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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第三章 アゼンダ辺境伯領・起業編

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アゼンダ商会と元締め幼女

 忙しい時間を遣り繰りして、久々に各部門の代表者がギルドに招集された。

 商会を作るための会議だ。

 

 改めてマグノリアの考えが伝えられたが、なんでも工房の人間は領主一家が経営に加わらない事だけは頑として聞き入れなかった。


 確かに……普通これだけの商売を興せば、手放す事自体が有り得ない事だが。

 ……欲が無いというか、変わり者のギルモア家というか……


 普通の範疇があるのか無いのか解らない、何処までも独自路線なのが辺境伯一家だ。


「……騎士団で退団する者が二名いる。荷物と人の往来の際何度か護衛についた事がある騎士と、長年会計部門にいた騎士で数字にも慣れている者だ。商会専属の護衛と経理の指導役にどうかと思う」


 セルヴェスの説明に、全員が諾と返す。


 売上があり過ぎて横槍が入るから商会にすると言われても、如何せん、ずぶの素人集団だ。

 代表に選出()()()()()()()本人たちが一番青息吐息である。


 大役に抜擢され、一晩で激変するシンデレラストーリーは物語だから楽しいのであって、つい先日まで街の片隅でクダを巻いていた自分が急に部門長とか代表とか言われても。


 及ぶ影響の大きさと扱う金額のデカさに困るを通り越して、情けないが震えが来る。

 急激な変化やチャンスなんてものは恐怖でしかないのだな……と、先日マグノリアとの会話を思い出してか、ダンは大きなため息をついた。


「商会にすると言っても何も解りませんからね……経理や会計に詳しい方は非常に有難いです」

「最近流れ者の盗賊団が出るそうです。これから狙われないとも限りませんから、元騎士に護衛してもらえたら安心ですね」


 まだ若いとはいえ、まともな職業に就いていたパウルの存在は有難い。


 ダンを始めスラム街で役職についたものは、今後の自分のすべき事を頭の中で組み立てては、途方もない積み上がりに慄く。

 ……取り敢えず、パウルにでも老騎士にでも頼んで、文字と計算を習わなくては。細やかなあれこれの書面を読めないのは先々不味い気がする。


 そんな事を考えている横で、工房の人々にすんなりと受け入れられた老騎士達もほっとした表情をしていた。



 各部門の代表者は次の通り。


 製造部門にはダン。

 しかしこの部門は多岐に渡るため、更に農作業部隊専従と健康食品部隊専従が一人ずつの計三人。どちらもスラム街の人間で、気働きが利く人物だ。


 販売部門にパウル。経理経営部門に元騎士。


 物流部門という名の護衛には元騎士。

 ……ここは物や人の運搬と、合わせてそれらの安全を守ってもらう部署だ。現在各所を巡回している専用馬車もここの管轄になる。


 先々警備部門と物流を分けるかどうかは、時勢と商会規模と、その他諸々の事情に依るだろう。

 

 総務・庶務には孤児院の子ども達の纏め役だった者がもうじき成人するという事で、工房に就職し、就任する事となった。名をエリックと言う。

 彼は積極的に子ども達を纏め、細かな雑用のすべてに精通している。


 そんな大抜擢のエリックは、今、テーブルの端で大人たちに交じって緊張気味に鎮座していた。


 ……手芸部隊は婆ちゃんが順当であるが、高齢過ぎるため、負担になり兼ねない。

 暫くは色々な人を見て該当者を決める予定だ。


 そしていつまで経っても平行線で話が纏まらないため、仕方なく……取り敢えずという形でセルヴェスが会頭に就任しておき、軌道に乗るまでは方々の風よけをする事になった。


 新体制に慣れた数年後を目途に、代表者か皆が認めた人間が就任するという事にした。



「我々ギルドでも、商会運営のノウハウを伝授致しましょう。

 ……何。すぐさま鍛え上げますよ」


 ドミニクの冗談とも本気ともつかない顔に、工房の者達は顔を青くさせた。

 ……スパルタで叩き上げられそうな予感が満載である。



 一応大まかな決まりとして、次のようになった。


 ・血縁関係は関係なく会頭は話し合いや多数決で決める事。

 ・五年ごとの任期見直しとする事(再選可能)とした。

  癒着や誤魔化し、着服等を防止する意味もある。状況が良くない時には人が代わる事で方向転換し易くもある。


 ・何かやらかした場合は、勿論話し合いの上解任も出来る。一般従業員も同じ。

 ・希望があれば全部門を数年かけて回り、全ての仕事を身に付ける事も出来る。希望の部門や部隊があれば配置換えも出来る。

 ・大きな決まりごと、変更は会議を以て決める……等々。


 都度、必要があれば加えたり変更していく事にする。

 運営していく内に見えてくるものもあるだろう。



「……人間は地位や財産を持つと変わりますからね、ストッパーが欲しいのですよ。ちゃんと見ていてくれる人が」


 そうダンが言う。みんなも大きく頷く。


「それに元々お嬢様の発案と尽力で作られたものですから。

 ……色々ご事情がおありなのは解りますが、お嬢様に何も無いっていうのはやっぱり違うと思うんです。我々の事を考えて下さってるのも解るんですが……上手く言えねぇんですけど……」


