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10.母親に質疑応答

白カエルちゃんの爆弾発言があった夕方、アイリスは約束通り“勉強”の時間を取ってくれた。


ルークの一日は、食事と研究対象になる以外は、比較的家の敷地内での自由時間。

書斎というか図書部屋みたいな部屋で勉強するでも、庭で遊ぶでも、危険なことをしなければ自由なのだ。


必ず親は近くに居てくれるが、うちは両親共に王家直属のお抱え『研究者』

調べたい事、調べなきゃいけない事、研究したいこと、しなきゃいけないことが沢山あるので、そんな時は「ここにいてね」と図書部屋や自分の部屋、庭などを指定してしばし離れるのだ。


まぁ、言ってみたら、俺に構っている時間はそれほどない。

それをわかっているルークは、出来るだけ両親の目の届く範囲で、あれこれ遊ぶのが当たり前になっていた。


ノートもペンも腐るほど準備されている。


アーサーには


「面白いことを思いついたらなんでも良いから記入して」


と言われているのだが、みんなにとって面白いことでも、ルークにとっては普通なことが多々あるのだ。

俺からすると、この世界のことを教えてほしい!


転生者で帰還者な意識が強い俺は、さながら転移者のような気持ちになってしまう。


まあ、そんな忙しい二人だが、視線があった時など、少しの時間なら質問に答えてもらえる。


質問の内容が研究で行き詰まっていることの、ドンピシャヒントになったりする事も多いので、そこからは研究対象として扱われる。


したかないよね。お仕事だし。愛されてないわけじゃないのが理解できるので、文句もない。


文句はないが、しかし、そのおかげで疑問が解決されないことは、めちゃくちゃ多いのだ。

俺、日々不完全燃焼〜!!


それが何時間か丸々構ってもらえるなんて、半年ぶりじゃなかろうか。


ずっと気になっていることもあるし、次々質問してやるぞ!

と、気合を入れたところで


「さて、文字の書き取りなのだけど、アーサーが言うには、履修が終わってるって。どう言うこと?」


父さんには、前に本に書いてあった初見の単語が専門的すぎてわからない時に聞いたんだっけ。


本が重すぎてアーサーのところに持ってけなかったから、ノートにさらりと書いて見せたのだ。研究中でさらっと答えてたけど、驚いた様子もなかったのに覚えてたんだな。


「うん。大体の言葉は読み書きできると思うよ。」


「そ、そうなのね。知らなかったわ。自分一人で覚えたの?」


「うーん。本とか?なんとなくいつの間にか。精霊さんたちが知ってる言葉が結構あって、そこで教わることもあったし。」


精霊さんたちは、いつもルークのそばにいるわけじゃない。離れている時にためになりそうなことを学んでくれたり、図書部屋で必要そうな本を選んで持ってきてくれたりする。良き友人であり、良き先生なのだ。


「素晴らしいわ!そんな教師みたいなことまでしてくれるなんて!最近教わったのはどんな事なの?」


教えてくれとばかりに興奮して顔を近づけてくるが、この時間は俺が学ぶための時間なのだ。


「それは湖が棲家だってことだね。今日はあれこれ知りたいことがあるから、はやく始めよう!じゃないと知りたいことが溜まりすぎてバカになっちゃうかも。」


「え?バカに!?それは大変!早速始めましょ!読み書きはできるし、今日は読み書き用の本とノートしか持ってこなかったから、質問に答えて行く形が良いわね。さあどうぞ!」


にこやかにルークの欲しかった方向へ答えを出してくれたアイリス。

有り難い。時は金なりというし、早速聞いて行こう!


