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118.三つの意味

「おはようルークちゃん。今日は寝坊助ね。」


デイジーはルークに声をかけながら部屋の窓を開けた。


「うぅん。おはよう。デイジーばあちゃん。昨日ってそんな遅くまで起きてたっけ?」


眠い目を擦りながらベッドの中で上半身を起こした。


「それほど遅くはなかったけど、昨日はあちこち行ったんでしょう?疲れたんじゃないかしら?」


デイジーの言葉で思い出してみる。


イナゴ豆を偶然見つけて収穫して試作と試食。そして再度収穫。

サトウキビからホワイトリカーを作って果実酒にしたら良いじゃんと軽い気持ちで試作。

ついでに繊維で布が作れることも伝えて試作。

したら、実はこれもゴミ問題で嫌われ者だったと。


隣の家が、サトウキビの産地だと言うので、ゴミという名のお宝をいただきに。

ホワイトリカーにして持ち帰り、繊維もたっぷりお持ち帰り。

リヤカー付き自転車(三輪駆動車、ジェイク命名)を作って再び果実園へ。

帰宅するとすぐにみんなでスーパー温泉へ。


カワウソがめちゃくちゃ可愛かったのを思い出して顔の筋肉がとろけた。にやぁ。


おっと。引き締めなければっ!


家に帰ってきてサトウキビの繊維でスーパー温泉で使うすべての布製品をハンナが受注。その魔力接続をした。


うん。一昨日も濃度が濃いめの一日だったけど、昨日もそこそこ濃いめだったかも?

いや、一昨日が濃すぎて、昨日なんて霞んじゃうか。

目を瞑ったままルークは尋ねる。


「ハンナばあちゃんの様子は?」


「ん?ハンナちゃんがどうかしたの?」


なかなかベッドから降りようとしないルークのベッドに腰掛けて、顔を覗くデイジー。

ルークはデイジーと目を合わせることが出来ない。


昨日の夜、魔力接続を疎かにして、半分近くの黄色になるまで魔力総量を減らしてしまった事を伝えた。


「あらそうなの。でも大丈夫よ。黄色でしょう?赤でも問題ないのよ?」


「え!赤は大問題だよ!」


それは絶対怖い事だと、慌ててデイジーを見るルーク。

デイジーはそんなルークと目を合わせながら、目をとって両手で閉じ込めた。


「ルークちゃんは、アイリスちゃんの件で怖い思いをしてしまったでしょう?」


デイジーの言葉にルークは少し思い出して震えて、やはり目を瞑る。


そうだ。あれは本当に怖かった。


「だからね?アイリスちゃんは余剰を残して色の設定をしてるのよ。赤でもまだまだ残りの魔力はあるみたいよ?感覚としては、後一色あるイメージだって言ってたわ。」


「え?そうなの?」


「でも内緒ね。それだと無理してしまう人、倒れる人が出てしまう事があるでしょう?だから秘密の設定なんですって。だれも悲しまない、苦しまないためだって言ってたわ。」


「知ったら赤でも無理する人が出てくるからってこと、か。」


「ええ。だから、心配しすぎないで?それに、ここにはドクターデイジーがいるでしょう?」


「うん。」


面白いことを言ったつもりだが、ルークの表情は暗いままなのを見て、デイジーは見せることにした。


「ほら、じゃあとっておきを見せてあげるから、いらっしゃっい。」


ルークを無理やりベッドから下ろし、デイジーは手を繋いで引っ張っていく。


「え?どこにいくの?」


「私の研究室よ。」


廊下を出て、キッチンの扉を開くと、デイジーは顔を出して、


「先に食べていてくれる?ルークにちょっと見せてくるわ。」


「え?あれを見せるの?なら私も見たい!」


「俺も良いか?ぜひ見せてくれ!」


ダイニングでルークを待っていたハンナとジェイクもついてくると言う。


「じゃあみんなで行きましょうか。」


ジェイクとハンナも廊下に出てきて、一緒に研究室へ向かうことになった。


ばあちゃん、何を見せるつもり?

みんなはウキウキしてるけど?


ルークは色々なことから目を逸らしたくて、目を伏せたまま連れて行かれた。


デイジーの研究室は、研究棟の中の一室。

みんなそれぞれの研究室を持っている。


デイジーはその扉を開いて中にみんなを招く。


「ちょっと待ってね?」


デイジーの研究室の棚には、液体の入った瓶が所狭しと並んでいる。

その中の一本を持ってきて、下を向いたままのルークに渡す。


「はい。」


「あ、はい。」


手渡された小瓶を不思議に思って、デイジーと瓶を見比べる。


「この間、ルークが教えてくれたでしょう?白カエルちゃんが言っていた、効果の高い回復薬。」


「回復、薬?」


ルークは記憶を探る。白カエルちゃんが言った?



『…優しい魔法薬が良いのよ。しかも!その水を使って創薬すると、効果の高い回復薬が作れちゃうっていう、一石二鳥なの!』


『効果の高い回復薬が作れちゃう』



ってやつ!?

