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12.スキルの使用は計画的に

「あ、えっと。多分僕のお客さんです。」


「精霊か?」


アーサーからしたら、扉の外には御者さん以外は見えない。その上『僕の客』と言ったことで、精霊だと理解したようだ。


アーサーの脇の下をくぐり抜け、扉の前に立つと、御者さんがゆっくり馬車から降ろしてくれた。

御者さんにぺこりと頭を下げてから雪豹さんの近くまで歩く。


「こんにちは。雪豹さん、どうしたの?」


気まずそうな表情のまま雪豹さんが、ちらりと黒豹を見てため息をつく。

黒豹は雪豹さんより小柄だ。俺の身長くらいだろうか。まだ子供なのかなと?思うが、子供の割に手足はスラリとしている。あまり大きくなるタイプの子ではないのかも知れない。

動物ではないので、定かではないが。


後ろではアーサーが、精霊がいるらしいですよ。と、御者さんたちに説明している声が聞こえる。

それを聞いた御者さんは、

「息子さんは精霊が見えるんですか!」

と興奮しだしたので、アーサーが宥めているようだ。


「この子と一緒にいた時、近くにルークの気配を感じたのよ。それをこの子もめざとく感じ取ったらしくて、紹介しろっていきなり走り出して…。ルークたちの乗った馬車を見つけたと思ったら突然車体の上に乗ったのよ。」


本当にごめんなさいね。迷惑をかけてしまったと、謝る雪豹さん。

その横で何が悪いのかわかっていない顔の黒豹の精霊は、なんなら早く紹介しろとばかりに、イライラと尻尾を地面に打ちつける。


俺が何もいない方を向いて挨拶をした後、その近辺からビシビシと地面を打つような音が聞こえて、近くにいた御者さんの顔色が悪くなり、後ずさる。


見えざるもの(お化けとか)と思われても仕方がない。


「あぁ、ごめんなさい。大丈夫です。近くに精霊が二人いるだけなので、御者席に戻ってくれて大丈夫です。あと、突然馬車が重くなったのも、精霊が馬車の屋根に乗ったのが原因のようです。ただ、凹んでいたらすみません。」


大きな雪豹さんより小柄な黒豹さんだが、ラブラドールレトリバーくらいのサイズだ。勢いよく飛び乗ればそれなりの重さになるだろう。凹んだに違いない。


え!精霊がいるんですか!しかも二人も!?と一瞬喜び、屋根を凹まされたかもの言葉で顔色を悪くした御者さんは、屋根の確認へと向かった。ちょっと涙目になっていた。


商売道具だもんね。ごめんなさい。


精霊保険とかあったら使えるかな?でも、精霊が人間を困らせることなんて、まずあり得ないから、その考え自体があり得ないのか。

どのみち弁償だな…。


馬車から降りている途中だったアーサーも、精霊によって屋根が凹んだかもと聞きびっくりして、車体に戻った。天井を確認したのか、頷きながら馬車から降りていた。


そんな人間たちの慌てた様子を見て、ますます申し訳なさげに項垂れた雪豹さんは


「修理にお金がかかるのでしょう?後で何かお金に変えられそうなもの、こいつの寝床の宝物から持っていくわ。本当にごめんなさい。」


「えぇ!なんで俺の宝物から持ってくんだよ!柔なその馬車が悪いんだろ。そ、それに馬の前に飛び出ても馬が気が付かないから上に乗って揺らすしかなかったんじゃん!俺は悪くなーい!」


項垂れる雪豹の横で、前脚で地面を叩き、プイッと斜め上を向いて胸と顔を逸らす。

黒豹がなんとなく黒くなった気がした。


全く悪びれてないな。これは良くない兆候だ。

となんとなく思った。


しかも、雪豹さんの言葉と食い違いが見られたのも、良くない気がした。


黒豹は責任逃れのために、馬が自分を確認できないのが悪いと、馬に責任をなすりつけた。馬からしたら完全なる濡れ衣だ。

雪豹さんは、黒豹は、馬車を見つけてすぐ屋根に飛び乗ったといったのに。だ。


馬が精霊を見ることができなかったとしても。

やって良いことではない。


あれ?

精霊って嘘がつけないんじゃなかったっけ?


「己を省みなさい。あなたをルークに紹介なんて出来ないの。その姿では資格が無いのが丸わかりでしょう?誰もあなたを認めないわ。」


認められたいなら認められるに足る行動をなさい。と嗜める声も届かないようだ。


「またっっ!そんなこと言って!みんなして紹介してくれないんだ!俺ばっかり仲間外れにして!差別だろ!精霊は差別しちゃいけないんだぞ!なんでだよ!俺だって強くなりたいんだよ!認められたいんだよぉー」


「はぁ。そういうところなのよ。」


と、首を振る雪豹さん。

黒豹はまた一段と黒くなった。今度はちゃんとわかった。かろうじて見えていた体の模様が見えなくなったのだ。


えっと?

