引継ぎの最中に
8/19に集英社ヤングジャンプコミックス・ウルトラ様からコミカライズ『転生アラサー女子の異世改活』2巻(作:日野彰先生)が発売となります。
発売を記念いたしましてSSをお送りいたします。
コミカライズ2巻、Web版では2章辺りの、ガイが周辺国諜報の引継ぎをしている最中のお話になります。
「先輩、あれ」
青空の下ガイが引継ぎをしている最中に、後輩が上空を指差した。
「随分早いっすねぇ」
某国との国境付近で旅商人のふりをしたガイが、言葉とは裏腹に笑みを湛えた声で言う。
旋回するカラスに腕を伸ばすと、待っていましたとばかりに馴染みの黒い鳥が舞い降りる。
「ご苦労さんでしたね。さ、どうぞ」
『カァ!』
素早く通信管から手紙を抜き取ると、優しく地面に降ろしてやる。そして流れるように水と干し肉をカラスの前に置いた。
「なんて書いてあるんすか?」
後輩がガイの手元に顔を寄せた。
「う~ん、どれどれ」
楽しそうに言いながら手紙を開けば、クロードの流麗な文字で『出来る限り早く引継ぎを進めるように』と書かれていた。
「「…………」」
隠密ふたりは、短い文字を三度ほど読み返しては首を傾げた。
「なんかあったんすかね?」
具体的な日時の指示がないということは、当初の予定通り滞りなく引継ぎをし、しかしなるだけ早急に済ませ帰還するようにということである。
「この文面だけでは何とも。決定的なことはないので引継ぎをほっぽりだすまでではないけれど、万が一に備えたい……みたいな感じっすかねぇ?」
ガイは『了解しやした』と走り書きすると、水とエサを食べ終えて肩にとまっていたカラスの脚に手を伸ばす。
カラスはカラスで勝手知ったる何とやらなのだろう、ホレ、とでも言わんばかりの態度で通信管のついた脚を持ち上げた。
「クロード坊ちゃんが任務を急がせるなんて珍しいっすね?」
大概のことは自分で対処してしまう・出来てしまう性質のためか、クロードは(教育に関すること以外は)あまり周囲に無理を言わない。
「お嬢が規格外っすからねぇ」
ガイは苦笑いをしながらカラスの背を撫でた。
それを合図に、カラスはひと鳴きすると大空に向かい羽ばたいていく。
「……その『お嬢』はどんなお方なんすか?」
後輩は興味津々といった表情で尋ねる。
ガイはうーんと唸りながら、令嬢にあるまじき表情で、全く令嬢らしくないことばかりするマグノリアを思い起こした。
「セルヴェス様と坊ちゃま方、そしてアゼリア様を足して割ったカンジっすかね? それに奇想天外を混ぜ込んだような……」
ガイの言葉を聞いて、後輩は『うわぁ……』と言いながらドン引く。
「それ、めっちゃヤバなカンジじゃないっすか……!」
めちゃヤバ。
後輩の言葉を聞いて、ガイはおかしそうに喉で笑った。
「東側は大きな動きはないので、省略しましょうか? 後で自分が、さっくり入って報告書を送るっすよ」
「経路は大丈夫っすか?」
頼もしい後輩の様子に、ガイは目を細めながら確認する。
「大丈夫っす! 初めてではないですからね~」
もし隠密の誰かに何かがあった場合に判らないでは困るため、同じ家の隠密同士で情報共有をすることは多い。場合によっては複数で潜入することもある。
「他のお庭番や協力者たちとの顔つなぎも問題ないっすね?」
更にガイは大陸のあちこちを回るため、それを補助するような形でガイの不在時、各国の動きを探る隠密たち、加えて懇意にしている情報屋や裏稼業の者などがいるのだ。
「東側はまったりしてますからね。皆顔を合わせたことがあるんで問題ないっすよ」
戦争が終わってだいぶ経った今、それほどおかしな動きをする国も少ない。
ガイは自分なりに握っている状況やなんやらも確認して、冷静に判断してから頷いた。
「じゃあ、出来る限り巻きで行くっすかね!」
「ういっす!」
手紙を懐に入れると、隠密ふたりは揃ってダミーの荷物を肩に担ぎ、次なる国に潜入すべく道を急ぐことにした。
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