ルークは恐る恐るデイジーに尋ねる。


「湖の魔法薬で創薬すると、効果の高い回復薬が出来るって話したやつ?」


「そう。今渡したのがそれ。やっと納得できる効果のもので一番簡単に出来るものが作れたの。」


「どんな効果があるの?」


小瓶を軽く振ると、中の液体はキラキラと輝く。


「それは魔力回復薬。完全回復するみたい。」


「「「は?」」」


ジェイクとハンナも一緒に驚いているところを見ると、二人とも初見で初耳らしい。


「ちょ、ちょっと?デイジー?それはまた、とんでもない効果なんじゃ?」


ハンナが驚いて尋ねるし、ジェイクも言葉なく頷くばかり。


「そうなの。花豹君との繋がりがね、昨夜深くなったなって思ったのよ。そしたらね?なんか出来たのよ。」


「なんか出来たって…。」


ハンナは半分笑っているが、呆れと呆けが混じっているようだ。


「大丈夫。自分でも呆れたもの。ふふふ。」


デイジーは笑うけど、これはとんでもない代物では?


「感覚としては、魔力切れで倒れて意識を失って儚くなるその瞬間まで、経口接種で、最悪は粘膜接種で回復するっぽいのよねぇ。」


「けいこう?ねんまくせっしゅ?」


ハンナは聞いたことのない単語に疑問顔だ。


「経口接種というのは、口から飲むことで、粘膜接種は、口の中や目、お尻の穴の中とかね?そこにくっつけばいいってことね。意識がなければ飲めないでしょう?顔に振りかけたり、お尻の中に注入したら効果が得られるってことね。」


みんなのお尻の穴がキュッと締まる。

出来ればそこはやめていただきたい。


「飲むのが一番。飲めなきゃ粘膜に接触させて、ゆっくり浸透させて効果を促すってこと、か。」


「ご明察。ルークちゃん。」


デイジーはにっこり笑う。


「これを宮廷に提出して、緊急時に使用してもらうことになったの。」


「なったのって…?どういうこと?デイジー。」


突然の話。デイジーの力は秘匿するのではなかったか。


「あぁ、大丈夫よ?ちゃんとキースに報告して、相談した上でのことなの。それに、私以外でも作れるように、構築することが難しかっただけで、水-創薬のスキルを持つ人なら誰でも作れるようにしたから。」


「したから…って?デイジー、そんなことできるの?」


「なんかね?そんな感じなの。ぼんやりね?見えるっていうか。ふふふ。」


一体どういうことかと目を見開くと、デイジーのそばで得意げに胸を逸らす花豹君が目に入る。


あれ?なんか光ってない?


「うん。もう満ちたんだ。ルークが見てる時が良いかなって、昨夜からワクワクしながら待ってました!」


花豹君の光が強くなる。

その花豹君がデイジーに語りかける。


「デイジー?ねぇデイジー。僕を見て?」


デイジーはその声に反応して、声のする方へ顔を向ける。


「花豹君なのね?そこにいるのね?」


「うん。ずっとそばにいたいと思ってた。花豹の力は誰かを平穏と安息に導く力。それが昨夜満ちました。」


「えぇ、解るわ。」


デイジーは、静かに受け入れる。

ルークが花豹君と話しているのを聞いてしまった時から、こうなる日が近いと感じていたからだ。


「私と一緒に居てくれると決めて、それからずっと近くにいてくれて、本当にありがとう。これからもよろしくね。」


「名前を付けてくれる?」


「花豹君ではなくて?」


「それはルークが見た目だけで付けた呼び名。デイジーが似合うと思う名前を付けて?」


花豹に言われて、デイジーはじっと薄ぼんやり見える花豹を見つめて考える。


「そうねぇ、平穏と安息の力…シリニティー…なら、シリーはどうかしら?」


デイジーはぼんやり見える花豹の精霊に近寄りながら名付けをする。


「シリー、良いね!ありがとう素敵な名前をくれて!自分の名は***。これにて契約完了。」


ピカリと光る花豹の精霊。


花豹の精霊とデイジーの胸の光が強く繋がり、ふわりと消えていく。光の中から現れた花豹の首周りには、薄い八重桜のような可愛い三つの花が咲いていた。


デイジーの目にぼんやりと見えていた花豹の精霊が、実体を持った普通の動物と同じように見えるようになった。精霊だからか、ふんわり光っているようにも見えるが。


こ、こんな鮮明に見えるて良いものなのか。

ルークの見えている世界はこんな感じなのか。


「私もルークちゃんの世界に入ったのね。」


ふふふと笑うデイジーに、ジェイクが笑いながら伝える。隣のハンナは口を開けて驚いているが、声を出して邪魔をしないように必死だ。


「一番大切なこと。僕らの本当の名前はデイジーだけ、契約者だけの秘密。知られると、黒い奴らに侵食されておかしくなっちゃうから。」


「解ったわ。誰にも言わない。なんなら忘れることにするわ。」


「うん。それが一番良いと思う。そして二番目に大切なこと、それは、デイジーは水と植物のスキルは、デイジーが想像しうる限りオールマイティ。全てが使えるよ。それが僕から契約者にあげられる加護の一つ。」


