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【小説7巻12/19発売・コミカライズ2巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第三章 アゼンダ辺境伯領・起業編

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お墓参り

 北部の要塞でガラス瓶とかめの納品内容を問題無く確認した後、(かね)てより希望していたお墓参りに行く事になった。


 アゼンダ公国の大公家は、北にあるモンテリオーナ聖国王家と繋がりが深いらしく、その関係もあってか霊園は公国の北側にあった。

 セルヴェスが領主になってからも特に変える事はせず、皆、昔のまま静かに眠っている。


 辺境伯家の墓には、曾祖父のウィリアムの一部と曾祖母のアゼリア、祖母のルナリアが眠っている。

 セルヴェスにとっては両親と妻だ。


 ここに移り住んだ時に、万一の場合はセルヴェスの父であるウィリアムも眠っている、本家であるギルモア領の墓へ入るか話し合ったらしいが、領民の感情を第一に考え、ここの人間になったのだと領民と共に眠る事を選んだらしかった。

 代わりにセルヴェスの父が淋しくないように、セルヴェスが持っていた彼の遺髪も曾祖母と一緒に眠っているそうだ。


 なので、ここに三人で眠っている。



 マグノリアは花のリースを一つ、墓前にそっと置くと、手を組んで静かに祈った。


(初めまして。マグノリアと申します……実は異世界からやって来た者でして、どういった存在なのか説明が難しいですが。一応、物理的には(?)多分お三方の子孫で間違いはないと思います……)


 マグノリアはそっと瞳を開けて、墓に刻まれた名前をみつめる。

 短くない時間が経っているからか、彫られた文字は角が取れていた。


(実家で、すったもんだありましたが。辺境伯家に御厄介になりながらぼちぼち楽しくやってます。お世話になってる人達に恩返し出来るように、こちらに居る限りは過ごしていくので、見守っていただければと思います……)



 墓の中では嫁姑同士、更には舅と、いったいどんな話をしているのか。

 おかしな孫の存在にびっくりしているのか。それとも案外、何ともなく笑って聞いているのか。


 そんな事を考えていると、クロードはマグノリアの手に残ったリースを見て首を傾げる。


「それは置いてこないのか?」

「こりぇは、クロードお兄ちゃまの産みの親御さんへでしゅ。もう一人のお父しゃまとお母しゃまも、お参りしていきまちょう?」


 びっくりしたように大きく瞳を瞠る姿は珍しく、思わず笑ってしまいそうになるが、堪える。


「いや……」

 何とも言えない表情で、マグノリアを見る。


「……おじいしゃまは、そんな事気にちましぇんよ。滅多に来ないのに、ご両親も息子に素通りされたりゃ哀しいでしゅよ?」


 今までも散々セルヴェスが言ったのだろう。確かに義父がそんな小さい事を気にする人間ではない事はクロードも知っている。

 それどころか、顔を覚えていない亡き親にもきちんと情を向ける事の出来る息子を、愛おしく思うであろう筈だ。


 ……とはいえ、クロードとしては複雑な心境であろうことは想像がつく。

 充分に愛情をかけられながら、他の親を求めるような行動をとるのは憚られるのだろう。


「息子しゃんにお世話になってりゅけどお世話もしてましゅって報告ちないと。後、無愛想過ぎりゅのも直ちてほちいってお願いちましょう」

 

 マグノリアの言葉に、クロードは眉を顰めた。


「……いつも世話をしているのは俺だろう。叱っているのにヘラヘラ笑わないだろう。怒られるような事をするから無愛想になるんだ」


 マグノリアとセルヴェスは珍しく年相応な様子のクロードをみて笑った。


 セルヴェスはクロードの肩に、ポン、と手を乗せた。マグノリアは長い足に絡みついて引っ張る。

「しゃあ! 観念ちて行きましゅよ!」



 奥に進んだ先にある大公家の墓陵近くの、昔から仕える家々の墓の中にその墓はあった。

 貴族の墓でありながら、慎ましやかである。

 そして古くから仕えた家々が多いからか、歴史を感じる墓が多い中、比較的新しく見える墓であった。


 二十年前、砂漠の国の兵に押し入られて皆殺しにされた、男爵家の唯一の生き残りであるクロード。


 リースを手渡しながら、妙な感覚に陥る。

 何度か感じたことがある、『知っている』感じ。


 ――何を?


(まただ……何だ、これ。妙な引っ掛かりがある……『私』は何を知ってる?)

 

 墓前に黙って語りかけているであろうクロードの背中をみて問いかける。

(『私』は誰だ? ……『クロード』は誰だ?)


  

 マグノリアの問いかけに答えるものは誰もいない。

 ここは異世界。


 晩秋の風が草木を揺らし、彼等の髪もさらっていった。

 季節はもうじき冬を迎えようとしていた。

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