俺と友達になると強くなるの?そんなの聞いたことないんだけど。どう言うこと?


「それについては追々話せると思うわ、ルーク。」


そうなんだ。

安定のダダ漏れ、サトラレ。


「どうして紹介してくれないだ!何がダメなんだ!俺はこんなに強いのに!」


と怒って暴れだした黒豹。


この短慮具合。話が通じない愚かさ、自分の意見押し付ける傲慢さ。

俺は沢山の精霊の友達がいるが、どの精霊たちも穏やかで楽しく、いつも笑顔なのだ。こんなに短気な精霊は見たことがない。


何点減点でアレが行われるのか、アレは本当に行われるのか、俺はまだ見たことがないから解らないのだけど。でもとっても嫌な予感がする。


と同時に妙なオーラのような物を感じたと思ったら大地が揺れた。黒豹が魔力を暴発させたのだ。


「ちょっとやめなさい!」


雪豹さんの制止の声も虚しくそのスキルは発動される。


ダダーン!

ガンガンガン!

ヒン!

ヒヒィィーン!!


土系のスキル持ちだったようで、馬車を中心に半径五メートルほどの大地が大きく揺れ割れて、それらの土の塊が空を向き、その上面に牙を向いた。


それは見たことのない広範囲に及ぶタイプのものだった。


馬車の向こうにあったはずの木が倒れ、根っこを晒す。


雪豹さんと黒豹の近くにいたため、いち早く雪豹さんに胴あたりを甘噛みされ、馬車から距離をとったところで下ろされ、ルークは難を逃れた。

が、馬車の方はそうはいかなかった。


手と膝をついたまま自分が乗っていた馬車の方へ顔を向けると、そこは惨事が広がっていた。


馬は二頭脚から血を流して倒れていたし、車体には大きく割れた地面だった土の塊が数ヶ所下から突き刺ささり片側の車輪が浮き、カラカラと回っている。


馬車の屋根を点検していた御者さんは、その屋根にしがみつき、御者席にいた御者さんは車体につかまっていて、落ちずに済んでいた。

とりあえず二人の無事が目で確認出来た。


馬車から転がり落ちていたら、その下に広がる地面だったものの、あの鋭利な塊の餌食になっていたかもしれない。


アーサーは片膝をついた状態で驚いてはいたが、たまたま割れた地面と割れなかった地面の境目におり、飛び退いて無事だったようだ。


残るアイリスだが、その姿は馬車の中で確認することができない。

斜めに傾いたあの車体に乗っているのだ。


その車体は地面からの攻撃を受けている。どこまであの土の塊が貫通したのかはぱっと見では解らない。

途端に頭が真っ白に染まった。


「母さん!母さん!」

「待てルーク!俺が行く!」


立ち上がり、飛び出しそうなルークを制して、アーサーがアイリスの救出へ向かう。


どうか無事でいて!

母さん!

生きていて、母さん!


ドッドッと鼓動がうるさい。

首が、耳が、頭全体が心臓になったようだ。

落ち着け。

冷静になれ。

こんな時こそ冷静な判断力が必要だぞ、俺!


馬車を覗き込んだアーサーが、振り向いて声を上げた。


「大丈夫!アイリスは無事だ!壁に頭を打ったようだが、意識はしっかりしている!貫通したのは多分、座席の下までだ!」


アイリスを支えて馬車の扉から出てくるのを見て、ルークは安堵で尻もちをついた。


「良かった…母さん、生きていてくれて…」


膝と膝の間に頭を乗せ、涙を堪える。

あの土系スキルによる影響は、馬車の車体と馬二頭といったところだろうか。


この状況を理解した雪豹さんは、黒豹に対して声を上げた。


「あなた!なんてことをしでかしたのよ!こんなの前代未聞よ!」


「な、なんだよ!俺のせいだって言うのか!お前が紹介しないのが悪いんだろ!俺は悪くないぞ!悪いのはお前だろ!お前のせいだ!さっさと紹介したら良かったんだよ!」


なおも毛を逆立てて暴れる黒豹。

もうどうにもならないと言った表情をした雪豹さんは、頭を地面スレスレまで下げた。


すると黒豹の周りに光の玉が浮かびはじめたのだ。


それは一つ二つと増え続けて黒豹を取り囲んだ。光がまとわりつき始めた黒豹は、ポカンとした表情だ。

まるで黒豹自体が光っているかのようで、次第に光の塊になっていった。


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