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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第三章 アゼンダ辺境伯領・起業編

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其々考えはこもごも

(面白いな、このお嬢様!)


 ヴィクターはワクワクしていた。

 自分が見たどの女性よりも可愛らしい顔をしているくせに、ずっと年配の狸親父たちを目の前にして、気負うでも怖気づくでもない。

 そして物凄く筋が通っている。幼児とは思えない……そう、まるで大人みたいに。

 なのに言葉がたどたどしいところが余計笑える。


 隣では頭が痛そうに、仏頂面で押し黙ったまま心の中で頭を抱えているだろう、ドミニクを見ては余計に笑えそうだ。


 

 マグノリアがクロードに視線を向けると、視線を返して口を開いた。


「……辺境伯家主導で事業を起こすのは、領地の困窮者に職に就く機会を設けるためだ。幾つもの仕事内容があるため、本人希望や体力、可能な内容のものから自由に選び、相応の賃金が発生するものとなる。無理に働くようにとは言わないが、自分達の生活と職、また今まで治療が出来なかった病気回避への社会貢献にもなる。出来る限り考えてみてほしい」


 ずっと黙ってやり取りを見ていたスラム街の代表格であるダンは、何も言わずに視線を合わせた。


「そして、その募集や一連のいつもの作業を両ギルドに要請したい。領地に大きく関わる内容なため、今後も色々と協力や助言を仰ぐことになるだろう」


「「かしこまりました」」


「種苗組合へは、後ほど種と苗の発注を行う予定だ。ガラス工房組合、窯元組合には瓶やかめを作って貰う予定でいる。無理ない予定で製作出来るように、各工房にまんべんなく依頼する予定だ」


 クロードが再びマグノリアに説明の立場を譲る。


「瓶とかめについてでしゅが、規格をある程度満たしていれば可能でしゅので、若い見習いしゃんの練習の機会にして下しゃっても良いかと思いましゅ。精肉、鮮魚、生鮮、パン職人組合へは、売れ残りや廃棄品の買い取りを行いたいと思っていましゅ」


「売れ残りの買取?」

「あい。ご自分達で食べる分やお店で安売りをする分は勿論除いて下さって構いましぇん。お買い得なそれを求めていらっしゃる方もいますでしょうち。

 ……どうちても残ってちまい廃棄するもの、始めから廃棄すると解っているものを、原価に幾分儲けをつけて買い取りたいと思っていましゅ」

「何故そのようなものを?」


 訝し気な声に、マグノリアが頷く。


「まず、ひとつは衛生のため。生ものなど、そのまま廃棄すると大変不衛生なのでしゅ。燃やすか、かなり深く掘った地中に捨てないと病気が蔓延するのを助長する可能性もありゅのでしゅ。次に、勿体ないから。折角の売り物が捨てりゃれるのは、売り手にも作り手にも不幸でしゅ。食べられるのであれば、食べる方法を考えようと思っていましゅ。それに、皆しゃんも破棄して赤字が出るよりは、少しでも損をしない方が良いのでは?」

「……廃棄するものとは具体的には?」

「食べるものなので、勿論食べらりゃれる鮮度であるのは必要でしゅ。なので酷く傷んでいりゅものは除外しましゅ。精肉店でしたら、肉や加工品は勿論、骨や内臓なども買い取る予定でしゅ。勿論強制ではないので、無理なく、希望店だけで結構でしゅ」


 組合長達は、気の抜けたような返事をしているが、構わず今度は領都近隣農家の各方位(北部、東部、南部、西部)の代表に身体を向ける。


「農家しゃんへのお願いは、作物を育てる上で助言を頂きたい事と、やはり育ち過ぎて廃棄するもの等があれば買い取りたいと思っていましゅ」

「……そちらも食べるのですか?」

「あい。ものに依っては加工品にちたり出来るかもちれましぇんし、新しい工房で働いてくりぇる皆しゃんに食事を提供ちたいと思っていましゅ。その一部になりゅと思いましゅ。勿論、お手伝いして下しゃった皆しゃまにも」


 普段関わらない人間達に囲まれて緊張していたのであろう。四人で顔を見合わせ、思ってもみない内容に顔を綻ばせる。


「お嬢様みたいな貴族様が……作り手や農家の事まで考えて発言をして下さったり、働く者の事まで考えて下さって。本当有難ぇ事です。是非、協力をさせていただきます」


 深く頭を下げた。マグノリアも頷いて、司祭に向き合う。


「教会へは、是非調理場と作業場所を貸していただきたいと思っていましゅ」

「スラム街に近いですからな。困窮していたものが日々の糧を得られ、沢山の病に苦しむ筈の者が救われる事業、是非お手伝いさせていただきます」

 シャロン司祭は穏やかに微笑むと、労うようにマグノリアに頷いた。


「場所を貸ちていただくので、教会在籍者の食事も提供させていただきたいと思っていましゅ」

「おお、それは有難い事です」

「細かい話し合いはまた後日、日を改めて伺わせていただきたいと思いましゅ」


 一息ついた所で、再びユーゴが手を挙げる。


「先程、新しく工房を作ろうとしている新しい商品について効果があるのかという疑問が出ておりましたが。自国に帰省するため現在マリナーゼ帝国に寄港しているイグニス国の先の商船団より、シャンメリー号に知らせがあったとの報告を騎士団にて受けました。こちらにその内容を記載し持参いたしました」