「この世界には温かいお風呂はないの?」


「え?温泉じゃなくて?」


「え?温泉があるの?」


どうやら温泉はあるらしい。

話を聞くと、今度行く予定の祖父たちの家の裏からちょっと行ったところコンコンと湧き出ているらしい。足湯くらいなら出来るかな。


温泉を気に入った祖父母たちが、あの場所に家と研究室を建てて移り住んだのだとか。


通りで。何故俺の祖父たち四人が仲良く住んでいるのかと思ったら、引退してからの移住だったわけか。

まぁ、引退したと思っているのは四人だけで、まだ王家預かりになっているっぽいけど。


優秀な研究者やその研究結果は、速やかに王国に広めたいんだろうな。この国の王様は。王様も頭が柔らかくて優秀だと有名だもんな。


しかし、温泉はあるけど暖かいお風呂はないっぽい。毎日入りたい。毎日が無理なら足湯だけでも欲しい。


心の声が口に出ていたようで、アイリスから


「足湯?なんか聞いたことあるわ。なんだったかしら?この感じ、前世の記憶かしら?気持ちいいって思ったのだけど。え?足湯?足湯!!」


足湯がトリガーとなったらしく、何か思い出せそうだとか。

いやいや、思い出すのは後にしておくれ!


「足湯は膝下だけをお湯に浸からせる入浴法だよ。健康法としても良かったはず。はい。ヒント終わり!次!お願い次!」


深く入り込みそうなアイリスを引っ張り上げて、次の質問を繰り出すことにする。

アイリスは自分のノートに、足湯、心地よい、膝下のみの入浴法、温かい、等のヒントを書き込んでいる。


「牛革の手袋ってあったりするの?」


「え、えっと牛革?魔牛で良いの?その皮なら、『採掘』スキルを持つ人が稀に持ってるわね。欲しいの?」


『採掘』スキルなのに、魔牛を討伐したりするの?スキルの無駄遣いなんじゃない?

と思うけれど、それを突っ込むと次の質問に差し支える気がするので、今回はスルーする。


「うん。ハリネズミ執事を抱っこするのにあったら欲しい。ハリネズミ執事を包めて、両側に手を入れられる感じに加工したものがあったらいいなって。お互い安心でしょ?」


というと、確かに魔牛の皮ならハリネズミの針も通さないかも。

とぶつぶつ言っている。


どうやら薔薇の棘取りに使われてるものより厚めのものなら、誰も欲しがらないから余っているのだそうだ。

勿体無いな。有効活用できたら良いのにね。

その一枚だけ、先に使わせてもらうことになるけど。


「ならそれを一枚欲しいな。」


「え?でも大きいわよ?それに誰が加工するの?ハサミも入らないわよ?」


なんでもハサミの入るところは薔薇の棘取り用に。その他はそのまま保管されているらしい。


その大きさより、加工を不安視するってことは、厚みがありすぎて工業用ハサミでも太刀打ちできないとなると、確かにどうすればよいか。


うーん。うん。

それはハリネズミ執事か、物知りな精霊さんに聞いてみよう。それくらいなら答えてくれる気がする。理から外れてないことを祈ろう。


「とりあえず、一枚取り寄せてみてくれる?何か考えてみるし。」


と伝えて、この件は終了。

足湯トリガーの後で、心ここに在らずって感じだけど、大丈夫だよね?信じてるよ?


次だ次!

ちょっと前、自分の将来に対する不安でスルーしちゃったけど、ガラスラップの話、許可もらうまでえらく早かったことが気になっていた。


「あぁ、王家と繋がる通知盤を貸し出されているのよ。お気軽にどうぞってね。父さん…じいちゃんの家にも置いてあるわよ?どの家にもあるんじゃないかしら?」


むぅ!!!

母さんよ、とぼけたことを言うんじゃありません!


一般家庭から王家に直接繋がる電話機(通知盤)みたいなものが、気軽に貸し出されているはずがないでしょう!なんで?みたいな顔をしているアイリスに対して、ため息が出る。


まあ、これがアイリスさんなのだ。俺の母さんなのだ。お嬢様育ちだったに違いないよ。

じいちゃんたち、上下水道の開発の主軸っていうか、発案者だったんだもんね。


そりゃ儲かったでしょうよ。

両親も室内灯と街灯で儲けてるはず…

あれ?気がついてないだけで、もしや俺も母親系だったりするのか?天然!?

それだったらやばいぞ。

ここまで空気読めない人でありませんように!

と心で祈る。


違う意味で空気読めてないことは多そうだけど。。

お願い!誰かこの世界の常識をもっと教えてくだい!


