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101.精霊を成長させる力

帰りもデイジーとルークはリヤカーの後ろに座っている。荷台には豹ペアとタマちゃん、そしてマー君が座って、みんなで揺られていた。


重さを感じないボビーさんは気が付かないだろうなぁ。

自分が引いているリヤカーにこんなに乗ってるなんて。


そうそう。

マー君はなんと、二回り大きくなっていた。

どれだけ生命力を減らしていたのか。その大きさが元の大きさなのだろうか。本当はもっと大きいとか?でもまだ声は聞こえてこないところからして、まだまだ力は足りないのかもしれない。


しかも。だ。

大きくなってもムチムチボディは健在だった!

大きくなった分、抱きしめ甲斐がありそうだ。しめしめ。後で触らせてもらいたい!


この変化は多分俺の魔力接続で、魔力以外も接続しちゃった結果なんだろう。

タマちゃんも接続してから成長したみたいだったし。


魔力接続をすることを、嫌そうにしていたタマちゃんはもう気にしていないみたいだけど、タマちゃんの時々ケチ?意地悪?になる感じはなんなのだろう?他の精霊さんでは一度もなかったんだけど。


とはいえ、今はその話ではない。今はもっと面白い話を精霊同士でしているのだ。


「ばあちゃん。後ろの荷台にね?精霊さんたちが四人座ってるんだ。ばあちゃんの花豹君、俺のユキちゃんとタマちゃん、マー君の四人。」


前を歩くボビーとトニーに聞こえないようにこっそり話しかける。とは言え、ボビーは耳がいいから聞こえてるかもしれないけど。


「あら。そうなの?何か話してる?」


「うん。マー君って、ボビーさんが今回帰還する前。って大昔らしいんだけどね?その時に一番の仲良しだったんだって。」


「まあ!」


「その頃って、精霊は普通に人間に姿を見せていたし、触れたり聞こえたり、今の俺みたいな人しかいなかったらしいよ。」


「あら、絵本で読んだ事がある話ね。あれは本当だったのね。」


また絵本か。なんで俺はその絵本と触れ合う機会を貰えていないのか。不思議だ。


「それでね?他の精霊さんたちは、新しく友達を作ったりしていたみたいなんだけど、マー君はボビーさんだけで、ずっと帰りを待ってたんだって。」


「あら、純愛ね。」


「うん。今世ボビーさんが帰還して生まれてきたのを知って、どうしても会いたくて、生命エネルギーを使って姿を現して、今世も友達になれたって。」


「そう…。それほど顔を合わせたかったのね。」


「でもエネルギーを使いすぎると死んじゃうから、数日だけにして、あとは見守ろうと思ったんだって、でも想像よりも疲弊してしまってて、エネルギーを貯めるのに何年もかかっちゃって、やっとまた会いに行けるようになったから、喜んでボビーさんに会いに行ったら、家でボロボロになって寝てたんだって。」


「あぁ、なんてタイミングなのかしら…。その事件は有名なのよ。拉致、略取、強盗、傷害。私もまだ幼かったから、スキルを使用する仕事が怖いものだって思うには十分だったわ。」


「そんな大事件だったの?後遺症とかはなかったのかな?」


「それは本人じゃないと分からないけれど、トラウマにはなったんじゃないかしら。被害を受けていない当時の私たちだって、怖くて外に出たくないって子達が大勢いたもの。あの事件のあと、同じことが起こらないようにって色々改正したはずよ。」


「そっか。だからマー君は、生命力を削ってまで、ボビーさんに再度姿を見せたんだね。そこで多分、ギリギリまで力を使ったから、今度は三十三年も会いに来られなかったんだ…。」


うん。それは、


「「愛だね」」


もう、マーモット精霊さんの愛しか感じられないよ。


「愛ですかー?執着ではないですかー?」


タマちゃんが不思議そうに尋ねてくる。


うーん。難しいな。


「ばあちゃん。タマちゃんがね。それは愛なのか、執着なのかって。」


「あら、難しい事を知ってるのね。タマちゃんは。」


「でーすでーす!」


「私が思うには、よ?」


「うん。」「でーすでーす!」


タマちゃんはばあちゃんの顔の前まで来て、聞く体制を整える。


「愛は、相手を恋しく思い、相手を慈しむ気持ちね。見返りや損得を考えないのよ。献身的って感じかしら。執着は、相手に心をとらわれて、しがみつきたい気持ちね。自分の欲望を満たす事が一番になってる状態かしら。自分ではその気持ちをコントロール出来ない事が多いみたい。」


「つまり、愛は他人のため、執着は自分のため?」


「あら、随分とざっくりまとめちゃうのね。そうねぇ。マー君の場合は、ボビーさんを好きすぎたのかもしれないし、ボビーさんと約束をしていたのかも知れないでしょう?よその星に転生して、この星に戻ってくるまで、早くて千年はかかると言う話もあるくらいだもの。」