 イーサンが配った書類を見ると、体調が崩れたらすぐに中止し治療するという決まりで、効果の確認のための希望者による実験を行った内容が記載されていた。


 今までと同じ食事をするグループと、今までと同じ内容に加えてザワークラウトを食べるグループ。そして今回伝えた野菜と果物を食べるグループ、野菜と果物・ザワークラウトの全てを食べるグループの四つに分ける。


 今までと同じ食事のみのグループには、航海病と見られる発疹が出た者が複数いたので、すぐさま実験を止め食事療法を行った。既に全員回復済みとの事だ。


 更に、他の三つのグループには航海病と見られる症状が出た者はいなかった。

 よって、ザワークラウトも有用であると思われる事。

 また、野菜と果物と併用すればより回避の可能性が強まるのではないかとあった。


(アーネスト……あんた証明してくれて凄いけど、危ないじゃんかよ……)


 思わずため息をつく。

 マグノリアが怖くて踏み切れないような証明の実験をしてくれて、非常に助かる反面、誰かに何かあったらと思うと怖い。


(まあ、その位航海病について解明したいというか、本当に無くしたいんだろうな……切実だからこそなんだろうけど)


 流石に誰かの命がかかると、マグノリアの鉄の心臓も縮み上がりそうになる。


(ただのアラサー女子に命は重過ぎなんだけど。何としても救われる人を多くしなきゃだな……)


 書類をじっと見たままマグノリアは、先日出会った外国の少年――小麦色の肌と金色の髪の少年を思い出していた。


「そして、シャンメリー商会より正式な要望として、クルースに寄港した際のザワークラウトの大量購入の許可、及び他国に輸出する権利を願い出る要望書を受領致しました」


 そう言うユーゴの声に合わせて、イーサンが書類を高く掲げて、全員に示すようにゆっくりと左右に動かした。

 静かに(?)会議の成り行きを見守っていたセルヴェスが頷く。


「相分かった。後程辺境伯家とシャンメリー商会とで正式な話し合いを進める事とする」


 返事を受け、ユーゴとイーサンが深く礼をした。

 その時。


「……外国ともそんな約束して、安い金でスラム街の奴ら使って荒稼ぎしようってぇのか?」


 それまで一言も声を発さなかったスラム街代表のダンが、鋭い視線を辺境伯家の人間に向けながら言い放った。


 初めて発したダンの声は、猜疑心と不信感と警戒心と。沢山の負の感情が交じり合ったようであった。

 これまでの苦労や辛い思い、手ひどい体験を連想させる様子と声色。


「賃金は一般的な金額を考えている。先程も説明した通り、年齢や体力差、仕事内容等によって多少の……」

「どーですかねぇ? そんなの、幾らだって上手い事言えるでしょう?」


 冷静に説明しようとするクロードの言葉を遮り、鼻で笑いながら睨みつける。


「一体何なんだよ? 職を得られるって、同情かっての!」

「ダン!!」

 

 商業ギルド長が、がなり立てるような声で名を呼び黙らせようとする。

 会議室はざわざわと騒めいた。


「……はっ! 社会貢献? こちとらな、人に施してる場合じゃねぇんだよ!! それに、スラム街の奴を使うって言っときながら、無理に働けとは言わねぇだって? 貴族に命令されて逆らえるのかって言うの!」

 

 一理ある。確かに身分差というのは如何ともしがたい事も多いだろう。

 それは、する側ではなくされる側が割を食う事が多い訳で。

 ましてスラム街に暮らす身。謂われも無い差別を受けたり、嘲られたり。騙されたり。口で言えないような辛い思いや鬱積した思いがあるのだろう。


 四十代に手が届こうかというダンは、それを事実と示すかのように、とても疲れ切った風貌をしていた。



 こういう時は、その人と同じ所まで行ってガチでぶつからないと納得出来ないものだ。

 ……ガチでぶつかっても出来ない時は出来ないけど。綺麗に纏めようとしても、反発しか返って来ない。


 マグノリアが柳眉をぎゅぎゅっと吊り上げる。

 不穏な空気を察したクロードが、待て、と言ったが待つ訳がない。


 空気を一杯に吸い、下腹に力を入れる。


「はぁぁぁあ? あんた、何を斜に構えてんにょ? そういうの、全然格好良くもなけりぇば偉くもねぇかりゃ!」


 会議室の面々が、目を丸くして小さな侯爵令嬢を見た。

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