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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第二章 アゼンダ辺境伯領・新しい生活編

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閑話 家令とお嬢様の華麗なる攻防戦?(セバスチャン視点)

 アゼンダ辺境伯家は朝から忙しい。

 実際の家名はギルモア家なのだが、本家であるギルモア領のギルモア家と分ける為、『辺境伯家』を名乗る事が多い。


 家長であるセルヴェス様は今年六十であるが、未だ元帥として現役であり、野暮用ばかりを言いつけられている。

 今も王都の王宮へ、嫌々ながら出張中だ。


 跡取り息子である次男のクロード様は十九歳になり、ギルモア騎士団に属し、副団長を務める傍ら領政も手伝い毎日をお忙しく過ごしている。

 ……とても優秀で見目麗しいが、麗しすぎて寄って集るご令嬢にうんざり気味らしく、社交は殆どシャットアウトされていらっしゃる。

 現実とは難儀なものである。


 そしてつい先日……六日前に当家へ加わった、本家ギルモアで隠されて育ったお嬢様であるマグノリア様も、従僕(予定)のディーンを従え二日前の朝から騎士団の訓練に参加し、朝食後は執務室へ行って領政の勉強(?)もとい手伝いをし、午後からは刺繍や読書をして過ごす。

 保護者が館に居ると、再び領地や領政の勉強と手伝いをしたりもする。

 

 そして、遊び相手として雇われた二つ年上のディーンの都合に合わせてそれらを遣り繰りし、遊んであげる。


 そう、遊んで貰うのではなく、『遊んであげる』。

 ……立場が見事に逆転しているのはどうしたものなのか。


 気遣いの筈が子守をさせている様な状況に、ディーン少年の祖母である侍女頭のプラムとふたり頭を抱えている。

 いまいち勉強にやる気が無かったディーンに勉強も教えているらしく、遊びがてら地面に何やら書かせたりしているようだ。


 非常に優秀なお嬢様で、お世話になった伯爵夫人宛の手紙を見て驚いたのがつい数日前だが、そんなものは序の口だった。


 先日図書室の場所を聞かれ、お嬢様用に絵本を購入せねばと思っていたのに。図書室にそれとなく伺えば、ちんまりと椅子に座り、大人が読む歴史書や専門書類を平気で読みこなしていらしたのだ。

 ……欲しい本は無いか確認したら、紀行文や各地の情報が書かれた書籍、食物や香辛料などの書籍、他の国の特色などが解る書籍が良いと返された。


 ……独自に領内外どころか海外にまで、その興味を示しているようであった。



 更には執務室におられる時。

 セルヴェス様の膝に乗せられていたのだが、手前にあった地方から上がって来た決算書を覗き込むと、ここ、違いますねぇなんて言ったものだから、クロード様に他の書類も確認するように言いつけられ、三日前に執務室へもお嬢様の机を入れる事になった。


 ……ちなみにお嬢様はつい先日、四歳になったばかりである。



 昨日はクロード様と遠乗りに出掛けていたが……何かおふたりでやらかして来たらしかった。

 服は砂でジャリジャリだし、問いかけるとおふたりはすいっと瞳を逸らされる。

 出掛け先で騒動にでも首を突っ込まれたのであろうか……?


 まあ、ギルモア騎士団でも屈指の騎士であるクロード様がついているので、早々怪我をなさる事も無いとは思うが、淑女が騒動に首を突っ込むのは宜しくない。


 知識は食べ物にも向けられているようで。

 ……遠乗りの土産にと、おふたりから大きな布に包まれた見た事が無い南国の果物を渡された調理場の面々は、中身を見てどうしたものか考えあぐねていたが。


 お嬢様付きの侍女で一緒に移領して来たリリーにその事を聞くや否や、お嬢様はちてちてと小さい足を早く動かされて調理場へ行き、何やら彼等に指南をしていた。


 本日の朝、従業員一同の食事にカットされた冷やした果物と、『バナナスコーン』という果物を混ぜ込んだ菓子パンが出て来た。大変美味しく頂いた。



 そして今、私はお嬢様と対峙している。


「ご先祖様のお墓って何処にあるのでしょうか? わたち、おばあしゃま達のお墓参りに行きたいのでしゅ」

「……ちょっと遠いので、後日セルヴェス様に確認を致しましょう」


 色々と考え、明言を避ける。


 セルヴェス様が嫌々出掛けた出張中に行っては、後ほど主が拗ねる姿しか思い浮かばない上、何かあった時に宜しくないであろうとの判断だ。



 

 お嬢様は綺麗な朱鷺色の瞳でじっと見ると、小首を傾げた。


「しょれと、教会へ行ってみたいのでしゅが……日曜礼拝みたいなものはアスカルドやアゼンダではないのでしょうか?」


 土着の神々を信仰する国もあるが、大陸では各国々に所縁の深い神(アスカルド王国であれば花の女神)と、それらの神々を束ねる全能の大神を祀った『正教』を信仰している国が殆どだ。


「……ございますが、当家の主人方は余り熱心ではございませんね」

 