 随分と丸くなり、言葉も初めに比べたらちゃんとしたもんだと思う。

 自分の事を一生懸命に考えてくれている事に、マグノリアは柔らかく微笑んだ。


「じゃあさ、幾つも支店を持つ大店の爺さんみたいに、元締めになっちゃえばいいんじゃないかな?」

「元締め……?」


 冒険者ギルド長のヴィクターの言葉に、ダンが聞き返す。

 幾分元気になった揺れる赤毛の横で、ドミニクが得意の苦虫を噛み潰した顔をした。


「うん。店を沢山経営している人は、全部を自分では見きれないでしょ。だから店主や会頭を雇ったり継がせたりして、ひとつひとつの商会にはさしてタッチしない人達だよ。明確には決まってないから沢山口出す人もいれば基本放置の人と、マチマチだけどね」


「なるほど……それなら余程大きくない限りは契約や交渉事にも出ないので、顔バレもし難いですね」


 パウルが嬉しそうに相槌を打つ。他の者たちも表情を明るくした。


 ……会長とかオーナーみたいなものなんだろうか?

 マグノリアは首を傾げる。斜め前ではドミニクがジト目のまま前を向いていた。


(元締めって……幼女がなるものではない気がするけどなぁ……)


 とは言え、このままでは多分話は平行線だ。みんな忙しい身でもある。

 マグノリアが保護者二人を見ると、好きにしたら良いと頷いた。


「解りまちた。幾ちゅか条件がありましゅが……」


 役員報酬は貰わない事。領主家としての参加ではなく、あくまで個人としての参加である事。

 収入はマグノリアが考えたものの純利益の五パーセントを報酬とする事。


 その他幾つかの希望を伝えて、全て了承された。




 ……決まっただけで、やる事は余計に山積みになった。


 セルヴェスが会頭の内は大丈夫であろうが、正式な民営の商会なのだとしたら、長期間に渡って要塞や教会を使うのは厳しいであろう。贔屓だなんだと言われ兼ねない。


 一応、命を救うために急速に事業を進めなくてはいけなかったので、建物を用意する時間と資金が無かったという建前は用意している。


 辺境伯家が用立てているとはいえ(そろそろ回収されそうだが)、元々辺境伯家の事業とするつもりは無い。

 あくまで困窮する領民が自立するための場所を用意したかっただけだ。


 困窮者がいきなり、一から事業をするのは無理な話だ。

 一時的に介入はしたが、航海病の治療と予防、困窮する領民の自立のためである。


 領地事業にした方が話は早いが、領地収入のためではない。

 あくまでお膳立てはしたといえ、自分達で大きくしていく方がモチベーションも上がるであろう。


 ……とは言え先が解らない事業だから目こぼしされていたのであって、存在感を増していけば必ずアラや突っ込み所を突いてくる者がいる筈だ。


「前から思っていたのでしゅが、スラム街の人々が差し支えないのであれば、彼等の住んでいる辺りを整備ちて商会や工房、住居などを作ったらどうでちょう」

「……裏通りだが、良いのか?」

「道、数本でしゅよね? 若い人や低資金で出店ちたい人など、却って集まり易いのではないでしゅか?」


 セルヴェスは領政をクロードに任せるために、最近は余り口出ししない事にしている。

 元々が優秀なので、今までもそれほど口出しをしてはいないが。

 ……戦地を走り回ってたセルヴェスが、そう教える事も無いとも思っている。


「区画整理か……」

「一度にではなく区画を区切って時間をかけて整理ちても良いのではないでしゅか? ガラス瓶のように見習いしゃんの鍛錬の場とちても良いと思いましゅよ。住む場所や店舗なので間違いがあるといけないかりゃ、定期的に技術者のチェックは必要でちょうけど。店や住居は買取なのか賃貸なのかで回収金額が違いましゅが、ともあれそちらを資金にしゅれば、補填ちて次の整備に回せましゅし」

「ふむ……」


 クロードは長い睫毛を伏せて長考を始めた。

 マグノリアはヴィクターに向き直る。


「一つの工房に頼まなくても、幾ちゅかの工房から見習いしゃんを出ちてもらうのって厳ちいのでちょうか?」

「いや。大きい仕事の場合は部分ごとに分けて複数の工房でする事もあるけど、見習い工限定は余りないパターンかもね……まあギルドの募集として技術向上のために見習い工を重点的にってすればいいんじゃないかな? 専門家でなくても大丈夫な作業は、日雇いの人に任せるとかも可能だしね」

 


「……あの、商会の名前はどうするんでしょうか?」


 延々と続きそうなやり取りを申し訳なさそうに遮り、エリックがおずおずと質問をした。

 室内の全員が瞳を瞬かせ、顔を見合わせる。


「名前か……」

「……なんでも商会?」

「いや、それは流石に微妙だろう……」

「ザワークラウト商会は?」

「駄目だ。ピクルスやパッチワークはどうするんだよ」

「いっその事、度肝を抜くような名前の方が良いんじゃねぇか?」


 ざわざわと言いたい放題口にしては、みんなクロードを見た。


「…………。諸外国では『アゼンダのザワークラウト』で通っているらしいから、解り易く『アゼンダ商会』が良いのではないか?」


 地名を入れた社名は、前世でも沢山あった。

 解り易く無難である。インパクトは無いが。


「「「「「「異議なし!!」」」」」」


 全員が声を揃えて頷く。

 クロードは微妙そうなしょっぱそうな、何とも言えない表情をしていた。

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