「え!そんなにかかるの!?」


「長い魂だと数千年とか数万年と言われているくらいなのよ?」


「うわぁ。長旅すぎるよ。」


「ね?だから、そんな大昔の約束の内容は忘れてしまっていても、好きだった気持ちは残っていたのかもしれないじゃない?それを執着だって決めつけるのは、少し乱暴かな?と、思うのよ。」


「うん。そうだね。」


「タマちゃんは友達、ルークが?初めて?でーす。んー??ルークがいなくなるとー、タマちゃん寂しいでーす。これは本当。んー??」


うん。そうだね。友達が居なくなるって寂しいよね。でも精霊さんたちは死なないし、俺たちはいつかは死ぬ。精霊さんたちは、何度も悲しい思いをして、それを乗り越えて、また友達になってくれてるんだ。すごいよみんな。


ありがとう!精霊さんたち!


「おおお!幸せの気持ちが伝わってきまーす!ルーク、幸せですかー?」


うん!精霊さんたちの愛が伝わってきたんだ。

マー君の優しい気持ちもね!ありがとうね!タマちゃん!


「うーん。愛、わかりませーん?んんー?愛?なぜでーすかー?」


「光の精霊。それは今の偽の光の精霊王が愛を失ってしまったからよ。もうその呪縛から解き放たれなさい。今ルークのそばにいる貴方ならできるはず。」


ユキちゃんがそう言うと、隣の花豹君も、マー君も、いつの間に乗り込んだのか、アライグマの精霊も、初見のヘビの精霊やハリネズミの精霊、うさぎ型やフェレット型、羊型やヤギ型、キツネ型、モモンガ型、カワウソ型、クアッカワラビーのオサまでもリヤカーの荷台に乗り込んでおり、タマちゃんを応援するように頷いているじゃないか!


「んー??えー…でーす…。」


タマちゃんは戸惑っているようだ。

でもさ、こんなに大勢に応援されるなんて、タマちゃんはなんてすごいんだ!愛されてるね!タマちゃん。


迷っているような新生タマちゃんに、このルークの気持ちが大きく後押しとなった。


「愛されてますかー?愛ですかー。タマちゃん、自分にスキル使っていーでーすかー?いーでーすかー?」


「もちろん!タマちゃん、応援してるよ!」


荷台にいる大勢の精霊たちも頷き、祈るような仕草をする者まで出始めた。


「わかったでーす。タマちゃん、やるでーす!!」


高く空に舞い上がる。下から見ているルークからはタマちゃんの姿が小さくなって行く。手のひらにギリギリ乗るサイズのタマちゃんが大きなスーパーボールくらいになった時、その動きを止め、


「タマちゃん、やるでーす!『浄化!祝福!加護の光!』」


今使える全てのスキルを唱えたタマちゃんは、その中心から光を発し始める。最初は小さな光だったものが、どんどん大きく、強くなっていく。


みんなにも見えるのか、リヤカーが止まり、固定された。


「うわ!まただ!」


「眩しい!何があったの?ルーク!」


「とりあえず、みんな!目を瞑って!目が潰れちゃう!」


この祖父たちの土地全てが光に包まれたような強い光がタマちゃんから発せられ、ボワンッと弾けた。


まるで光のくす玉が弾けたように、中からは無数の細かな光が吹き出し、周囲を包み込む。家の中にも入り込んだし、大地にも温泉の源泉にも染み渡る。白カエルちゃんの住む湖にも届いた。ありとあらゆるものが浄化され祝福され加護を受けた。


しかし、この事に気がついているのは精霊たちだけだ。


「み、みんな!目は生きてる!?」


「なんだったの。今の」「ど、どうにか。」「危なかったです。」


どうやら目は大丈夫だったようだ。


チラチラと光が舞う中、精霊たちは喜び勇んでいる。友達精霊たちも、心から出てしまう笑顔で首を上下に動かして喜び納得しているような感じだ。


あれ?

ユキちゃんのセリフが頭を駆け回る。




「それは今の偽の光の精霊王が愛を失ってしまっているからよ。もうその呪縛から解き放たれなさい。今の貴方ならできるはず。」


「光精霊の大元、“今の“光の精霊王が、他の精霊王たちと絶縁したのよ。それがきっかけね。他の精霊とは今後話をしないから、言葉も必要ないって。」


「幸せな願いや祈りなら祝福、恨み嫉み妬み傲慢なら呪詛よ。あぁ、嫌だわ。」


クオンさんたちに降り注いだ浄化の雨。祝福の雨。その後イタチ君が言っていた。


「執着が、魂が浄化されたねぇー。」


白キツネさんが言っていた。


「二人はこの星の子にとって無駄な執着や猜疑心などが魂に張り付いていたのです。やっと浄化出来た。」


サーシャさんの鑑定結果を見た時、自分は思った。


「執着が能力の蓋をしていたのかも。」



タマちゃんのスキルは発動した。


浄化の光、祝福の光、加護の光



「蓋が、取れた?」


ずっと気になっていた。

タマちゃんから時々発せられる、自分が一番すごいと自信満々で人や精霊を見下すような物言い。あれは傲慢?自分以外に魔力接続させたくないという執着?嫉妬?強欲?


