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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第三章 アゼンダ辺境伯領・起業編

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教育の手始め

 手芸部隊のお母さんたちが働いている間、小さな子ども達は孤児院の子ども達と一緒に過ごしている。孤児院では大きな子供たちが小さな子どもを面倒見るのが普通の事であったので、そこに交ぜてもらっている感じだ。


 商会の建物が完成して、教会で作業しなくなった時はどうしようかと代替案を幾つか考えて迷っていたら、是非このままでとシャロン司祭と子供好きの修道士に言ってもらえ、あっさり解決した。


 一般的には、家族や近所のお婆さんなどに預ける事が多いそうなのだが、そういう人がいない親子に対して、過去に教会で預かっていた事があるそうなのだ。


 

 見習いとして働く年頃の子たちは、無理のない範囲で部隊や商会の仕事に参加し、少しずつ作業を覚えていく。勿論、働きに見合ったお給料が支給される。

 作業を覚えてもらうついでに、簡単な物や人の名前の読み書き、作業中の物の数や在庫を確認するために、数字と簡単な計算も教えている。


 競争意識が激しいのはどの子供達も同じなようで……上手くなろうとくり返して練習する子どもも多いせいか、最近は小さい子ども達も真似をして指折り数えては計算を始めたそうだ。

 

 今度孤児院に贈り物をする際は、石板とろう石が良いだろうと思う。


 年齢が高く、成人後に教会で働く予定が無い者は、他の商会にお願いして接客などを学ばせてもらっている者もいる。ギルド長であるドミニクの店を始め、幾つかの商会が協力的に対応してくれていた。


 他の商会に就職する事や、他の工房で職人になる事、農業や漁業など他の仕事もある事を説明するが、上手く行かずにスラム街に住まう事になった先人たちを見ているせいか、反応は芳しくなかった。


 それでも考えと可能性を狭めずに、興味が出たりやってみたかったら挑戦するように、試してみるのも悪くないと重ねて説明をしている。



*****


「マグノリア、肥料の発案者としての取り分の事なんだが」


 数日間をかけ領内を一周してきたセルヴェスは、休憩時間に孫娘を膝に乗せてお茶を飲んでいた。


 ――定年・退職後の働き口が厳しい元騎士達に仕事をと始めた肥料販売と輸出は、セルヴェスの予想通り大きく当たったのだった。

 長年各国で、瘦せた土地や荒廃した国を見てきたセルヴェスには確信があったのであろう。


 今や肥料作りは原料が足りないぐらいの勢いである。


 

 ちなみに事業を立ち上げるきっかけになった報奨金の使い切り問題だが、報奨金はある程度の分割で支払うようにした方が良いのではないかとマグノリアが提言した。


 ……実は過去にも何度も議題に挙がっていたそうなのだが、従来通り一括で支払ってほしいという声の方が大きかったらしく、実現に至らなかったそうなのだ。


 今回の事業立ち上げを受け、再度議題に上げて協議する事が決まったそうだ。



 それはさて置き。

 なんでも工房を商会化する際の幾つかの条件に挙げていた、教育問題の着手。 

 余禄とも言える資金が出来た事で、それを早められそうである。


「それでちたら、その分を教育に充てさせてほちいのでしゅ」

「あれか」


 マグノリアは大きく頷く。

 やっと大きな懸念のもう一つに着手出来るのだ。


 一足飛びに学校を、と言ってしまいたいが。やはり段階と順番がある。

 無理に作ったとしても、学ぶ習慣がない人達に無理強いした所で受け入れられない。


 ――今まで何とかやってこられているからだ。


 人間は存外、変化を受け付けない生き物だ。

 重要な働き手、この世界は子どもをそう考える。

 そんな働き手を、日に数時間とは言え遊ばせる事は勿体ないと思う人も沢山いる事だろう。


 学ぶ側も教える側も、受け入れられるように少しずつ整えて、きちんと運営できるようになってから進めた方が良い。



「取り敢えずは、なるべく多くの人が読み書きが出来るようにちたいのでしゅ。

 ……以前、護衛をしてくれた騎士しゃんに聞いたのでしゅが、文字の読み書きや計算が出来ないために、騙される農民が沢山いるそうなのでしゅ。農民以外にもそういう目に遭っている人達は沢山いる筈でしゅ」