通知盤とは、通知盤からはみ出ないサイズの紙に書かれたものをその間に挟み、スイッチを押すと、それを映し取った者が設定された相手側の通知盤の面に映し出されるのだという。


何それテクノロジィー!!

読み取りファックスみたいじゃん。


通知盤に表示されるとか、素晴らしいな。誰の開発だろう。


「すごいな。誰が開発したんだろう。」


心の声が漏れていた。


「え?私だけど。」


「はっ?」


「ん?母さんが盤を使って作ったのよ。モニターみたいで良いでしょ?」


確かに言われてみたら…モニターだね。うん。

そうか、自分で作ったなら、価値もわからないか。

いや、わからないわけがないっ!


心で一人ツッコミをしてしまう。


何台作ったのか聞くと取り敢えず四台欲しいというので作って納品したのだそう。

送り先が対になっているものに送り合えれば良いという仕様なので、通知盤を通じて王家と繋がれるのはニ家だけ。

俺の家とじいちゃん家で終了じゃん。他に誰がそれ作れるのさ。

考えたら、わかるでしょ!


でも、やっぱりこれはめちゃくちゃ便利だ。軽量化に成功したら、是非普及させたい。


「小さくできたらスマホとかにも使えそうな感じだなぁ。」


気を緩めすぎたのか、また口から出ていたようだ。


「何それ?スマホ?」


アイリスの目が爛々とし始めてしまった。

トリガーにはならなかったみたいなので、生きた時代にスマホはなかったのかも?興味がなかっただけかも?


「う、うん。それはまたいずれね。」


モニターが専門分野的(というより、モニターラブに近い)なアイリスは、なかなか引いてくれないが、もう一つ俺にとって切望するものがあるのだ!俺、ゴリ押しでいけ!


「か、母さん!それはまたいずれ!必ず!絶対話すから!!俺は鏡が欲しい!身支度する時に部屋の壁に取り付けたいんだ!」


と、大きめの声でアイリスの声に被せる。

モニターラブでランランしてしいたアイリスの表情が無くなった。


「あ、そうなの。なら準備するわ。」


かなりスンな顔になったけど大丈夫?


「え?贅沢品じゃないの?」


「え?日用品だけど?」


嘘でしょ?

ならなんで部屋に無いのか聞いたら、必要だったの?って。それはもう不思議そうに聞き返された。

この星、美男美女が多いけど、多いからこそ見た目に拘らないのかもしれない。

家に一枚あれば事足りるんだって。玄関にあるでしょって、なんでさ!


そういえば、父さんは顔に食べカスついたままの時もあるし、母さんは髪が少々跳ねていても気にしない。


俺は欲しい。めっちゃ欲しい!

誰かの顔についたものは見てみぬふりはできるけれど、自分の目ヤニ、鼻クソ、ヨダレ跡は人様に見せたく無いのだ。


見て見ぬふりは、見なかったこととイコールではない!と俺は思う。


じゃあ、次に気になってたことを。


「ねぇ、スキルの一覧表ってあったりするの?」


「一般的にはないわね。一つ目のスキルは生えてから一年以内に王家に申請する必要があるから、そこで管理されてるわ。」


申請漏れがあったりしないの?の問いには


「申請しないと自立支援全般を受けられないから、みんなするわね。そのための厚い支援なのよ。昔ゴミスキルだと言われて恥ずかしくなっちゃって王家に申請せずにいたら、その気持ちが気に入らないって、その人は精霊の鍛錬所送りになったって話もあるわ。もちろんそこまで追い詰めた側も同罪として連れて行かれたんだって。」


き、厳しいな。精霊さん。

でも、スキルをゴミだと言うなんて、なんて奴だろう。その人の生きてきた証じゃないか。


って、これは一般的に知られていないんだっけ。

それにしたって人を馬鹿にするのは良く無い。

隠したくなるくらいの気持ちもわからなくないが、スキルを公にする義務はなかったはず。

いやでもスキルを使って仕事をするなら、公言したようなものか。


なんだか気の毒な話である。


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