細かいことは解らないけど、“この星の子にとって無駄な感情“だ。


それらが浄化された。


相手の最善がその人にありますようにと祝福を貰った。


その上で、光の加護が与えられた。

バリアーみたいな感じ。


もう、あの嫌な感情たちから薄い光の膜で保護されているようだ。



溢れた光が収まりつつある中、ルークはリヤカーから降りて、タマちゃんがいた空を見上げる。

薄くシルエットが見えた。


あれ?あの形って…。


そのシルエットはゆらりと揺れて形を変え、ゆっくりと姿を表した。


「タ、タマチャンなの?あれ?さっき見えたシルエットは気のせい?」


ゆっくりと地面に降り立つその姿は、ルークの知っているライオンそのものであった。

ただ色だけが異なり、全体は白銀色に輝き尾の先だけが金色が混じっている。


タマちゃんと思われるライオンはそっとルークに目向けると、ニコリと笑って近づいてくる。


一歩二歩とその巨体を揺らしながら、その巨体ゆえに脅かさないようにゆっくりと近寄り、目の前で後ろ脚を畳み、座る姿勢をとったあと、ルークに深々と頭を下げた。


「ルーク、お主のおかげで浄化され、元の姿に戻る事ができました。全ての光の精霊を代表して、感謝を申し上げます。ありがとうございます。」


「あ、うん。」


タマちゃんは頭を上げ続ける。


「そして、この度ご尽力をいただいた全ての属性の精霊にも、お礼を申し上げたい。ありがとう!」


あちこちから、おめでとう!よかったね!待っていたよ!と精霊たちから声が掛かる。


どう言う事?


疑問しか浮かんでこないルークにタマちゃんは薄く笑って光を放ち薄いベールで自分とルークを覆う。


「我は太古の昔から存在する光の精霊、Lエル。いつの頃か今の精霊王に騙され、地位を奪われ、存在の力を奪われ、封印されたことにより記憶を失っていた。ルークと周囲にいる沢山の精霊のおかげで、記憶と力を取り戻す事ができた。」


「う、うん。そうか。」


納得しかけたところでタマちゃんの言葉に、引っかかるところがあることに気がついた。


「え?精霊王?それに名前…。」


「そうだ。我が治めていた国は、マーレルーチェス王国。今の名をバロニィ王国という。」


「う、うん。」


「このままあの王国を放置するわけにはいかない。他国の優秀な人材を、その自惚れた心から、秘密裏に拉致して連れ込み続けている。そのような精霊の理から外れた行いは、許しておけぬ。そうだな?ルーク。」


「そりゃそうだよ!自分でその国に行きたくて行くならまだしも、連れ去りなんて絶対ダメだ!その人を大事に思う人も、その人が大事に思うものも、全て悲しませる行為だよ!」


「あぁ。お主と契約できたこと、それを采配してくれたハリネズミ執事にお礼を申し上げたい。ハリネズミ執事は私という閉じ込められた存在に気がついてくれていたのか。優秀だな。ありがたい事だ。」


「う、うん。」


「あの面白い姿に閉じ込められていなければ、契約も出来なかったかもしれないな。のうのうとふんぞり返っている今の精霊王に感謝しよう?」


「あー。ごめんね。変なあだ名で呼んじゃって。」


「いいや。おかげでこの結果が得られた。騙し討ちのような契約だった。申し訳なかったな。」


「ううん。別にいいよ。楽しいし。ねぇ。聞きたいんだけど。」


「ん?」


「俺と俺の家族四人と商人さん二人、御者さん二人の九人でいたとこにさ、加護の光してもらったじゃない?」


「あぁ。」


「これ、ダブル掛けになるの?」


「…なるな。」


「随分強力な加護になるね?」


タマちゃんはニヤリと笑う。

ルークもニヤリと笑う。


「さて、そろそろ行こうか。」


「ん?どこかに行くの?」


「ちょっと悪を成敗しに。な?」


タマちゃんはその巨体を持ち上げると、ルークにその顎下から胸にかけて擦り付ける。


ユキちゃんのマーキングと同じだ。

ただ、タマちゃんはでっかい。片手で俺をプチっと潰せちゃうんじゃないだろうか。


「さっき見えたシルエットって。」


「あぁ、見えていたのか。一瞬だけ精霊王だった時と同じ姿になったのだ。すぐに精霊王になる前のこの姿に変わったが。」


「やっぱり、人型が精霊王なんだね。」


「あぁ。それが地位の姿だ。」


マーキングを終えると、タマちゃんはリヤカーの上にいる精霊さんたちに頭を下げ、そしてふわりと浮かんでいく。


あれ?これって、前にもこんな事があったような…。

カエル母さんの時と…同じ?


「ルーク。契約してくれてありがとう。」


そう告げると空に吸い込まれるように消えていったのだった。

タマちゃーん!

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