのは精霊達だけではない。
メーネもボビーを見つめていた。
ここで働くようになって、ひと月しか経過していないのに、ボビーは既にほっそりしてきていた。
この王国の標準体型まではまだまだではあるが。
忙しいのはもちろんだが、間食を全くしなくなったし、何よりもデイジーのダイエット指導が上手くはまった結果だった。
デイジーはルークを探しながらも、ボビーのダイエット指導のため、指導書を作成してくれたのだ。
時間のない中、作ってくれたその指導書は、非常に解り易く書かれていた。
有り難く受け取り、しっかり読み込んで、ダイエットにも打ち込んでいた。
「あんなに痩せてしまって、病気かと思ったらダイエットだったなんて…。触れたら柔らかそうなのが良かったのに…。」
メーネはデブ専だったのか、がっかりしたように呟く。
「ぷにぷにが良いのよ。ぷにぷにの下の筋肉も良いけど、一番はやっぱりぷにぷにしっとり肌よねぇぇー!その点、ボビーはつるウヤ肌でぽっちゃりで触りたくなる感じが素敵だったのにぃ…。」
ボビーがぽっちゃりしていたので、それほど目立たなかったサイモンの軽いぽっちゃりが、今では気になり始めたメーネ。
ダイエットが成功していくボビーよりも、最近ではサイモンの方がぷにぷにして見えるようになっていたのだ。
「サイモンも忙しいだろうに、あの体型(少しぽっちゃり)を保っていて良い感じなのよねぇ。でも触ったら硬いのかしら?もしかして全部筋肉だったら興醒めね。」
痩せてしまったボビーを陰から見ながら、呟くメーネは、そっとその場を離れ、今日の仕事場へ向かう。
今日はサイモンとの打ち合わせだ。
サイモンの両親の敷地内、倉庫の横、工場とは反対側に、ジェイクとキースに頼んで新たなシェアハウス二棟を建築して貰っていた。
工場で働く人たち用のシェアハウスだ。
ここは辺境と呼ばれる田舎なので、王都からの通いはまず無理だった。
そのため、旅館に半額で泊まって貰っていたが、旅館の採算が取れないし、働く側もお金が宿泊費用に消えてしまう。
シェアハウスも貸し出しだが、自炊ができるし、自由に使える自室が出来るので荷物も思う存分広げられる。
食材は、ジェイクが直売所を作ってくれた。二日に一度野菜やフルーツを出してくれるので、そこまで買いに行けば良い。
希望の食材があれば、意見箱に書いて入れておく。
希望した食材が手に入れば直売所に置いてくれるし、なければ『ごめんなさい』と書かれた紙が掲げられ、近しいものが置かれる。
大変ありがたい。
このため、旅館に泊まっていた者は全員シェアハウスに流れた。
そのおかげで、旅館の客室の回転率が上がったのだ。
シェアハウスの家賃収入は、サイラスとサティを喜ばせた。
建築費用はジェイクとキースにはローンにしてもらったし、その手続きはメーネがサイモンと一緒にやった。
振り込まれてくるだけになったので、こちらも大変ありがたかっただろう。
その工場で作られる製品を卸す店舗は国内だけだったのだが、他国に広げてみないか?とサイモンから打診があった時には心ときめいた。
サイモンが経営している桔梗酒造は、元々外国にも販路が確立されている。
それと一緒にどうか。との事。
そのプレゼンテーションをしてもらうのだ。
「外国にも販路があるってすごいわ!私も上手いことやって次の新しい仕事のキッカケになったらいいなぁ。」
メーネは仕事大好きの野心家でもあった。
ルークのように多彩な才能はないが、自分でも会社をいつか起こすのが目標となった。
今はルークの役に立つのが、一番楽しい。
沢山のことを吸収して、自分の伸び代にしたい。
「早く帰ってきて、可愛い顔をもう一度見せて欲しいわ。どこに行っちゃったのかしら…。」
メーネはこっそり思っていた。
あのルークの可愛いほっぺに触れて、癒されたいと。
「できる事なら頬擦りしてみたいわ!
でも出禁なのよねぇ。」
ボビーを責めるつもりはこれっぽっちもないが、ルークに会えなくなった事だけはがっかりしている。
デイジーに似てるのか、キースに似ているのか、ルークはめちゃくちゃ可愛い容姿をしているのだ。隔世遺伝最高!
ルークに触れる事も、ボビーの贅肉に触れる事も、サイモンのお肉をつまんでみる事も出来やしないが、想像して楽しんでいる。
「うん。今日も幸せだわぁ!推しサイコー!」
メーネはデブ専でも、ショタコンでもなく、オタク系女子なのだった。
フェネックの精霊は夜行性だからか、まだそれを知らない。精霊も万能ではなく、“メーネはボビーが好き“と思い込んでいるのだった。




