ヴァイオレットは警戒中?・後編
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第6巻本日7/18発売です。
お近くの書店様でみかけましたら、素敵な表紙をご確認いただけましたら嬉しいです!
SS後編は6章辺りの、学院の新学期が始まった頃の一幕。
マグノリアとディーンを守る決意をし、一人空回るヴァイオレットの様子です。
一方のヴァイオレットは、普段のみん恋キャラの観賞と並行して、プレ恋のヒーローのひとりであるユリウスという輩を確認、見定めようと心に決めていた。
地球では通り一遍のことしか知ることの出来なかったキャラであるが、本来であれば友人であるマグノリアと大きく関わる人物なのだ。
……更には再び戦火を切って落とす人物の一人でもある。
(マグノリアもクロードも戦争を回避するつもりで動いているらしいけど、コイツがどんなヤツかわからないもんね!)
日本からの転生者であるヴァイオレットにとって、『ユリウス皇子』はエロゲーの登場人物であり、ただの18禁野郎である。
このアスカルドの地でも、彼に淡い恋心をいだく女生徒を寮の自室である貴賓室へ連れ込んでは、とても全年齢対象作品では言えないようなことを(エロゲーの設定では)していた……らしい。
情報源は言うまでもなく、ゲームをプレイした人々によるネットの書き込みでだ。
誇張されていたり偏り過ぎた意見かもしれないので、ヴァイオレットが拾える範囲で満遍なく検証した結果であることは言うまでもない。
R15作品であるプレ恋と、本来のユリウスの作品であるR18作品『ハーレム×ハーレム』の発表時、ヴァイオレットこと春日すみれは十四歳であった。
当然直接確認することは叶わず、ネットの情報をつぎはぎした情報から推測するのみであるが……その情報が本当であるとするならば、友人に近づいて欲しくない男ナンバーワンであろう。危険が過ぎる。
そんなあれこれをギンギンに詰め込み、棘のある視線に乗せユリウスを見遣る。
(……マグノリアのためにも、大陸にあるたくさんの国々と人々の将来ためにも、わたしがしっかり見定めておかないと……っ!!)
大き過ぎる責任に、ヴァイオレットはふんす! と鼻息を荒くした。
視線の向こうでは、ユリウスとディーンが揃ってドン引いているのであるが、そんなことは知ったこっちゃないのである。
……とはいえユリウスに、今のところそういった様子は微塵も見受けられない。
学院内でのユリウス皇子の評価は、どちらかと言えば品行方正な人物であり、気取らず朗らか、かつ皇子としては控え目な態度であり、成績も優秀という文句のつけどころがないと評判であったからだ。
……どちらかと言えば、問題は自国の王子・アーノルドのほうであろう。
ヴァイオレットが好きだったキャラということを差し引いても、今のところナシ寄りのナシである。
さすがに全年齢対象範囲内の行動ではあるが、寄って来る女生徒を侍らせているのはユリウスではなくアーノルドのほうなのだ。
(いや、まだ本性を隠しているだけかもしれないし……!)
学院生活はまだ始まったばかりである。
数週間そこそこでおかしな行動を起こすほうがどうかしているだろう(アーノルドは別として)。
多少頭が回る人物であるのならば、大ぴらにはしないはず。巧妙に印象を操作することだってあるだろう(アーノルドは別として、二回目)。
ここまで思ってハッとする。
(そうか! のちのち、人々の目を掻い潜って、めくるめく爛れた生活を送るための布石……!?)
そしてなにを思ったか、再びハッとする。
(……ま、まさか……!)
どういうわけか、ユリウスは留学してきた高貴な人が使う貴賓室ではなく一般寮に暮らしている。
……めくるめく生活をするのには面倒な状況だ。何故わざわざそのような状況に甘んじているのか。
(帝国の皇子だもん、さすがに貴賓室代を払えないほどの財政難ってわけじゃないよね?)
ヴァイオレットは難しい表情でふたり――ユリウスとディーンを見た。
……どういうわけか、男爵家のディーンと同室なのである。
「…………」
オタクであることは自負しているが、腐ってはいないはずのヴァイオレットが、嫌な予感に青ざめた。
(……しゅ、宗旨替えというヤツ……!?)
ありえなくはない。
ヴァイオレットとディーンが初めて出会った頃より成長したとはいえ、ディーンが可愛い系であることにかわりはない。
ましてや理由はよくわからないが、元のゲームの世界とは少しずつ状況が解離し、ズレが生じているのである。
もしも女生徒を毒牙にかけるのではなく、同室の男子生徒に牙をむこうとしていたら……?
前世は病弱なヴァイオレットであるが、今世は健康優良児だ。
ショッキングな想像に気絶どころか眩暈すらすることはなく、ただただ動揺し、青ざめるばかりである。
(誰か、答え! 答えプリーーーーズッ!!)
哀しいかな、心の中で叫んだとて答えが降ってくるわけはない。
(ど、どうしよう!? マグノリアに相談する? それともセルヴェスにプチッとヤッてもらう?)
さすがにセルヴェスとて、人様の子どもをプチッとはしないであろう。
ついでにユリウスは帝国の皇子である。命に上下・優劣はないとはいえ、他国の皇子様をまかり間違って潰してしまってはとんでもない大問題に発展してしまう。
(と、とにかく……、ディーンをあの色気妖怪から守らなければ……!)
ヴァイオレットは妙な責任感と義務感、そして年少者(中身は)を守らねばならぬという庇護欲を滾らせては、木と木の間から再び凄まじい気合の入った視線をふたりに向けたのであった。
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視線の向こうでは、無視して立ち去ることも出来ないユリウスとディーンが立ったまま、おかしな様子のヴァイオレットをどうするべきか悩んでいた。
「……なんだか、青ざめたり白目剝いたりしてるみたいだけれど大丈夫なのかな?」
ユリウスは大変におかしな様子のヴァイオレットを見てから、ディーンに顔を向けた。
「まあ、あのご令嬢は、いつもちょっとおかしいと言えばおかしいからね……」
ついでに今現在のヴァイオレットは、燃え滾る闘志というやつなのか、多大なる責任と義務感のため、ゴゴゴゴーーーーッ!!という音と共に、背後に炎が見えるかのようになっていた。
「…………。ディーンに用事があるんじゃないのかな? 声をかけてみたら?」
ユリウスの言葉に、ディーンが顔を引きつらせる。
「い、今!?」
たじろいだ後に言葉は発しなかったが、「嫌だ」という文字が顔にハッキリと太字で書いてあるようだ。
「……いろいろ立て込んでいるようだから(?)、とりあえず放っておこう?」
ディーンは無理やり言葉を絞り出す。
「…………そう?」
親の仇を見るかのようなヴァイオレットをちらりと見ながら、長い沈黙の後に確認の言葉を発したユリウスは、今更ながら気づかないフリをして歩き出すことにした。
「本当に言いたいことがあれば、こっちの都合なんか気にせず突進してくるはずだから……多分……」
ゲンナリした口調のディーンに、ユリウスは憐みの表情を向けた。
「君も、いろいろと苦労をしているんだねぇ」
「…………」
数日後、しびれを切らしたヴァイオレットが男子寮に突進し、ディーンに全く意味の解らないユリウスへの注意と進言、提言に助言、対処法を捲し立てて行ったのは言うまでもない。
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