 セルヴェスはマグノリアの話を聞きながら、どのように行えば良いかと考えを巡らせる。


「……農民や漁師、下働きの者など、読み書きが苦手な者達にも教育をという事だったな?」

「はい。初めは一、二時間程からでも構いません。週に何度か近隣の希望者に読み書きを教えるような体制を作りたいのでしゅ」


 ふたりの向かい側で静かに話を聞いていたクロードが、考えながら口を開く。


「取り敢えずは元騎士や現役の騎士に声をかけるか……初めは受講者がどの程度集まるかも解らないので、集会所や要塞などを使う方が無難だろうな……」

「賄いを多く作って、食事も込みにすると受講率が上がるのではないか? 昼は子ども、学びたい大人は時間が空きやすい夜にするとか」

「効率よく学べるように、共通の教本のようなものがあると良いかもしれないな」


 意外な事に、ふたりから次々と意見が出てくる。


 長年自分達が関わった領地を良くしたいという気持ちは、マグノリアよりも強い事だろう。

 なかなか具体的だったり、効果的だったりする方法が見つけられなかっただけで。


 そもそも地球とは考え方自体が全然違うのだ。貴族と平民の意識の違いは、現代社会で生きてきたマグノリアの想像以上だ。

 導く者と導かれる者。統治する者とされる者。


 貧しいものが居れば施しを、と教えられる。施しだけでは根本的な解決にはならないのだが、こちらの一般的な考え方はそういう考えなのだ。

 

 マグノリアの考えが必ずしも正しいとは、マグノリア自身思ってはいない。


 その社会や国々で考え方はそれぞれだ。この世界にはこの世界に則した世の中の流れがある筈で、地球と同じになれば良いとも思っていない。

 現代社会の日本にも地球にも問題は山積みだったし、歪みもあれば課題もあったのだ。


 ただ、彼等が自立した生活を送り、最低限の教育が施される事にそう間違いは無いだろうし、今は自領の事。充分手の届く範囲だ。



「……では、それで調整ちて下しゃい。領都では実現の際、ギルドの会議室で行う事を先日の会議で了承してもらっていましゅ。ゆくゆく希望と余裕があれば、もっと高度な教育を行える機関を作りたいと思っていましゅ」


 希望は伝えておく。

 彼等なら悪いようにはしないだろうと言う信頼と確信があるからだ。


 壁に控えていたセバスチャンが、観念したように瞳を閉じた。


(……ごめん。また忙しくさせて……)

 心の中で合掌しておく。


 ******

「こんな感じでいかがですか?」


 教師役に立候補してくれた老騎士達に、授業で使う教科書作りをお願いした。

 確認して良いようならば印刷をして本にする。当分これらは貸し出しの備品とする。


 更に問題集を段階的に作って、学校名義――『アゼンダ学校』名で印刷して売り出す。

 すぐにではないだろうが……話を聞いたものの様々な理由で学校に来れない人や、見習いをする位の子どもの練習用にと売れるのではないかと思っている。


 学ぶ習慣がさほど根付いていないので、安い値段設定にしてあるのもポイントだ。

 イメージは百円ショップで販売されているドリルだが、販売規模も原価率も違うのであそこまで立派なものでも無いが……今更ながら、百円ショップって凄いとマグノリアは思う。

 

 問題集の収益の一割は作った人に支払われ、材料費等経費を引いた残りの利益と、肥料製品でマグノリアに分配される金額を合わせ、私塾のような、小さな学校が運営される事になった。


 セルヴェスとクロードも出資すると言っていたが、それは軌道に乗り、本格的な学校を作る時にとお願いしておく。


 手探りの運営のため、初めは双方に無理のない内容に留意する事も忘れない。


 授業は週二回で料金は無料。都度読み書き一時間、計算一時間の計二時間。その後給食として賄いが出される。


 一週間で四時間勉強する計算で、休みの間に復習出来る様に負担にならない程度の課題を出して、学力の定着を促すようにする。だんだんに日数を増やしていければ良いのだが。


 場所は肥料事業の合間や休みの日に交替で行うため、肥料事業所の近くの集会所で、大人数になったら要塞をその時間借りる事として話を通した。

 

 遠方の子ども達は朝の原料回収の際に一緒に走らせる幌馬車に乗り移動してもらい、それでも遠いような幾つかの場所は別の日に教師が移動して授業する事とした。


 大人たちも時間が夜なだけで、基本は一緒である。

 勿論昼に代替する事も可能だ。



 ――これが後に平民から貴族まで分け隔てなく、基礎教育から沢山の専門課程と研究機関を有するアゼンダ総合学園の前身である。


 そして教育の必要性とその理念とが、長い年月をかけて大陸中に広まっていくのだが、それはまた別のお話。


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