「それは、すごいわね。でも、昨夜からなんとなく使えていた気がするのだけど?」


「あは!そうなんだ。昨夜、契約に足る全てが満ちたんだよ。だから、欲しがってたスキルを先んじて与えました。だって絶対、僕が最初の契約者になるって決めてたから。」


胸を張って伝える花豹の精霊に、デイジーはクスクス笑う。


「ええ。どうもありがとう!お陰で良いものが作れたわ。」


デイジーは花豹に近づくと、そっと頭を撫でる。

花豹はとても嬉しそうに頭を上げると、そのままデイジーに巻き付くようにマーキングをした。


「この首周りの花、とても可愛いわ。」


「これはね?一つは精霊の叡智様、一つはデイジー、一つは僕。ずっと一緒だよって意味なんだ。」


少し恥ずかしそうに微笑む花豹の精霊に、デイジーはそっと抱きついた。


今後も良い関係が築けていけそうだ。



「デイジー、もう伝えたが、もう一度だけ伝えておくよ?」


ジェイクはボビーにも伝えたアレを伝えるようだ。

ルークはもう、ジェイクに任せることに決めた。お任せしよう。


「ええ。お願いします。」


「精霊は転移ができる。突然現れたり消えたりする。精霊相手には、心の声、ダダ漏れ、サトラレだ。内緒にできることは一つもない。それゆえに、心で会話、念話ができる。とても便利だが、自分の心の声に応えられることもあるから驚く。」


じいちゃんの記憶力が怖い。

多分最初に俺が伝えたことの丸パクだ。

俺だって覚えてないのに…。


「それは、驚くかも。ふふふ。でも話ができるっていうのは感動的ね。いつも話しかけても答えは聞こえてこなかったもの。」


これで、デイジーまで見える人になった。


ハンナは驚きつつ、デイジーを祝福する。


「凄いわ!デイジー!ますます狙われそうなスキルを獲得していきそうなのが心配だけど。また後で今あった出来事を教えてくれる?私にはピカっと光ったことしか解らなかったわ。」


ハンナは笑って伝える。


「ええ。勿論よ。詳しくお知らせさせてもらうわ。」


見守っていたルークだが、デイジーの研究室に鑑定盤を見つけてしまった。


「じいちゃん、鑑定しといた方が良いんじゃない?」


「ん?あぁ、そうだな。デイジー、鑑定しても?」


「そうね。お願いできる?」


ジェイクは鑑定盤を取り出してデイジーに向けて起動する。


---

デイジー・フェニックス 48歳 特別宮廷研究員 

スキル:知りたがり

    水・植物オールマイティ

    化粧品オタク

    ドクター

魔力量A++→S↑

魔力操作A++++→S↑

---


みんなで結果を覗き見る。


「こりゃ、いつ契約できてもおかしくなかったっていうくらいの魔力量と魔力操作だったんだなぁ。」


「あら本当ね。」


「デイジーー!!もう、規格外すぎて、何が何やらよ!!」


ハンナだけが、頭を抱えて驚いている。


それもそのはず。鑑定結果にSが付くなんて、宮廷魔導士だった、あの!誘拐されかけた!人物の詳細鑑定ができる鑑定装置を作り出した人物!でしか確認されていないはずだからだ。


ハンナは、ジェイク、デイジー、そしてルークを見る。ルークは除外するとして、ジェイクとデイジーはその事を知っているはずなのに、それほど驚いている感じはしない。


「あはは。」


もう、笑っておくか。

考えても事実は変わらないのだから。


「あはは。」


ハンナの笑い声は虚しく響くだけだった。




着替えを終え、顔もしっかり洗った後、イヤーカフもちゃんと付けて、みんなで朝ごはんを食べ、食後のデザートに昨日収穫してきたマンゴーをいただく。

タネを避けてカットして、十字に切り込みを入れ、皮をひっくり返してくれている。


「マンゴー!好きー!おっきい!嬉しい!」


喜んでしゃぶりつくルークに、驚くハンナ。


「ルークが今までで一番喜んでる気がするわ!」


「あれ?そうかなぁ?でも、マンゴーは前世で高級品だった?かな。あんまり身近じゃなかったかも?」


「そうなのね。沢山あるからいっぱい食べてね。」


「うん!ありがとうハンナばあちゃん!」


モグモグジュルジュルと食べ進めて気がついた。


「ハンナばあちゃん。パンナコッタにマンゴーソースかけて食べたいな。」


「パンナ、コッタ?パンナコッタ…パンナコッターー!ルーク!ココナッツじゃない!作らなきゃ!!私はキウイソースが掛かったのが好きだったわ!」


「お。キウイソースもいいよね!イチゴソースと三つ並べると最高に可愛いし。」


「イチゴソースねぇ!あれも甘すぎないソースにすると、大人ウケするのよねぇ。」


「ねぇねぇ!なんなの?それ、スイーツなんでしょ?私たちも食べたいわ!」


「大丈夫よ、作ったらみんなで試食しましょ!」


花豹の精霊も嬉しそうに尻尾を揺らしている。


午後も楽しくなりそうだ。

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