 時に人を殺める事もある為か、彼等――特にセルヴェス様は、滅多な事で神々に祈らない。

 逆に困難な状況や残酷なふるまいを見た後は救いを求めるものではないのかと思うのは、凡人のそれなのだろう。


「館の東の離れに小さな礼拝堂がございます。奥方様たちは日々そこで祈っておられたそうです」


 一応館に礼拝堂があるので、司祭に聞かれた時の言い訳で、多忙な主人達も日々そこで祈っているというテイである。

 なお、奥様と大奥様が使っていたのは本当であるが、所詮言い訳。主人達が祈っていた事は知る限りたったの一度も無い。


 だからそちらで祈ってはどうかと提案する。


「使用人の皆しゃんは、どうしゃれていりゅのでしゅか?」


 引く気が無さそうなお嬢様は尋ねるような姿勢を見せながらも、グイグイと押してくる。


 ……くっ! なかなか可愛い顔をして押していらっしゃる。


「……日曜の朝に、交替で礼拝に伺いますし、離れの礼拝堂を使うものもおります」

「では、その団体に混じぇて頂く事は出来りゅかちら?」

「護衛の問題も御座いますので。大切な御身に何かあっては、危のうございます故」


 何というか……うんと頷いたが最後、何かやらかす気がしてならないのだ。


 家令の勘とも言うべきか、セルヴェス様やジェラルド様、時折クロード様がやらかす時と同じ気配を感じる。


 お嬢様は反対側に小首を傾げる。


「……しょう。残念でしゅ。ちょっとだけ供をちて下しゃりゅ騎士の方はどなたもいらっちゃいましぇんのね?では、ご奉仕はどうされてましゅの?領主家でしゅのに、まさか金品だけを渡して御終いでしゅの?」

「……主人達は多忙ですので……」


 痛いところを突かれる。

 ……奥様方がご存命中は定期的に様々な場所に訪問され、孤児院や救護院を慰問されたり、炊き出しをされたりしていらした。

 貴族の義務であり、領主一家の役目でもある。


「マグノリア様はまだこちらにいらしたばかりですので」

「あい。でしゅから、一日も早く慣れるのに、領民の皆様と触れ合う事も、街へ出りゅ事も良いと思うのでしゅが?」

「マグノリア様はまだお小さくていらっしゃいます。サポートする人間も必要ですし、お相手のご都合もおありでしょう」

「……なりゅほど。わたくちのサポートをちてくりぇる人は居ないのでしゅね……? お願いのお手紙でしたら、自分で書けも読めもしましゅのに……」


 哀し気な顔で小さくため息をつき、小さく頷く。


「お忙しいおじいしゃまとクロードお兄ちゃまのお役に立てりぇばと思いまちたが、ちかたないでしゅね……」


(勝った……!)

 多少の罪悪感はあるが、勝った!!


 ……しかし。

 廊下の往来する、使用人たちの視線が非常に痛い。


 家令と言う事で殆どの者が何も言わずにはいるが、連れて行って差し上げれば良いのに、と言わんばかりの視線を投げて来る。

 リネンを運びながら見られ、掃除をしながら見られ。花を活けては見られ。


 つい先ほど遊ぶ為にお迎えに来たディーンは、少し離れた場所で何やらうずうずとしている。

 お嬢様はそんなお付きの少年の様子に、話してみなさいと問いかける。


「ディーン、どうちたの?」

「俺……いえ、私の家の者と一緒に行かれては如何でしょうかっ!」



((((((言った!!))))))


 大人の忖度を知らない少年が、爆弾を投げて来た。


 家令は顔色も表情も変えずに内心眉を盛大に顰め、ご令嬢はちょっと驚いた顔をしながらも、しめしめと思っているに違いなかった。

 下手したら……この場に少年を置いておく事自体がお嬢様の作戦かもしれないと家令は思う。


 いや。ディーン少年はこう見えて意外に聡いのだ。

 本来家令に逆らわず、せいぜい視線を投げる程度にしておく方が良いのは六歳ながら充分にわかっている。普段は空気の読める六歳児である。


 しかし、彼は今や絶対的なお嬢様の味方なのである。

 色々と恩義も感じてるし、親切だし、何よりとても可愛い。

 領都一の美人と言われていて、クロード様に何かと引っ付いては困らせている某伯爵家のご令嬢よりもずっと綺麗だ。


 と、いうかマグノリアより美人な人というのをディーンは未だ見たことが無い。 

 

 とにかく、多少不興を買おうが、何が何でもお嬢様の味方をしなくては! と少年は意気込んでいた。

 何より、本当に危険ならばディーンとて賛成はしないが、教会へ行くだけである。本来は何も危ない事など無いのだ。


「心配なら、騎士団の人に護衛して貰えないか、聞いてみます!」


「…………」

「…………」


「聞いてみます!!」


 聞こえていないのかと思いちょっと首を捻りながら、さっきよりも大きい声で言ってみる。


(……聞こえているよ、ディーン・パルモア……)


 さあ、どうする?

 こちらは絶体絶命のピンチ。あちらは絶好のチャンス到来。


「……どうしたのですか?」


 お茶の用意をしていたのだろうリリーがやって来て、笑顔で苦い顔をする家令(器用だ)と、おすまししながら勝ち誇ったようなお嬢様、何やらふんふん! と荒い鼻息が見える従僕少年と、通りがかりの使用人達を見て、不思議そうに顔を見回した。


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